退職者の他社への再就職・独立をめぐる問題と解決策

従業員が退職後、同業他社へ転職したり、自ら競合事業を立ち上げたりすることは、企業にとって避けて通れない労務・企業法務上の課題です。

特に、顧客情報や技術ノウハウ、営業戦略などの重要情報に触れていた従業員が競業先へ移る場合、機密情報の漏洩、顧客の流出、従業員の引き抜きなど、事業運営に大きな影響を及ぼすおそれがあります。

もっとも、退職後の就職・独立を無制限に禁止することは、退職者の職業選択の自由との関係で認められません。

企業としては、守るべき利益を明確にしたうえで、就業規則・誓約書・秘密保持契約等を適切に整備し、万一トラブルが発生した場合には、証拠保全や差止請求、損害賠償請求などを検討する必要があります。

本記事では、退職者の再就職・独立をめぐる主な問題点と、企業が講じるべき実務上の対応策について解説します。

同業他社への再就職・独立をめぐる問題点とは?

退職者が同業他社へ再就職したり、独立して競合事業を開始したりする場合、単に人材が流出するだけでなく、在職中に得た情報や人脈が競合事業に利用されるリスクがあります。

企業が問題視すべき典型例としては、機密情報の漏洩、顧客の流出、従業員の引き抜きが挙げられます。

機密情報の漏洩

退職者が顧客リスト、価格表、取引条件、技術資料、設計図、営業マニュアルなどを持ち出し、転職先や独立後の事業で利用する場合、企業の競争力が大きく損なわれます。

不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるためには、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)という要件を満たす必要があります。

不正競争防止法2条6項は、営業秘密について「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。

したがって、企業が営業秘密として保護を受けるためには、日頃からアクセス権限の限定、秘密表示、持ち出し禁止ルール、ログ管理などの体制を整えておくことが重要です。

顧客の流出

退職者が在職中に担当していた顧客へ営業をかけたり、取引条件を利用して競合サービスへ誘導したりする場合、企業は売上減少や取引機会の喪失という直接的な損害を受ける可能性があります。

特に営業職や管理職など、顧客との信頼関係を形成していた従業員が退職する場合には、顧客情報の管理と退職時の誓約内容が重要になります。

従業員の引き抜き

退職者が在職中または退職後に、同僚や部下に対して競合会社への転職を働きかけるケースもあります。

従業員の転職自体は自由ですが、虚偽の説明をしたり、会社の業務を妨害する態様で組織的に引き抜いたりする場合には、不法行為として損害賠償請求の対象となる可能性があります。

同業他社への転職・独立を禁止することはできるのか

退職者に対して同業他社への転職や独立を禁止するには、就業規則、雇用契約書、退職時の誓約書などによる合意が必要です。ただし、その合意が常に有効になるわけではありません。

退職後は労働契約関係が終了しており、退職者には憲法22条1項に基づく職業選択の自由があるため、過度な制限は公序良俗に反して無効となるおそれがあります。

生涯にわたって禁止することは認められる?

生涯にわたって同業他社への転職や独立を禁止することは、通常、合理的な範囲を大きく超えるため認められないと考えられます。

競業避止義務は、企業の正当な利益を保護するために必要な範囲に限って例外的に認められるものです。したがって、期間については、保護すべき情報の性質や陳腐化の速度、従業員の地位、代償措置の有無などを踏まえて、必要最小限に設定する必要があります。

退職後の「競業避止義務」は法的に有効か?

退職後の競業避止義務は、企業側に保護すべき正当な利益があり、かつ制限内容が合理的な範囲にとどまる場合に限り、有効と判断される可能性があります。

裁判例では、守るべき企業利益、従業員の地位、地域的範囲、期間、禁止される行為の範囲、代償措置の有無などが総合的に考慮されています。

有効と判断されるための要素とは?

有効性判断では、まず企業側に保護すべき利益があるかが重要です。

営業秘密、重要な顧客情報、独自の技術・ノウハウなどが具体的に存在し、それに従業員がアクセスしていた場合には、競業避止義務を課す必要性が認められやすくなります。

一方で、一般的な経験や技能、人脈にすぎないものを保護する目的で広範な転職制限を設けることは、有効性が否定される方向に働きます。

アルバイトやパートも対象となるのか?

