降格処分を行ううえでの留意点

公開日:2020年9月7日
  • 問題社員対応、解雇・雇止め

降格処分は、懲戒処分として行われる場合と、人事権の行使により行われる場合がありますが、いずれも、権限や責任等が低下するだけでなく、減給を伴うなどの経済面への影響がある場合が通常です。そのため、処分を受ける労働者から強い反発を受け、トラブルに発展する場合が少なくありません。

このページでは、降格処分を行う場合の注意点について、詳しく解説していきます。

問題社員の降格処分について

降格処分には、対象となる労働者の職位や役職を下げるものと、職能資格制度上の資格や、職務・役割投球上の等級を低下させるものがありますが、これはその会社の制度によります。

成績不振や能力不足、会社に損害を与えたり、規律に従わなかったりする問題社員を降格したいというのは、会社の経営者の誰しもが持つ、共通の悩みではないでしょうか。

しかし、懲戒処分としての降格、人事権の行使としての降格のいずれであっても、労働者から処分の有効性を争われるリスクがある処分です。

では、降格処分を争われるリスクを避けるために、何をしておけば良いのでしょうか。以下で、詳細に見ていきましょう。

問題社員と降格処分の相当性

降格処分は、労働者に不利益を与える場合が多いため、降格処分を選んだことが社会一般から見て相当と言えることが必要になります。

人事権の行使としての降格処分の場合は、原則として会社が自由に行うことができます。この場合、相当性の判断は、緩やかに行われます。

しかし、懲戒権の行使としての降格処分の場合は、制裁的な意味合いを持つため、相当性の判断は厳格に行われます。

降格処分が有効とされる問題社員の例

会社が問題社員だと判断した場合であっても、それだけをもって降格処分が有効になるわけではないことが、ご理解いただけたでしょうか。

では、どのような場合に、降格処分が有効とされるのでしょうか。以下で、その具体例を見ていきましょう。

人事権行使の場合

人事権の行使としての降格処分とは、労働者に成績が振るわない、能力が不足しているなどの事情が見られる場合、会社側でポストを減らす場合に、労働契約によって会社がもともと持っている人事権に基づいて、当該労働者を降格させることを言います。会社が持っている権利に基づくものであるため、基本的には自由に認められます。

ただし、基本給の変更がある場合には、労働契約上の地位の変更になります。そのため、労働者の同意又は就業規則上の規定などの、契約上の合意に基づくものであることが必要だと考えられています。

懲戒処分の場合

懲戒処分としての降格処分とは、労働者が会社に損害を与えたり、業務命令に従わなかったりした場合に、懲戒として降格させることを言います。この場合は、制裁としての意味合いを持つため、就業規則上の懲戒事由に該当し、「客観的に合理的な理由がある」と認められる必要があります。

対象となる労働者が行った行為が悪質であればあるほど、逆に処分が軽ければ軽いほど、降格処分は有効となりやすくなります。

降格処分が無効となるケースとは?

問題社員の降格処分が無効となってしまうケースには以下のようなものがあります。

・人事権の行使としての降格の場合
能力不足を理由とする降格は、客観的な資料を集めるのが困難ということ、もう少し軽い処分を検討するべきということなどを理由に、無効と判断される傾向にあります。加えて、能力不足は、恣意的な処分の理由となりやすいこともあり、より無効と判断されやすいと考えられています。

・懲戒処分としての降格の場合
2段階の降格や、弁明の機会を与えないままの降格、客観的な資料を精査しないままでの降格、就業規則に記載がない理由に基づく降格など、必要な手続きを踏んでいなかったり、弁明の機会を与えなかったり、相当性を欠いたりする場合に、無効と判断されます。

降格処分の基準はどの程度明確にすべきか?

降格処分について、後の紛争を避けるためには、処分に関して明確な基準を定めておくべきです。では、その基準は、どの程度明確にすべきなのでしょうか。

・人事権の行使としての降格の場合
その性質上、幅をもって記載されることになります。その際、成果・業績評価、人事考課などが重要なポイントになります。たとえば「別に定める人事考課基準による直近●年間の査定結果が●ランク以下の者とする」などといった記載が望ましいでしょう。

・懲戒処分としての降格の場合
人事権の行使の場合と異なるので、人事評価の基準をそのまま、制裁である懲戒処分の基準とすることは困難です。そのため、他の懲戒処分(戒告、減給、出勤停止等)と同様の懲戒事由を定めたうえで、その非難の程度に応じて降格処分を行うかどうかを決定するのが、実務上は一般的と言えます。

問題社員を降格処分とする際の留意点

懲戒処分として降格処分とする場合には、労働者に対する制裁であることから、適正な手続きを経たか、弁明の機会を与えたかが、特に重要となってきます。では、具体的にどのようなことをしたら良いのでしょうか。

問題点を改善する機会を与える

会社からしてみれば間違いなく問題社員に該当する労働者であっても、労働者自身では自分の行動が問題だと自覚していない場合があります。このような観点から、問題となっている行動について労働者に気づきを促し、問題点を改善する機会を与えることが必要になります。

改善の機会を与えれば、問題行動を是正できる可能性があるので、改善する機会を与えることなく、その行為について降格処分をした場合には、降格をしなければならない合理的理由があると認められることは困難です。

