監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
代表的なハラスメントとしては、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティーハラスメントなどが挙げられます。昨今において、職場内のハラスメント対策が重要視され、法改正等により、セクシュアルハラスメント等については、就業規則等で定めておくことが義務付けられました。このページでは、ハラスメントの意味、ハラスメント対策等について、ご説明いたします。
目次
ハラスメントとは
一般には、「相手が嫌がることをした時点でハラスメントなのだ」などと言われることがあります。確かに、ハラスメントとは、嫌がらせのことを意味していますから、言葉の意味としては、相手が嫌がることがハラスメントといえるのでしょう。
しかし、法律上問題となるハラスメント、つまり、違法と判断されるハラスメントという意味では、単に相手が嫌がることというだけでは、足りません。例えば、「相手が嫌がること」を違法なハラスメントと考えた場合、業務上、必要な注意をしただけで、違法なハラスメントになりかねません。「相手方が嫌がること」=「違法なハラスメント」と考えることが相当ではないことは明らかでしょう。
では、どのような場合に違法なハラスメントといえるのでしょうか。上記の業務上の注意ということを例にとって考えると、ちょっとしたミスで長時間叱り続けるとか、人格批判に当たるような叱り方であれば、違法なハラスメントに当たる可能性が高いと言えます。
このように、違法なハラスメントに当たるかどうかは、状況によって変わると言え、単純に判断できないものといえます。
ハラスメント問題による企業リスク
ハラスメント問題における企業のリスクとしては、主に以下のようなものが考えられます。
- ①企業が適切なハラスメント対策を取っていなかったであるとか、加害者に対する適切な監督・指導等を怠ったなどとして、企業自体が、被害者からハラスメントに対する責任を問われるリスク
- ②ハラスメントの被害者等が企業をやめてしまったり、日常的なハラスメント問題があることを理由に他の従業員等が企業をやめてしまったりして人材が流失するリスク
- ③日常的なハラスメントがあることで、従業員等の士気が下がり業務効率が低下するリスク
- ④ハラスメント問題が表面化することで、顧客、取引先、株主、社会等からの信用を失うリスク
企業で問題となりうる代表的なハラスメント
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメントとは、
- ①優越的な関係を背景とした
- ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
- ③職場環境を害すること
とされています。
適正な業務上の指導等であればパワーハラスメントに当たりませんが、人格否定や不必要に屈辱を与えるようなやり方をした場合にはパワーハラスメントとなる可能性があります。
一般には上司と部下、先輩と後輩など、組織上の上下関係等がある場合に起こりやすいハラスメントであるといえます。ただし、優越的地位が生じているのであれば、同僚同士や部下から上司に対するパワーハラスメントも起こり得ます。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
職場におけるセクシャルハラスメントとは、
職場において労働者に意に反する性的な言動が行われ、
- ①それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益をうけることや、
- ②それによって職場の環境が不快なものとなったため、労働者が就業する上で見過ごすことのできない程度の支障が生じること
をいうとされています。
当該言動が適切な指導の範囲であるか否かが問題となるパワーハラスメントの場合とは異なり、職場における性的な言動はそもそもそれを行う必要性が認められないことが多いことに注意が必要です。また、男性から女性へのセクシャルハラスメントだけではなく、女性から男性へはもちろん、男性から男性、女性から女性へのセクシャルハラスメントについても注意が必要です。
マタニティハラスメント(マタハラ)
マタニティハラスメントとは、妊娠・出産・育児休業等を理由として、解雇・雇い止め・降格等 の不利益な取り扱いを行うことをいいます。
表向きは妊娠・出産・育児休業等を理由としていなくとも、それらを契機として不利益取り扱いを行った場合は、原則、違法となります。
その他問題となるハラスメント
パタニティハラスメント
育児のために育児休業や時短勤務を希望したり、行ったりした男性社員に対する嫌がらせ
モラルハラスメント
人格や尊厳を傷つけるような言動等によって、肉体的・精神的に相手を傷つけ、職場の雰囲気を悪くしたり、対象となった被害者が職場をやめざるを得ない状況に陥らせたりする嫌がらせ
ジェンダーハラスメント
性別を理由とする嫌がらせですが、性的な言動を伴うセクシャルハラスメントとは異なり、男性らしさや女性らしさの強要、そのような価値観に基づく役割の強要等がジェンダーハラスメントに当たります。
問題となりうるハラスメントの行為
ハラスメントの種類 | ハラスメント行為 |
---|---|
パワーハラスメント(パワハラ) | 威圧的な言動、人格否定、無視、職場で孤立させる、過大な業務遂行の強要、仕事を与えなかったり過少な業務のみを与えたりすること等 |
セクシュアルハラスメント(セクハラ) | 卑猥な言動、他者の目につくような状況で卑猥な画像等を見たり掲示したりすること、性的嗜好や性的な経験等、性的なプライバシーにかかわる内容を聞き出そうとすること等 |
マタニティーハラスメント(マタハラ) | 妊娠したことを理由に退職等を強要する、育児休暇を取得したことを理由に降格させる等 |
パタニティハラスメント(パタハラ) | 男性社員が育児休暇等の希望を出した際に不利益 |
モラルハラスメント(モラハラ) | 馬鹿にしたような態度をとる、仕事上必要な情報を与えない、相手を職場から孤立させるような言動等 |
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ) | お茶くみ等の雑用を女性にだけさせる等一方の性に性別と無関係の役割を負わせる、「男のくせに…」「女のくせに…」といった否定的な言葉を投げかける等 |
各種ハラスメント問題における企業の法的義務
パワーハラスメントについて
事業主は、職場におけるパワーハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方 針の周知・啓発として、次の措置を講じなければなりません。
