労務

従業員から残業代を請求されたら?企業がとるべき対応と反論する際のポイント

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 残業代

会社において適切に賃金を支払っていると認識していても、従業員から残業代を請求される場合があります。このような場合、求められるままに支払うことも、いかなる場合にも支払いを拒否することも適切とはいえません。どのように対応すべきでしょうか。以下で説明していきます。

目次

従業員から残業代を請求された場合の対応

従業員の請求に反論の余地があるかを検討する

賃金の請求は労働者の正当な権利とされているため、残業代を不当に支払わない場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労基法119条1号)という罰則を受ける可能性があります。また、労基署による立ち入り調査を受ける可能性もあります。罰金等の不利益を受けることを避けるため、まず、支払う必要がないという正当な反論の余地があるかを検討しましょう。

支払い義務のある残業代を計算する

残業には、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える残業(「法外残業」といいます。)と所定労働時間は超えるが法定労働時間内の残業(「法内残業」といいます。)があります。法外残業及び法内残業のいずれに対しても残業代を支払う必要があります。法外残業については、労基法37条に従い、割増賃金を支払う必要がありますが、法内残業については、就業規則等に定めのない限り割増賃金を支払う必要はありません(割増賃金ではなく所定労働時間を超過した時間に対応する賃金は支払う必要があります。)まずは、残業時間を算定し、支払うべき残業代があるか否か、あるとしてその額がいくらになるかを算定する必要があります。

和解と反論のどちらで対応するかを決める

残業代の計算結果に応じて、和解と反論のいずれの方法で対応するかを決定します。すなわち、支払うべき残業代がある場合、相手方との間で支払うべき額について交渉し、和解することが考えられます。一方で、支払うべき残業代がない場合、交渉や労働審判又は訴訟において、その理由について反論することが考えられます。

労使間の話し合いにより解決を目指す

労使間の話し合いにより解決を目指す方法として、労働者と個別に交渉を行う方法がありますが、労働組合から団体交渉の申し入れがなされることもあります。労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、会社は、この申し入れが正当なものである限り、これに応じる義務があります。

労働審判や訴訟に対応する

未払い賃金の支払いを求めて従業員から労働審判を申し立てられたり訴訟を提起されたりした場合、不当な請求が認められることのないよう、適切に対応する必要があります。特に、労働審判は、迅速な解決のために通常の訴訟よりも審理も迅速に行われるため、会社においても迅速かつ適切な対応が必要となります。

残業問題に詳しい弁護士に依頼する

労働審判や訴訟に迅速かつ適切に対応するには、労働審判・訴訟の手続や労働法実務に関する十分な知識、経験を要するため、会社が単独で対応することは容易ではありません。そこで、残業問題に詳しい弁護士に依頼することも有効な対応策といえます。まずは相談をご検討ください。

残業代請求に対する会社側の5つの反論ポイント

従業員からの残業代請求への反論として、①従業員が主張する労働時間に誤りがある、②会社側が残業を禁止していた、③従業員が管理監督者に該当する、④固定残業代(みなし残業代)を支給している、⑤残業代請求の消滅時効が成立しているという5つのポイントがあります。以下ではこれらのポイントについて説明していきます。

①従業員が主張している労働時間に誤りがある

この反論は、従業員が請求する残業代に対応する残業時間が、誤っており、残業時間や残業代請求が過大であるとの反論です。従業員が自己の労働時間を正確に把握できていない場合、会社としては、タイムカード等の資料を提示して、過大となる請求部分について残業代を支払う必要がないと反論することとなります。

②会社側が残業を禁止していた

会社が残業を禁止しており、実際に残業がなされていない状況であったのであれば、そもそも残業時間がなく、会社は残業代を支払う必要はないこととなります。ただし、残業を黙認していなかったかについての確認が必要です。残業の黙認があった場合、黙示の残業命令があったとして、残業代の支払いが命じられることが多いためです。

③従業員が管理監督者に該当している

この反論は、残業代を請求する従業員が、そもそも法律上残業代を支払う必要のない管理監督者にあたるため、残業代を支払う必要がないとの反論です。この管理監督者にあたるかは、役職名から形式的に判断されるのではなく、権限等から実質的に判断されることに注意が必要です。

④固定残業代(みなし残業代)を支給している

この反論は、固定残業代の制度を採用している場合、想定されている残業時間について残業代は支払い済みであり、支払う必要がないとの反論です。もっとも、この反論が認められるためには、固定残業代が通常の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分が明確に区分されていることといった要件を満たす必要があることに注意が必要です。

