労務

セクシャルハラスメント対応について解説

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • ハラスメント対応

セクシュアルハラスメントは、就労環境を著しく害するものであり、企業として、放置することができない問題です。ここではセクシュアルハラスメント対応に関して、説明していきます。

目次

セクシャルハラスメント(セクハラ)が企業にもたらす損失

セクシュアルハラスメント(セクハラ)が生じた場合、被害を受けた者だけでなく、その周囲の者からしても働きにくい状況が作られてしまいます。このような問題を放置すると従業員のモチベーションの低下や作業効率の低下が生じるだけでなく、従業員離れにつながる可能性もあります。
さらに、セクハラ問題を放置した場合、安全配慮義務違反を理由として、企業に対する損害賠償請求も認められかねず、企業に生じる損失は計り知れません。

男女雇用機会均等法による「セクハラ」の定義

男女雇用機会均等法11条1項には、「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、…必要な措置を講じなければならない。」(同法第11条第1項)と定められています。

ここから、セクハラとは、①職場における性的な言動であって、②その性的な言動に対する労働者の対応に対して不利益を与えること(対価型)、または、性的な言動により就業環境を害すること(環境型)といえます。

職場のセクハラ発生時に取るべき対応とは

セクハラ問題が発生しないように防止策を講じていても、セクハラ問題が発生してしまうことがあります。
ここでは、実際にセクハラが発生した場合に取るべき対応について説明します。

ヒアリングなどによる事実調査

セクハラ問題が発生した場合、それが事実なのか、事実として具体的にどのような内容なのかなどを調査する必要があります。
具体的には、被害者、加害者からのヒアリングを行うことになります。また、第三者がいる場面での身体接触や性的言動といったセクハラである場合には、目撃者からのヒアリングも検討する必要があります。

被害者に対する場合でも、加害者に対する場合でも、ヒアリングによって、大きな負担を与える可能性があります。そのため、相手の体調を十分に配慮した上でヒアリングを行いましょう。
また、ヒアリングの結果については、書面にするなど証拠化してください。そのほか、メール、LINEなど、証拠がある場合には、そのコピーを得ておくことも重要です。

被害者と加害者の隔離

調査の結果、セクハラ問題が生じていると判明した場合、被害者と加害者が接触しないようにすることを考える必要があります。被害者からすると、加害者と一緒に働くこと自体が苦痛でしょうし、また、被害者と加害者が接触する状況を放置することは、更なるセクハラ問題を生じさせかねません。
会社の状況やよって、具体的に取れる対応は変わりますが、担当業務の変更や部署異動などにより、被害者と加害者とが接触しなくても済むように対応を取ることが必要です。

加害者に対する処分の検討

ヒアリングによって把握した事実を基にして、加害者に対して処分を下すか否か、処分を下すとしてどのような処分が適切かを検討することになります。
セクハラの内容、同種事案における過去の処分結果、就業規則の定めなどを考慮して具体的な処分を決定することになります。

被害者へのフォロー

就業規則に定めがある場合には、それに従って被害者に調査結果を報告することとなります。また、就業規則に定めがない場合でも、被害者に調査結果の要旨を報告した方がよいでしょう。
そのほか、被害者にメンタル不調が生じている場合には産業医による面談やカウンセラーによるカウンセリング、場合によっては休職等の対応を考えることになります。

再発防止のための措置

事業主としては、今後、セクハラ問題が発生しないように、防止措置を取ることも考えなければなりません。
例えば、セクハラに関する研修を行う、懲戒処分を公表する(ただし、加害者のプライバシーには配慮する必要があります。)、社内メール等を用いてセクハラに対する注意喚起を行なうことなどが考えられます。

