監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
- 問題社員対応、解雇・雇止め
会社という組織においては、従業員による不祥事が発生することを完全に防ぐことは難しいものといえます。
そこで、ここでは、従業員の不祥事が発生してしまった場合に、会社としてどのような対応をしていくべきなのかについてご説明いたします。
目次
従業員の不祥事にはどのようなものがある?
従業員の不祥事については、様々なものがありますが、以下では、不祥事について、会社内での不祥事(対内的なもの)と、会社以外の第三者との関係での不祥事(対外的なもの)とに大きく分けて、それら具体例についていくつかご説明します。
会社内での不祥事の具体例
会社内での不祥事としては、会社の金銭等の使い込みや不正な経費請求等が挙げられます。
また、会社内での不祥事という意味では、従業員同士の喧嘩等のトラブル、さらにセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなども挙げることができますが、特にセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどの事例においては、被害者は会社ではなく、当該従業員ですので、その点では、対外的な不祥事であるともいえます。
そして、これらの不祥事の種類や内容によっては、対応を誤ると会社としての対外的な評価を大きく落としたり、民事的・刑事的責任を負うことも考えられます。
また、会社の金銭等の使い込みや経費の不正請求など、会社自身が被害者となる不祥事であったからといってきちんとした対応を怠ると、その後もそのような不祥事が横行することにつながるリスクもあります。
会社以外の第三者との関係での不祥事の具体例
対外的な不祥事については、例えば、従業員が取引先から依頼されていた業務を怠って取引先に損害を生じさせてしまったといったような、業務中の従業員の故意や過失で取引先に損害を与えてしまった場合、業務中に社用車で交通事故を起こした場合などのように、従業員が会社の業務中に(故意や)過失で第三者にけがをさせてしまった場合のように、従業員が業務を行っているときに生じるものが考えられます。
前者は、取引先に、後者は全くの第三者に損害を与えてしまっていますが、これらはいずれも会社の業務中に生じているものです。
しかし、このような会社の業務と関係しているものだけではなく、会社として対応が必要な不祥事には、これ以外にも、従業員の私生活のおける不祥事が含まれてくる場合があります。
これには例えば、従業員が、私生活上において、不同意わいせつや不同意性交などの性犯罪を犯した場合などが考えられます。
これらは、従業員の私生活上の犯罪ではありますが、会社として、そのような事態が発覚した以上、何らの対応もしないということは、会社にとってもリスクとなることが考えられます。
一方で、従業員の私生活上の不祥事についてすべて対応しなければならないのかというとそれも現実的ではなく、私生活上における非難されるべき行為が、直ちに全て不祥事としての対応が必要であるとは考え難いといえます。
ただし、広い意味での不祥事への対応は、時代と主に求められるものが変化していきますので、常に検討が必要です。
従業員の不祥事が発覚した場合の対応と流れ
先ほどもお話ししたように、対内的な不祥事であっても、対外的な不祥事であっても、きちんとした対応をしなければ会社としてリスクを負います。
そこで、以下では、不祥事が発覚した場合の対応についてご説明します。
①事実関係の調査
まず、最も重要なのが、事実関係を調査し、把握することです。
従業員の不祥事が生じた疑いがあっても、きちんとした事実関係の調査をしないままその後の対応をすれば、大きなリスクを負うこととなります。
このような調査の方法としては、関連する資料の精査や当事者・関係者からの聞き取り等の調査をすることが考えられますが、被害者とされる方やその他の関係者のプライバシー等に配慮するのはもちろんのこと、不祥事を起こしたとされる方へのプライバシー等への配慮も必要です。
さらに、不祥事を起こしたとされる方についても、きちんと本人の言い分を確認することが重要です。
もっとも、特に不祥事を起こしたとされている方のプライバシー等にどのようにはどの程度配慮すればよいのか、事実関係の調査はどこまで尽くせばよいのかは非常に難しい問題でもありますので、専門家に相談することが考えられます。
また、事実調査においては、民法上の使用者責任など、会社自身も責任を負う可能性があるのかについても確認する必要があります。
②関係者への対応や情報開示
次に、不祥事について、関係者に対し、必要な対応や情報開示を行うことが考えられます。
例えば、当該不祥事によって、取引先との取引を本来の約束通りに実行することが難しくなる場合には、当該取引先に速やかに連絡を入れることが考えられます。また、その他にも、不祥事の影響が及ぶ関係者(取引先や債権者、株主など)に必要な情報の共有をする必要が生じる場面はいくつも考えられます。
情報開示の方法も個別の連絡だけでなく、必要に応じて会社としての公式の文書やホームページへの記載当による公表も考えられます、
しかし、関係者に与える影響の大きさや不祥事との関連性の強さを考慮するだけでなく、当事者や被害者の名誉やプライバシーへの配慮や、事実確認がどの程度済んでいるのかによっても、共有してよい情報と共有してはいけない情報とを適切に判断する必要があります。
この点も難しい問題となりえますので、専門家に相談することが考えられます。
③被害者への対応
当該不祥事について、被害者の方がいる場合には、被害者の方に対しては、特に適切な対応を求められます。
会社として直接の責任や使用者責任を負う場合はもちろん、会社として社会的責任を負うべき場面でも、被害者の方への必要な説明、謝罪、(賠償責任がある場合には)損害賠償等の必要な対応を行う必要が生じ得ます。
そのため、会社としても、被害者の方の情報や被害の内容・金額、被害者として会社に何を求めているのかなどを把握する必要があります。
このような場合には、将来的な示談交渉も含め、弁護士に依頼して慎重に進めていくことが考えられます。
