退職金の減額・没収・不支給

公開日:2020年10月7日
  • 退職金

労働者に退職金を支払うことは、使用者の義務ではありません。それでは、制度として退職金制度を導入する際に、使用者が自由に退職金の減額・没収・不支給ができると定めていた場合には、使用者が自由に、退職金の減額等ができるのでしょうか。

退職金は、賃金の後払い的な性格を有していると理解されているので、退職金の減額・没収・不支給の定めがあったとしても、直ちに減額等が有効となるのではなく、その減額等の定めが無効と解されて、減額等が認められない場合があります。

以下では、退職金の減額・不支給を行う場合で問題となる点について、解説を行います。

長年、労働者が会社に貢献してきたことに報いるという側面(これを功労報償的性格といいます。)も、有しています。

そのため、退職金の功労報償的性格を踏まえた退職金の支給基準の定めを設け、退職金の減額等をすることは可能です。だだし、この場合であっても、退職金が賃金の後払い的性格を有していることから、支給基準の有効性が争われて、退職金の減額等が認められない場合もあります。

問題社員の退職金を減額・不支給とすることは可能か?

問題社員が退職をした場合に、その社員の退職金を減額したり、不支給としたりすることができるのでしょうか。

まず、就業規則において、退職金の減額・不支給の条項が設けられていなければ、減額や・不支給を行うことはできません。

次に、就業規則において、退職金の減額・不支給の条項が設けられていたとしても、使用者の自由な裁量で退職金を減額・不支給とする条項は無効であり、単に問題社員であるという理由のみで退職金の減額・不支給を行うことはできないと考えます。なぜなら、退職金は賃金の後払い的性格を有していることから、使用者の自由な裁量で退職金の額を決することは、賃金の後払い的性格に照らして合理性がないと考えるからです。

一方で、退職金には、賃金の後払い的性格だけでなく、労働者が、使用者のために長年勤続して貢献したことに報いるという性格(功労報償的性格)もあります。したがって、退職金の支給基準おいて、「懲戒解雇」などの場合には減額・不支給とするなどの具体的な定めを設けることで、問題社員の退職金を減額・不支給とする余地はあります。

減額・不支給の対象となる問題社員とは

すでに、述べたとおり、退職金の功労報償的性格から、特定の事由を理由に退職金の減額・不支給を行うことは認められると解されます。

しかし、問題社員であるといった事由だけで退職金の減額・不支給を行える定めがある場合には、その減額等の定め自体が、退職金が賃金の後払い的性格に照らして合理性がなく、無効となると考えます。

一方、問題社員の行動が、懲戒解雇の対象となり、懲戒解雇に伴う扱いとして、退職金の減額や不支給を行うことは、そのような退職金規程等が存在すれば可能です。

問題社員を懲戒解雇とした場合、退職金はどうなるか?

問題社員を懲戒解雇した場合に、退職金規程等で懲戒解雇を、退職金の減額事由や不支給事由として定めていれば、退職金を減額または不支給とすることは可能です。

しかし、減額・不支給事由に懲戒解雇が定められていれば、その規定どおりの減額や不支給が直ちに有効とされるわけではありません。退職金が、賃金の後払い的性格と功労報償的性格を有していることから、減額が不支給規定を有効に適用できるのは、労働者の行為が、退職までの勤続の功をすべて失わせる(不支給の場合)か、減殺してしまう(減額の場合)程の著しく信義に反する行為があった場合に限られると解されるからです。

懲戒事由と減額・不支給の相当性

懲戒解雇となる懲戒事由にも様々な事由があります。たとえば、無断欠勤を繰り返した社員を懲戒解雇する場合もあれば、業務上横領を犯した社員を懲戒解雇する場合もあるでしょう。

先ほどみたとおり、退職金の減額・不支給が認められるとしても、その行為が退職までの勤続の功をすべて失わせるほどのものといえなければ、退職金の不支給は認められません。過去の裁判例からすると、無断欠勤を理由に懲戒解雇した場合に、懲戒解雇し、退職金を不支給としたとしても、不支給条項の適用は無効とされ、一定額の退職金の支払いが命ぜられることとなると思われます。また、裁判例では、業務上横領が行われた事案において、使用者が退職金を不支給としたことが争われたところ、勤続年数の長さ等その他の事情を考慮し、退職金の3割の支給を命じたものもありますので、退職金を不支給とする場合には、慎重な判断が求められます。

退職金の減額・不支給が有効と判断されるには

退職金の減額・不支給を有効と判断されるためには、就業規則(退職金規程)において、減額・不支給の条項を定めておく必要があります。

退職金に関しては、就業規則でその内容を定めることが必要ですが、就業規則に退職金の減額・不支給条項がないと、そもそも、減額・不支給を行うことができません。これは、労働契約法12条により、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効とする。この場合において、無効となった部分については、就業規則で定める基準による。」とされていることから、就業規則に減額・不支給規定なければ、労働者に不利益な退職金の減額・不支給ができないことになるからです。

事前に退職金の減額・不支給規程を設けておく

上記のとおり、退職金の減額・不支給を行うためには、事前に、就業規則(退職金規程)に、退職金の減額・不支給ができる条項を定めておく必要があります。

減額・不支給の根拠となる証拠を集める

また、退職金の減額・不支給を行った場合には、退職後の労働者が、減額・不支給について争い、退職金の全額支給を求めてくる可能性があります。そのため、退職金の減額・不支給を行う場合には、その根拠となる証拠を収集しておくことが重要です。

