監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
- 採用・内定
企業が、労働者の採用にあたり、内定を出した後に、内定者が妊娠をしていたことが判明したり、内定者が妊娠をしたりする場合があります。このような場合に、妊娠を理由に内定取り消しはできるのでしょうか。
目次
内定取消は法律上「解雇」と同じ扱い
判例は、内定を始期付解約権留保付労働契約と理解しているので、内定取消は、法律上解雇と同様に扱われます。
妊娠による内定取消は「男女雇用機会均等法」に反する
男女雇用機会均等法第9条4項は、妊娠中の女性労働者に対してなされた解雇は、無効とすると定めており、内定取消も解雇と同様に扱われることからすると、妊娠を理由とする内定取消は無効となると解されます。
採用面接の段階で妊娠の有無を質問して良いか?
男女雇用機会均等法第5条は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」と定めています。
この点に関し、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示第614号・最終改正平成27年厚生労働省告示458号)は、採用選考に際して、結婚の予定の有無や子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について女性に対してのみ質問することは、採用選考の方法や基準において、男女で異なる扱いをすることにあたり、男女雇用機会均等法第5条により禁止されるものであるとしています。
妊娠の有無を女性労働者に質問することも、上記と同様に、採用選考の方法や基準において、男女で異なる取り扱いをするものであると判断され、男女雇用機会均等法第5条により禁止されると解されます。
よって、採用面接の段階で、妊娠の有無を質問すべきではありません。
入社直後の妊娠でも産休・育休を与える必要はあるか?
産休(産前産後休業)は、全ての女性労働者に与える必要があります。
育休は、原則として、1歳未満の子を養育する全ての従業員(期間雇用者及び日々雇用者を除く)に与える必要があります。
そのため、入社直後に妊娠であっても、産休及び育休を与える必要があります。
入社1年未満の従業員の育児休業の適用除外について
育児休業については、労使協定を締結することで入社1年未満の従業員を、育児休業取得の対象から除外することができます。
産休・育休の取得を理由とする不利益取扱いも違法
産休や育休を取得したことを理由とする不利益取り扱いは、男女雇用機会均等法第9条に反し、違法となります。
また、厚労省の通達においては、妊娠・出産・育休等の事由を「契機として」不利益取り扱いが行われた場合は、原則として、妊娠等を「理由として」不利益取り扱いがなされたと解され、違法であるとされています。同通達においては、不利益取り扱いが、妊娠等の事由を「契機として」いるか否かは、妊娠等の事由と時間的に近接しているかで判断するとされていますが、厚労省Q&Aによれば、原則として、妊娠等の事由の終了から1年以内に不利益取り扱いがなされた場合は「契機として」いると判断するとされています。
そのため、妊娠・出産・育休等の事由が終了した後、1年以内に解雇などの不利益取り扱いをする場合には、例外的事情がなければ、法違反とされますので注意が必要です。
内定後の妊娠について企業が講じておくべき対策
これまでに解説したとおり、内定者が内定後に妊娠した場合であっても、妊娠を理由にとして内定取消をすることはできません。
企業としては、内定者に対し、妊娠を理由とするハラスメントを行わないよう対策をしておく必要があります。
企業に義務付けられるマタハラ防止措置とは?
企業は、マタハラ防止措置として、①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発、②相談窓口、対応体制等の整備、③マタハラに対する事後の迅速かつ適切な対応、④マタハラの原因や要因を解消するための措置を、義務付けられています。
従業員に対し、内定者に関しては、妊娠をしても内定取消ができないという情報を、周知し、マタハラが生じないように対策をすることが重要です。
男女雇用機会均等法違反に対する罰則
男女雇用機会均等法は、法違反に対する罰則は定められておらず、事業主が、厚生労働大臣に対し、報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合に20万円以下の過料という罰則が定められています。
内定取消に関する判例
内定取消に関する判例を、以下で紹介します。
事件の概要
大学卒業予定者が、企業の求人募集に応募し、採用内定の通知を受け、企業に対し、入社する等を記載した誓約書を提出した。その後、企業から、内定者にパンフレット等を送付したり、内定者から近況報告書を送付したりした。他方、企業において、内定通知のほかに、労働契約締結のための特段の意思表示をすることは予定していなかった。 企業は、内定者が卒業を控えた2月に、理由を示さず、内定取り消しの通知を行った。
内定者は、企業に対し、労働契約上の地位を有することの確認及び未払賃金の支払いを求め、訴えを提起した。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
①昭和54年7月20日最高裁判所判決(昭和52年(オ)第94号)は、判事の事実関係の下においては、企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込みであり、これに対する企業の内定通知は、上記内定申し込みに対する承諾であって、誓約書の提出とあいまって、内定者と企業との間に、始期付解約権留保付労働契約が成立したものと認めるのが相当であると判断しました。
②また、企業の留保解約権に基づく内定者の内定取り消し事由は、採用内定当時、知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られると判断しました。
③本件では、企業が、採用にあたり、当初からそのものがグルーミーな印象であるため従業員として不適格であると思いながら、これを打ち消す材料が出るかもしれないとして、採用を内定し、その後になって、その不適格性を打ち消す材料が出なかったとして、内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上是認することができないとして、内定取り消しは、無効であるとした。
ポイント・解説
本裁判例のポイントは、内定者の内定取り消し事由は、採用内定当時、知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られるという点です。
上記の判例の考え方からすると、採用内定取消が容易に認められないということが理解できると思われます。内定取消に関しては、解雇と同様に取り扱われるということを踏まえて、慎重な対応が求められることが、ご理解いただけると思います。
内定者への対応でお困りの際は、早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
内定により、労働契約が成立したと考える判例の立場と、世間一般の内定に関する理解には、かなりの隔たりがあると思われます。特に、企業側において、自由に内定取消が認められるという考えの方も少なくありません。しかし、上で述べたとおり、内定取消においても、解雇と同様な慎重な判断が要求されます。内定者への対応でお困りの際は、早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
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