労務

カスタマーハラスメント対応について解説

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • ハラスメント対応

近年問題となってきたカスタマーハラスメントについて、どのような場合にカスタマーハラスメントにあたるのか、カスタマーハラスメントについて、どのような対策、対応をすべきであるのか、以下においてご説明いたします。

目次

企業にはカスタマーハラスメントから社員を守る義務がある

企業は、社員に対して、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務があり、後述する通り、カスタマーハラスメントにより、社員の就業環境が害されないよう対策を講じる義務があるといえます。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

厚労省の告示から考えると、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」と略します。)とは、顧客等からの著しい迷惑行為をいうと解されます(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」参照)。具体的な行為としては、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求が示されています。

カスハラとクレームはどう違うのか?

クレームとは、サービスに対する苦情や改善要求、契約あるいは法律上の権利請求(特に損害の補填の請求)を求める場合と考えられます。
一方、カスタマーハラスメントは、上記のとおり、顧客等からの暴行、脅迫、暴言、著しい不当な要求等の迷惑行為をいいます。
 したがって、クレームは、当事者間の契約内容に対する違反等正当な理由があることを前提としているのに対して、カスタマーハラスメントは、契約違反の有無にかかわらず、顧客等からの迷惑行為をいいます。

クレームの悪質性を判断する難しさ

暴力行為や脅迫行為があれば、悪質な行為であり、カスハラに当たると判断することは難しくないと考えられます。他方で、商品やサービスへの不満とひどい暴言とを区別することは容易ではありません。また、正当な要求と不当な要求を区別することも困難でしょう。
商品やサービスへの不満は、それが正当な内容であればクレームでしょうが、その方法が暴言や暴力なのであれば、カスハラと判断されると考えられます。

カスタマーハラスメントについて企業が取るべき対応

カスハラは、いつ生じるかわからないため、企業としては、カスハラが起こった場合に備えて、事前にマニュアル等の対応フローを準備して、社員に対して周知・指導をする等の取組を行うことが望ましいとされます。
具体的には、①カスハラの対応体制、方法をあらかじめ決めておく、②カスハラの社内における具体的な対応について社員教育を行う、③カスハラを受けた社員が相談できるよう相談対応者、又は相談窓口を設置し、企業として適切に対応できるようにする、④繰り返されるカスハラについては、一人で対応させず、複数名、あるいは組織的に対応させる等カスハラの被害を受けた社員に対して配慮した措置をとる等が考えられます。

カスタマーハラスメントに関する裁判例

事件の概要

原告は、被告が運営するコールセンターでコミュニケーターとして勤務していたところ、当該コールセンターには、顧客から事業に関係ない電話、卑猥な内容や暴言を含む電話があり、業務として当該顧客の電話に対応していた原告が、当該顧客によるわいせつ発言や暴言等に触れさせないようにすべき安全配慮義務違反があったとして損害賠償請求を求めた事案です。

裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)

当該訴えに対して、裁判所は、被告が顧客の「わいせつ発言や暴言、著しく不当な要求からコミュニケーターの心身の安全を確保するためのルールを策定した上、これに沿って」対処していた上、前日まで卑猥な発言を繰り返した顧客であっても1日の最初の1回は話を聞くようにとの指示が被告からあったものの、「いったん視聴者からわいせつ発言がされたときには、コミュニケーターにおいて直ちに」被告が策定したルール上の対応をとることを認めていることに照らすと、コールセンターの顧客対応業務の目的や重要性等に鑑み、やむを得ないとしています。
 また、被告では、無料カウンセリングが受けられるほか、毎年ストレスチェックを実施し、「産業医の面接指導が必要と判断された場合には、希望により面接指導を受けることができるようになっていること……を総合考慮すれば、」被告について、原告に対する安全配慮義務を怠ったと認めることは出来ないとしています。(令和2年(ワ)第284号(横浜地方裁判所川崎支部令和3年11月30日判決))

