「残業代」とは何か?- 割増賃金が発生する3つの「労働」

公開日:2020年8月17日
  • 残業代請求対応、未払い賃金対応

法律上、一定の場合、割増賃金を支払わなければならないとされています。多くの方が、まず、思い浮かぶのが、いわゆる残業代だと思いますが、このような時間外の労働も含めて、法律上、3つの「労働」に対して割増賃金を支払わなければなりません。

このページでは、割増賃金について、ご説明いたします。

残業代の定義

一般的に、「残業」とは、時間外労働を示し、「残業代」とは、時間外の労働に対する対価を示していると考えられます。では、どういう場合に、「時間外」の労働といえるのでしょうか。

これについては、2つの場合が考えられます。一つは、会社が定めた「所定労働時間外」の労働、もう一つは、法律が定めた「法定労働時間外」の労働です。実は、法律上、時間外労働に対する手当ての支払が義務付けられているのは、「法定労働時間外」の労働に対してのみであり、「所定労働時間外」の労働に対する手当ての支払は義務ではありません。会社によっては、「所定労働時間外」の労働に対しても手当てを出しているところもあるかと思いますが、これはあくまで会社と労働者との間で、「所定労働時間外」の労働に対しても手当てを支払うという契約があるからに過ぎません。

このように法律上、「法定労働時間外」の労働に対して手当ての支払いが義務付けられています。このような手当ては、「法定労働時間外」のほかにも、休日労働、深夜の労働にも義務付けられており、法律上は、これらの手当てを「割増賃金」と呼んでいます(「残業代」という法律用語はありません。)。

以下では、「割増賃金」について、説明をしていきます。

割増賃金の発生と36協定の関係

会社が、法定労働時間外の労働を命ずるためには、原則として、労働者との間で協定を結び、所定の労働基準監督署へ届け出る必要があります(いわゆる「36協定」と呼ばれているものです。)。では、このような36協定を結んでいない場合など、違法な時間外労働に対しても割増賃金が発生するのでしょうか。

これについては、36協定に違反した違法な時間外労働に対しても、時間外労働をしたことに違いはないため、割増賃金は発生すると考えられています。

この場合、会社は、従業員に対し、割増賃金を支払うとともに、違法な時間外労働をさせたとして罰則を受ける可能性があります。

割増賃金はどの時点で発生するのか?

時間外労働に対する割増賃金は、いつの時点で発生するのでしょうか。結論を言ってしまえば、法定労働時間を超えて労働をした時点で発生します。では、法律が定める労働時間とはどういうものでしょうか。以下で、ご説明いたします。

労働基準法で定められる労働時間

いわゆる労働法とは、労働に関する法律の全体を示しますが、労働時間に関しては、労働基準法が定めています(なお、日本の法律に、「労働法」という法律は存在しません。)。

労働基準法32条では、第1項において、1週間について40時間を超える労働を禁止し、第2項において、一日8時間を超える労働を禁止しています。つまり、労働基準法で定める労働時間は、週40時間以内、1日8時間以内となります。

そのため、例えば、一日9時間、労働したとすると、そのうち1時間は割増賃金が発生する時間外労働となります。また、一日8時間以内であっても、週の合計が40時間を超える場合(例えば、一日7時間を週6日働いた場合など)は、週40時間を超える部分が割増賃金が発生する時間外労働に当たります。

時間外労働の割増賃金

法定時間外労働に対しては、割増賃金が発生しますが、どれくらいの金額が発生するのでしょうか。これについては、1か月の法定労働時間外の労働時間の長さによって変わります。

つまり、法定労働時間外の労働時間が1か月60時間以内である場合は、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。一方、1か月60時間を超える部分については、50%以上の割増賃金を支払う必要があります(なお、中小企業については、60時間を超える部分の50%以上の割増賃金の適用が、2023年4月まで猶予されています。)。

例えば、1か月の法定労働時間外の労働が80時間になった場合、そのうち60時間部分については、25%の割増賃金を支払う必要があり、60時間を超える部分である残りの20時間に対しては、50%の割増賃金を支払う必要があります(中小企業の場合は、適用の猶予があることから、法定労働時間外の80時間の労働に対して、25%の割増賃金を支払う必要があります。)。