⑤残業代請求の消滅時効が成立している

残業代を含めた賃金の請求権については、従業員が請求できるようになった時から3年間行使しないときは時効により消滅します(労働基準法改正により賃金債権の消滅時効は5年とされました(労基法第115条)が、当面の間3年間とされています(労基法附則第143条。)。この反論は、従業員による残業代請求が、請求できるようになった時から3年以上経過したため、時効により消滅しており、もはやこれを支払う必要がないとの反論です。

残業代請求の訴訟で会社側の反論が認められた裁判例

事件の概要(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

平成27年(ワ)33400号・東京地方裁判所・平成30年3月22日判決
登録型派遣添乗員の会社に対する未払残業代請求事件において、会社が支給していた固定残業代の支払いが有効とされた事例

裁判所の判断

労働者側は、固定残業代合意が有効となるために、①労働契約において所定労働時間に対する対価の具体的金額及び割増賃金に当たる部分の具体的金額並びに固定残業代として支払われた額が何時間分の労働の対価であるかが示され、かつ、支給時に支給対象の時間外労働の時間数と当該額が労働者に明示されていなければならない、②労基法所定の計算方法による額が、その部分(固定残業代)を上回るときはその差額を賃金の支払時期に支払うことが合意(「精算合意」)されていることが必要であると主張しました。

労働者側の主張に対し、裁判所は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができれば、必ずしも労働者が一見して判別することが必要とは解されないとして、労働者が主張する①を満たさなくとも、固定残業代の合意は有効となると判断しました。
そのうえで、会社の就業規則、賃金通知書及び就業条件明示書の記載から通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とに判別することができると判断しました。

また、②について清算合意が必要であるとは解されないと判断しました。

ポイント・解説

本判決においては、通常の労働時間の賃金と割増賃金に当たる部分との判別において、就業規則、賃金通知書及び就業条件通知書の記載で判別可能であると判断されました。もっとも、就業規則等の記載を整えておけば足りるというわけではなく、実際にどのような趣旨で固定残業代が支給されているかは重要なポイントとなります。
また、本判決において清算合意は不要であるとされたものの、労基法所定の計算方法による額が固定残業代を上回る場合には、その差額を支払う義務はありますので、会社としてはきちんと差額精算を行うべきです。

従業員からの残業代請求に対応する際の注意点とポイント

残業代請求を無視しない

支払うべき残業代を支払わなかった場合、既述のような罰金等の不利益を受ける可能性があるほか、遅延損害金や、未払いの残業代に加えて、労基法114条に基づく「付加金」を支払わなければならない可能性があります。これらの不利益を避けるため、従業員からの残業代支払い請求は無視しないようにしてください。

労働基準監督署への対応は誠実に行う

労働基準監督署から、残業代の支払いについて問い合わせがなされることがあります。この場合、誠実に対応するようにしてください。そうしないと、立ち入り検査が行われ、法令違反があれば是正命令を受け、これに従わない場合には罰則が科せられる可能性もあります。

労働時間の管理体制を見直す

従業員から未払の残業代請求がなされる場合、労働時間の管理が適切に行われていないことが考えられます。この機会に、従業員の労働時間の管理体制を見直すことにより、将来同様の未払の残業代請求がなされることを防止することが重要です。

弁護士に残業代請求の対応を依頼するメリット

残業代請求に応じるべきかどうかアドバイスできる

残業代請求に対しては、支払いの必要性の有無や額を算定することが容易でないことがあります。弁護士に相談、依頼すれば、適切に残業時間や額を算定でき、算定結果に基づき適切なアドバイスを行うことが可能です。

労働審判や訴訟に発展した場合でも対応できる

請求額に対して反論があり、従業員との交渉がまとまらない場合、労働審判や訴訟で争うこととなります。この労働審判や訴訟への対応については必ずしも弁護士に委任する必要はありませんが、適切に対応するには専門的な知識や経験を要し、会社が単独で行うことは容易ではありません。特に労働審判については、迅速な対応が必要となるため、弁護士に依頼するメリットが大きくなります。

残業代以外の労務問題についても相談できる

弁護士にご依頼いただいた場合、当該残業代請求に関連する残業代以外の労務問題についても相談を受けて適切なアドバイスを行うことが可能です。

従業員から残業代を請求されたら、お早めに弁護士法人ALGまでご相談下さい。

残業代を請求された場合、労働法や実務に関する専門的な知識と経験を有する弁護士のアドバイスを受けることが有効な対応策となることはすでに述べた通りです。弁護士法人ALGには、豊富な専門的知識や経験を有する弁護士が多数所属しています。残業代請求への対応にお困りの場合は、まず、弊所にご相談ください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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