セクハラの相談者・加害者等に対するプライバシー保護

セクハラ問題は相談者(被害者)にしても、加害者にしても、知られたくない情報が含まれています。つまり、相談者(被害者)からするとセクハラ被害に遭ったという事実を知られること自体苦痛でしょうし、また、加害者としてもセクハラ行為をしたと知られることは社会的名誉が害されることになりかねません。
目撃者についても、問題に巻き込まれたくないという思いがあり、目撃者として供述したということを知られたくない場合が多々あります。 そのため、セクハラの調査、処分に際して、相談者、加害者等のプライバシーには十分に配慮しましょう。

セクシャルハラスメントに関する裁判例

ここでセクハラに関する裁判例を一つ紹介します。

事件の概要

本件は、医療事務職員が、勤務していた病院の理事長から、肩に手を回して抱き寄せられたり、足を足で触れられたり、腰を抱き寄せられたりなどの身体接触を受けたとして、勤務していた病院及び理事長に対して損害賠償を求めたものです。

裁判所の判断(名古屋地方裁判所岡崎支部令和5年1月16日判決 令和2年(ワ)第935号、同936号損害賠償請求事件)

本件は、セクハラ行為を裏付ける客観的証拠が多くなく、原告の供述の信用性が問題となりました。 裁判所は、①客観証拠・争いのない事実と原告供述の一致が認められること、②原告供述内容に合理性があること、③1対1で接している際の出来事であり、目撃証人が居ないことが原告供述の信用性を減殺するものではないことなどから原告の供述内容が信用できるとして、理事長のセクハラ行為を認定しました。そして、裁判所は、病院には安全配慮義務違反があるとして、理事長には不法行為が成立するとして、それぞれに対し、慰謝料(病院には70万円、理事長には30万円)を支払うよう命じました。
なお、原告は、慰謝料の金額に関して、逸失利益的な側面を主張していましたが、裁判所は、原告が退職や転職を自由に決定できることから逸失利益的な側面については認められないと判断しました。

ポイントと解説

本件は、セクハラ行為を裏付ける客観的証拠が乏しい状況でしたが、上記のとおり、客観証拠・争いのない事実との整合性、原告供述内容の合理性、目撃証人が居なくても不合理な状況ではないことなどから、原告の供述の信用性を認め、セクハラ行為があったと認定しています。
LINE、メールなどを通じたセクハラであれば証拠が残りますが、身体接触や口頭で直接述べられたことについてはなかなか証拠が残りません。客観的証拠が乏しい場合であっても、それだけでセクハラがないと判断するのではなく、被害者が述べる話に合理性があるのか、客観的証拠が乏しくてもやむを得ない事情があるのかなども考慮して、セクハラの有無を判断する必要があるでしょう。

法改正によるセクシャルハラスメント等の防止対策の強化

令和5年6月16日に、刑法の改正が行われ、不同意わいせつ(旧強制わいせつ)、不同意性交等(旧強制性交等)に関する規定が変更されました。その中で、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」によって同意しない意思を形成・表明させずに、または、同意しない意思を形成・表明できない状態に乗じて、わいせつ行為、性交行為等をした場合に刑事罰が科されることが規定されています。
つまり、職場内の地位を利用したわいせつ行為等に対して、刑事罰が成立しやすい法改正がなされており、ますますセクハラ防止対策を強化しなければならない状況にあります。

法改正に向け企業に求められる取り組み

上記のとおり、職場内のセクハラに関して、刑事責任が問われやすくなっています。
従前同様、セクハラに対する啓発をすることはもちろんのこと、職場の地位を利用したわいせつ行為、性交行為等に対して刑事罰が科される可能性があることの周知をして行く必要があるでしょう。

セクハラに関するQ&A

ここでは、セクハラに関するご質問にお答えします。

就業規則でセクハラに関する規定を設けたいのですが、どのようなことを記載しておけば良いでしょうか?

事業主には、セクハラに対する方針を明確化し、労働者に周知・啓発することが求められています。
その周知・啓発の方法の一つとして就業規則の定めがありますが、就業規則には、セクハラを行ってはならないこと、どのようなものがセクハラに当たるのか、セクハラを行った場合にどのような対応、処分を取るのかを記載しておくのが良いでしょう。

セクハラがあった際は解雇処分とすることを、就業規則に記載することは可能ですか?