法定内残業には割増賃金が発生しない

既にご説明しましたが、労働時間には、会社が定める所定労働時間と、法律が定める法定労働時間の2つがあります。そのため、法定労働時間内ではあるが、所定労働時間外の労働ということが起こり得ます。

例えば、会社の所定労働時間が一日6時間としましょう。この会社の場合、一日6時間までの労働は所定内の労働時間となり、6時間を超えて8時間以内の労働は所定外ではあるものの、法定内の労働となります(このような所定外で、かつ、法定内の労働を「法定内残業」ということもあります。)。このように会社が定める所定労働時間外ではあるものの、法定の労働時間内の場合、法律で定める労働時間を超えないため、割増賃金は発生しません。

なお、これはあくまで、法律が割増賃金の支払いを強制していないだけです。そのため、会社が労働者との間で所定外労働に対する割増賃金の契約をしている場合、会社は、契約上、割増賃金を支払う必要があります。

深夜労働の割増賃金

法定時間外の労働だけでなく、深夜に労働した場合についても、割増賃金が発生します。深夜労働の割増賃金についても法定時間外の労働と同様、25%以上の割増賃金を支払わなければならないとされています。

深夜労働に該当する労働時間とは

深夜労働とは、何時から何時までの労働なのでしょうか。これについては、原則として、午後10時から午前5時までとされています。

例えば、労働時間が午後5時から翌午前1時までの場合で考えると、午後5時から午後10時までの労働に対しては、通常の賃金となり、午後10時から翌午前1時までの労働に対しては割増賃金を付加した賃金を支払う必要があるということになります。

なお、18歳に満たない者については、原則として深夜労働が認められていません。また、妊産婦については請求がある場合、会社は、深夜業をさせることができません。

法定休日労働の割増賃金

法律上、会社は、週に1日以上の休日を与えなければならないとされています。休日の労働に対しては、35%以上の割増賃金を支払わなければならないとされています。

では、会社が週に2日休日を与えている場合において、この休日に労働した場合、割増賃金が発生するのでしょうか。実は、会社が与えている休日に労働したとしても割増賃金が発生しないことがあります。次において、割増賃金が発生する休日とは何かをご説明します。

法定休日と法定外休日の違い

法律上、休日には、会社が与えた所定休日と法律上与えなければならない法定休日の2つがあると考えられています。そして、法律が割増賃金の支払いが必要と考えているのは、法定休日における労働に対してのみです。そのため、会社の所定休日ではあるものの、法定休日ではない日に労働した場合については、休日の割増賃金が発生しないということになります。

例えば、法定休日を日曜日、所定休日を土曜日と定めている会社の場合、休みに出勤したとしても、それが土曜日の場合、割増賃金が発生しません。一方で、日曜日に出勤した場合は、割増賃金が発生することになります。

時間外・深夜・休日労働が重なる場合の割増賃金

上記では、法定労働時間外の労働、深夜労働、休日労働のそれぞれについて割増率をご説明いたしました。では、これらが重なる場合はどうなるのでしょうか。

まず、法定労働時間外であり、かつ、深夜労働の場合、50%以上の割増賃金を支払う必要があります。なお、法定労働時間外の労働が60時間を超える部分と深夜労働が重なる場合は、75%以上の割増賃金の支払いが必要となります(上記のとおり、中小企業の場合は、60時間を超える部分の50%以上の割増賃金の適用が猶予されていることから、法定時間外の労働が60時間を超えるか否かにかかわらず、50%以上の割増賃金を支払う必要があります。)。

次に、法定休日であり、かつ、深夜労働の場合、60%以上の割増賃金を支払う必要があります。

上記のように、深夜労働と、法定労働時間外の労働、休日労働が重なる場合は、割増率が変わります。

一方で、法定労働時間外であり、かつ、法定休日の労働については、法定休日の規制のみが及びます。そのため、法定休日が定める割増率である35%以上の割増賃金の支払いが求められることになります。

割増賃金に関する裁判例(大阪地裁令和2年1月31日判決(平成31年(ワ)第2042号))

ここで、実際にあった割増賃金に関する裁判例をご紹介いたします。

事件の概要

事件の概要は、被告との間で労働契約を締結し、データ入力等の業務に従事してた原告が、被告に対し、法定時間外労働や深夜労働等を行ったとして割増賃金の支払い等を求めたというものです。

