残業代請求対応、未払い賃金対応

賃金や時間外・休日・深夜の割増賃金が支払われない場合、使用者は、当該金額の支払いのみならず、遅延損害金(賃金の支払いの確保等に関する法律参照)や付加金の支払い義務を負担したり(114条)、罰則(119条)を科せられる可能性があります。そのため、未払い賃金・残業代請求をされているにも関わらず、これを無視することは非常に危険です。

従業員から、未払い賃金・残業代の請求がなされた場合には、請求を放置することなく、支払う必要がない理由を説明したり、また、支払うべき賃金が存在する場合には、正確に計算して支払いを行ったりするなどの対応をする必要があります。

また、未払い賃金・残業代が発生しないように、事前に適切な制度を整えることで対策することが、最も適切な対応です。

以下では、未払い賃金・残業代請求された場合の対応や未払い賃金・残業代が発生しない制度に関して、解説します。

未払い賃金・残業代請求のリスク

未払い賃金・残業代が支払われない場合、使用者は、未払い賃金・残業代の支払いのみならず、遅延損害金や付加金の支払い義務を負担したり(114条)、罰則(119条)を科せられる可能性があります。

上記のように、従業員からの未払い賃金・残業代請求を放置した場合には、実際に未払い賃金・残業代が存在すると、本来、支払わなければならない賃金を支払う以外にも、不利益が発生します。使用者が、未払い賃金・残業代はないと考えている事案であっても、裁判において、未払い賃金・残業代の支払いが認められることは少なくありません。そのため、従業員から未払い賃金・残業代請求がなされた場合には、これを放置することなく、必ず、対応について専門家である弁護士にご相談ください。

賃金の支払いに関する法律上の定め

(1)賃金は、通貨で支払わなければならず(労基法24条1項)、現物給与は禁止されていますので、現物で賃金を支払い済みであるとの主張は認められません。

(2)賃金は、直接労働者に支払わなければならないとされており(同法24条1項)、労働者が第三者に賃金の受領権限を与える契約を締結しても無効となります。そのため、労働者との合意で、別の人物に給与を支払い済みであるとの主張も認められません。

(3)賃金は、その全額を支払わなければならないとされている(同法24条1項)ので、法律上、控除することが認められた給与所得税、社会保険料等以外のものを賃金から控除するには、労使協定の定めが必要です。この法規制により、使用者が、賃金債権と相殺することも禁止されていますので、注意が必要です。使用者が、労働者に対して有する債権と賃金債務を相殺したとして、未払い賃金がないと考えておられるご相談を受けることがありますが、このような場合に相殺について労働者の合意がなければ、賃金の未払いが発生していることになります。また、形式的に相殺の合意を取り付けていても、労働者が自由な意思で相殺に合意する合理的理由が客観的に認められなければ、合意があっても相殺は認められませんので、ご注意ください。

(4)賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないとされていますので(同法24条1項)、給与の支払い期間が1か月を超える間隔となっている場合には、賃金の未払いの問題が生じることになります。

(5)労働者が退職後に時間外の割増賃金を請求する場合、会社は、年率14.6パーセントの遅延損害金を支払わなければならないとされています(賃金の支払いの確保等に関する法律第6条、同2条、同施行令1条)。この場合、遅延損害金は、退職日(退職日以降に支払期日が到来する場合は、その支払い期日)の翌日から起算されます(同法6条)。

なお、労働者が就業中に未払い残業代を支払う場合には、法定利率により遅延損害金を支払うことになりますが、法改正の影響により、令和2年4月1日以降発生する、労働者が未だ就業中である場合の遅延損害金は、年3パーセントとなります。それ以前に発生している遅延損害金は、年6パーセントとなります。

残業代支払いの事前対応策

・変形労働時間制の導入
変形労働時間制とは、一定の期間について、週当たりの所定労働時間の平均が週の法定労働時間を超えなければ、期間内の一部の日や週において、所定労働時間が法定労働時間を超えても、所定労働時間の限度で、法定労働時間を超えたとの取扱いをしない制度です。
この制度により、時期により業務量に差がある場合に、労働時間を柔軟化することが可能になり、残業代発生を事前に防止することができます。

 

・定額残業制の導入
定額残業代制とは、一定の金額を支払うことにより、残業代(時間外労働割増賃金、休日労働割増賃金、深夜労働割増賃金)を支払う賃金制度を言います。定額残業代については、大きく分けて、一定額の割増賃金を予め基本給に組み込むことにより支給するもの(組み込み型)と基本給とは別に手当として支給するもの(手当型)の2種類があります。
定額残業代制を導入することで、支給した金額までの残業代を支払う必要がなくなります。

