労務

団体交渉でやってはいけない対応

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 団体交渉

突然、労働組合から団体交渉を申し入れられるということは、どこの会社でも起こり得ることです。その際、何もしなくて大丈夫だろうと考えて放置したり、感情的になって団体交渉を拒否したりすることは避けなければなりません。

ここでは、団体交渉に関し、やってはいけない対応という観点からご説明いたします。

目次

団体交渉の対応で会社が注意すべきこととは?

どこで団体交渉を行うか、誰が参加すべきかなど、注意すべきことは多岐に渡りますが、最も注意すべきは、不当労働行為に該当する行為をしないということでしょう。不当労働行為に該当すると判断された場合、労働委員会は、救済命令を出すことができます。

この救済命令にまで違反すると、刑事罰が科されることがあります。また、不当労働行為を理由として、損害賠償請求等が認められることもあります。

団体交渉における不当労働行為

不当労働行為に該当する行為は、労働組合法7条に明記されています。具体的には、労働組合の組合員であるという理由で不利益な取り扱いをすること、正当な理由なく団体交渉を拒否すること、労働組合の運営のために経理上の援助を与えることといったものがあります。

団体交渉で会社がやってはいけない対応

繰り返しになりますが、団体交渉において、不当労働行為に当たる行為は避けなければなりません。団体交渉の申し入れを無視することや、必要な資料を提示しないなど不誠実な態度に終始するということはやってはいけない対応といえます。

また、いたずらに団体交渉を先延ばしにすることも、実質的に団体交渉拒否したと判断される可能性がありますので、注意が必要です。

団体交渉における会社側の対応が問題となった判例

ここでは、正当な理由なく団体対交渉拒否をしたと判断された裁判例を紹介します。なお、争点は多岐に渡りますので、ここでは会社側が日程調整をしなかったことに関する問題に絞って記載いたします。

事件の概要

本件は、労働組合が病院に対して、団体交渉を申し入れ、実際に、何度か団体交渉が行われましたが、労働組合が病院に対して、次回の協議の場を設けるよう求めたのに対し、病院は、「いろいろ調査検討中」などとして、約2か月の間、協議の日程調整を行いませんでした。

これに関し、労働組合が労働委員会に対して救済の申立てを行ったところ、労働委員会は、10月1日以降団体交渉を開催しなかったことが不当労働行為に該当するとして救済命令を発しました。病院側は、これを不服として、救済命令の取り消しを求める訴訟を提起しました。

裁判所の判断(大阪地方裁判所令和5年9月6日裁判令和3年(行ウ)第156号)

裁判所は、日程調整をしなかった対応が団体交渉拒否といえるか、その団体交渉拒否に正当な理由があるかという2点に分けて検討をしています。

まず、裁判所は、「原告は、補助参加人ら(注:組合)の求めにかかわらず、約2か月の間団体交渉の日程調整に応じず、さらに、一度設定した協議日程を一方的に延期したというのであるから、かかる一連の経緯に照らし、団体交渉を拒否したものといえる。」として日程調整をしないことを団体交渉拒否と判断しました。

その上で、正当理由の有無については、「原告側の説明の準備が整っていないことのみを理由とし、かつ、日程調整を行えない具体的な理由を説明することのないまま日程調整を行わなかったことについて、正当な理由があるということはできない。」として、団体交渉拒否の正当理由も否定しています。

ポイント・解説

本件は、一度設定した協議日程を一方的に変更し、また、2か月の間、団体交渉の日程調整をしなかったという一連の行為に関して、不当労働行為と判断されています。

会社側の都合や準備もあると考えられます。また、準備ができていない団体で団体交渉をしたとしても、実質的な話し合いも出来ないでしょうから、準備のために、団体交渉の日を先にするという対応が直ちに問題ということはできないと考えられます。

もっとも、準備に時間を要するのであれば、労働組合に、その具体的な理由を説明すべきであるといえます。また、場合によっては、準備状況を報告する場として、団体交渉の場を設けることも検討すべきです。本件からも分かるとおり、団体交渉においては、日程調整も含めて誠実に対応をする必要があります。

団体交渉の対応に関するQ&A

以下で、団体交渉の対応に関するご質問に回答いたします。

団体交渉の申し入れ時に協議を求められました。その場で応じるべきでしょうか?

その場で応じる必要はありません。正当な理由なく団体交渉を拒否することはできませんが、これは労働組合が求めたときに団体交渉を行わなければならないという義務ではありません。
会社側にも準備や都合があり、申し入れ時に協議ができないことは当然のことです。別日に団体交渉を実施すれば、団体交渉を拒否したともいえませんので、日程の変更を求めていくのが良いと考えられます。

1回目の団体交渉には応じるが、2回目以降は拒否するというような対応は、不当労働行為に該当しますか?

不当労働行為に当たる可能性が高いと考えられます。正当な理由なく団体交渉を拒否することは不当労働行為にあたりますが、これは、2回目以降の団体交渉であったとしても同じことです。
通常、1回の団体交渉では、十分に協議をしたとはいえませんので、2回目以降ということを理由として、団体交渉を拒否することはできないと考えられます。
したがって、2回目以降の団体交渉を拒否するという対応は不当労働行為に該当する可能性が高いといえます。

所定労働時間内に団体交渉をするよう要求されました。団体交渉中の賃金を支払う必要はありますか?

