管理職と残業代請求-管理監督者とは

公開日:2020年8月11日
  • 残業代請求対応、未払い賃金対応

「管理監督者」については労基法の一部が適用されず、残業代を支払う必要がありません。しかし、管理監督者に該当するか否かは勤務実態等から総合的に判断されるものであり、会社が付与した肩書だけで決められるものではありません。

しかしながら、「管理職というだけで残業代を支払う必要がない」などという誤った認識によって、知らないうちに違法な残業代の未払いが発生しているおそれがあります。そのため、会社は、残業代の支払義務がない管理監督者について適切に理解しておくことが大事です。以下「管理監督者」に関する問題について説明します。

管理職に対しても残業代を支払う義務があるのか?

「管理監督者」に残業代を支払う義務はありません。しかし、法律上の「管理監督者」と会社が考える「管理職」とは必ずしも一致しません。そのため、「管理監督者」に当たらない「管理職」には残業代を支払う必要があります。

以上のように、「管理職」であっても残業代を支払う必要がある場合があるので、注意をしてください。

管理監督者に残業代を支払う義務はない

「管理監督者」は、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されません。そのため、管理監督者に残業代を支払う義務はありません。

管理監督者でも深夜手当の支払いは必要

「管理監督者」に対しても、深夜労働割増賃金に関する規定は適用されます。そのため、「管理監督者」が深夜(午後10時から午前5時まで)に労働をした場合は、深夜手当の支払義務が発生します。

管理職には残業代を支払わないと就業規則で定めている場合は?

労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は無効となり、無効となった部分については労基法で定める基準が適用されます。これは、就業規則で定めた場合でも違いはなく、労基法を下回る就業規則は効力を有しません。したがって、管理職には残業代を支払わないと就業規則で定めたとしても、当該管理職が「管理監督者」に当たらない場合には、残業代の支払義務が生じます。

労働基準法における管理監督者の該当性

「管理監督者」とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者」と考えられています。

厚労省は、管理監督者の該当性判断の基準として、①労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること、②労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること、③現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること、④賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること、の4基準を上げています。

これらの観点から管理監督者に該当するかを判断する必要があります。

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有している

労務管理や経営会議など事業経営に関与する職務内容を有している場合、管理監督者性が認められる要素となります。そのため、例えば、自身及び部下の労務管理をしており、会社の経営に大きく関わっている場合などは、管理監督者と認められやすくなります。

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有している

経営者から企業経営上重要な責任と権限を委ねられている場合、経営者と一体的な立場と判断されやすく、管理監督者と判断されやすくなります。

一般に、権限と役職が結びついていることは多いですが、会社によって役職に認められた権限は異なります。したがって、「課長」「リーダー」といった役職があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決済を仰ぐ必要がある者や、上司の命令を部下に伝えるに過ぎないような者は、管理監督者とは認められないでしょう。

現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものである

管理監督者は、時を選ばず経営上の判断や対応が要請されます。そのため、労働時間について厳格な管理をされているような者の場合、迅速な経営上の判断や対応が要請されていないと考えられます。そのため、このような事情は、管理監督者性を否定する要素となります。 一方で、自身で労働時間を決めることができ、自分自身で労働時間の管理をしている場合は、管理監督者と認められやすくなります。

賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされている

管理監督者は、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているため、労働時間等に関する規定の適用を除外することが認められます。したがって、賃金等の待遇において、他の一般労働者に比べて、その地位にふさわしいだけの優遇措置が取られていることが必要となります。

管理職が必ずしも管理監督者に該当するわけではない

上記の要素を総合判断して、経営者と一体と判断された者が管理監督者に当たると判断されます。したがって、会社内において「管理職」であっても法律上の「管理監督者」には該当するとは限りません。

企業で違う管理職の扱い

会社員には係長、課長、部長などの役職があり、どの役職から「管理職」とするのかは企業ごとにことなります。当然ながら、会社によって役職に対する処遇は異なりますので、管理職を管理監督者として扱うか否かについても、企業によって異なるでしょう。

「名ばかり管理職」と残業代の問題

名ばかり管理職とは、管理監督者に相応しい職務内容、待遇等がないにも関わらず、管理監督者として残業代などが支払われない者をいいます。

既にご説明したとおり、管理監督者に該当するか否かは、名称・肩書に捉われず、実態に即して判断しなければなりません。管理監督者に該当しないにもかかわらず肩書だけ付して残業代が支払われていない管理職がいる場合には、違法に残業代等を支払っていないということになりかねません。