就業規則に根拠規定を設けておく

懲戒処分としての降格が有効とされるには、会社に懲戒権が認められなければなりません。また、制裁としての処分を受けないようにしようという意識が働くためには、「何をしたら」「どういう制裁が下るのか」というのが、労働者に明確になっている必要があります。

そのため、就業規則に、会社に懲戒権があること、懲戒の理由となる事由、これに対して降格処分がなされることなどの規定を設けておくことが必要です。

降格処分を裏付ける証拠を集める

「客観的に合理的な理由がある」と認められるためには、客観的な証拠が必要になってきます。そのために、降格処分をする際には、常に証拠を集めておく必要があります。

問題社員は、問題行動を厭わないという性格から、後に降格処分の有効性を争ってくる可能性が高い相手方です。証拠を集めておくということは、処分の有効性を争われた場合に対応する武器を備えておくことにもなるのです。

問題社員の降格処分における減給の可否

次に、降格処分における減給の可否について見ていきましょう。これについて、法律上明確な規定はありません。労働基準法第91条の減給の限度額の基準は、減給処分の場合の基準であり、降格処分における減給の場合には適用されません。

ただし、降格処分における減給が、有効かどうかが問題になる場合は多く見られます。傾向としては、役職給の減額は比較的認められやすいといえます。

しかし、基本給の減額になると容易に認められません。基本給の減給が有効と認められるためには、①就業規則に基本給が減額される場合があることが規定されていること、②基本給減額の決定過程に合理性があり、従業員の言い分を聴くなどの公正な手続きが存在すること、③減額された従業員に対する人事評価の過程に不合理や不公正がないことという3つの要件が満たされることが必要です。

降格処分の際にトラブルとならないためには

これまで述べてきたように、降格処分には、トラブルがつきものです。トラブルを避けるためには、トラブルにならないための就業規則のチェックや、降格処分に至るまでの手続きの行い方など、様々な準備が必要です。何を準備して良いのか迷われた場合には、ぜひ、お気軽に専門家にご相談ください。

降格処分の有効性が問われた判例

最後に、実際に、降格処分の有効性が争われた判例を見ていきましょう。

事件の概要

【バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件】

原告は被告銀行に33年間勤務し、課長職を務めていました。

被告銀行は、営業成績が悪化していたことから、原告を含む管理職らに対して新経営方針を示し、理解・協力を求めました。そうしたところ、積極的に協力を申し出たのは一部の管理職で、原告を含む多くの管理職らの協力姿勢は積極的ではありませんでした。そこで、被告銀行は、新経営方針を徹底させるために機構改革を行い、新経営方針に積極的に協力する者を昇格させ、他方で、積極的でない、原告を含む多数の管理職を降格する人事を行いました。

このような被告銀行の人事について、原告は、降格、その後の諸々の処遇、総務課(受付)への配転が原告を退職へと追い込む意図をもってなされた不法行為であるとして、慰謝料の支払いを求めました。

裁判所の判断(事件番号:東京地裁平成7年12月4日判決・労働判例685号17頁)

本件訴えにつき裁判所は、被告が原告に対してした降格、その後の諸々の処遇、配転は、「いずれも就業規則に根拠を有する懲戒処分としてなされたものではなく、企業が一般的に有する人事権の行使としてなされたものである」としたうえで、「使用者が有する採用、配置、人事考課、異動、昇格、降格、解雇等の人事権の行使は、雇用契約にその根拠を有し、労働者を企業組織の中でどのように活用・統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄であり、人事権の行使は、これが社会通念上著しく妥当を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、違法とはならない」と判断しました。また、経営上の裁量判断を逸脱するものかどうかについて、「使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適正を有するかどうか、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点が考慮されるべきである」との規範を示しました。

以上を前提に、原告に対する降格処分は、被告の裁量権を逸脱したものではなく、権利の濫用と認めることはできないとしました。

他方で、総務課(受付)への配転処分については、総務課の受付は従前20代前半の女性の契約社員が担当していた業務であること、原告の旧知の外部者の来訪も少なくない職場であること、勤続33年に及び課長まで経験した原告にふさわしい職務であるとは到底いえず、原告が著しく名誉・自尊心を傷つけられたであろうことは推測に難くないことなどから、「原告の人格権(名誉)を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、被告に許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成する」と判断しました。

ポイント・解説

本件における降格処分は、長期の業績不振を解消するために立案された新経営方針の実施のために、積極的な協力姿勢を示す社員を昇格させ、そうではない管理職らを降格したものです。 人事権の行使としての降格について、雇用契約に根拠を有し、使用者の経営上の裁量判断に属することから、権利の濫用に当たらない限り、原則として自由に行使できることが認められた点に意義があります。

他方で、権利の濫用に当たるか否かの判断につき、処分の必要性、労働者の能力・適正が処分後の地位・職務にふさわしいか、労働者の受ける不利益の性質・程度など、具体的事案に即して詳細に検討しています。

したがって、人事権の行使として降格等の処分をするにあたっては、権利の濫用に当たらないよう、処分の必要性及び相当性の観点から、適切な処分であるかを慎重に考える必要があります。

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