労務

在宅ワークを行ううえでの労働時間管理と残業代の支払いについて

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 残業代

在宅ワーク(テレワーク)は、一時的な措置ではなく恒常的な勤務形態として多くの企業に採用されています。一方で、従業員が働く様子を直接確認できないことから、労働時間の管理が難しいという問題があります。

以下では在宅ワークに関して、法律上注意すべき点について解説します。

在宅ワークで課題となる労働時間の管理

会社に出勤してもらう場合には、タイムカードなどによって勤怠時間を管理することも容易でしょう。

しかし、在宅ワークでは、労働者が実際よりも多い労働時間を申告したとしても会社が虚偽だと見抜くことは容易ではなく、特に労働者が成果を出していれば勤怠時間の管理をしっかりと行わないとしても会社としては問題ないと考えてしまうこともあるかもしれません。

もっとも、会社は、在宅ワークだとしても労働時間の管理を行う必要があります。
そこで、以下では、在宅ワークを行う上での労働時間の管理の仕方や労働時間の管理が必要なのかなどについて解説いたします。

使用者には従業員の労働時間を把握する義務がある

労働基準法108条は、使用者に対し、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項等を賃金支払のつど遅滞なく記入することを義務づけています。

そして、同法施行規則54条は、賃金台帳の記入事項として労働日数、労働時間数、時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数を挙げています。
適正な賃金計算の前提として、労働時間の把握が当然に必要となります。

労働安全衛生法66条の8の3では、労働者の健康を保持するため、事業者は労働者の労働時間の状況を把握しなければならないとされております。

ここでの事業者は、事業を行う者で労働者を使用するものとされていますので、一般的な会社であればこの条文に基づいて従業員の労働時間を把握する義務があります。

在宅勤務者の労働時間を適正に管理する方法とは?

使用者は在宅ワークの労働者が働いているところを直接確認することができない点が、在宅勤務者の労働時間管理を難しくする点でしょう。

在宅ワークの労働者の労働時間の管理の手段として考えられるのは、ウェブ勤怠システムによる打刻、チャットで始業・終業の報告をしてもらう、PCログやアクセスログの確認や画面監視を前記2つと併せて行うなどがあるかと思います。

もっとも、労働時間の管理にあたっては、法令及び就業規則に注意する必要があります。

労働基準法上の留意点

在宅ワークを導入されている会社は、一般的に労働基準法の労働時間等を定めた第4章が適用されると考えられます。そのため、時間外労働や休日・深夜労働については割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)。
また、休日や、労働時間次第では休憩を与える必要もあります(労働基準法34条、35条)。

就業規則にはどのような規定が必要か?

労働者が突然在宅ワークを行うことになれば、会社は労働者の労働時間の管理が難しくなると思います。
そのため、就業規則には、在宅ワークを認めることに関する規定のほか、在宅ワークの申請手続に関する規定や労働時間管理の方法に関する規定を備えておくべきだと考えられます。

また、在宅ワークでは、労働者が労働することでかかった通信料の負担について紛争が生じる可能性があります。そのため、通信料の負担に関しても定めておくと良いと思います。

なお、就業規則を変更した場合には、就業規則変更届を労働基準監督署に提出し(常時10人以上の労働者を使用する会社に限られます)、変更後の就業規則を見やすい場所に掲示するなどして周知させる必要があります。

労働時間を自己申告制とする場合に企業が講じるべき措置

ウェブ勤怠システムの打刻や始業・終業時刻の報告などの自己申告制を採用している場合、会社が講ずべき措置については「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずるべき措置に関するガイドライン」で定められております。

このガイドラインによると、会社が講ずべき措置は以下になります。

  • 1. 労働者への説明 自己申告を行う労働者に対し、労働時間の実態を正しく記録し適正に自己申告を行うことについて十分に説明すること。
  • 2. 管理者への説明 実際に労働時間を管理する者(上長等)に対しても、自己申告制の適正な運用を含め、ガイドラインに従い講ずべき措置について十分に説明すること。
  • 3. 実態調査と補正 自己申告により把握した労働時間と、パソコンの使用時間の記録など客観的な記録との間に著しい乖離が生じているときは、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
  • 4. 不適正な運用の有無の確認 労働者が自己申告できる時間数に制限を設けたり、使用者が労働者の記録を実際の労働時間と異なるものへ誘導したりといった、不適正な運用が行われていないかを確認すること。
  • 5. 上限設定の禁止 労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定してはならないこと。
    また、36協定で定めた延長時間を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが慣習的に行われていないかを確認すること。
  • 6. 阻害要因の除去 時間外労働削減のための社内通達や、時間外労働手当の定額払制度(いわゆる固定残業代)などの措置が、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかを確認し、要因となっている場合には改善のための措置を講じること。

つまり、会社は、在宅ワークを行おうとする労働者に労働時間の管理のために自己申告が必要であることを十分に説明し、自己申告された労働時間が実際の労働時間とイコールかを確認し、必要なら補正をする必要があるということです。

また、自己申告された労働時間と実際の労働時間にズレがある場合、時間外労働削減に関する社内通達や時間外労働手当の定額払制度などの措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する原因となっているかを確認し、原因となっている時は改善のための措置を講じる必要があるともされております。

在宅ワークでの休憩時間はどのように取り扱うのか?