管理職の勤務実態を把握する必要性について

管理監督者に当たる場合でも、深夜労働割増賃金は発生します。また、管理監督者の健康管理等のために勤務実態を把握する必要性があります。このように管理監督者についても、勤務実態を把握する必要があります。

そのため、働き方関連法の施行により、管理監督者についても勤務時間を把握することが義務化されました。したがって、管理職の勤務実態を把握していないことは違法となります。

管理監督者の該当性が問われた裁判例

ファーストフード店の店長が管理監督者に該当するかが争われた裁判例を紹介します。

事件の概要

XはY社に採用され、その直営店の店長に昇格していました。Y社では、店長以上の職位の従業員が「管理監督者」として扱われ、残業代が支払われていませんでした。このような状況に置いて、Xは、店長職は管理監督者には該当しないとして、未払いの残業代の支払等を求めて訴えを提起しました。

裁判所の判断(平成17年(ワ)26903号・東京地判平成20年1月28日)

管理監督者に労働基準法の労働時間等に関する規定が適用されないことの趣旨は、

(1)管理監督者は、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、重要な職務と権限を付与されていることから、労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないこと
(2)賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般的労働者に比べて優遇措置が取られていることにより、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、法定労働時間や法定休日の規制の枠を超えて労働させる場合には割増賃金を支払うべきとの基本原則に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがないこと
という2点にあるとしました。

この趣旨から、Xが管理監督者に当たるといえるためには、店長という名称・肩書だけでなく、実質的に上記趣旨を充足するような立場にあると認められなければならないとし、具体的には、
① 職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか
② その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か
③ 給与(基本給、役付手当等)及び一時金において管理監督者に相応しい待遇がされているか否か
などの諸点から判断すべきであるとしました。

そして、Xの権限、勤務態様、処遇を検討した上で、Xが管理監督者には該当しないと判断しました。

ポイントと解説

管理監督者の定義は法令上明確にされていません。本判決は、管理監督者の該当性を上記①から③の要素を考慮して判断すべきであるとして考慮要素を明示しており、管理監督者の該当性判断の方法として参考となる裁判例です。

なお、この考慮要素は、どれか1つでも否定する方向に働けば管理監督者の該当性が否定されるというものではなく、これらに関わる事実を総合的に考慮して判断することになります。

本判決では、3つの考慮要素について具体的事実を認定したうえで、3つの考慮要素のどれについても、店長Xが管理監督者と認められる方向での事実が認められないとして、管理監督者に該当しないと判断しました。

管理職・管理監督者の残業に関するQ&A

以下、よくあるご質問について回答します。

管理監督者から残業代の請求があった場合、企業はどう対応すべきでしょうか?

法律上の「管理監督者」に該当するか否かについて詳細な検討が必要となります。

管理監督者に該当する場合には残業代の支払いに応じる必要はありません。他方、管理監督者に該当しない場合には残業代を支払う必要があります。

該当するか否か判然としない、迷うようなケースであれば、専門家に相談した方がよいでしょう。

裁判で管理監督者の該当性が否定された場合、過去の残業代を支払わなくてはなりませんか?

管理監督者ではないと判断された場合、本来、残業代を支払う必要があったこととなります。これは、過去のものも含まれます。したがって、過去の残業代も支払わなければなりません。

なお、過去の残業代については、時効により期間の制限が可能です。労働基準法の改正により、令和2年4月1日以降に発生した賃金債権については3年で時効にかかるとされました。したがって、令和2年4月1日以降に発生した残業代については、「過去3年間分」の支払義務があります。また、これは当分の間の経過措置であり、将来的には「過去5年分」の賃金債権について支払い義務が生じることが決まっています。

管理監督者に労働時間の規制が及ばないのは何故でしょうか?

経営者との一体的な立場にあることから、労働時間の規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないという企業経営上の必要性が認められ、かつ、その地位に相応しい賃金等の優遇措置によって労働者の保護に欠けることがないという労働者保護の観点からの許容性が認められるためです。

管理職の職務内容や権限を把握するには、どのような資料が必要ですか?