・事業場外、在宅勤務のみなし労働時間制の導入
労働者が、労働時間の全部又は一部を事業場外で業務に従事した場合、所定労働時間だけ労働したものとみなす制度を言います。
当該制度を導入するためには、労働時間の算定が困難である必要があります。かかる制度を導入することで、残業代支払いを防止することが可能となります。

・裁量労働制の導入
裁量労働制とは、一定の要件を満たす場合に、実際の労働時間にかかわらず、所定労働時間だけ労働したものとみなす制度を言います。
裁量労働制には、厚生労働省で定める一定の業務について適用する専門業務型裁量労働制と、企画・立案・調査等の一定の業務につき要件を満たす場合に適用する企画業務型裁量労働制の2種類があります。
当該制度も残業代請求を防止することが可能となります。

・注意事項
上記の事前対応策については、制度を導入していても、その制度を有効とする要件を満たしていないため、制度そのものが無効となり、未払い賃金・残業代が発生すると判断されるケースも少なくありません。
したがって、労働者から未払い賃金・残業代請求がなされた場合には、制度が有効であるか否かの判断も非常に重要となります。上記の制度により、未払いが発生していないと判断して対応を決定する前に、必ず、専門家に相談をしてください。

未払い残業代の支払い義務と罰則

残業時間の立証責任

残業時間の立証責任については、請求する側である労働者にあります。

しかし、使用者が労働者の労働時間を管理する義務を負っていることから、タイムカード等で出退勤時間の管理がなされている場合、その時間内においては特段の事情がない限り、タイムカード等の打刻時間が実労働時間として認定されます。また、例えば、労働者が家族に対して、「仕事が終わったから、今から帰宅する」旨のメールやラインを送信していることや、日記を作成していることもあります。かかる場合、当該メールや日記も残業時間に関する証拠になり得ます。

また、労働者から、使用者がタイムカードの提出を求められた場合、労働契約における信義則上の義務として、タイムカード等を労働者に開示する義務があると解されています。

そのため、残業時間の立証責任が労働者にあるといっても、その主張・立証は著しく困難なものといえず、会社において、当該残業時間の主張に対して、しっかりと反論する必要があります。

未払い賃金請求の対応

未払い賃金請求がされた場合は、初動が大切です。労働者の請求があったにもかかわらず、会社が適切な対応をせずにこれを放置した場合、すでに述べたとおり、会社にとって様々な不利益が生じます。

初動対応の重要性

未払い残業代の請求については、初動が大切です。

労働者の請求が法的に正しいのであれば、会社は直ちに未払い賃金等を支払う必要があります。他方で、労働者の請求に法的な根拠がないのであれば、当然、会社はこれを支払う必要がありません。

労働者からの請求を放置した場合のリスクを考えると、労働者の請求に応ずる必要があるかどうかを、初動対応において速やかに判断する必要があります。

そのため、初動対応として、そもそも、労働者の請求どおりに支払う必要があるのか否かについて、専門家に相談して回答を得たうえで、方針を決定することが重要です。

請求を放置した場合のリスク

労働者の請求が法的に正しく、会社がこれを直ちに支払わなければならないにも関わらず、これを放置した場合、遅延損害金や罰則を被るリスクがあります。

また、労働者の請求が法的な根拠を欠いていた場合であっても、会社が労働者に対してきちんと説明することなく放置した結果、会社と労働者との間で紛争が生じてしまう可能性があります。紛争化した場合に、裁判等で本来不必要な労力や費用を会社がことになりかねません。

会社側が主張すべき反論

労働者が未払い残業代を請求した場合、会社は、適切に反論をする必要があります。そこで、残業代請求事件で主な反論について、以下で解説します。

未払い賃金・残業代は発生していない

典型的な反論として、会社は、当該時間に労働者が就業していなかった旨(怠業していた、既に帰宅をしていた等)の反論があります。

しかし、タイムカード等で出退勤の時間が立証されると、特段の事情がない限り、その時間においては実労働を行っていたと認定がされるため、労働者が主張する労働時間に関して、行うべき仕事がないことなどを主張立証していくことになります。

訴訟において、残業中に、労働者がどのような労働を行っていたかの詳細まで認定しなくとも、出退勤の時刻を基準として、概括的に実労働時間が認定されることが多いため、使用者としては、不当な残業代請求を防ぐためにも、平時から適切な労働時間の管理に努めることが必要です。

会社の許可なく残業をしていた

会社は、労働者が会社の許可を得ることなく残業をしていたため、残業代が発生しないと反論することができる場合があります。

時間外に、労働者が仕事をすれば、直ちに残業代が発生するのではなく、使用者の指揮命令の下で仕事をしたと認められて初めて残業代が発生します。労働契約が、使用者の指揮命令の下で労務を提供する契約であることから、指揮命令下になく仕事をした場合には、労働契約上の「労務の提供」とはならないからです。