ポイントと解説

本件は、カスタマーハラスメントの問題に関する企業の労働者に対する義務について判断した点に意義があります。
企業が顧客によるカスハラを防止する措置をとることは困難ですが、社員に対してその就業環境を保護するためにカスハラに対して望ましい取り組みが求められています。
当該取組については、企業の労務内容や業種に合わせた体制の構築が求められており、本件の被告が策定したルールは、社員の心身の安全に配慮しつつ、コールセンターという業務内容上最低限カスハラをする顧客に対応しなければならない場合があることを認めている裁判例となります。

職場におけるハラスメントの法改正と企業対応

職場におけるハラスメントとしては、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントなどが挙げられます。
この点、2022年4月1日以降パワーハラスメントの防止措置について中小企業も義務の対象とされたことにより、現在は、いずれのハラスメントについても、法は企業に対して防止措置を義務付けています(パワーハラスメント:労働施策総合推進法、セクシュアルハラスメント:男女雇用機会均等法、マタニティハラスメント:男女雇用機会均等法、介護休業法)。

カスハラに関するよくある質問

カスハラで従業員が長時間拘束された場合の対処法を教えて下さい。

 対面の場合には、理由を説明し、応じられないことを明確に伝え、それでもなお、従業員を拘束する状態が続くようであれば、お引き取り願うこと、電話であれば、同様の対応をして電話を切ることが考えられます。
 また、状況に応じては、弁護士への相談、警察への通報も検討していただくことも考えられます。

カスハラ問題で裁判に発展した場合、カスハラの事実を裏付ける証拠にはどのようなものがありますか?

 カスハラの内容・態様等によりますが、店舗や事業所に訪問して暴言暴力を振るうようなものであれば、防犯カメラ等が証拠になりうると考えます。

不良品など店側の過失に対するクレームもカスハラにあたるのでしょうか?

不良品など店側の過失に対する返品交換要求自体は、顧客として正当な要求となるため、カスハラには当たりません。しかし、店側の過失に乗じて過剰な要求をする場合や、暴言暴力を伴う場合にはカスハラにあたりうると考えます。

悪質なクレームにより、従業員が土下座を強要されました。強要罪に該当しますか?

顧客が単なる謝罪を超えて、土下座を要求する場合には、強要罪にあたり得ます。

会社の名誉毀損に該当するネット上の書き込みは、削除してもらえるのでしょうか?

 ネット上に会社の名誉を毀損する書き込みをした場合には、削除をすることは可能と考えます。
 ただし、その方法については、書き込まれたコンテンツやサイトやコンテンツプロバイダ等が任意の削除に応じない場合には裁判手続きによる削除請求が必要となります。

SNSへの書き込みによる誹謗中傷に対し、損害賠償を請求することはできますか?

当該書き込みにより企業側に損害が生じていること(損害の発生と書き込みと損害発生の因果関係)が認められる場合には、損害賠償請求をすることは可能です。
また、損害賠償請求をするのであれば、前提として、書き込みをした人物を特定する必要があるため、損害賠償請求をする前に情報開示請求等の手続きが必要となります。

カスハラによる不当な金銭要求があった場合、金銭は支払った方が良いのでしょうか?

当該金銭要求が不当なものであれば、応じる必要はありません。

カスハラにより従業員がメンタルヘルス不調となった場合、会社はどのような措置を取るべきでしょうか?

カスハラにより従業員がメンタル不調となった場合には、業務上の事由による傷病に該当するため、従業員に対しては、医療機関への受診と労災申請をするように指導をし、医師から休業を要する判断がされれば、休業を支持することになります。また、同時に労働基準監督署に労働災害の報告をする必要があると考えます。

客から「家族を傷つけるぞ」などという暴言を浴びせられました。脅迫罪に該当しますか?

当該発言は、親族の生命身体に対する害意の告知に該当すると考えられるため、脅迫罪にあたりうると考えらえます。

カスタマーハラスメントには毅然とした態度が求められます。ハラスメント問題でお悩みなら、一度弁護士にご相談ください。

カスタマーハラスメントは、カスハラをした顧客に対する対応、カスハラの被害を受けた社員への対応と多面的に対応する必要があります。特に前者については、態様については民事だけではなく、態様によっては、刑事上の対応も必要になります。
そのため、カスハラについてお困りであれば、一度弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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