管理職の職務内容を把握するための資料として、当該管理職との雇用契約、職務内容が記載された書類などが考えられます。また、経営者会議の議事録等において、管理職がどの程度、経営に参画しているのかを確認することができます。そのため、経営者会議の議事録等も資料になると考えられます。

勤怠管理は一般社員と同様ですが、待遇については差があります。このような管理職は管理監督者に該当しますか?

管理監督者に該当するか否かは、当該管理職の職務内容、権限、責任、勤務態様、及び、待遇の差がどの程度かなど具体的な事情によって総合的に判断します。勤怠管理を一般社員と同様にしているとのことなので、管理職自身で労働時間の管理をしていない状況と思われます。労働時間の管理は、管理監督者性を判断するにあたって重要な事項ですが、勤怠管理のみで管理監督者性を判断するわけではありません。他の事情も含めて総合考慮する必要があります。

管理監督者は36協定の対象となるのでしょうか?

管理監督者は、時間外労働・休日労働に関する規定の適用を受けないため、36協定の対象とはなりません。

ただし、行政解釈によると、管理監督者は、36協定の締結にあたって過半数代表を選出する際の投票などに参加する労働者に当たるとは考えられています。

会社を守る36協定の締結方法

遅刻や早退による減給の対象外としている管理職は管理監督者に該当しますか?

管理監督者は、自身で労働時間を管理する者ですので、遅刻や早退によって減給するとは考えられません。そのため、遅刻や早退による減給の対象外にしていることは、管理監督者を裏付ける一つの事情になると考えられます。もっとも、労働時間の管理ができるか否かだけで、管理監督者に該当すると判断されるわけではありません。また、従業員の都合等を考えて、遅刻、早退による減給を行わない会社もありますので、単に、遅刻や早退による減給の対象外となっていることだけをもって管理監督者に該当すると判断されるわけではありません。

管理職の待遇を把握するには、どのような資料が必要ですか?

管理職の待遇を把握する資料としては、就業規則(特に給与規程など)、給料明細、賞与明細などが考えらえられます。

管理監督者が長時間労働によって健康障害を生じた場合、企業はどのような責任を問われますか?

一般に、会社は、労働者の生命や身体を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。そのうえで、長時間労働による健康障害を防止するため、会社には労働時間を適正に把握することが要求されます。

管理監督者は、自身の労働時間を決定できる立場になる者ですが、会社が管理監督者の健康管理を全くしなくてもよいというわけではありません。すなわち、会社は、管理監督者についても、勤務時間を把握する義務があり、長時間労働によって健康障害を生じさせないよう配慮する必要があります。したがって、健康障害が生じた場合には、安全配慮義務違反により損害賠償責任が生じる可能性があります。

パートやアルバイトを採用する権限がない店長は、管理監督者には該当しますか?

人事に関する権限がないことをもって直ちに管理監督者に該当しないということにはなりません。しかし、そのような権限がないことは、管理監督者の該当性を否定する方向に働く事情として考慮されると考えられます。そして、店の労務管理において、人事の採用権限は、経営者との一体性を判断するのに重要な要素と考えられます。そのため、パートやアルバイトを採用する権限がない店長の場合、管理監督者に当たらない可能性が高いと思われます。

管理監督者でない管理職に残業代を支払っていない場合、会社は罰則を科せられますか?

未払いの残業代がある場合、罰則が科せられる可能性があります。

管理監督者に該当しない場合、時間外労働・休日労働に関する規定が適用されますので、残業代が発生します。したがって、未払いの残業代が存在することになりますので、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

管理職について正しい知識を持つ必要があります。企業法務でお悩みなら弁護士にご相談ください。

上記のとおり、「管理監督者」に当たる場合は、残業代が発生しません。一方で、「管理監督者」に当たらない「管理職」については、残業代を支払う必要がありますが、「管理職」ということで残業代を支払っていないことも多々あります。この場合、後から、未払いの残業代が請求される可能性もあります。また、「管理職」で基本給も高いでしょうから、未払い残業代の金額も高額になることが多いでしょう。

このように正しく「管理監督者」を理解しないと、知らないうちに多額の残業代請求という抱えかねません。「管理職」について、不明点やご不安なことがあれば、弁護士に相談いただければと思います。

関連記事

企業側人事労務に関するご相談

初回30分電話・来所法律相談無料

顧問契約をご検討されている方弁護士法人ALGにお任せください

土日祝日・年中無休・24時間電話受付中

※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません