労務

使用者の誠実交渉義務とは

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 使用者責任

労働者を雇って会社経営している場合には、団体交渉に直面するリスクが潜在的にあります。また、団体交渉を申し込まれれば、正当な理由なく拒むことができません。
では、どのように対応していけば良いのでしょうか。

目次

使用者の誠実交渉義務とは

団体交渉において、合意に向けて誠実に交渉する義務を、誠実交渉義務といいます。
誠実交渉義務が課せられていることから、使用者は、団体交渉において、団体交渉への出席拒否という形式的な拒否だけでなく、団体交渉の場での要求事項についての具体的な話合いを回避するという実質的な拒否も禁止されています。

労働組合との団体交渉

では、使用者側は、団体交渉で何を行えばよいのでしょうか。
組合の代表者と面会において、誠実に合意の形成に向けて協議し、使用者としての回答や主張も行い、必要に応じて使用者の回答や主張の根拠の説明や必要な資料を提示していくことになります。
状況によって、労働組合の同意を得て、WEBや電話、書面による方法を用いて交渉を行うこともありますが、原則として、労使が直接話し合う形式で行うことが求められていますので、労働組合がWEBや電話等の方法により交渉を行わないことを理由に交渉を拒否すると、不当労働行為となります。

使用者は労働組合に譲歩する義務まで有するのか?~誠実交渉義務の相対性について~

使用者の誠実交渉義務がどこまで求められるのかは、組合側の要求事項や対応によって相対的に変わります。
例えば、組合側の要求や対応が社会的相当性を欠くものであった場合まで対応しなければならないという義務はありません。
また、団体交渉が申し込まれた場合でも、使用者側が譲歩しなければならないという義務まではありません。

労働組合からの要求と会社側の対応方法資料提供の要請にはどの程度応じるべきか?

要求事項の検討に必要な資料等の提供であれば、可能な限り応じる必要がありますが、組合側から提供の要請を受けた資料をすべて提供しなければならないというわけではありません。
提供できない場合には、組合側に対して、当該資料を提供できない適切かつ具体的な理由を説明する等の誠実な対応をする必要があります。

誠実交渉義務の判断基準

様々な事情を総合的に考慮して、使用者が誠実に組合との合意の形成に向けた可能性を探ったといえるかにより判断されます。例えば、以下のような事情が考慮されます。

・使用者側の組合の合意を求める努力の有無・程度
・組合側の要求の具体性や追求の程度
・使用者側の回答又は反論の提示の有無・程度
・使用者側の回答又は反論の具体的根拠についての説明の有無・程度
・使用者側の必要な資料の提示の有無・程度等

団体交渉における誠実交渉義務違反~不当労働行為とみなされるケース~

注意が必要な対応は、以下のとおりです。

・合意する意思がないと初めから明確に宣言する等の交渉態度
・協議内容について決定権限のない方による空転させるだけの対応
・拒否や一般論のみで、協議内容について実質的に検討しないような交渉態度
・論拠もなく合理性を欠く回答に終始する対応
・要求事項に対する回答、説明、資料開示等、具体的な対応が不足する対応

誠実交渉義務に関する判例

事件の概要

本件は、組合との団体交渉において、会社が代表取締役を出席させず、資料を提示して説明しなかったことが不当労働行為であるとして争われた事案です。(東京地裁令和元年(行ウ)第444号・長澤運輸不当労働行為救済命令取消請求事件)

裁判所の判断

資料の提示については、資料の提出を行わず、その理由を世間水準である旨を抽象的に述べるのみであった会社の対応は、自己の主張の論拠を組合に具体的に説明し、見解の対立の解消に向けた努力をしていたものと評価することはできないとされました。

ポイントと解説

本件の会社は、形式的には団体交渉に応じていても、実質的な対応としては組合が交渉上の検討材料として求めた資料を開示せず、その説明をしているものの具体的な説明ではありませんでした。
このように、団体交渉に出席し、一応の回答をしていたとしても、客観的に見て、適切かつ具体的な説明や資料の提示をしていなければ、不当労働行為の責任を追及されることになりかねません。そのため、団体交渉においては、内容的にも誠実な対応をしていくことが不可欠です。

誠実交渉義務に関するQ&A

使用者は労働組合の要求に必ず応じる義務があるのでしょうか?

