労務

裁量労働制導入における留意点

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

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労働基準法で定められている「裁量労働制」

裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行について労働者の裁量に委ねる必要があるため、時間配分の決定などに関して使用者が具体的指示を要しないとする労働時間制度です。

労働時間は、実際の労働時間にかかわらず、予め労使で定めた時間を労働したものとみなすことになります。

労働者の自由な働き方を実現する目的

労働基準法で法定労働時間や時間外労働を規制し、時間外労働に対する割増賃金の支払いを義務付けたのは、戦前の労働者が長時間労働や低賃金で就労させられており、日本国憲法の制定を受け労働者の健康や生活を保護するためです。

しかし、労働内容が多様化したことにより、労働時間の長短で評価することに適さない形態の業務が生じるようになったことから、そのよう業務に従事する労働者の業務の実態に対応するために、労働時間については、実際の労働時間によらず、労使協定又は労使委員会で定めた時間だけ就労したものとみなす制度を導入することとなりました。

裁量労働制とはどのような仕組みなのか?

裁量労働制の適用対象になる業務は、労働基準法、厚生労働省令や厚生労働大臣告示により指定されている業務に限られています。

その業務内容の類型から、専門業務型と企業業務型に分類されており、それぞれについて、労働基準法に定められた手続きを踏むことで、労使協定又は労使委員会で定めた時間を働いたとみなすことができるようになります。

フレックスタイム制やみなし労働とは何が違うのか?

労使協定又は労使委員会で定めた時間を働いたとみなす裁量労働制に対してフレックスタイム制や事業場外労働のみなし労働時間制が類似の制度として挙げられ、これらの制度で代替できるのではないかといわれることがあります。

しかし、その日の始業時間と終業時間を労働者が自由に決められる点でフレックスタイム制と裁量労働制は同じですが、何時間就労したとしても労使協定又は労使委員会で定められた時間働いたとみなされる裁量労働制に対して、フレックスタイム制は、実際に働いた時間に対応した給与分しか給与が発生しない点で裁量労働制と異なります。

また、就業規則か、労使協定又は労使委員会の決議かの違いはありますが、予め定められた労働時間を働いたものとみなす点で裁量労働制と事業場外のみなし労働時間制は同じですが、裁量労働制は事業場内で就労していても適用されるのに対して、事業場外みなし労働時間制は、文字通り事業場外での労働をしていることから実際の労働時間の把握が困難である場合に適用されるため、事業場内での労働をしている場合には適用されません。

なお、フレックスタイム制も事業場外みなし労働時間制も、裁量労働制と異なり業務の内容に限定がない点も裁量労働制と異なります。

裁量労働制導入における留意点とは

裁量労働時間制を導入するにあたっては、単に就業規則に裁量労働時間制を適用する旨を定めれば足りるというものではなく、以下に説明する法律上の条件を満たし、手続を経る必要があります。

裁量労働時間制の適用の対象とできる業務は限定的ですので、導入の対象としたい従業員の業務内容が裁量労働時間制の適用対象となるかを慎重に判断していただく必要があります。

業務遂行の方法・時間配分は労働者の裁量に委ねられる

裁量労働制の適用対象となった従業員については、業務の遂行方法や時間配分については労働者の裁量にゆだねられることになります。

しかし、だからといって会社が当該従業員の労働時間を把握する必要がないわけではなく、労働安全衛生法上の健康管理義務の一環として、実労働時間の把握・管理は必要となります。
また、みなし労働時間数が法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払いの対象となります。

さらに、裁量労働時間制の適用対象となった従業員だったとしても、会社が業務の遂行手段と時間配分の決定について当該従業員に対して具体的な指示をしていた場合には、裁量労働制の対象外とされ、実労働時間により賃金の算定をする必要が生じます。

裁量労働制の対象となる業務は限られる

既に述べた通り、裁量労働時間制の対象となる業務は労働基準法等により定められた業務に限られます。

【専門業務型】

  • 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  • 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
  • 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和 25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。) の制作のための取材若しくは編集の業務
  • 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  • 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  • 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
  • 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
  • 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
  • ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  • 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
  • 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
  • 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
  • 公認会計士の業務
  • 弁護士の業務
  • 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
  • 不動産鑑定士の業務
  • 弁理士の業務
  • 税理士の業務
  • 中小企業診断士の業務

【企業業務型】

  • 以下の4要件を全てみたす業務で、かつ労使委員会で定められたもの(労働基準法38条の4第1項第1号)
    ① 業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(例えば対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
    ② 企画、立案、調査及び分析の業務であること
    ③ 業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
    ④ 業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること

法律で定められた手続きを経る必要がある

裁量労働制を導入するのであれば、就業規則に定めるのみでは足りず、以下のとおり、専門業務型、企画業務型それぞれに定められた手続きを経ることが必要となっています。

【専門業務型】

  • ① 労使協定を過半数労働組合又は過半数代表者と締結する
  • ② 個別の労働契約や就業規則等を整備し、所管の労働基準監督署に協定届を届出る
  • ③ 当該従業員本人の同意を得る
  • ④ 制度を実施する

