新型コロナウイルスに感染やその疑い、または濃厚接触者がでたことを社内へ公表する際の留意点

新型コロナウイルスに感染やその疑い、または濃厚接触者がでたことを社内へ公表する際の留意点

社内で、新型コロナウイルスに感染した方が出た場合や濃厚接触者が出た場合には、会社は、様々な対応をする必要が生じます。社内において、感染者や濃厚接触者を公表することに何らかの問題は生ずるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染者や濃厚接触者がでたことを社内公表することに問題はないか?

社内で、新型コロナウイルス感染者や濃厚接触者が出た場合、他の社員への感染を防止するために社内において対応を取る必要があります。そのために、社内で感染者等が出たという情報を社内公表する必要性が生じます。
一方で、感染者や濃厚接触者にとっては、感染者であることや濃厚接触者であることは、他人に公表されたくない事実であるとも考えられます。

従業員の感染について社内で情報共有する目的

従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、社内において、濃厚接触者が存在する可能性が高く、濃厚接触者を特定して、PCR検査を受けてもらうことや、自宅待機を命じて、更なる感染を防ぐなどの対策を取る必要があります。
このような対策をとるにあたり、濃厚接触者を特定するには、社内において、感染者の情報を共有せざるを得ません。もっとも、情報共有の必要があれば、直ちに社内全体に公表してよいとはならないので、以下で、社内公表における問題点を検討します。

新型コロナウイルス感染に関する情報は個人情報にあたるのか?

新型コロナウイルス感染に関する情報を社内で公表するにあたっては、その情報が個人情報にあたるかを検討する必要があります。個人情報の取得や利用については、法律上の規制が存在するためです。
個人情報故語法では、「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより、特定の個人を識別できるものと個人識別符号が含まれるもの(個人情報保護法2条参照)されています。
「従業員Aが新型コロナウイルスに感染した」という情報は、Aを特定できる情報ですので個人情報にあたります。一方「社内で新型コロナウイルスの感染者が発生した」という情報は、その情報のみでは、特定の個人を識別することはできません。ただし、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものも、「個人情報」にあたるため、極小規模の会社などでは、「社内で新型コロナウイルスの感染者が発生した」という情報だけで、個人が識別できる場合もあるので注意が必要です。例えば、数名の会社で、社員が「Bさんのみが欠勤している」という情報を知っている状態であれば、「社内で新型コロナウイルスの感染者が発生した」という情報と照合すると、「Bさんが新型コロナウイルスの感染した」という個人識別可能な情報となり、「個人情報」に該当します。
そして、新型コロナウイルスに感染したという情報は、個人情報のうちでも取り扱いに配慮が必要とされる、「要配慮個人情報」(法第2条3項)に該当します。

社内公表をする際、従業員本人の同意を得る必要はあるか?

個人情報保護法では、原則として、「個人情報」に該当する場合には、本人の同意を得ずに利用目的の範囲を超えて、個人情報を取り扱うことはできません。しかし、例外として「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」または、「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当する場合には、本人の同意なく目的外利用をすることが認められています。
社内において、感染者や濃厚接触者が出たことについて社内公表することにつき、2次感染防止や事業活動継続のために必要がある場合には、上記の例外の事由に該当すると考えられますので、本人の同意なく、社内公表することが認められると考えられます。

公表する情報の範囲はどの程度まで認められるのか?

もっとも、2次感染防止や事業活動継続のために必要がある場合に、社内公表が認められるとしても、新型コロナウイルスに感染したという情報が、要配慮個人情報であることに鑑みれば、氏名に関しては、社内全体に対して、公表すべきではないでしょう。
社内全体に対して、公表するのは、氏名以外の情報にとどめ、氏名を開示するのは、濃厚接触者に該当しうる者や、感染防止のために社内対応を行う担当者などに限定すべきでしょう。

新型コロナ感染が疑われる段階で公表することは問題ないか?