④従業員に対する処分
不祥事を起こした従業員については、必要な調査や当該従業員の言い分もきちんと聞いた上で、当該従業員に落ち度が認められる場合には、必要な処分をする必要があります。
そのような処分について以下でご説明します。
懲戒処分
会社にいて、従業員を懲戒処分するにあたっては、必要な事実調査や当該従業員の言い分もきちんと確認するなど適正な手続きを経たした上で、就業規則上の懲戒事由に該当するかを確認して行う必要があります。
そのため、不祥事が生じてから、適正な手続きを行うだけでなく、不祥事が生じる前から適切な懲戒処分ができる就業規則となっているかどうかを確認しておき、そうでないのであれば、きちんと就業規則を整えておく必要があります。
損害賠償請求
従業員の不祥事によって、会社が損害を被った場合、会社は、当該従業員に対し、被った損害について損害賠償を請求することが考えられます。
ただし、事案にもよりますが、使用者と従業員という立場に鑑みて、裁判においては、損害賠償請求の一部ないし全部が認められない場合もあります。
また、損害賠償をすること自体やその金額について、会社と従業員との間で示談が成立し、合意が成立したとしても、原則として、給与から天引きすることはできません。
給与からの天引きには従業員の合意が必要ですが、形式的に合意を取ればよいというものではなく、自由意志に基づく合意であったといえる必要があるため、慎重な対応が必要です。
被害届の提出や刑事告訴
従業員の不祥事の内容によっては、被害者として被害届の提出や刑事告訴を行うことが考えられます。
被害届と刑事告訴(告訴状の提出)のいずれを行うべきかについては、不祥事の内容や、捜査を開始することに対する警察側の対応内容等にもよりますので、警察や弁護士等と相談することが考えられます。
被害届や刑事告訴をすることは、そのような不祥事を許さないという会社としての姿勢を示し、検察官の判断等にもよりますが、加害者に公正な処罰を下してもらうことが期待できます。
しかし、加害者との示談を検討している場合には、被害届や告訴状の提出の有無や時期は、示談交渉に大きく影響を与えることが考えられますので、提出の有無や時期についてはきちんとした検討が必要です。
⑤再発防止策の策定
不祥事が起きた場合、優先すべきは、当該不祥事そのものに対する対応ですが、同じくらい重要なのが、今後同じような不祥事が起きないようにする、あるいは起きにくくするための再発防止策を検討・実施することです。
不祥事の内容や規模等によっても行うべき再発防止策は変わってきますが、まずは、そのような不祥事が生じた原因、特に会社としての管理体制、企業風土、慣習など、組織的な原因がなかったかの見極めが重要となります。
このような発生の原因については、 不祥事の内容や規模によりますが、弁護士等による第三者委員会を設置して調査してもらい、再発防止策を提言してもらうことも考えられます。
不祥事が起きてしまった原因に応じて、組織の在り方や就業規則等を見直していくことが重要です。
従業員が不祥事で逮捕された場合の対応
従業員が逮捕された場合も、きちんとした事実確認を行い、逮捕等を理由とする懲戒処分が許されるのかは慎重に判断する必要があります。
また、当該従業員が身柄拘束されることに伴う、業務の調整等も必要となります。
もっとも、従業員が逮捕された場合、会社になかなか必要な情報が入ってこない状況のままとなり、事実確認について、難しい状況におかれ、懲戒処分の適否についても、非常に難しい判断を迫られる場合がありますので、弁護士等の専門家に相談することが考えられます。
従業員の不祥事に適切に対応するための措置
これまでお話ししてきたもの以外にも、従業員の不祥事に適切に対応するための措置としては、役員・従業員への講習・研修や、内部通報窓口、第三者による監査制度の設置などが考えられます。
従業員の不祥事に関する裁判例
次に従業員の不祥事に関する裁判例(最高裁判所第3小法廷昭和45年7月28日判決)をご紹介します。
事件の概要
この事件は、当時、会社として、企業運営上、地域住民の信頼を保持や、職場規律の確保、従業員の作業意欲の高揚の緊急性や必要性があるとして、会社において、従業員に対し、会社規則の厳守や信賞必罰を強調していた時期に、その会社の従業員が、会社の組織や業務とは関係なく、夜遅い時間に、理由もなく他人の居宅に侵入し、住居侵入罪で処罰されたことについて、その会社における「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」との賞罰規定に該当するとして、当該従業員を懲戒解雇したものです。
裁判では、この懲戒解雇が有効であるといえるかどうかが問題となりました。
裁判所の判断
裁判所は、上記従業員の行為が、私生活の範囲内で行なわれたものであること、受けた刑罰が罰金低額であったこと、職務上の地位が指導的なものでなかったことなどを考慮すれば、上記行為が、会社の体面を著しく汚したとまでは評価できないとして上記懲戒解雇を無効としました。
ポイント・解説
まず、私生活の範囲内の行為であっても、会社の名誉を著しく失わせるような行為(上記裁判例では「会社の体面を著しく汚」すような行為)は、懲戒解雇事由となりえます。
しかし、裁判所は、私生活上の行為について懲戒解雇事由として、上記のように定めていたとしても、その解釈や運用は制限的かつ厳格になされなければならないと考えているようです。
そのため、特に私生活上の行為を理由に懲戒解雇をしようとするときは、十分な検討と慎重な判断が必要となります。
従業員の不祥事への対応は弁護士法人ALGにご相談下さい
従業員の不祥事が生じた場合、その内容と規模にもよりますが、限られた時間の中で、様々な対応や判断を迫られます。
しかし、そのような対応や判断が間違っていた場合、会社にとっても思わぬリスクにつながる可能性があります。
従業員の不祥事が起きた場合だけでなく、これから起きる不祥事を防止していくといったことについても、ぜひ弁護士法人ALGにご相談下さい。

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