会社において、残業につき許可制を採用し(労働者が時間外労働をする場合には、予め、会社の許可を取らなければならない等)、会社の許可のない残業を労働時間として認めない旨を就業規則等に記載することで、仮に、無許可の残業を労働者が行ったとしても、指揮命令下になかったと会社が主張することが可能になります。

ただし、会社が、労働者の残業を明示的に許可せず、または、労働者に残業を命じていなくとも、労働者が残業していることを黙認している状態や、所定労働時間内で処理することが明らかに困難な業務の処理を命じているような場合には、黙示の残業許可や黙示の残業命令があったとして、残業に対して残業代の支払いが命じられますので、ご注意ください。

管理監督者からの請求である

管理監督者については、労働時間・休日規制がおよびません(労基法41条2号)。そのため、管理監督者が時間外・休日労働の割増賃金を主張した場合、会社は、当該労働者が管理監督者であるから、時間外・休日労働の割増賃金が発生しない旨を主張することが可能です。

ただし、管理監督者であっても、深夜労働の割増賃金は発生するため、ご留意ください。

そして、最も重要な点は、会社において管理職としての役割を与えられている労働者であっても、直ちに、労基法上の「管理監督者」には該当しないということです。むしろ、大半の事例で、「管理監督者」該当性が否定されています。

そのため、管理職の労働者からの残業代の請求に対しても、「管理監督者」であるから支払いの義務はないと即断せず、弁護士にご相談ください。

定額残業代として支払い済みである

前記のとおり、定額残業代制とは、一定の金額を支払うことにより、残業代(時間外労働割増賃金、休日労働割増賃金、深夜労働割増賃金)を支払う賃金制度を言います。

定額残業代制を導入することで、残業代が発生したとしても、既に支払い済みである旨の反論をすることが可能になります。

この制度は、採用されている会社が多く、裁判上でその有効性が争われて無効と判断されたものもたくさん存在します。

労働者からの残業代請求に対し、定額残業代として支払い済みであるから払わなくてもよいと即断することなく、その制度が訴訟上有効と認められるものかについて、弁護士に是非、ご相談ください。

消滅時効が成立している

消滅時効を主張するためには、単に時効期間が経過するだけでは足りず、時効の援用をする必要があります。

労基法改正に伴い、令和2年4月1日以降に発生した残業代については、請求できる日から「3年間」となっています(当面の間は3年間の予定ですが、今後、5年間に延びることになります。)。

なお、令和2年4月1日以前に発生した残業代については、請求できる日から「2年間」となります。

未払い賃金請求の和解と注意点

未払い賃金請求の和解の際、和解金等の一定の金銭支払いと引き換えに労働者が賃金の一部でも放棄する場合、当該意思決定は労働者の自由な意思に基づくことが必要になります(シンガー・ソーイング・メシーン事件、最判昭和48年1月19日)。

使用者が労働者に対して賃金の全額を直接支払わなければならないという賃金全額払い原則(24条1項)からすると、労働者にとって不利益になる賃金放棄の合意をするということは、労働者に不利益なものといえます。ゆえに、自由意思に基づいて意思決定が行われたか否かは厳格に判断され、労働者の自由意思に基づかないと判断された場合、当該和解が無効になる可能性があります。

そのため、労働者と訴訟などの手続き以外で和解をする場合には、和解の経緯や和解条項の確認についても、記録をしっかりと残しておき、後に、無効であったと判断されないように備える必要があります。

付加金・遅延損害金の発生

割増賃の支払いを怠った使用者は、労基法上、労働者の請求により、付加金の支払いを義務付けられる可能性があります(労基法114条)。

付加金支払義務は、労働者の請求により、裁判所が支払いを命じる判決の確定によって初めて発生するものです。そのため、裁判所は、口頭弁論終結前に、使用者が未払い割増賃金に相当する金額を支給し、使用者の義務違反の状況が消滅した場合、付加金の支払いを命じることはできません。1審で敗訴し付加金の支払いを命じられた場合であっても、控訴を行い、判決が確定するまでに未払い賃金の支払いをおこなえば、付加金の支払い部分については支払いを免れることができます。また、前記のとおり、付加金の支払義務は裁判所の判決により命じられるものであり、労働審判において、審判委員会が付加金の支払いを命じることはできません。

また、遅延損害金については、前記のとおりです。

弁護士に依頼すべき理由

未払い賃金・残業代請求は、初動が大切であり、かつ、迅速に対応する必要があります。もっとも、そもそも残業代の支払い義務があるのか否かという点は、法的な判断をする必要があります。また、法的な根拠がない残業代請求に対しては、その旨をしっかりと伝えることが大切です。

特に、賃金・残業代の支払いに関する制度が有効と判断されるか、無効と判断されるかという点については、過去の裁判例を踏まえた詳細な検討が必要な分野です。

未払い賃金・残業代が請求された場合には、専門家である弁護士に、是非ご相談下さい。

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