アルバイトやパートであっても、退職後の競業避止義務の対象になり得ます。ただし、正社員と同様に、企業の正当な利益を守るために必要かつ合理的な範囲であることが求められます。

勤務時間が短い、担当業務が限定的である、機密情報へのアクセスがないといった場合には、広範な競業禁止は有効性が否定されやすいと考えられます。

そのため、アルバイト・パートに競業避止義務を課す場合には、対象業務、禁止期間、禁止地域、禁止される行為の範囲をできる限り限定し、必要性を説明できる内容にしておくことが重要です。

特に、営業秘密や顧客情報に接する立場であったかどうかを踏まえて、個別に検討する必要があります。

競業避止義務違反が発覚した際の対処法

退職者による競業避止義務違反が疑われる場合、企業は感情的に対応するのではなく、事実関係と証拠を整理したうえで、段階的に対応することが重要です。

まず、就業規則、雇用契約書、退職時誓約書、秘密保持契約などに、どのような義務が定められているかを確認します。

次に、退職者の転職先、独立後の事業内容、営業先、顧客への接触状況、情報の持ち出しの有無などを確認し、メール、チャット、アクセスログ、顧客からの連絡、社内資料の持ち出し記録などの証拠を保全します。違反の可能性が高い場合には、警告書の送付、交渉、差止請求、損害賠償請求などを検討します。

競業を禁じる合意をしていなかった場合は?

競業を禁じる明確な合意がない場合、退職者に対して同業他社への転職や独立そのものを差し止めることは、一般に容易ではありません。

退職後は労働契約が終了しているため、個別の競業避止合意がない限り、職業選択の自由を制限する根拠が乏しいためです。

もっとも、競業避止義務の合意がない場合でも、営業秘密の不正取得・使用・開示がある場合や、顧客を違法に奪取した場合、従業員の引き抜きが社会的相当性を逸脱する場合には、不正競争防止法や不法行為に基づく請求を検討できる可能性があります。

したがって、合意の有無だけで判断せず、情報の持ち出しや利用、営業活動の態様を具体的に確認することが大切です。

退職者の再就職・独立に関するトラブルの解決策

退職者の再就職・独立に関するトラブルを防ぐには、在職中から情報管理体制と契約書・規程類を整備しておくことが不可欠です。トラブルが発生してから対応するだけでは、証拠が不足したり、差止めの実効性が失われたりするおそれがあります。

予防策としては、就業規則や誓約書による競業避止義務の明確化、秘密保持義務の徹底、営業秘密の管理体制の整備、退職時の貸与物・データ返還確認、競業先への転職が見込まれる場合の個別面談などが考えられます。

これらを総合的に運用することで、トラブルの発生を抑え、万一紛争化した場合にも企業側の主張を裏付けやすくなります。

就業規則・誓約書で競業避止義務の徹底を

競業避止義務を実効的に運用するためには、就業規則や雇用契約書に一般的な義務を定めるだけでなく、重要な情報に接する従業員については、入社時、配置転換時、昇進時、退職時などのタイミングで個別の誓約書を取得することが有効です。

誓約書では、競業避止義務の対象者、禁止される行為、禁止期間、地域、対象となる顧客・業務、秘密情報の範囲、違反時の措置などを具体的に定めます。

抽象的に「同業他社への転職を禁止する」とだけ記載すると、制限範囲が広すぎるとして無効と判断されるリスクがあるため、企業利益を守るために必要な範囲へ絞り込むことが重要です。

退職者の競業避止義務に関する判例

退職者の競業避止義務に関する裁判例では、競業禁止の合意や就業規則上の定めがある場合でも、退職者の職業選択の自由を不当に制限する内容であれば、公序良俗に反して無効と判断されることがあります。

他方で、退職後の競業避止義務が無効とされる場合でも、在職中の競業行為や営業秘密の不正使用・開示が認められるときは、別途、不正競争防止法違反や不法行為に基づく責任が問題となります。

以下では、ソフトウェア開発会社の元従業員らによる取引先からの受注行為等が問題となった裁判例を取り上げ、退職後の競業避止義務を定める際の実務上の注意点を解説します。

事件の概要

近時の裁判例として、東京地裁令和6年9月24日判決(アイ・ピー・コンサルティング事件/労政時報4093号12頁)が参考になります。

本件は、ソフトウェア開発等を営む会社が、元従業員らが取引先から業務を受注した行為について、会社のサブバージョン・サーバーに保存されていたソースコード等の情報を使用した不正競争行為に当たると主張し、予備的に、就業規則上の競業禁止規定に違反するなどとして、損害賠償を請求した事案です。

会社の就業規則には、在職中および退職後2年間の競業を禁止する規定が置かれていました。

元従業員の一人は、会社在職中に取引先との窓口となっており、もう一人の元従業員は、取引先の監査アプリの開発・更新業務に実際に従事していました。退職前後には、当該アプリの最新ソースコードの所在や、競業会社による取引先からの受注が問題となりました。

