監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
- 残業代請求対応、未払い賃金対応
36協定(サブロクキョウテイ)は、労働者が適法に時間外・休日労働を行うため必要不可欠な労使協定です。36協定が締結・届出がされていない場合や締結された36協定が適法でない場合において、会社が労働者に対して法定時間外労働や法定休日労働を命じると、違法な時間外・休日労働となり、罰則の対象となります。
以下では、36協定に関する解説と適切な締結方法について、説明致します。
目次
- 1 会社が36協定を締結しなければならない理由とは?
- 2 36協定で定められる残業の限度時間
- 3 36協定を締結する方法
- 4 過半数代表者の選出方法
- 5 働き方改革による「時間外労働の上限規制」
- 6 36協定の締結後には従業員への周知が必要
- 7 36協定が争点となった裁判例
- 8 36協定に関するQ&A
- 8.1 36協定は事業場ごとに締結しなければならないのでしょうか?
- 8.2 36協定には有効期限があるのでしょうか?
- 8.3 提出済みの36協定の内容を変更することは可能ですか?
- 8.4 36協定の届出の写しを、会社で保管しておく必要はありますか?
- 8.5 派遣労働者に対し、派遣先である当社の36協定を適用することは可能ですか?
- 8.6 36協定を自動更新にしてもらうことは可能ですか?
- 8.7 36協定は所定の様式で届け出ないといけないのでしょうか?
- 8.8 就業規則に残業に関する規定が無くても、36協定を締結していれば残業させることは可能ですか?
- 8.9 36協定を会社独自で作成しても問題ないでしょうか?
- 8.10 36協定の締結後に会社が移転した場合、どのような手続きが必要になりますか?
- 8.11 フレックスタイム制にも36協定は適用されるのでしょうか?
- 9 残業に関するトラブルから会社を守るためにも36協定の締結が必要です。不明点があれば弁護士にご相談ください。
会社が36協定を締結しなければならない理由とは?
会社は、労働者に対して、原則として、休憩時間を除いて、1週40時間を超えて労働させてはならず、かつ、1日8時間を超えて労働させてはなりません(労基法32条)。すなわち、法律上の労働時間の原則は、休憩時間を除いた、1日8時間・週40時間(法定労働時間)です。会社は、この法定労働時間を越えて、労働者を働かせることは原則としてできません。
次に、会社は、労働者に対して、毎週、少なくとも1日の休日を与えなければなりません(労基法35条1項)。ただし、会社は、労働者に対して、4週を通じて4日以上の休日を与える場合、毎週1日の休日を与える必要はありません(労基法35条2項)。この週休制に関する法定基準による休日を、「法定休日」と言います。前記同様、会社は、原則として、法定休日に労働者を働かせることはできません。
労働時間の原則
前記のとおり、法律上の労働時間の原則は、1日8時間・週40時間であり、これを「法定労働時間」と言います。
なお、この法定労働時間を越えて就労した場合は、法定時間外労働となり、割増賃金が発生します。
36協定を締結していない残業は違法となる
会社は、法定労働時間を超える時間外労働及び法定休日における労働を命じる場合、労働基準法36条に規定する労使協定を締結し、労働基準監督署長に届け出ることが必要です(労基法36条)。36協定の締結・届出を怠ったまま会社が、労働者に対して、法定労働時間を超える時間外労働及び法定休日における労働を命じると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります(労基法119条1号)。
36協定で定められる残業の限度時間
36協定を締結し、労働基準監督署長に届出た場合であっても会社が、労働者に対して、無制限に法定時間外労働を命じることができるわけではありません。
36協定の締結・届出した場合の法定時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間」(<3カ月を超える>1年単位の変形労働時間制の場合は、月42時間、年320時間)とされています(労基法36条3項・4項)。例外的に、後述する「特別条項付き36協定」の締結により上限を緩和させることができます。
特別条項付き36協定について
特別条項付き36協定とは、特別な事情がある一定期間、限度時間を超えて労働時間を延長できる旨の条項を記載した36協定をいいます。
前記のとおり、36協定を締結・届出をした場合であっても、法定時間外労働の上限は、「月45時間・年360時間」が原則となります。もっとも、繁忙期や納期の逼迫、緊急時対応など、一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要が生じた場合、特別条項付き36協定を締結すれば会社は、労働者に対し、「月45時間・年360時間」を超えて法定時間外労働を命じることができます。ただし、特別条項付き36協定を締結した場合であっても、以下の次項を守らなければなりません。
- ・法定時間外労働が年720時間以内であること
- ・法定時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であること
- ・法定時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」がすべて1月当たり80時間以内であること