本件で争点となっていたのは、原告の実労働時間が何時間であったのかという点であり、被告が原告が押していたタイムカードが空打ち(実際には労働を行っていないのにタイムカードを打刻すること)をしていたなどと主張していたため、当該タイムカードの信用性が主に問題となりました。

裁判所の判断

上記のとおり、本件は原告が押していたタイムカードの信用性が大きな問題となっていました。この点について、被告は、原告に対し、タイムカードの空打ちを追及した際に給与を返還していることなどを主張し、タイムカードの信用性を争いましたが、裁判所は、原告がタイムカードをいわゆる空打ちをしていた認める証拠がないとして、タイムカードどおりの労働時間を認めました。

また、裁判所は原告が給料を返還したことに対しては、原告がうつ病を患っており、被告代表者から100%の動きができていないことにも言及され、給料の返還を強く求められたことから、給料の返還に応じたとする原告の説明に一定の合理性のあると判断しました。すなわち、タイムカードの空打ちがなかったとしても、原告が給料を返還した十分な理由があり、これをもってタイムカードの空打ちを認めることはできないと判断しました。

ポイントと解説

そもそも割増賃金は労働時間に対して支払われるものですので、労働時間が何時間であったのかが主な争点になります。この労働時間については、タイムカードを用いて労働時間の管理をしている場合、タイムカードが信用できないとする理由がなければ、タイムカードを基準にして判断されることが多いと思われます。

上記裁判例においては、原告が給料の返還をしたことなどから、タイムカードが労働時間の実態を反映しておらず、信用できないのではないかが争いになりました。これについて、原告がタイムカードの空打ち以外の理由で、給料の返還に応じたと考えられるため、タイムカードの信用性が認められた形になります。

このようにタイムカードは、労働時間を判断する上で、重要なものとなります。タイムカードの信用性を争うためには、十分な証拠が必要となりますので、タイムカードが信用できないような労働者がいる場合には、タイムカード以外の方法でも労働時間の管理をするなどの対応が必要となります。

割増賃金に関するQ&A

割増賃金について、ご説明をしてきましたが、以下では、割増賃金に関する質問にお答えしていきます。

残業代を毎月定額で支払うことは可能ですか?

毎月支払う賃金の中にあらかじめ一定額の法定時間外労働に対する割増手当(残業代)を含めて支払うことは可能です。いわゆる定額残業代と言われるものです。定額残業代を支払っているといっても、法定時間外労働に対する割増手当を全く支払わなくてもよいというわけではありません。定額残業代を超える法定時間外労働に対する割増賃金については、支払う必要があるので注意してください。

このように定額残業代を超える部分については割増手当の支払いが必要となりますが、定額残業代内に法定労働時間が収まっている場合、細かな計算が不要となります。そのため、賃金管理の手間が減るというメリットがあり、このような制度を採用している会社も多くあります。

なお、定額残業代制を採用する場合、個別合意または就業規則等により、賃金の中に法定時間外労働の対価として支払っていることが分かるようにし、かつ、定額残業代と他の賃金が区別できることが求められています。

早朝出勤に対しても割増賃金を支払う必要があるのでしょうか

結論から言うと、支払う必要があります。既にご説明しましたが、そもそも時間外労働というのは、法定時間を超える労働ですので、一日の労働時間が8時間を超える場合、それが勤務時間後の残業だろうが、勤務時間前の早朝出勤であろうが、それが労働時間に当たると判断されれば、割増賃金を支払う必要があります。

未払い残業代が発生した場合、会社にはどのような罰則が科せられますか?

法律上、残業代を支払わないことに対しては、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という処罰が予定されています。もちろん、会社には、体がなく、身体拘束を行う懲役刑を課すことは出来ません。そのため、未払い残業代が発生した場合、会社には、30万円以下の罰金刑を科される可能性があるといえます。

また、罰則ではありませんが、仮に裁判により、未払い残業代の支払いを命じられた場合、未払い残業代と同一額の付加金の支払も命じられる可能性が有りますので、注意が必要です。

定額残業代制の従業員が深夜労働をした場合、割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?

通常、定額残業代の中には、深夜割増部分に対する割増賃金は含まれていません。会社の規定上、深夜割増が定額残業代に含まれている場合は別ですが、多くの場合、定額残業代は、法定時間外労働に対する割増賃金の支払ですので、深夜労働に対する割増賃金部分の支払は想定していません。したがって、深夜労働をした場合は、割増賃金を支払う必要があります。

定額残業代制に関する重要判決と時代の変化への対応
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就業規則において、割増賃金は支払わない旨を定めることは可能ですか?