裁判所の判断(令和3年(ワ)第32143号・令和6年9月24日・東京地方裁判所・判決)

裁判所は、まず、元従業員らが競業会社の関係者と共謀し、営業秘密に当たる監査アプリのサブバージョンの記録等を開示・使用して、競業会社が取引先から当該アプリ関連業務を受注するに至ったと認定し、不正競争行為の成立を認めました。また、在職中の競業行為についても、不法行為責任を認めています。

他方で、退職後の競業避止義務については、退職後の競業避止合意が使用者の正当な利益の保護を目的とするものであっても、労働者には職業選択の自由が保障されていることから、労働者の契約期間中の地位、禁止される業務・期間・地域の範囲、代償措置の有無等を考慮し、合理性を欠いてその自由を不当に害する場合には、公序良俗に反して無効になると判示しました。

本件の就業規則は、パートタイム労働者等を除く全労働者に適用されるものであったため、特定の労働者の地位や代償措置の内容といった個別事情を考慮することはできないとされています。

そのうえで裁判所は、本件競業禁止規定について、在職期間中の地位・役職等に関係なく、退職後に職種や態様を問わず競業企業へ直接または間接に関与する行為を包括的に禁止している点、システムエンジニアが退職後に知識・技術・経験を活かしてシステム開発等の業務を継続することを事実上不可能にするほど禁止範囲が広い点、システム開発分野では技術等の進歩が速く、2年間の禁止により再びSEとして活動することが困難になる可能性がある点、地域的限定がない点、代償措置もうかがわれない点を考慮し、退職後の競業避止義務を定める部分は公序良俗に反し無効であると判断しました。

ポイント・解説

この判決は、就業規則に退職後2年間の競業禁止規定を置いていたとしても、その規定が一律・包括的で、対象者、職種、業務内容、地域などを十分に限定していない場合には、退職者の職業選択の自由を不当に制限するものとして無効と判断され得ることを示しています。

特に、システムエンジニアのような専門職・技術職について、同種業務への従事を広く禁止すると、これまで培った知識・技能を活かした就労を実質的に困難にする点が重視されます。

企業としては、退職後の競業避止義務を定める場合、単に就業規則で全従業員を対象とする抽象的・包括的な禁止規定を置くだけでは、有効性が否定されるリスクがあります。

保護すべき営業秘密や顧客関係を具体的に特定したうえで、対象者、禁止される業務、禁止期間、地域、禁止される関与態様を必要な範囲に限定し、重要情報に接する従業員については個別の誓約書や合意書を取得することが望ましいといえます。

また、退職後の活動制限に見合う代償措置の有無・内容も、有効性判断に影響し得るため、会社の利益保護と退職者の職業選択の自由とのバランスを意識した制度設計が重要です。

退職者の転職・独立に関するトラブルでお困りなら弁護士にご相談下さい。適切な対処法や解決策をアドバイスいたします。

退職者の同業他社への転職や独立をめぐる問題は、職業選択の自由、競業避止義務、営業秘密の保護、不法行為責任などが複雑に関係します。

企業側が一方的に退職者の活動を制限しようとしても、合意内容や情報管理体制が不十分であれば、法的措置が認められない可能性があります。

退職者による競業行為や情報持ち出しが疑われる場合には、早期に証拠を保全し、就業規則・誓約書・秘密保持契約の内容を確認したうえで、適切な対応方針を検討することが重要です。

弁護士法人ALG&Associatesにご相談いただくことで、警告書の作成、交渉、差止請求、損害賠償請求、再発防止のための規程整備まで、状況に応じた実務的なアドバイスで、退職者の転職・独立に関するトラブルの解決をお手伝いさせていただきます。

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不当解雇、正当解雇の違いを解説

近年、解雇した従業員から解雇の有効性を争われて、激しい紛争になったということを、耳にすることが多くなってきました。不当解雇となると、復職までの間の給与を支払わなければならず、会社としては大変な事態です。ここでは、解雇に関して、ご説明いたします。

「不当解雇」と「正当解雇」の違い

解雇に合理的理由があり、かつ、解雇することが社会通念上相当である場合には、正当解雇となります。一方で、これらの事情がない場合、つまり、解雇に合理的理由がない場合、不当解雇になります。
このように、解雇に合理的理由があり、かつ、解雇が社会通念上相当な場合には正当解雇、このような事情を欠く場合には不当解雇となります。

不当解雇と判断されるケースとは?