所定労働時間内であったとしても、団体交渉中は就労をしているわけではありません。そのため、ノーワークノーペイの原則から、賃金を支払う必要はありません。
ただし、労働時間における団体交渉に対して、賃金を支払うとの労働協約を締結している場合は、賃金を支払う必要があります。

団体交渉が平行線で合意に至らない場合、会社側から打ち切ることは可能ですか?

団体交渉が平行線になっており、交渉が行き詰っている場合、それ以上の団体交渉に意味がないこともあるでしょう。
そのような場合であれば、団体交渉の拒否に正当な理由があるといえますので、打ち切ることも出来ると考えられます。
ただし、団体交渉の開催場所、参加人数などに関して平行線になっている場合や、必要な資料提示などを行わないために平行性になっている場合には、十分に団体交渉が行われているとはいえません。
このような場合には、団体交渉拒否に正当な理由が認められないと考えられます。上記のとおり、状況によっては団体交渉が平行性になっていることを理由として会社側から打ち切ることは可能です。
もっとも、実際に打ち切るか否かは、慎重に検討をすべきといえます。

労働組合に加入したことを理由に解雇した場合、不当解雇となるのでしょうか?

不当解雇にあたります。労働者が労働組合員であることを理由として解雇することは不当労働行為に当たるとされています(労働組合法7条)。
そもそも、労働組合に加入したことをもって解雇することは許されていないため、ご質問の理由で解雇することは不当解雇に当たるといえます。

団体交渉には応じるが、資料や書類などを一切提示しないとすることは可能ですか?

団体交渉に応じたとしても、必要な資料や書類などを一切提示しなければ、十分な協議を行うことができません。
必要に応じて資料や書類などを提示すべきであり、一切提示しないという対応は、誠実交渉義務に違反すると考えられます。
なお、資料の中には個人情報や企業秘密の記載があり、開示が困難な資料があることも考えられます。その場合には、協議に不必要な部分を隠して提示したり、秘密保持に関する合意書を取り付けた上で提示するなどの対応を取ることが考えられます。

団体交渉の場で協議を行わず、全て社内に持ち帰って確認するという行為は、不誠実な交渉とみなされますか?

ご質問を、2つに分けて考えます。つまり、①団体交渉の場で協議を行わないことの是非と、②すべて社内に持ち帰って確認することの是非に分けて考えるのがよいといえます。
まず、①について、団体交渉の場で協議を行わないとなると、団体交渉の場を設けた意味を没却しかねません。そのため、このような対応は、不誠実な交渉に当たると考えられます。
次に、②について、団体交渉にあたっては、慎重に検討をしなければならないことが多々あります。そのため、社内に持ち帰って確認すること自体は問題ではないと思われます。
もっとも、確認対象の内容、性質、重大性などを無視して、一律に、全てを社内に持ち帰るという対応は、さすがに硬直的過ぎる対応であり、不誠実な交渉に当たると思われます。

団体交渉の内容を録音・録画することは可能でしょうか?

団体交渉時の様子を録音するなどといったことは、良く行われています。録音の開始前に、労働組合側の了承を得ることが望ましいですが、団体交渉の内容を録音・録画することは可能といえます。

訴訟中の事項について団体交渉を要求された場合、応じる必要はありますか?

訴訟中の事項であっても、団体交渉に応じる必要があります。訴訟は、過去の事実関係を基にして、法的な適否を判断するものです。
それに対し、団体交渉は将来に向けてどのように解決するのかという点に主眼があります。それぞれの制度の趣旨や目的、機能が異なっていますので、訴訟中ということを理由として、団体交渉を拒否することはできないとされています。

子会社の団体交渉に親会社が参加することは認められますか?

親会社が子会社の労働環境に大きな影響を及ぼす場合、子会社の団体交渉に親会社の参加が必要となることがあります。そのため、子会社の団体交渉に親会社が参加することは可能といえます。
もっとも、親会社として、子会社の団体交渉に参加すべきなのかは十分に検討をすべきです。
親会社といえども子会社の労働環境に影響を及ぼしていない場合、団体交渉に参加しても意味がなく、不必要な負担を負うだけです。
そのため、まずは、親会社として団体交渉に参加すべきかを検討し、必要であれば、参加するという対応を取るべきでしょう。

不当解雇について団体交渉の申し入れを受けましたが、既に雇用関係にない場合でも応じる必要はあるのでしょうか?

応じる必要があります。今回の団体交渉の申入れは不当解雇に関する件ですが、仮に、不当解雇に当たる場合、当該解雇は無効であり、現時点でも雇用関係が継続していることとなります。
そのため、既に雇用関係のない者に関する団体交渉とはいえませんので、団体交渉に応じる必要があります。

団体交渉で会社が誤った対応をしないよう、弁護士が最善の方法をアドバイスさせて頂きます。

ここでは、団体交渉でやってはいけない対応という観点からご説明をさせていただきました。団体交渉の申し入れは、突然なされるものであり、焦って適切な対応が出来ないということは十分にあり得ます。

団体交渉の対応に関して、お困りのことがありましたら、弁護士法人ALG&Associatesにご相談ください。適切な対応が出来るよう、可能な限り、サポートさせていただきます。

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名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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