疑いといった段階において、社内全体に情報を公開することは、本人の同意がなければ差し控えるべきでしょう。もっとも、当該人物と濃厚接触した可能性がある者に対しては、本人の同意がなくとも、2次感染防止等の必要性から、感染疑いがある者の情報を開示することも許されると考えます。

新型コロナウイルス感染やその疑い、または濃厚接触者がでたことを社内へ公表する際の留意点

まず、不必要に氏名を開示しないようにすべきです。社内全体に対しては、公表を行うにしても、氏名以外の情報にとどめるべきであると考えます。
そして、2次感染を防止する観点から、濃厚接触者に該当しうる者に限定して、感染者等の氏名を開示する場合においても、氏名の開示を受けた者から、感染者等の情報が漏れないように厳重な情報管理を行う必要があります。

個人情報の取扱いやプライバシーに十分配慮する

新型コロナウイルスに感染したという情報は、個人情報の中でも、特に取り扱いに配慮が必要な「要配慮個人情報」であり、その情報が公になった場合には、本人のプライバシーが大きく侵害されることになります。
そのため、2次感染防止などの必要性から、本人の同意なく情報を利用できる場合であっても、氏名の開示が必要かどうか、氏名の開示をする対象者はいずれの者が適切かといった点を判断するにあたり、プライバシーの保護について、十分配慮することが必要です。

公表に関して就業規則に定めておく

新型コロナウイルスに関する情報の社内公表に関して、就業規則に定めを置いておくことも有用であると考えます。どのような情報を、どのような範囲の者に開示するかといった点について、事前に検討して就業規則に明記することで、いざというときに、対応方法に悩まずに公表などを行いうると考えられるからです。

不当な差別・コロナハラスメントを防止するための対策を講じる

社内で新型コロナウイルス感染者が発生した場合、当該労働者に対する不当な差別やコロナハラスメントが生じないように対策を講じることも必要です。
例えば、感染者に対し、感染予防対策が不十分であることを問題視して、不当な発言を行うなどの行為が生ずることが考えられます。そのため、感染者の感染状況に関する情報などは、特に厳重に管理すべきであると考えます。

取引先などの社外へ公表する際に気を付けるべきこととは?

取引先などの社外であっても、2次感染防止や事業活動の継続のため、また、公衆衛生の向上のために必要がある場合には、本人の同意なく、情報を利用することができます。
もっとも、社内公表時と同様に、プライバシー保護の観点から、氏名の開示は、その必要があるかについて十分に検討したうえで開示を行うべきでしょう。

個人情報保護法違反やプライバシー権を侵害した場合の罰則

個人情報保護法には、個人情報保護委員会の命令に違反した場合(法83条)、個人情報データベース等を不正な利益を図る目的で提供した場合(法84条)等には罰則の定めがありますが、個人情報保護法違反のみで、直ちに罰則の対象となるわけではありません。したがって、仮に、新型コロナウイルスに関する社内公表が、個人情報保護法違反となった場合であっても、これにより罰則を科せられることはありません。
また、プライバシー権の侵害は、名誉棄損罪に該当する可能性もありますが、新型コロナウイルスに関する情報の公開については、公共の利害に関する事実であり、公開に関し、公益を図る目的も認められると考えられますので、確実な資料や根拠に照らして、情報を公開した場合には、名誉棄損罪に問われる可能性はないでしょう。

社内公表等に関しても、弁護士が法的な観点からアドバイスいたします

新型コロナウイルスに関して、企業は様々な対応が必要となっています。感染者等に関する社内公表といった対応についても、個人情報保護法等を踏まえた対応方針の検討が必要です。このような対応に関しても、弁護士が、法的な観点からアドバイスをさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください。

本稿執筆時点において、新型コロナウイルスの流行は終息しておらず、第4波といえる流行状況を迎えています。
これまで、新型コロナウイルスの感染者が出ていない企業においても、今後、感染者が出ることを想定しておくことは必要不可欠の状況といえます。
そこで、実際に、労働者に感染者が出た場合に備えるために、労働者への対応方法を解説します。

新型コロナウイルスにおける労働者への対応

労働者が、新型コロナウイルスに感染した場合の対応等について、以下で説明します。

感染の報告があった場合の対応

労働者から、新型コロナウイルス感染に関する報告がある場合としては、労働者本人が感染した場合と、家族や知人など、労働者本人と近しい人物が感染した場合等があります。

労働者本人が感染した場合

労働者本人が新型コロナウイルスに感染した場合、当該従業員は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」といいます。)により、都道府県知事は、当該従業員に対し、就労を制限することができます。