上記のとおり、解雇に合理的な理由がない場合、解雇が相当ではない場合には不当解雇となります。そのため、たとえば、単なる好き嫌いだけで解雇したような場合には、合理的な理由がない解雇と判断される可能性が高いでしょう。また、特定の従業員を狙い撃ちするために整理解雇(いわゆるリストラ)を装った場合や、従業員本人に反省の機会を与えないまま解雇した場合には、解雇の相当性を欠くと判断され、不当解雇と判断される可能性が高いです。

法律上で制限されている解雇にはどのようなものがあるか

法律上、解雇が制限されている場合があります。これには、以下のようなものがあります。
① 国籍、信条又は社会的身分を理由とした解雇
② 業務上の負傷又は疾病にかかる療養のための休業期間中の解雇
③ 性別、婚姻・妊娠・出産を理由とする解雇
④ 産前産後休業、育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限等の申出等を理由とする解雇
⑤ 労基署をはじめとする監督機関に対し労働基準法違反を申告したことを理由とする解雇
⑥ 組合員であることを理由とする解雇
⑦ 公益通報をしたことを理由とする解雇
代表的なものを挙げましたが、上記を理由として解雇することは許されません。仮に上記を理由として解雇した場合には、不当解雇に当たります。

どのような場合に正当な解雇と判断されるのか?

解雇の正当性を判断する基準とは?

上記のとおり、正当解雇として認められるためには、客観的に合理的な理由が認められ、かつ社会通念上相当と認められることが必要となります。
しかし、一口に解雇といっても様々な状況があるため、その状況に応じて、合理的理由があるか否か、相当か否かが判断されます。以下において、整理解雇(いわゆるリストラ)と懲戒解雇に関して、ご説明します。

整理解雇(リストラ)は正当な解雇となるか?

解雇理由の一つに整理解雇と呼ばれるものがあります。「リストラ」という方がイメージしやすいかもしれませんが、会社の業績が悪いため人員整理をしなければならない場合や経営上の判断として事業場を閉鎖する場合などに行われる解雇です。整理解雇が正当か否かは、次の要素を基に判断されています。

①人件費や仕事量などからその会社で人員を削減する必要があるか
②解雇のほかに手段がないか(例えば、人件費以外を削減する、他の部署への人事異動をするなど、対象者の解雇を回避するための手段がないか)
③解雇の対象者を選定が恣意的ではなく合理性のある選定となっているか
④解雇に際しての十分な説明をするなど適正な手続きを取ったか

上記の観点から解雇の合理性、相当性を判断し、合理的かつ相当であると判断された場合、正当解雇となります。

制裁としての懲戒解雇の場合は?

解雇と言われて最初にイメージするのは、懲戒解雇ではないでしょうか。この懲戒解雇というのは、単に解雇するというものではなく、制裁として解雇するというものです。
ところで、会社の制裁としては、譴責・訓告、減給、出勤停止などがありますが、懲戒解雇は労働者としての地位を失わせるため、最も強力な制裁です。そのため、懲戒解雇は、普通解雇や整理解雇よりも厳しく判断される傾向にあります。
懲戒解雇が有効となるためには、まず、就業規則に懲戒解雇についての定めが必要となります。つまり、懲戒解雇をするためには、あらかじめ何が懲戒解雇の対象になるのかを明示しておかなければなりません。

また、形式的には、懲戒解雇の対象となる行為があったとしても、軽微な行為に対して懲戒解雇をするのはやりすぎです。そのため、懲戒解雇の対象となる行為があったというだけでなく、その行為の重大性、本人の反省の有無・程度、過去の懲戒歴の有無・内容、本人の弁明内容、解雇以外の手段の有無などを踏まえて、懲戒解雇が合理的であり、かつ、社会通念上相当であるということが必要です。
なお、懲戒解雇した後に、別の事情が分かったとしても、その事情を考慮して、懲戒解雇の合理性、相当性を判断することはできません。あくまでも懲戒解雇時点で示した事情を基にして、懲戒解雇の合理性、相当性が判断されます。
上記のとおり、懲戒解雇事由の定め、懲戒解雇事由に当たる事情があり、かつ懲戒解雇に合理性・相当性がある場合に、懲戒解雇が正当として許されます。

会社が不当解雇を行うとどうなるのか?

これまで見てきたように、解雇に客観的に合理的な理由がない、解雇が社会通念上相当でない場合には、不当解雇となります。このような場合、どうなってしまうのでしょうか。
不当解雇となる場合、解雇は無効と判断されます。この場合、会社と従業員との間の雇用契約が継続していると判断されますが、雇用契約が継続しているにも関わらず、会社の責任で従業員が働けなかったことになりますので、従業員が働けなかった期間に対応する賃金(いわゆる「バックペイ」と言われるものです。)の支払いをしなければなりません。また、解雇が無効と判断された後も、復職を認めない場合には、復職させなかった間の賃金も支払わなければなりません。

会社に対する罰則はあるか?