- ・法定時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度であること
36協定を締結する方法
36協定を締結するためには、使用者と「過半数代表」とが書面により協定を締結することが必要になります。
「過半数代表」は、「過半数組合」又は「過半数代表者」のことを言います。当該事業場において、「過半数組合」がある場合は過半数組合が過半数代表となります。そして、当該事情業において、過半数組合がない場合は「過半数代表者」が過半数代表となります。
「過半数組合」とは、当該事業場において労働者の過半数で組織する労働組合のことを言います。
「過半数代表者」とは、労働者の過半数を代表する者を言います。
なお、労働者には、正社員のほか、パートやアルバイト等も当然に含みます
36協定に盛り込むべき内容
36協定では、「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地」の他、「法定時間外・法定休日労働をさせることができる労働者の範囲」「協定の有効期間(最長1年間)」「法定時間外・法定休日労働をさせることができる具体的な事由」「業務の種類」「1日・1カ月・1年について、それぞれ法定時間外労働させることのできる上限・法定休日労働させることのできる上限」等を定めることが必要です。
36協定届の提出
36協定は労働基準監督署長への届出が必要となります。
届出の方法としては、協定内容を様式第9号(厚生労働省等のホームページからダウンロードすることができます。)に記載して行います。なお、様式第9号に所定の事項を記載し、これに労働者代表の押印を加えれば、その様式自体が36協定となるため、別途協定書面を作成する必要はありません。
また、必要事項の記載があれば、様式9号以外の形式でも届出ができます。更に、電子申請の方法で届出を行うこともできます。
過半数代表者の選出方法
過半数代表者は、前記のとおり、当該事業場における労働者(パート・アルバイトを含む。)の代表となります。労働者側の意思を会社に伝え、意見を表明できる代表者を選出するため、過半数代表の選出手続きは、当該事業場における労働者全員が参加した民主的な手続き(選挙・話し合い等)によって選出することが必要となります。
会社が過半数代表者を指名することはできない
民主的な手続きによって選出することが必要とされているため、会社が過半数代表者を指名することはできません。また、会社が指名した過半数代表者には、労働者側の意思を会社に伝えるという労働者代表者の役割を全うすることが期待できないという点からも認められません。
過半数代表者の要件
過半数代表者は、以下の要件を満たす必要があります。
- ・当該事業所における従業員の過半数を代表していること
- ・すべての従業員が参加した民主的な手続きによって選出されていること
- ・管理監督者に該当しないこと
働き方改革による「時間外労働の上限規制」
時間外労働の上限は、これまでは厚生労働大臣の告示によって基準が定められていましたが、働き方改革によって労働基準法による規制に変更されました。
これまでの告示による上限基準には罰則規定がなく、また特別条項付き36協定によって実質的に上限なく時間外労働を行わせることが可能でした。しかし、労働基準法上の規制となったことにより、違反者には罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科せられるおそれがあります。また、特別条項付き36協定を締結したとしても守らなくてはならない時間外労働の上限規制が設けられ、無制限の時間外労働は認められなくなりました。
働き方改革による時間外労働の上限規制は、大企業には2019年4月から、中小企業には2020年4月から適用されています。罰則規定の適用など従前と規制態様が変わっているので、これまで以上に時間外労働の上限について注意が必要です。
36協定の締結後には従業員への周知が必要
36協定の内容は、常時各作業場の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付等によって、労働者に周知しなければなりません。周知義務違反にも罰則(30万円以下の罰金)が科せられます。
36協定が争点となった裁判例
36協定の締結における従業員側の代表である過半数代表の選任方法が不適法であるとして、当該36協定は無効であるとした裁判例を紹介します。
事件の概要
【ト―コロ事件】
Y社は、役員を含めたY社の全従業員によって構成された親睦団体である「友の会」の代表者Aとの間で36協定を締結し、これを労働基準監督署に届け出ていました。
Y社の従業員であるXの上司は、Y社が繁忙時期であったことから、Xに対して残業を命じました。しかし、Xが度重なる残業命令に従わなかったことから、Y社はXに対して解雇通知を行いました。
友の会の代表者は選挙で選ばれていたのですが、「36協定における過半数代表者」として選出されたわけではなく、友の会の代表者であることから自動的に労働者側の代表者となっていました。
そのため、Aが36協定締結のための過半数代表者として適法に選任されているかが争点となりました。
裁判所の判断(事件番号:東京高判平成9年11月17日平成6年(ネ)4745号)
「労働者の過半数を代表する者」は当該事業場の労働者により適法に選出されなければならないが、適法な選出といえるためには、当該事業場の労働者にとって、選出される者が労働者の過半数を代表して三六協定を締結することの適否を判断する機会が与えられ、かつ、当該事業所の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続がとられていることが必要というべきである。