問題社員への退職金の減額・不支給に関する就業規則の定め方

退職金の支給要件として、懲戒解雇された場合または懲戒解雇事由がある場合には、退職金を減額または支給しないなどと定めて、問題社員への退職金の減額等に対応する方法があります。しかしながら、このような定めは、問題社員の行為に、懲戒解雇事由がある場合でなければ適用ができません。

怠業などの問題行動のある社員に対応するのであれば、退職金の減額ではなく、退職金の支給基準として、勤務成績を勘案して退職金額を定める、として、怠業をマイナス評価して退職金額を決定するという対応も考えられます。なお、このように勤務成績を勘案する場合には、勤務成績の評価が恣意的であってはならず、かつ、その評価と退職金の金額の計算方法が退職金制度全体をみて合理性があるといえる必要があるでしょう。

能力不足等で普通解雇とする場合の退職金

能力不足等で普通解雇とする場合の退職金を、減額や不支給とすることができる旨の定めを設けていても、退職金の賃金の後払い的性格に照らせば合理性がなく無効と判断され減額等は認められないと考えます。

裁判例では、懲戒解雇が認められる事案であっても、退職金は賃金の後払い性格を有しているので、退職金の減額等が認められるのは、その労働者の行為が、勤続の功を損なうよう場合にのみ、減額等が認められると考えています。このような裁判所の考え方からすれば、能力不足を原因とする普通解雇のような場合に退職金を減額・不支給とすることは困難であると考えます。

能力不足等の社員に対する退職金の支給については、算定された退職金支給額を減額するのではなく、能力不足による勤務成績の不良が退職金の計算方法に反映されるような合理的な基準を定めることにより対応すべきと思われます。

退職後に問題行為が発覚した場合

退職後に、退職金不支給の事由が発覚するという場合があります。

退職金が支払われる前に発覚した場合には、不支給条項を根拠に支払いを拒むことができます。退職後に、雇用関係はないので懲戒解雇を行うことはできませんので、不支給条項には、懲戒解雇事由が存在する場合も含めておくべきでしょう。

退職金が支払われた後に発覚した場合、退職金の没収・返還条項があれば、これを根拠として返還を求めることができます。また、没収・返還条項がない場合には、労働者が退職金不支給事由を使用者に秘匿して退職金を不当に取得したとして、不当利得返還請求権を行使し、退職金の返還を求めることも可能です。

競業避止義務違反による退職金の没収

退職後、労働者が、同業他社への転職した場合に、退職金を没収するという条項を設ける場合があります。裁判例では、「ある程度の期間」に同業他社へ転職した場合には、勤務中の功労に対する評価が退職手当に関し一般の自己都合退職の半分に減殺される趣旨であると解して、退職金を2分の1に減額する条項を有効としたものがありますが、全額没収条項の定めについて、「顕著な背信性のある同業他社への就職についてのみ適用される」として、適用を否定した裁判例もあります。

すくなくとも、競業避止義務違反による退職金の没収条項を定めるとしても、全額没収が有効と認められるのは、営業秘密を持ち出して転職するなどの重大な背信行為がある場合に限られると思われます。

退職金の減額・不支給をめぐる裁判例

以下では、退職金の不支給が問題となった裁判例を解説します。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判種類)

平成14年(ネ)6224号 東京高裁平成15年12月11日判決は、以下の通り判断しました。

①賃金の後払い的性格の強い退職金について、その全額を不支給とするには、当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。

②会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、業務上横領や背任等の犯罪行為に匹敵するような強度の背信性を有することが必要である。このような事情がないのに、退職金の全額を不支給とすることは、比例原則に反する。

③退職金が功労報償的性格を有するものであること、支給の可否については、会社の側に一定の合理的裁量の余地があることからすれば、職務外の非違行為が強度の背信性を有するまではいえない場合であっても常に退職金の全額を支給すべきであるとはいえず、個別的事情に照らし、一定割合を支給すべきものである。退職金不支給条項は、このような趣旨を定めたものと解すべきであり、その限度で合理性を持つ。

等と判断し、会社に退職金の3割を支給することを命じました。

ポイントと解説

上記の裁判例は、退職金を賃金の後払い的性格と功労報償的性格の二つの性格を有するものであると理解し、全額不支給が認められるには、当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要であると考えています。また、全額不支給を認めるほどの強度の背信性がない場合には、個別的事情に照らし、一定割合を支給すべきものとしています。

このような考え方は、従来の裁判例の考え方に沿ったものであるということができます。

上記の通り、懲戒解雇が認められた事案においても、退職金の全額不支給は認められず、一部支給が命じられています。また、減額の事由についても、労働者の永年の勤続の功を損なうものであるかという観点から検討を加えています。このような裁判例を踏まえれば、問題社員であるといった事情だけで、退職金を減額したり、不支給とすること認められることが困難であるといえるでしょう。

業務上横領、背任といった事案においては、退職金を不支給とし、その他の懲戒解雇相当事案については、減額にとどめるべきであると思われます。

問題社員の退職金でトラブルにならないよう、労働問題の専門家である弁護士がサポート致します。

退職金の減額や不支給をめぐっては、過去に労使間で紛争となり、裁判例において一定の考え方が示されているところです。したがって、これを無視した取り扱いを行うことは、無用な紛争を招き、かつ、使用者にとって不利な判断がなされる可能性が高くなります。

判例の考え方を踏まえ、当該事案においてどのように対応すべきかは、弁護士による訴訟を踏まえた助言なくしては困難です。専門家である弁護士がサポートしますので、お気軽にご相談ください。

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