そのため、会社が労働者本人から新型コロナウイルスに感染したことにより、就労制限を受けた場合には、就労してはならない旨を告げて出勤停止を命ずる必要があります。もっとも、労働者は就労をしなければよいので、労働者から有給休暇を取得したいとの希望があれば、出勤停止ではなく、就労制限期間中は有給休暇を取得してもらうという対応でも構いません。

労働者本人が新型コロナウイルスに感染した場合に出勤停止となった場合、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」ではないため、会社は休業手当を支払う義務は生じません。

労働者の同居人が感染した場合

労働者の同居人が新型コロナウイルスに感染した場合、当該労働者は濃厚接触者に該当する可能性が高いといえます。
濃厚接触者であったとしても、必ず、新型コロナウイルスに感染しているわけではありません。しかし、会社は、労働者に対し安全配慮義務を負っていることから、感染するリスクを踏まえて、出勤停止を命ずることが望ましい対応であるといえます。
この出勤停止は、会社の判断による出勤停止ですので、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当するので、労働者に対し、休業手当を支払う必要があります。

もっとも、労働者の同居人に感染者が発生した事実などを「帰国者・接触者相談センター」に相談し、センターが就労を制限すべきであると判断した場合には、会社が休業手当を支払う必要はありません。そのため、上記センターに問い合わせた上で、出勤停止を命ずるのが良いでしょう。

新型コロナウイルスの検査について

労働者に新型コロナウイルスの感染者が発生した場合、その周囲の労働者も同時に感染しているリスクがあります。感染の有無を判断するための検査の実施について説明します。

一部の労働者が感染した場合、全労働者の検査実施は可能か?

企業は労働者に対し、安全配慮義務を負っており、一部の労働者に感染者が出た場合には、他の労働者に感染が拡大しないように対応すべき義務が生じます。
この場合に、感染した労働者と接触の機会をもっていた労働者について、検査の実施を命ずることは、対象となる労働者の感染可能性を考慮すると、業務命令として必要性と相当性が認められ、就業規則等に根拠となる規定がなくとも、検査を実施することは可能であると考えます。

これとは異なり、全労働者に検査実施を行う場合、感染した労働者とおよそ接触の機会を持っていない労働者も対象に検査を実施する可能性が生じます。そのため、全労働者に対し、検査を命ずることについて、業務命令として許容されない可能性もあります。

そこで、就業規則等に、感染者が生じた場合には、他の労働者について検査を命ずることができる根拠を定めておくべきです。このような明文の定めがあれば、他の労働者について検査を受けるように命ずることも許容されると考えます。

新型コロナウイルス感染者の出勤停止命令

新型コロナウイルス感染者への出勤停止命令について、解説します。

「出勤停止命令」と「自宅待機命令」の違い

出勤停止は、懲戒処分として行われる出勤停止処分と、業務命令として行われる出勤停止命令があります。
当然ながら、新型コロナウイルスの感染者が出勤しようとした場合に下す出勤停止は、業務命令としての出勤停止命令です。この場合、感染者に対し、業務命令として自宅待機命令を下す場合とその内容に違いはありません。

労働安全衛生法の「就業禁止の措置」は適用されるのか?

新型コロナウイルス感染症が、感染症法の指定感染症として定められました。そのため、都道府県知事は、感染した労働者に対し、就業制限や入院の勧告等を行うことができます。
厚労省のQ&Aによると、感染症法による就業制限を行う場合は、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象としないとされています。

出勤停止期間中の賃金支払いについて

当該労働者が、新型コロナウイルスに感染し、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しないと考えられています。そのため、企業は労働者に対し、休業手当を支払う必要はありません。
ノーワークノーペイの原則により、この場合の賃金支払義務は発生しません。

新型コロナウイルスで休業する場合の休業補償

新型コロナウイルスで休業する場合の休業補償について説明します。

会社は休業手当を支払う必要はあるのか?

