労務

議事録・録音・録画の必要性

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 団体交渉

団体交渉は、複数回開催されることが多く、適切に協議を続けていくために、議事録や録音・録画により記録を残しておくことが必要といえます。ここでは、団体交渉に関する記録について、ご説明します。

目次

団体交渉の内容を記録する必要性

通常、団体交渉は、1回では終わらず、何度も行われます。また、その協議も数時間に及ぶこともあります。記録を付けておかないと、団体交渉の経緯や内容が分からなくなり、適切な協議を行えなくなってしまいます。そのため、適切な団体交渉を行うために、団体交渉の内容を記録に残すべきです。

団体交渉において議事録は作成すべきか?

団体交渉の内容を記録に残す方法は、いくつか考えられます。正確な記録のために、録音をして記録に残すことも大切ですが、通常、理路整然と話をすることは困難です。そのため、後から聞き返しても、話の内容を掴めないということが起こり得ます。また、話合いが長時間に及ぶと、録音を聞き返すことは容易ではありません。

そのため、録音だけでなく、議事録を作成して、団体交渉の内容をまとめておくのが良いといえます。

議事録の作成目的

上記のとおり、議事録は、備忘録としての役割を果たしますが、議事録を作成する目的は、それだけにとどまりません。議事録は、何らかの問題が起きた際の証拠にもなります。備忘録や証拠として使用できるように議事録を作るべきといえます。

議事録に記載する内容

上記のとおり、議事録は備忘録としての役割と、証拠としての役割があります。いつ、誰が、どのような内容を話したかという記録を残すべきですので、議事録には、日時、参加者、協議内容を記載するのが良いでしょう。

また、次回の団体交渉までに検討すべき事項が設定されることもあります。その際には、検討事項の記録も残しておくのがよいといえます。

議事録へのサインについて

労働組合から、作成をした議事録にサインを求められることがあります。しかし、正確ではない議事録にサインをしてしまうと事実と異なる協議がなされたという証拠になってしまいます。また、場合によっては、議事録にサインしたことで労使協定が成立してしまうこともあります。

そのため、いくら議事録という表題になっているとしても、安易にサインをしてはなりません。サインをしなければならないとしても、慎重に検討をした上で、行うようにしましょう。

団体交渉の内容を録音・録画する必要性と注意点

議事録によって、団体交渉の協議の内容等を記録に残すことができますが、一言一句間違いのない記録を付けることは不可能です。正確な記録を残すために、議事録を付けるとともに、録音等も残しておくのがよいといえます。

録音をする際には、「録音します」などと、一言、断ってから録音を開始するのが良いでしょう。また、録音機器は、机上に置いて録音するのがよいと考えられます。机上の方がクリアに録音できる上、乱暴な発言も抑止できる効果を期待できます。

団体交渉の記録が争点となった判例

ここでは、団体交渉に関する議事録の信用性が否定された事例を紹介します。

事件の概要

議事録に関する部分に絞って記載をします。組合と被告(医療法人)とが団体交渉をしていたところ、当時、録音しないことが合意されていました。そして、第2回の団体交渉において、組合は議事録を作成したものの、被告には、内容の確認を求めておらず、労使双方の確認を得た議事録は作成されていないという状況でした。

このような状況において、原告は、第2回の団体交渉において、「過半数代表の選出に管理監督者である事務長が関与しないように求めたのに対し、被告が無理である旨の回答をした」との主張をし、団体交渉時の議事録が証拠の一つとして使用されていました。他方で、被告は、「事務長に関する要求はなかった」との主張を行っていました。

裁判所の判断(令和2年(ワ)第32845号・東京地方裁判所・判決)

裁判所は、「本件組合の作成した議事録は、被告の確認を経ていないものであるから…、その内容が交渉内容を正確に反映したものであるとまでは認め難い。また、第2回団体交渉は、録音がされていなかった…。そうすると、本件組合が具体的にいかなる要求をし、被告がこれにいかなる回答したのかについては判然としないといわざるを得ないから、本件組合が同団体交渉において過半数代表者の選出に事務長が関与しないよう求めたのに対し、被告が無理である旨回答した事実については、これを認めことはできない。」とし、議事録を証拠として、原告の主張を認定することは出来ない旨の判断を下しました。

ポイント・解説

裁判所は、被告の確認を経ていないことを理由として、議事録が交渉内容を正確に反映したとまでは認めがたいとの判断を下しています。当然ですが、議事録を片方のみで作成した場合、内容を自由に記載することができます。そのため、自ずと、議事録の信用性は落ちることとなります。

今回は、録音しないとの合意がなされており、議事録を裏付ける証拠もない状況でした。このような場合において、一方が議事録を作成したときは、他方の確認を得ておくのがよいと考えられます。

よくある質問

以下では、よくある質問にご回答します。

団体交渉における議事録の作成について、法的義務はあるのでしょうか?

団体交渉において議事録を作成すべき法的義務はありません。もっとも、議事録は、備忘録としても、証拠としても、重要な役割を果たすと考えられます。そのため、法的義務がないとしても、議事録を作成しておいた方が良いでしょう。

労働組合側から録音・録画の要求があった場合、会社側も録音・録画すべきでしょうか?