就業規則において、割増賃金は支払わないという旨の内容を定めたとしても、法律上、無効になります。

割増賃金については、法律が義務付けているものであり、当事者間の合意によって発生しないなどとすることは出来ません。また、就業規則は会社のルールですが、法律に違反するルールを作ることは認められていません。したがって、就業規則に、割増賃金を支払わないという旨を定めても無効であり、割増賃金を支払う義務は存在します。

法定休日労働の後に代休を与えました。この休日労働に割増賃金は発生しますか?

代休を与えたとしても、法定休日に労働したことに変わりはありませんので、割増賃金は発生します。一方で、休日を振り替えることができる旨の就業規則があるなど、一定の条件を満たす場合、休日の振り替えを行うことができます。休日を振り替えた場合、別の日が法定休日となります。そのため、事前に休日を振り替えた場合であれば、会社が元々定めていた法定休日に労働したとしても割増賃金は発生しないことになります。

割増賃金が適用されない管理監督者とは、どのような者のことを言うのでしょうか?

管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者と考えられており、役職ではなく、その実態を見て判断されます。そのため、例えば、「部長」とか「店長」という役職がついていても、その実態が通常の労働者と変わらなければ管理監督者には当たりません。

典型的には、出退勤など労働時間について自由に決めることができる立場であり、会社の経営に関与し、かつ、その地位と権限に妥当な賃金を得ている場合に管理監督者に当たると判断されます。

出張の移動時間にも割増賃金を支払う必要はあるのでしょうか?

そもそも割増賃金は労働時間に対して支払うものです。そのため、出張の移動時間が労働時間に当たるのか否かが問題といえます。そして、労働時間といえるためには、使用者の指揮命令下に置かれていることが必要となります。

そこで、出張の移動時間が使用者の指揮命令下にあるのかを考えますと、通常、出張の移動時間は、労働者が自由に使用することができると考えられます。そのため、通常、出張の移動時間については、割増賃金は発生しないと考えられます。

祝日を休日と定めています。祝日に労働させた場合は割増賃金が発生しますか?

会社が、祝日を法定休日と定めている場合は、祝日の労働に対しては割増賃金が発生します。一方で、祝日について、所定休日であれば、休日の労働に対する割増賃金は発生しません。これは、会社が祝日について、所定休日としているのか、法定休日としているのかによって変わりますので、会社の就業規則等をご確認いただければと思います。

フレックスタイム制の場合でも割増賃金は発生しますか?

フレックスタイム制は、労働者が1か月などの期間(これを「清算期間」といいます。)の中で一定時間労働することを条件に、一日の労働時間の開始、終了を労働者が自由に選択できるという制度です。このようにフレックスタイム制の場合、一日の労働時間を自由に選べますので、8時間を超える労働をしても割増賃金は発生しません。

もっとも、清算期間における労働時間の合計が法定労働時間の枠を超える場合は、割増賃金が発生します。例えば、1か月の清算期間であって、その月の暦日数が30日の場合、これに相当する法定労働時間の合計が171.4時間(=40時間×30日×7)となります。そのため、171.4時間以内の労働時間であれば割増賃金が発生しませんが、171.4時間を超える労働時間の場合は、割増賃金が発生することとなります。なお、1週間の所定労働日数が5日であって、労働者の過半数で組織する労働組合、労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定がある場合については、清算期間の労働日数に8時間を乗じた時間が法定労働時間の合計となります。つまり、上記の例でいうと、清算期間の労働日数が22日であれば、176時間が法定労働時間の合計となり、これを超えた場合、割増賃金が発生することとなります。

割増賃金に関する様々な疑問に弁護士がお答えします。不明点があれば一度ご相談ください。

このページでは割増賃金について、ご説明させていただきました。もっとも、具体的な事案において、割増賃金が発生しているのかどうかは、会社の就業規則を見なければ分からないなど、一概に判断できるものではありません。

また、未払いの割増賃金が発覚した場合の対応など、個々の事案によって考えることは様々です。割増賃金に関して、不明点等があれば、一度、ご相談いただければと思います。

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