会社は、その休業の理由に応じて、休業手当を支払うべき必要が生じる場合とそうでない場合が生じます。

感染した労働者を休業させる場合

当該労働者が、新型コロナウイルスに感染し、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しないと考えられています。そのため、企業は労働者に対し、休業手当を支払う必要はありません。

感染が疑われる労働者を休業させる場合

厚労省Q&Aでは、感染が疑われる労働者を休業させる場合、受診・相談センターへの相談結果を踏まえても、職務の継続が可能である労働者を、会社の自主的判断で休業させる場合には、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」として休業手当を支払う必要があるとされています。
そのため、感染が疑われる労働者がいる場合には、まず、受診・相談センターにご相談ください。

発熱などの症状がある労働者が自主休業した場合

発熱などの症状がある労働者が自主休業した場合、本人が他の病気で病欠した場合と同様に取り扱うことになります。そのため、休業手当は発生しません。

事業の休止に伴い休業する場合

新型コロナウイルスを原因とする事業の休止に伴い休業する場合、その休業が「不可抗力」といえる場合には、使用者に休業手当の支払い義務は発生しません。
しかし、新型コロナウイルスを原因とするという理由だけで、直ちに不可抗力による休業と認められるわけではありません。
例えば、取引先が休業したことに伴う事業の休業である場合でも、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者の休業回避のための具体的な努力等を総合的に勘案して、不可抗力による休業といえるかが判断されます。

休業手当の対象となる労働者

休業手当の対象となる労働者について、以下で説明します。

パートタイマー・アルバイト

パートタイマーやアルバイトといった契約形態であっても、休業手当の支払いの対象となります。また、会社が、法律上の休業手当を超える手当の制度を設けている場合に、パートタイマーやアルバイトを契約形態の身を理由に対象から除外していると、パートタイム等労働法に違反する可能性があるのでご注意ください。

派遣労働者

派遣労働者も、休業手当の支払いの対象となります。また、法律に定めのない制度が設けられている場合に、派遣労働者と他の労働者との取り扱いに違いがあると、労働者派遣法に違反する可能性が生じます(派遣元事業主に生じるリスクであり、労使協定方式では問題となりません。)

外国人労働者

外国人であっても、労働基準法の適用はあります。そのため、休業手当についても、日本人と同様に取り扱う必要があります。

子どもの休園・休校で休んだ労働者の賃金について

ノーワークノーペイの原則により、会社は賃金の支払い義務を負いません。もっとも、この場合に、特別の有給休暇を付与して賃金を支払った企業に対し、公的助成を行う制度も存在しましたので(現在は、終了しています。)、助成などの動向には注意が必要です。

新型コロナウイルスの影響による解雇

新型コロナウイルスの影響により、業績が悪化し、従業員の解雇を行われる会社が少なくありません。しかし、新型コロナウイルスの影響を受けているという理由だけで解を行うと、解雇等が無効となるリスクがありますので注意が必要です。

整理解雇が認められる要件とは

経営状況の悪化により、人員削減のためになされる解雇(整理解雇)については、裁判例において、以下の要素を考慮して、有効性が判断されています。

①人員削減の必要性
②解雇を回避する努力を行っているか
③解雇対象者の選定基準が、客観的・合理的であるか
④労働組合との協議や労働者への説明が行われているか

新型コロナウイルス感染者の治癒と職場復帰

新型コロナウイルスの感染者及び無症状病原体保有者の退院基準については、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律のおける新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取り扱いについて(一部改正)」(令和3年2月10日付け健感発0210第3号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)により、新たな基準が示されています。

同通知では、有症患者については、①発症から10日経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合、②発症日から10日間経過以前に症状軽快した場合に、症状軽快後24時間経過した後に、核酸増幅法又は抗原量検査の検査を行い、陰性が確認され、その検体の検体を採取した24時間以後に再度検体採取を行い、陰性が確認された場合、には「病原体を保有していないこと」に該当し、退院基準を満たすとされています。