労働組合側から録音・録画の要求があった場合には、会社側も録音・録画をしておいた方が良いでしょう。録音・録画に関しては、後から一部を切り取られて証拠として利用される可能性があります。そのような場合に、会社側にも録音・録画があれば、提出されていない部分を証拠として提出することができます。
労働組合側から録音・録画が求められた場合には、会社側においても録音・録画をしておくべきでしょう。

団体交渉時の内容を無断で録音することは違法ですか?

録音は、団体交渉の場で話をしたことを記録に残す行為です。団体交渉の場で話をした内容は、その相手には、伝わっており、録音は、その内容を記録に残すだけであるため、無断で録音をしたとしても、直ちに違法とはいい難いところです。
もっとも、秘密で録音をしたことがトラブルの原因になりかねません。そのため、断りを入れてから録音をすべきでしょう。

労働組合側の録画で、会社側にだけカメラを向けられることは問題ないのでしょうか?

録画をすべき義務も、録画を禁止する義務もありませんので、どのように録画をするかは自由といえます。そのため、会社側にだけカメラを向けられるということが直ちに問題とは考え難いところです。
もっとも、会社側にだけカメラが向けられている場合、労働組合の行動などを記録に残すことはできません。双方が映るようにカメラの向きを調整するよう申し入れたり、会社側でも、録画するなどして対応をした方がよいといえます。

録音・録画した団体交渉の内容は、文章に起こして保管しておいた方が良いですか?

裁判において、録音・録画を証拠として使用する場合、その内容を反訳して提出する必要があります。この点から考えると、録音・録画の内容を文章に起こしておいた方がよいと言えます。
もっとも、実際に裁判になった際に、反訳をするということでも問題はありません。そのため、無理に、文章に起こす必要はないといえます。

労働組合から団体交渉時の録音・録画を求められました。拒否すると不当労働行為にあたりますか?

団体交渉において、必ずしても、録音等は必要ではなく、これを拒否したというだけで、直ちに不当労働行為に当たるとは考えられません。ただし、会社側が、録音等を理由として、団体交渉自体を拒否した場合には、不当労働行為に当たると考えられます。
録音等によって、団体交渉の内容を記録に残すことができるというメリットもありますので、双方が録音等をする形で団体交渉を実施するのがよいと考えられます。

労働組合が作成した議事録にサインをしてしまいました。後から取り消すことはできますか?

原則として、一度、サインしたものを後から取り消すことはできません。場合によっては、議事録が労使協定になるということもありますので、サインをする場合には、慎重に行うべきです。

議事録の内容を、会社の顧問弁護士に開示しても問題ないですか?

議事録の内容を、会社の顧問弁護士に開示することは問題ありません。弁護士は、代理人として、団体交渉に参加することも可能であり、議事録の記録があれば、これまでの団体交渉の結果を踏まえて対応を考えることも可能となります。弁護士に相談する際には、議事録の内容を見せた方が良いでしょう。

労働組合側の暴言・脅迫行為を録音することができれば、団体交渉を打ち切ることは可能ですか?

確かに、暴言・脅迫行為があった場合には、団体交渉を打ち切る理由になり得ます。ただし、団体交渉の打ち切りが認められるためには、暴言・脅迫行為が継続する見込みが高いことが必要となります。まずは、暴言・脅迫行為を止めるように伝え、それでも暴言・脅迫行為が続く場合に、団体交渉を打ち切ることを検討しましょう。
なお、暴言・脅迫行為があった場合、一旦、冷静になる時間を設けるということは問題ないと考えられます。冷静に話が出来そうにないときは、休憩時間を設けたり、後日、話をするなどの対応を取ることが考えられます。

団体交渉時の録音データを改ざんした場合、会社はどのような責任を問われますか?

例えば、裁判において、録音データを改善して、証拠として提出した場合、違法な行為として損害賠償義務が課される可能性があります。また、改ざんが発覚した場合、その録音データの証拠能力は否定されます。加えて、仮に、改ざんデータで勝訴判決を得て、それが確定したとしても、後々、改ざんしたことが発覚すれば、その裁判がひっくり返る可能性もあります。

議事録は、労働組合側と使用者側で別々に作成すべきでしょうか?

労働組合側と使用者側とで一緒に議事録を作成できれば、より信用性が高い議事録を作成することができます。しかし、議事録の内容に関して意見の対立が生じる可能性もあります。また、双方が議事録にサインをすると、労使協定が成立したと判断される可能性もあります。そのため、労働組合側と使用者側で別々に議事録を作成した方がよいと考えられます。

団体交渉の記録で不備が無いよう、人事労務を得意とする弁護士がサポートさせて頂きます。

ここでは、団体交渉に関する記録についてご説明しました。団体交渉の記録は、備忘録としても、証拠としても重要なものです。長期間にわたる団体交渉において、重要なものであり、記録に不備がある場合、後々、証拠として使用できないということも起こり得ます。
弁護士法人ALG&Associatesは、人事労務に関して、多数の経験を有しています。お困りのことがありましたら、ぜひご相談ください。

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名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
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