不当解雇と判断されてしまった場合、会社に対して罰則はあるのでしょうか。
後述のとおり、解雇に当たっては解雇予告・解雇予告手当の支払いが必要となりますが、これらの対応をしなかった場合や、解雇禁止期間中の解雇、労基署に対する労基法違反を申告したことを理由とした解雇の場合は、会社には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
このように、一定の場合には、罰則も規定されていますので、十分注意が必要です。

損害賠償を請求される可能性について

不当解雇を理由にバックペイ以外の損害賠償を請求される可能性はあるのでしょうか。
会社が不当解雇を行った場合、バックペイなどの支払いはもちろんですが、それを超えて精神的に苦痛や悲しみなど精神的損害を与えたとして、慰謝料の支払いが命じられる可能性があります。
バックペイのほかに賠償義務も生じる可能性があるので、不当解雇にならないように、十分な注意が必要です。

解雇が正当であると認められるためには

解雇が正当であると認められるために、会社側ではどのような対策をすべきでしょうか。
まず、解雇事由を就業規則に定めておき、従業員にこのような場合には解雇されるという事由を明確にしておく必要があります。
また、上記事由に該当する理由のもと、適正な手続きを経て解雇する必要があります。

解雇事由を就業規則に定める必要性

労働基準法上、就業規則に解雇事由を記載することが義務付けられています。そのため、就業規則には明確に解雇事由を定めておきましょう。
普通解雇の場合、就業規則に定めがない理由でも解雇できますが、労働契約上、当然の義務違反以外の理由では解雇ができなくなります。また、就業規則に定めがないと、従業員への説明も難しくなるでしょうから、この意味でも就業規則に明確に解雇事由を定めておくべきです。

解雇予告・解雇予告手当などの適正な手続きを行う

解雇に当たっては、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。具体的には、解雇する場合、対象者に対して30日前までに解雇予告をするか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う必要があります。これらを行わずに解雇した場合、直ちに解雇が無効になるというわけではありませんが、上記のとおり、解雇予告・解雇予告手当の不払いに対しては、刑事罰の可能性もありますので、いずれかの対応を必ず行いましょう。
そのほかの適正手続きとしては、従業員側に対して改善の機会を与えたり、弁明の機会を付与することが重要です。

解雇の正当性について争われた裁判例

事件の概要

業務過誤、事務遅滞を長年継続して引き起こしてきた職員に対し、必要な指導を再三に渡り行ったにも関わらず改善されなかったとして、対象者の能力不足を理由に解雇した事例です。

裁判所の判断(東京高等裁判所平成27年4月16日判決 平成26年(ネ)2976号)

長年にわたり、会社として必要な指導や配置転換、部署異動、業務内容の変更を行い、対象者の雇用継続のための努力を続けていたこと、対象者の従業員としての資質・能力を欠く状況について、改善の見込みが極めて低いこと、対象者のサポートのために上司や同僚が対応にあたることとなり、会社の業務に相当の支障をきたしていたことを理由に、対象者の能力不足を理由とする解雇を認めました。

ポイントと解説

この事例は、長期にわたって指導、指導が実らなければ部署移動、それでもだめなら業務内容の変更と、事業所として出来得る限りの努力をし、それでも改善が見込めなかったという、会社側の相当程度の努力が認められたものと考えられます。
また、会社の業務への影響も大きいものだったため、客観的に見ても引き続き対象者を雇用することは困難な状況も考慮されたものと考えられます。
このように、能力不足による解雇の場合には、改善の見込みがあるか否かが重要な要素となり、継続的な指導が欠かせません。その上で、本件においては、解雇を回避するために、手段を尽くしたということも加味されて解雇が有効と判断されました

解雇の正当性で判断に迷ったら、企業法務の専門家である弁護士に相談してみましょう。

現在、従業員側の権利を守ろうという意識は高まってきています。このような中で、社長とそりが合わない、会社と方針が合わないなどという理由での一方的な解雇は、従業員側から訴えられ、金銭的にも時間的にも大きな損失が出るという事態になりかねません。

会社として、解雇に踏み切らなければならない状況もあるでしょう。解雇についてお困りのことがあったときや、将来起こるかもしれない紛争に備えておきたい場合は、まずは弁護士にご相談ください。就業規則の定め方から実際の解雇手続きに至るまで、あらゆる面でお手伝いができると思います。