無症状病原体保有者については、③発症日(陽性確定に係る検体採取日)から10日経過した場合、④発症日から6日間経過した後に核酸増幅法等の検査を行い、陰性が確認され、その検査の検体を採取した24時間以後に再度検体採取を行い、陰性が確認された場合、退院基準を満たすものとされています。

上記の基準からすると、有症患者であっても、最短で発症後10日経過後に退院基準を満たし、自宅療養なども解除されることとなります。

労働者が、上記基準を満たし、職場復帰を求めた場合には、就労制限を理由に復職を拒むことはできません。また、当初の自宅待機命令を14日程度で発出していたとしても、上記退院基準を満たしたのち、期間満了まで自宅待機を命ずることには、必要性と相当性が認められず、不当な自宅待機命令と判断される可能性があります。

新型コロナウイルス感染防止に向けた働き方の検討

新型コロナウイルス感染防止のため、テレワークの実施や、時差出勤などの働き方を採用されている企業も増えています。新型コロナウイルス流行の終息が見えない状況を考えると、このような働き方の導入について検討をする必要性はますます高まっていると思われます。

よくある質問

従業員に就業中のマスク着用を義務付けることは可能ですか?

マスクの着用は、感染予防に一定の効果があると考えられており、業務命令として必要性と相当性を認められますので、義務付けることは可能です。

従業員が海外旅行に行き、帰りの検疫で陽性と判断されました。隔離されている間の休業手当を支払う必要はありますか?

使用者の責めに帰すべき休業ではなく、本人の責めに帰すべき休業ですので、支払う必要はありません。

新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、新卒内定者の内定を取り消すことは可能ですか?

内定者との間にも、労働契約が成立していると認められる場合がほとんどです。そのため、内定取り消しについても、すでにみた整理解雇の要素を考慮して、無効とならないように配慮して内定取り消しを行う必要があります。

新型コロナウイルスの感染が疑われる社員に対し、有給休暇を取得させることは可能ですか?

有給休暇は、労働者が自由に取得できるものです。労働者本人が希望する場合は、有休を取得できますが、会社が一方的に有休を取得させることはできません。

保育所の入所自粛で育児休業から復職できない場合、休業期間を延長させるべきでしょうか?

育児休業期間の延長を認める必要があります。
早期の復職を予定していた労働者については、育児休業の終了予定日の繰り下げ変更を認める必要があります。また、1歳又は1歳6か月での復職予定者の場合には、育児休業期間の延長を認める必要があります。

新型コロナウイルスの社内感染は、労災保険給付の対象でしょうか?

業務に起因して感染したと認められる場合には、労災保険給付の対象となります。
感染経路が業務によることが明らかな場合だけでなく、感染リスクが高い業務に従事して、それにより感染した蓋然性が強い場合にも労災保険給付の対象とされます。

従業員が感染の増えている地域に行くことを、会社が認めないとすることは可能ですか?

会社が、従業員に対し、感染が増えている地域に行かないように要請することは可能ですが、これを禁止することはできないと考えます。

派遣労働者にもテレワークをさせることは可能ですか?

労働者派遣契約において、派遣労働者の自宅等も就業場所となることを明記しておけば可能です。

従業員の家族が濃厚接触者となった場合、自宅待機命令を出すことは可能ですか?

当該従業員が感染しているリスクも低いとは言えないので、業務命令として自宅待機命令を出すことが可能です。ただし、会社の自主的判断による休業となるので休業手当の支払いは必要となります。

新型コロナウイルスの影響で在宅勤務となった場合、定期代を支払う必要はありますか?

在宅勤務により、全く出勤をしないのであれば原則として支払う必要はないと考えます。そもそも、交通費の支払いは、法律上の義務ではなく、会社が、労働者に対し、労働契約により交通費の支払いを約していることにより支払う義務が生じているものです。出勤のために交通費を全く必要としない場合に、交通費の支払いをするのは、当事者の合理的意思に反します。もっとも、就業規則などの文言は、一律に交通費を支給するように規定されていることがほとんどですので、在宅勤務などを想定して、就業規則等を改定しておいた方がよいでしょう。

車通勤に変更した社員に対し、駐車場代やガソリン代を支払う必要はありますか?