労働基準法上、労働時間が6時間超える場合なら45分、8時間を超える場合なら1時間の休憩を労働時間の途中に与えなければならないとされております。
そして、この休憩は、原則として、同一事業上の全社員に一斉に与えなければなりません。

一方で、例外的に、労働者の過半数で組織する労働組合(このような労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)と協定することで、個別に休憩時間を与えることができます。

育児や介護などと仕事の両立のために在宅ワークを行う労働者も存在し、このような労働者としては、出勤する労働者と同じ時間に休憩することになるのではなく、より柔軟に休憩時間を確保したいという希望が生じるところです。

このような場合には、上記の労使協定を作成して、在宅ワークを行う労働者に個別に休憩時間を与えるような設計にしておくと良いでしょう。
休憩時間の管理の方法としては、ウェブ勤怠システムでの打刻やチャット等での自己申告の義務化などが考えられます。

在宅ワークの時間外・休日・深夜労働について

在宅ワークは仕事とプライベートの境界線が曖昧になることが多く、ついつい時間外労働や休日労働、深夜労働を行う労働者も存在します。
これから触れるとおり、会社は在宅ワークの労働者であっても時間外労働、休日労働及び深夜労働を管理する必要があります。

在宅ワークでも残業代の支払いは生じるのか?

在宅ワークは労働を労働者の家で行わせているにすぎません。
そのため、在宅ワークであったとしても、時間外労働等が行われた場合には、残業代を支払わなければなりません。

残業を許可制にすることは可能?

仕事とプライベートが曖昧になった在宅ワークの労働者が時間外労働や休日労働を繰り返し行うことを防ぐ手段として、時間外労働を許可制にすることが考えられます。

判例も時間外労働を許可制にすること自体は認めておりますので、許可制を行うことは可能です。
時間外労働を許可制にする場合、就業規則に規定することになります。

就業規則は、時間外労働の時間や業務内容、時間外労働が必要な理由が書かれた書面を提出するといった申請方法や、上長が確認して時間外労働命令を出すまでの流れなどを規定するべきでしょう。

もっとも、時間外労働を許可制にしたとしても、許可していない時間外労働について黙認していると評価される場合には、残業代を支払わなければならないと判断される可能性があります。
そのため、許可制は厳格に運用される必要があります。

「事業場外みなし労働時間制」の適用について

「みなし労働時間制」とは、所定の労働時間を予め定めておき、実際の労働時間を具体的に把握することはせず、所定の労働時間だけ労働したものとみなす制度のことです。

テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインでは、以下の要件を満たす場合に在宅ワークでもみなし労働時間制を適用できるとされております。

  • ① 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態に置くこととされていないこと。
  • ② 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。

なお、①については、情報通信機器を労働者が所持していたとしても、労働者が通信回線を切断できたり、情報通信機器から自由に離れることができたり、情報通信機器への応答のタイミング等を自由に判断できる場合には、①を充足すると解されています。

みなし労働時間制でも残業代の支払いは必要

もっとも、みなし労働時間制を採用したからといって、所定労働時間を超過する労働に対して常に残業代を支払う必要がなくなるというわけではありません。

労働基準法上、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる労働時間がみなし労働時間となります。そして、このみなし労働時間が8時間を超過する分について、時間外労働として残業代を支払う必要があります。

たとえば、ある業務の遂行には通常9時間の労働を要するとき、みなし労働時間は9時間となります。
このみなし労働時間9時間は8時間を1時間分超過していますので、1時間分について残業代を支払う必要があります。

みなし労働時間制を採用すれば残業代を払う必要はないというのはよくある誤解ですので、注意しましょう。また、そもそも深夜又は休日に労働を行うことを前提とする所定労働時間となっている場合も、その割増賃金を支払う必要があります。

長時間労働対策として企業に求められる対応

これまでにも述べてきたとおり、在宅ワークの労働者であったとしても、その労働時間を管理することが必要かつ重要になります。

労働時間の管理は会社に一定のコストがかかるものではあります。
しかし、労働時間の管理を適切に行うことで、在宅ワークの労働者の休憩時間や残業代などの別の問題にいち早く気づくことができ、未然に紛争を防ぐことも可能になるでしょう。

在宅ワークを円滑に運用するには、労働時間の適正な管理が重要となります。不明点があれば一度弁護士にご相談下さい。

この記事をとおして、在宅ワークの運用には労働時間の適正な管理が必要かつ重要となることを理解していただけたかと思います。

労働時間を適切に管理するには、就業規則にどのように規定するべきか、休憩時間がいつなのか、また、みなし労働時間制を導入している場合にはどの業務の場合に所定労働時間に変更が生じるかなど、専門的な知識が必要となる場面が多くあります。

弁護士法人ALGには、労働問題や労務管理に詳しい弁護士がおりますので、在宅ワークの導入や労働時間の管理にあたっては、弁護士法人ALGの弁護士にご相談ください。

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名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
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