【企画業務型】

  • ① 「労使委員会」を設置する
  • ② 労使委員会で所定の事項を決議する
  • ③ 個別の労働契約や就業規則等の整備をし、所轄の労働基準監督署に議決届を届出る
  • ④ 当該従業員本人の同意を得る
  • ⑤ 制度を実施する

不同意者に対する不利益な取り扱いの禁止

労働者の同意については、令和6年4月1日から要求されるようになりましたが、同時に、同意をしなかった当該従業員に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないことが規定されています。

また、労使協定または労使委員会で同意の撤回の方法等を定めることが必要となります。

労働者の健康・福祉を確保する義務がある

裁量労働制は、労働時間が長時間になってしまう可能性があるため、既に述べた通り、労働時間の把握・管理をする必要があることに加え、当該従業員の健康・福祉の確保措置として、以下の1と2からそれぞれ1つずつ実施するのが望ましいとされています。

1 長時間労働の抑制や休日確保を図るための事業場の適用労働者全員を対象とする措置

  • ① 就業から始業までの一定時間以上の休息時間の確保(勤務間インターバル)
  • ② 深夜業(22時~5時)の回数を1か月で一定回数以内とする
  • ③ 労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除
  • ④ 連続した年次有給休暇の取得

2 勤務状況や健康状態の改善を図るためのここの適用労働者の状況に応じて講ずる措置

  • ① 医師による面接指導
  • ② 代償休日・特別な休暇付与
  • ③ 健康診断の実施
  • ④ 心とからだの相談窓口の設置
  • ⑤ 必要に応じた配置転換
  • ⑥ 産業医等による助言・指導や保健指導

苦情処理措置を定める必要がある

苦情処理措置については、

  • 苦情の申し出の窓口及び担当者
  • 取り扱う苦情の範囲
  • 処理の手順・方法

等その具体的内容を明らかにすることが望ましいとされています。
加えて、

  • この仕組みについては当該授業員が苦情を申し出やすい仕組みとすること
  • 取り扱う苦情の範囲について当該従業員に適用される評価制度及びこれらに付随する事項に関する苦情を含むこと

が望ましいとされています。

裁量労働制であっても割増賃金は発生する

既に述べた通り、裁量労働制は、時間外労働・休日労働等に関する規定の適用が除外されるわけではありません。
そのため、労使協定又は労使委員会で定めたみなし労働時間数が法定労働時間を超える場合には、36協定の締結や時間外労働・休日労働に対する割増賃金の支払いをする必要があります。

裁量労働制を適切に運用するためには

裁量労働制は、適切に運用することができれば当該従業員のワークライフバランスを整えることに役立つことになりますが、適切な運用がされなければ、当該従業員は長時間労働を強いられることになります。

会社としては、後のトラブルを避けるために、裁量労働制を導入した場合には、適切な運用を心掛ける必要があります。

労働時間を正確に把握・管理する

既に述べたとおり、裁量労働制により労働時間をみなされるとしても、実労働時間を把握しなくてもよいということにはなりません。
労働時間の把握にあたっては、当該従業員の自己申告によるものではなく、タイムカードや事業所への入退室記録等のように客観的な方法により把握するべきとされます。

そして、当該従業員の実際の勤務状況にm十づいて、会社側が当該従業員の健康を確保するための措置をする必要があります。

遅刻や早退の取り扱いについて

裁量労働時間制を採用した場合、業務遂行の方法や労働時間の配分に関しては当該従業員が決定することができることになります。

しかし、裁量労働時間制は、フレックスタイム制のように出退勤時間まで自由に決定することができることを認めているわけではないため、就業規則等に定めた始業時間と終業時間に基づき出退勤をする必要があります。

そのため、当該従業員が労働時間の配分に関して自分が決められるからといって、正当な理由なく遅刻や早退を繰り返せば、懲戒処分等の対象になり得ます。

ただし、賃金算定にあたっての労働時間は、労使協定や労使委員会で定められた労働時間を働いたとみなされることから、遅刻や早退のために所定労働時間通りに就労していないことを理由として賃金を控除することは許されません。

仮にそのような対応をした場合には、会社に「時間の配分を指定した」として裁量労働時間制の適用対象外と判断される可能性があります。

労働基準法に違反した場合の罰則

労働基準法上、裁量労働時間制の導入・運用の規定に違反したことに対する罰則の規定はありません。
ただし、既に述べたとおり、時間外労働・休日労働等に関する規定の適用は除外されていませんので、これらの規定に違反した場合には、罰則を受ける可能性があります。

裁量労働制の導入でお悩みの方は、弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けましょう。

裁量労働時間制の導入・適用にあたっては様々手続きが必要となる上、フレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制等と混同して、運用を誤る可能性があります。
また、従業員保護の観点から、導入に必要な手続きや運用の方法について改正が繰り返されています。

そのため、裁量労働時間制の導入を検討されている場合には、弁護士にご相談いただき、また、導入後の運用についても法改正に対応することができるように継続的に弁護士のご相談いただくことをお勧めいたします。

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監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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