「友の会」は、役員を含めたY社の全従業員によって構成され、会員相互の親睦と生活の向上、福利の増進を計り、融和団結の実を上げることを目的とする親睦団体であるから、労働組合でないことは明らかであり、したがって、Aが「友の会」の代表者として自動的に本件三六協定を締結したに過ぎないときには、Aは労働組合の代表者でもなく、「労働者の過半数を代表する者」でもないから、本件三六協定は無効というべきである。
また、本件三六協定の締結に際して、労働者にその事実を知らせ、締結の適否を判断させる趣旨のための社内報が配布されたり集会が開催されたりした形跡はなく、Aが「労働者の過半数を代表する者」として民主的に選出されたことを認めるに足りる証拠はない。
ポイント・解説
36協定における労働者側の代表となれる者は、①過半数労働組合、または②過半数代表者に限られます。そして、「友の会」が親睦団体であって労働組合ではないことから、「友の会」の代表者が過半数代表者といえるか、すなわち過半数代表者の選出方法が適法であったかが問題となりました。
本判決は、①過半数代表者の適否の判断機会の付与と、②民主的選出手続の存在が必要であるとしました。すなわち、従業員の知らないところで、特定の労働者が自動的に選出されることは不適法であると判断しました。そして、過半数代表者の選出が不適法であることから36協定は無効であり、36協定が無効である以上、Xに時間外労働をする義務はないと結論づけられました。
このように、36協定が無効となれば時間外労働が違法となってしまうので、過半数代表者の選出は適切に行うよう注意が必要です。
なお、本件は上告されましたが、最高裁は、高裁の判断を是認できるとして、上告を棄却しています(最判平成13年6月22日)。
36協定に関するQ&A
以下、36協定に関するよくあるご質問について回答します。
36協定は事業場ごとに締結しなければならないのでしょうか?
事業場ごとに締結する必要があります。
36協定には有効期限があるのでしょうか?
36協定は有効期限を定めて締結する必要があります。なお、有効期限は最大1年までの期間にしなければいけません。
提出済みの36協定の内容を変更することは可能ですか?
可能です。
ただし、36協定は労使協定であるので、両当事者で合意する必要があります。そのため厳密に言えば「変更」ではなく「再締結」といえます。また、変更後の36協定についても労働基準監督署に提出する必要があります。
36協定の届出の写しを、会社で保管しておく必要はありますか?
36協定の届出の写し自体は、法令上、保管義務の規定がありません。
ただし、36協定の届出書をもって労使協定としている場合には、労使協定は事業場にて労働者の周知の供覧に付さなければならないことから、届出書の写しを保管しておく必要があります。
派遣労働者に対し、派遣先である当社の36協定を適用することは可能ですか?
適用することはできません。
派遣労働者には派遣元の36協定が適用されますので、派遣労働者を残業させようとする場合には、派遣元の36協定を確認する必要があります。
36協定を自動更新にしてもらうことは可能ですか?
できません。
36協定を更新する場合、その旨の協定を労使間で締結したうえで、更新の届出を行う必要があります。したがって、「自動更新」は認められません。
36協定は所定の様式で届け出ないといけないのでしょうか?
実務上、必要事項の全ての記載があれば、様式9号によることなく、届出が可能です。
もっとも、必要事項が欠けている場合は、届出を行ったことにならないため、所定の様式を使用していただくことを強くお勧めします。
就業規則に残業に関する規定が無くても、36協定を締結していれば残業させることは可能ですか?
就業規則等に規定のない残業をさせることはできません。
36協定は、時間外労働に関する規定を有効(適法)とする効力を持つにすぎません。そのため、時間外労働を命じるための根拠として、時間外労働に関する規定を就業規則等に記載する必要があります。
36協定を会社独自で作成しても問題ないでしょうか?
会社独自で作成しても問題ありません。
36協定の締結後に会社が移転した場合、どのような手続きが必要になりますか?
36協定は、現に事業所が所在する地を管轄する労働基準監督署に届出を提出する必要があります。そのため、会社(事業所)を移転した場合、移転先の労働基準監督署に改めて届出を提出しなければなりません。なお、移転前と後で、管轄する労働基準監督署が同一である場合には、届出が必要ありません。また、36協定自体は、会社を移転したとしても、労使間の合意として有効性が継続するため、移転に当たって改めて締結しなおす必要はありません。
フレックスタイム制にも36協定は適用されるのでしょうか?
適用されます。
残業に関するトラブルから会社を守るためにも36協定の締結が必要です。不明点があれば弁護士にご相談ください。
会社が労働者に対し、法定時間外労働や法定休日労働を命じる場合は、36協定の締結・届出が必要になります。36協定の締結・届出をせずに、法定時間外労働や法定休汁労働を命じた場合、上限規制を超えた法定時間外労働や休日労働を命じた場合は、罰則の対象となります。
そこで、トラブルから会社を守るためにも、36協定の締結・届出は必須になりますので、ご不明な点等ございましたら、弁護士にご相談ください。
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