
監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
- 団体交渉
この記事では「チェック・オフ」についてその内容、導入・廃止時の注意点について、裁判例の紹介も含めて説明します。
目次
チェック・オフとは?
「チェック・オフ」とは、会社が従業員(組合員)の給与から組合費を天引きして労働組合に代わりに支払う仕組みです。この記事では、導入や廃止時の注意点について説明します。
使用者が労働組合に与える「便宜供与」とは?
「便宜供与」とは、使用者が労働組合に対して便宜を図る行為を指し、「チェック・オフ」は、この「便宜供与」の一種です。
「チェック・オフ」とは、会社が従業員(組合員)の給与から組合費を天引きし、労働組合に代わりに払う仕組みです。組合員にとっては支払いの手間が省け、組合にとっても集金が楽になるため、広く利用されています。
チェック・オフの申し入れに会社は応じる義務があるか?
まず、前提として、会社は労働組合から「チェック・オフ」の申し入れをされた場合、法的に応じる義務はありません。
しかし、過去に組合と会社の間で協定を結んでいたり、特に書面がなくとも長年にわたって慣行として「チェック・オフ」を行っていたりする場合に使用者側の意向により一方的に「チェック・オフ」を廃止することは、不当労働行為として違法となります。
チェック・オフを導入する際の注意点
チェック・オフは、労働基準法で規定されている「賃金全額払の原則」に反します。そのため、適法に行うためには、労使協定が必要です。
①チェック・オフ協定(労使協定)が必要
会社は従業員に対して、原則として、給与を全額支払う義務を負います(賃金全額払の原則)(労働基準法第24条第1項本文)。
そのため、会社が個々の従業員の給与から組合費を天引きする(控除する)「チェック・オフ」を導入するためには、労働基準法第24条第1項ただし書により、「業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」が必要とされます。
少数労働組合の場合はどうなる?
労働組合の構成者が少数にとどまる場合、労働者の過半数で組織する労働組合にあたらず、また、その労働組合の構成員の代表者が労働者の過半数を代表する者にあたらない場合があります。
このような場合には、会社と少数労働組合が賃金控除の協定をおこなっても労働基準法第24条第1項ただし書の適用はないため、本文に規定された、賃金全額払の原則により、「チェック・オフ」を導入することができません。
②組合員の個別同意(委任)も必要
使用者が適法に「チェック・オフ」を行うためには、書面による労使協定が存在するのみでは不十分であり、組合員の個別同意(委任)も必要とされます。
会社側から一方的にチェック・オフを廃止できるか?
既に「チェック・オフ」が導入されている場合に、会社が一方的に「チェック・オフ」を廃止したり拒否したりすると、不当労働行為と見なされる可能性があります。
不当労働行為とは、会社が労働組合の活動を妨害したり、組合に不利な扱いをすることです。
不当労働行為(支配介入)に該当した場合のリスク
「チェック・オフ」の廃止又は拒否が不当労働行為にあたるとみなされた場合、労働委員会から会社に対し、救済命令が発せられる可能性があります。
チェック・オフの廃止が不当労働行為にあたるとみなされた判例
以下では、「チェック・オフ」の廃止が不当労働行為にあたると判断された裁判例を紹介します。
事件の概要
バス会社が組合員に対する組合費の天引き(「チェック・オフ」)を一方的に廃止したことの違法性が問われた事案です。
会社は労務事務の簡素化を理由に「チェック・オフ」を廃止しましたが、労働組合はこれを組合活動への妨害(不当労働行為)だと主張しました。
裁判所の判断
事件番号: 平成4年(行ウ)第2号
裁判年月日: 平成6年10月12日
裁判所: 岡山地方裁判所
裁判種類: 判決(不当労働行為救済命令取消請求事件)
ポイント・解説
裁判所は、会社がチェック・オフを一方的に廃止した行為について、不当労働行為にあたると判断しました。その根拠として、30年以上にわたって「チェック・オフ」が実施されてきた労使慣行が存在していたこと、そして廃止の理由が不合理であることを挙げました。
この行為が不当労働行為に当たる理由は、会社が労働組合の弱体化を目的として、労使慣行を一方的に破棄したと見なされたためです。
労働組合法第7条第3号の「支配介入」、すなわち「労働組合の運営に経理上の援助を与えること」が禁止される一方で、正当な理由なくチェック・オフを廃止することは、労働組合の運営を妨害する行為として違法と評価されました。
(なお、判決の基準時の時点において、会社はすでに「チェック・オフ」を再開しており、労働組合の要求が実現しているため、裁判で命令の取り消しを求める「法律上の利益」を欠くとして、この部分の訴えを却下しました。)
チェック・オフの導入や廃止でお困りなら、労働組合対応を得意とする弁護士にご相談下さい。
「チェック・オフ」については、労働基準法や労使協定についての理解が必要となります。また、労働組合への対応にも慎重さが求められる場合があります。
「チェック・オフ」の導入や廃止でお困りなら、労働組合対応を得意とする弁護士にご相談下さい。
-
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)