就業規則等で、車通勤の際に、どのように通勤手当を支払う定めを置いているかによります。車通勤に関し、何らの定めがなければ、交通費を支払う義務は発生しません。

新型コロナウイルスにおける労働者への対応でお困りなら、一度弁護士にご相談ください

新型コロナウイルスに関しては、特に、解雇等で紛争となるケースが多くみられます。解雇等の具体的行動の前に、是非、弁護士にご相談されることをお勧めします。

現時点において、新型コロナウイルスの流行は、いつ終息するのかわからない状況が続いています(2020年3月現在)。このような状況下においては、貴社で、新型コロナウイルスの感染を防ぐために、従業員に対して、自宅待機を命ずる必要がいつ生ずるかわかりません。
以下では、新型コロナウイルスの感染防止のために従業員に自宅待機命令を出す際に知っておくべき事柄を解説していきます。

新型コロナウイルス流行に伴う自宅待機命令

新型コロナウイルスの感染防止策として、テレワークを導入される企業が増えてきました。このような全社的な取り組みのほかに、個別の従業員に対し、自宅待機命令を出すことによっても、感染防止を図ることができます。

自宅待機命令の効力について

会社が、従業員に対して自宅待機命令を出した場合、その自宅待機命令が業務命令として有効であるならば、従業員はこれに従う必要があります。自宅待機に伴い従業員が休業をすることになるので、その自宅待機命令を下した理由が、会社の都合によるものであると判断される場合には、会社は従業員に対して、休業補償をする必要があります。

業務命令としての自宅待機命令とは

会社は、雇用契約上、従業員に対し労務指揮権を有しています。従業員に対し、自宅待機命令を出す必要性が認められる場合には、就業規則の定めがなくとも、自宅待機を命ずることは労務指揮権に基づく業務命令として行うことができます。ただし、従業員に就労請求権が認められる場合や、自宅待機中に賃金を支払わなければならないにもかかわらず支払いを行わない場合などには、自宅待機命令そのものが無効と判断される可能性があります。

新型コロナウイルスによる就業制限は可能か?

従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、当該従業員は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律により、就労を制限されます。

安全衛生法上の就業禁止に関する解説は、以下のリンクをご覧ください。

従業員の疾病による「就業禁止」

感染が疑われる段階での自宅待機命令

従業員が、新型コロナウイルスに感染したと判明していないものの、感染が疑われる症状を発症しているような場合などには、他の従業員への感染を防止するために、会社は当該従業員に対し、自宅待機を命ずることは、必要かつ相当な業務命令であるといえます。

自宅待機中の給与を支払う義務

自宅待機により従業員が就労していないので、会社は休業中の給与を支払う義務はありません(ノーワークノーペイの原則。ただし、完全月給制など雇用契約による例外は除く。)
ただし、労働基準法は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」(法26条)の場合には、使用者は従業員に対し、平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならないと定めています。

新型コロナウイルスにおける労働者への対応

「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは

労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」については、不可抗力(①その原因が事業の外部より発生した事故であること、かつ、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること)以外は、「使用者の責めに帰すべき事由」にあたると考えられています。

感染者を自宅待機させる場合は、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業にあたらないことは明らかです。

感染の疑いのある方を自宅待機させる場合には、上記②の要件を満たすかどうかが問題となりますが、厚労省のガイドラインにおいては、「帰国者・接触者相談センター」の結果を踏まえても、職務の継続が可能である方について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に当てはまるとされていますので、ご注意ください。

休業手当の支給事由については、下記のリンクも参照ください。

休業手当の支給事由

自宅待機期間の終了について

WHOが、新型コロナウイルス感染症に関して、健康状態の観察期間として最低14日間としていることを踏まえると、自宅待機命令においても、最低14日間の自宅待機を命ずるのが相当であると考えます。

新型コロナウイルスの感染と治癒後の職場復帰に関しては、下記のリンクも参照ください。

新型コロナウイルスの感染と治癒後の職場復帰

派遣社員への自宅待機命令

派遣社員は、派遣先で労務の提供は行いますが、派遣元と雇用契約を締結しています。派遣先も通常業務の遂行に必要な指示や命令を派遣社員に下すことはできますが、労働者の労務の提供を全面的に行わせない自宅待機命令については、原則として、雇用主である派遣元でなければ命ずることができないものと考えます。

自宅待機の要否は派遣元、派遣先のどちらが判断するのか?