セクハラがあった場合、会社の規律を害していることになりますので、セクハラ行為を懲戒事由とすることは可能です。セクハラ行為の内容によっては、懲戒解雇が妥当な場合もあるでしょうから、就業規則に、セクハラがあった場合に、懲戒解雇とする旨の記載をすることも可能です。
もちろん、実際に懲戒解雇にすべきか否かは、具体的なセクハラ行為の内容次第です。全てのセクハラに対して懲戒解雇ができるというわけではありませんので、実際の適用には注意が必要です。

セクハラ防止措置を講じない会社に対する罰則規定はありますか?

セクハラ防止措置を講じていないことに対する罰則規定はありません。
ただし、厚生労働大臣は、セクハラ防止措置に関して、必要があるときには、事業主に対して、報告を求め、また、助言、指導、勧告をすることができます。また、勧告に従わない場合、その旨を公表することも可能です。
なお、厚生労働大臣からの求めに反して、報告をしない場合、虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料が課される可能性があります。

セクハラの目撃者など、第三者から事情聴取をする際に気を付けることはありますか?

セクハラ問題は、被害者にとっても、加害者にとっても知られたくない事実であり、プライバシーに配慮して事情聴取をする必要があります。そのため、第三者から事情聴取をする場合には、その者に対して、調査内容はもちろんのこと、調査があったこと自体も口外をしないよう注意をする必要があります。
また、目撃者などの第三者の中には、問題に巻き込まれたくないと考える者も多くいるでしょう。そのため、第三者が事情聴取で話した内容や聴取に応じたという事実に関して、無用に開示することはないことを約束することも大切であると考えられます。

セクハラ加害者に対する処分について、社内で公表することは問題ないでしょうか?

社内で公表すること自体が直ちに問題になるものではありません。ただし、セクハラ加害者が特定されるような形で公表した場合、加害者の名誉やプライバシーを侵害することになりかねません。
そのため、セクハラ加害者の氏名、部署名は公表すべきではありません。また、セクハラ行為の詳細を記載すると加害者を特定できてしまうことがあるため、セクハラ行為の詳細を公表することも控えるべきでしょう。

被害者と隔離するために被害者を配置転換することは、不利益取り扱いに該当しますか?

加害者と隔離するためとはいえ、被害者を配置転換することはセクハラ相談に対する不利益取扱いに当たる可能性があります。基本的には、加害者を配置転換すべきといえます。
ただし、被害者が自ら配置転換を希望した場合や、会社の状況上、加害者を配置転換できない場合などにおいては、被害者を守るためのやむを得ない措置といえる場合があると考えられます。

セクハラで解雇処分とする場合でも退職金の支払いは必要でしょうか?

懲戒解雇の場合でも、原則として、退職金を支払う必要があります。
もっとも、就業規則において、懲戒解雇の場合に退職金の減額、不支給が定められていることがあり、そのときには、退職金の減額、不支給ができる場合があります。
ただし、退職金の減額、不支給が認められるのは、退職金に功労報償的性格が認められることを根拠としています。そのため、セクハラ問題が過去の功労を抹消、減じるほどのものと認められなければ退職金の減額、不支給は認められません。

LINEやメールのやりとりは、セクハラを裏付ける証拠として有効ですか?

もちろん、内容次第にはなりますが、LINEやメールのやりとりは、セクハラを裏付ける証拠として有力な証拠と考えられます。
例えば、LINEやメールでしつこく食事や遊びに行くことを誘っていたりしていた場合には、そのLINE、メールのやり取りがセクハラを裏付ける直接的な証拠になると考えられます。また、そのような直接的な内容ではなかったとしても、連絡内容、連絡頻度などから、セクハラを推認させることもありますので、LINE、メールのやり取りは重要な証拠になると考えられます。

匿名でのセクハラ相談にはどのように対応したら良いでしょうか?