誠実交渉義務は、組合の要求に対して合意や譲歩を行うという義務ではありません。
譲歩ができない場合であっても、交渉事項に関する組合側の要求に対し、使用者の主張及びその論拠を示し、見解の対立の解消を目指す義務です。そのため、組合の要求に必ず応じる義務はありません。

団体交渉の申し入れがあったらまず何をすべきでしょうか?

まず、組合側が求める要求事項について、実質的な交渉権限を有している方の中から担当者を決定し、そのうえで組合側の担当者と連絡を取り合い、双方すり合わせのうえ団体交渉の日時・場所等について決定すべきです。

労働組合からの不当な要求にはどう対応すべきですか?

使用者が「不当な要求」と考えて拒否しても、裁判所等から不当労働行為と判断される可能性は否定できません。
そのため、まずは組合側の主張をしっかりと聞き理解し、使用者側としての具体的な意見を述べ、回答を行うなど、誠実な対応をすべきです。

労働組合からの団体交渉の申し入れを放置するとどうなりますか?

団体交渉の申入れの放置は、それ自体が誠実に対応していないと判断されかねず、不当労働行為として使用者が不利益を被る可能性があるため、避けるべきです。

団体交渉の際、文書や電話のみで対応することは不当労働行為にあたりますか?

労働組合が、文書や電話のみでの対応を認めている場合においては、不当労働行為には当たらないと考えられます。
しかし、対面を要求されているにもかかわらず文書や電話のみでの対応しかしないと拒否してしまえば、誠実に対応していないと判断されかねず、不当労働行為に当たると判断されます。

労働組合との交渉で、双方の主張が対立したまま交渉が打切りとなることは不当労働行為にあたりますか?

それだけで不当労働行為に当たるということはありませんが、誠実に対応しなかった末に、労働組合側の納得を得られず打ち切りとなった場合には、不当労働行為と判断される可能性があります。

労働組合から要求された資料は全て提示する必要があるのでしょうか?

要求事項の検討に必要な資料等の提供であれば、可能な限り応じる必要がありますが、組合側から提供の要請を受けた資料をすべて提供しなければならないというわけではありません。 ただし、提供できない場合には、組合側に対して、当該資料を提供できない適切かつ具体的な理由を説明する等の誠実な対応をする必要があります。

解雇した社員が加入している労働組合から団体交渉を求められた場合、応じる必要はありますか?

解雇が不当解雇と判断された場合には、解雇時に遡って労働者の地位が認められ、使用者が雇用する労働者に当たります。また、解雇した社員であっても、解雇そのものについて協議事項にする場合や、退職条件などを団体交渉の協議事項にする場合には、雇用する労働者と同様に扱われます。 そのため、応じる必要があります。

交渉担当者を弁護士にすることを認めなければ、団体交渉に応じないとすることは不当労働行為にあたりますか?

交渉の代理人として弁護士を介入させるのは一般的ですので、必ずしも不当労働行為に当たるとは限りませんが、協議事項について決定権限を持つ方を同席させることを求められて応じない場合という場合には、不当労働行為とされる場合があります。

組合側が暴力や脅迫行為に及んだ場合、団体交渉を打ち切ることはできますか?

組合側が暴力や脅迫行為に及んだ場合、団体交渉の態様が社会的な相当性を超えていると判断できますので、団体交渉を打ち切り、組合側が謝罪して今後暴力行為を行わないことを文書で誓約しない限り、団体交渉に応じないという対応も正当と判断される例もあります。

従業員が加盟している外部の労働組合から団体交渉を要求された場合、応じる必要はあるのでしょうか?

応じる必要があります。これは、外部の労働組合でも、労働組合である以上、団体交渉権がありますので、使用者側が正当な理由なしに団体交渉を拒否すると不当労働行為になるからです。

団体交渉において代表取締役が出席しないことは不当労働行為に該当しますか?

団体交渉において、代表取締役が出席しないことのみをもって不当労働行為に該当するというわけではありません。
ただし、代表取締役の代わりに、組合側が求める協議事項について実質的な交渉権限を有している方が出席する必要があります。

団体交渉に関する問題解決は、専門的知識・経験を有する弁護士にお任せください。

団体交渉において、誠実な対応をしていたかどうかは客観的に判断されます。ALGでは、数多くの団体交渉のご依頼を受けてきました。
そのため、過去の事例等も踏まえ、労働組合から団体交渉の申入れを受けたときの初動やその後の対応についてアドバイスを行うことができます。
また、団体交渉の場に出席し、使用者側の代理人として組合側との交渉を行うこともできます。お困りの際は、ぜひALGにお問い合わせください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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