派遣労働者が実際の就労しているのは、派遣先であるので、派遣先が自宅待機が必要であると判断した場合には、派遣元に自宅待機命令を下すことを要請して、最終的には派遣元がその命令の要否を判断することとなると考えられます。

労働基準法における派遣元・派遣先の責任分担

高年齢者を雇用している場合の対応

新型コロナウイルスに高齢者が感染した場合、若年者と比較して重症化しやすく、死亡率も高くなっています。企業が、高齢者を雇用している場合、当該従業員が新型コロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクは予見可能であると考えます。高齢者の従業員に対して感染するリスクが高い職場である場合、重大な被害を回避する必要性から、そうでない職場よりも、自宅待機命令を出す必要性が高くなる可能性があります。

高齢者雇用

高年齢労働者のみに自宅待機を命じることは可能か?

高年労働者のみに自宅待機を命ずるのは、高年齢労働者の重症化リスクが高いことを踏まえると、状況によっては、自宅待機命令の必要性や相当性が認められる可能性はあります。

自宅待機命令に関するQ&A

緊急時の連絡手段として、社内連絡網を作成することは問題ないでしょうか?

連絡先は個人情報に該当しますので、緊急時の連絡手段に用いるという目的を明示したうえで情報を取得し、その範囲内で社内連絡網を作成して利用することに問題はありません。

就業規則に規程がなくても自宅待機を命じることは可能ですか?

自宅待機を命ずる必要性と相当性が認められる場合には、就業規則の定めがなくとも有効な業務命令として命ずることは可能です。

就業規則

社員の家族に風邪の症状がある場合、自宅待機を命じるべきでしょうか?

社員本人ではなく、家族に風邪の症状があるという事実だけでは、当該社員の新型コロナウイルス感染が疑われる状況にあるとは認めがたいと考えます。自宅待機命令の必要性や相当性に疑問が生じうるので、仮に、念のため、自宅待機を命ずるのであれば、賃金は100%支払うなどの対応が望ましいと考えます。

自宅待機中に有給休暇を取得してもらうことは可能ですか?

有給休暇の取得は、原則として労働者に自由に取得時期を定めさせねばなりません。そのため、会社が、労働者に対し、自宅待機中に有給休暇の取得を命ずることはできません。しかし、一方的に取得を命ずるのではなく、会社と労働者と協議し、労働者の判断で有給休暇を取得するのであれば問題はありません。

労働基準法で定められる年次有給休暇の基礎知識

在宅勤務が可能な社員に自宅待機を命じた場合、休業手当の支払いは必要ですか?

在宅勤務が可能であるにもかかわらず、これをしないのであれば、「事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること」とはいえず、休業理由は、労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」にあたります。そのため、休業手当の支払いは必要となります。

休業手当の支給事由

自宅待機中の社員に、定期的に病状の報告をさせることは可能でしょうか?

社員の病状は、自宅待機命令の延長の判断などに必要な情報であると考えますので、報告を求めることは可能であると考えます。

新入社員を自宅待機させる場合、休業手当の支払いは必要ですか?

新入社員であっても、他の社員と同様に扱う必要があります。他の社員に対し、休業手当の支払いが必要な状況(本人が感染者ではない等)であれば、当然、休業手当を支払う必要があります。

    
新型コロナウイルスにおける労働者への対応
休業手当の支給事由

自宅待機中に新型コロナウイルスに感染した場合、労災は適用されますか?

自宅待機中に、新型コロナウイルスに感染したことが明らかな場合には、業務に起因して新型コロナウイルスに感染したとは認められないので、労災の適用はないと考えます。

自宅待機命令に関する様々なご質問に弁護士がお答えします。お気軽にご相談ください。

同じ自宅待機命令であっても、その発令の状況で、様々な違いが生じます。トラブルを回避するためにも、実際に命令を下す前に、弁護士にお気軽にご相談ください。