①事業主の方針等を明確化しその周知・啓発をすること
(ア)職場におけるパワーハラスメントの内容と職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者(管理監督者を含む)に周知・啓発する
(イ)パワーハラスメントを行った者については、厳正に対処する旨の方針と実際の対処の内容を就業規則等に規定し、労働者(管理監督者を含む)に周知・啓発する
②相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
(ア)相談窓口をあらかじめ定めた上で、労働者に周知する
(イ)相談窓口の担当者が、相談に対し、適切に対応できるようにする。また、相談窓口においては、被害者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等も踏まえて、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合についても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにする。
③パワーハラスメントに係る事後の迅速で適切な対応をすること
(ア)事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する
(イ)パワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、速やかに被害を受けた被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
(ウ)パワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、行為者に対する措置を適正に行う
(エ)改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等といった再発防止措置を行う
④①から③までの措置と併せて講ずべき措置
(ア)相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応において、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置をとるとともに、その旨を労働者に対して周知する(なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれます)
(イ)法の規定を踏まえ、労働者が職場におけるパワーハラスメントに関し相談をしたことや事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定めた上で、労働者に周知・啓発する
セクシャルハラスメント及びマタニティハラスメントについて
セクシャルハラスメントについて、事業主が講ずべき義務は、パワーハラスメントにおける上記①から④の義務と同じです。マタニティハラスメントについても基本的には同じですが、マタニティハラスメントについては、マタニティハラスメントの原因となる要因やその背景となる要因を解消するための措置を取ることも必要です。具体的には、妊娠等した労働者や使用者等の実情に応じて、業務体制の整備等必要な措置を講じる必要があります。
企業内でハラスメントが発生した場合の対応
会社側としては、まずは、ハラスメントが生じないように適切な防止措置を講じる義務があるといえます。しかし、実際にハラスメント事例が生じてしまった場合には、適切な対処が必要です。
まずは、事案の内容を適切に把握する必要があります。
その際には、相談者と行為者の双方から事実の聞き取りをする必要があります。その際には日時・場所等を具体的に聞き取るようにすべきです。また、お互いの言い分が食い違うことも考えられますが、聞き取りの時点で、一方の言い分のみを虚偽と決めつけ、きちんと話を聞かないといったようなことが生じると、その後の懲戒処分等の適正さが損なわれることになりかねないため、まずは冷静にお互いの言い分を聞き取るという姿勢が重要です。
当事者双方の主張に不一致があり、当事者双方からの聞き取りだけでは事実が確認できない場合は、関係者等の第三者からの聞き取り等の措置も必要となってきます。
そして、事実関係を確認した上で、ハラスメントの事実が認められる場合、決して放置せず、加害者に対して懲戒処分を検討する必要があります。
この場合に行われる懲戒処分は、当該ハラスメントの内容等に応じて軽すぎることも重すぎることもない、適切な処分であることが必要となります。
また、ハラスメントの事実が認められる場合には、加害者への処分と並行して、被害者に対し、受けた被害を少しでも解消し、今後、被害者が支障なく働き続けられるためのフォロー等を行っていく必要もあるでしょう。
弁護士へハラスメント問題を依頼するメリット
上記のとおり、ハラスメント対策において重要なのは、何がハラスメントに当たるのかを知ることです。
しかし、同じような行為であっても状況によって違法なハラスメントに当たったり、適法と判断されたりと、その判断は微妙です。そして、その判断を分けた要因についても、単純ではなく、何が重要なのかは十分な知識がなければ困難でしょう。
弁護士は、幾多の労働問題を取り扱っており、ハラスメント問題についても多く扱っています。そのため、十分な知識を有しておりますので、単に社内で勉強会を開くよりも、弁護士によるセミナー等の方が、正しく知識を得ることが出来ると言えるでしょう。
また、企業内のルール作りにおいても、前提として法律知識が必要不可欠となります。上記のとおり、弁護士は、十分な知識を有していますので、企業内のルール作りをするにも適切なアドバイスが可能となります。
そして、セミナーをするにしても、企業内のルール作りについても、その企業の状況を十分に知っていることが重要と言えます。当然ながら企業ごとに、抱えている問題は様々です。それはハラスメントにおいても同じです。したがって、企業の状況を知った上で、セミナー等を行う方が適切なのであり、顧問弁護士等、その企業のことをよく知っている弁護士に依頼するのが適切と言えます。
以上のとおり、ハラスメント対策は、非常に重要なこととなっています。そして、顧問弁護士は貴社と共に対策を考えていける存在だと言えます。当事務所は、セミナー等も多数行っており、ハラスメント対策についてもお力になれると思います。ハラスメント対策という側面から考えても、顧問契約をご検討していただければと思います。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
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