匿名でのセクハラ相談の場合、相談者からヒアリングを行うことができません。そのため、相談された内容に応じて対応する必要があります。
例えば、目撃者がいるような相談の場合には、目撃者及び加害者からヒアリングすることを考えることになります。他方で、相談内容が抽象的で誰にヒアリングしていいのか不明確な場合には、全体に対してセクハラの注意喚起を行なうなどの対処を取るほかないでしょう。

セクハラ相談者が虚偽の申し立てをしていた場合の解決法を教えてください。

まずは、相談内容が虚偽か否かを慎重に判断する必要があります。
その調査の結果としては、次の3つのパターンが考えられます。

①調査の結果、セクハラ問題が本当に起きていた場合 ②セクハラの申告が虚偽であった場合 ③真偽が不明であった場合

このうち、①と③については、虚偽の申立てとはいえませんので、相談者に対して処罰をするということは適切ではありません。他方で、調査の結果、セクハラの申告が全くの虚偽であると分かった場合(②の場合)については、虚偽の申告によって会社の業務を妨害したといえますので、懲戒処分を検討することになります。
ただし、安易に虚偽の申告として処分を下すのは、セクハラ被害の申告を委縮させかねません。そのため、虚偽申告か否かは慎重に検討すべきでしょう。

再発防止として、セクハラに関する研修を男性社員のみに受講させることは可能ですか?

事業主には、セクハラ防止措置を講じる義務が課されていますが、性別に関わらずセクハラの加害者となり得ることを考えると、男性社員のみにセクハラに関する研修を行ったとしても、事業主としての責務を果たしたとはいえないと考えられます。そのため、性別を問わず研修を実施すべきでしょう。

取引先からセクハラを受けたと相談がありました。社外の人からのセクハラ被害にはどう対処すべきでしょうか?

社外の人からのセクハラ被害であっても、事業主として対応しなければならないことに違いはありません。もっとも、加害者が取引先の者であるため、会社内で解決することは困難です。
この点、事業主は、他の事業主からセクハラを行わないよう雇用管理上必要な措置を講じるよう求められた場合、これに応じるように努めなければならないとされています(男女雇用機会雇均法11条3項)。
そこで、取引先に対して、セクハラの被害を伝えて対応するように求めたり、苦情を申し入れたりするなどして、対処していくことになります。

女性から男性への性的な言動も、セクシャルハラスメントにあたるのでしょうか?

セクハラに当たり得ます。セクハラは、意に反する性的な言動であり、誰が発言したかは関係ありません。そのため、男性から女性への性的な発言だけでなく、女性から男性への性的な発言もセクハラに当たり得ます。また、男性から男性への性的な発言、女性から女性への性的な発言もセクハラに当たり得ます。

LGBTに対するセクハラがあった場合、会社ではどのような対応を取るべきでしょうか?

LGBTに対するセクハラと他のセクハラを区別する理由がありません。そのため、会社は、他のセクハラと同様に、LGBTに対するセクハラに対応する必要があります。
なお、LGBTに関して、まだまだ十分に理解されているとはいい難い状況です。LGBTに関する理解がなければ、LGBTのセクハラ問題に対応できませんので、LGBTに関して理解がある者が担当する、または、十分に理解を深めた上で対応することが必要です。

職場におけるセクシャルハラスメント問題の早期解決は、法律の専門家である弁護士にお任せください。

セクハラ問題によって職場の就労環境は害されているのであり、早期に解決しなければ、従業員の信用を失っていくおそれもあります。他方で、安易にセクハラの事実を判断することなどできないのであり、十分な調査を尽くす必要があります。また、セクハラに当たる発言か否かを判断することが困難な場合もあります。
セクハラ問題に関して早期に解決したいなどの場合、専門家たる弁護士の協力を得ることは重要な方法の一つです。セクハラ問題に関してお困りのことがありましたら、弁護士法人ALG&Associatesにまでご相談いただければと思います。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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