
監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
- 労働審判
労働者と会社との間にトラブルが起きた場合の解決制度として、訴訟以外に労働審判というものがあります。
労働審判は、訴訟よりも時間や費用の負担が少なく、かつ実効的にトラブルを解決できる制度として創設されました。
特に時間面では、原則として3回以内の期日で審理されるため、迅速な解決が実現できる一方で、労働審判では第1回目の期日で裁判所の心証が決まるため、第1回目の期日でどれくらいの主張、立証ができたかが結論を分ける可能性があります。
以下では、労働審判の第1回目の期日の重要性を述べた上で、第1回目の期日に向けて、会社側がどのような方針、戦略をとることが考えられるかを検討します。
目次
労働審判の第1回目期日の重要性
労働審判は後述のとおり、原則として3回以内の期日で審理されるため、労働に関する当事者間のトラブルを迅速、かつ効果的に解決できるものです。
もっとも、第1回目の期日では、争点について主に労働審判官から当事者双方に対して事情聴取がなされますが、多くの場合は第1回目で事情聴取を終えて、第2回目は補充的な事情聴取がされるにとどまります。
また、双方の態度によっては、第1回目の期日で話し合いがまとまることもあり得るため、労働審判では第1回目の期日がとても重要になります。
労働審判は原則として3回以内の期日で審理される
労働審判制度は、訴訟よりも少ない負担で、かつ実効的にトラブルを解決できる制度として創設されました。
労働審判は、話し合いがまとまらない場合に、裁判官である労働裁判官と労働問題に精通している労働審判員が協議して審判という一定の判断を下すもので、当事者間のトラブルを、裁判所を通して解決するという点では、通常の裁判と共通しています。
もっとも、労働審判と通常の裁判とでは、回数制限の有無が異なります。具体的には、通常の裁判であれば、特に回数の制限はなく、原告と被告が互いに主張や立証をし尽くすまで審理が継続されます。
しかし、労働審判は、法律で、期日を開くのは原則として3回までと決められています。
労働審判委員会の心証形成は第1回目期日でほぼ決まる
第1回目の期日では、争点について、主に労働審判官から当事者双方に対して事情聴取がなされます。
労働審判においては、主張・立証は、やむを得ない事由がある場合を除き、第2回が終了するときまでに行うとされていますが、多くの場合は、第1回目の期日で事情聴取が終わり、第2回目以降の期日は、調停がメインで行われます。
そのため、ほとんどの場合、労働審判委員会の心証は第1回目の期日で形成されることから、第1回目の期日で全ての主張・立証を尽くすつもりで準備することが必要です。
労働審判の流れ
労働審判は、訴訟よりも迅速にトラブルを解決できることが大きなメリットです。
具体的には、第1回期日の指定→第1回期日後、数週間から1ヶ月程度後に第2回期日→第2回期日後、数週間から1ヶ月程度後に第3回期日→審判という流れで進みます。
そのため、労働審判であれば、ほとんどの場合、3ヶ月~4ヶ月程度で結論が出ます。
第1回目期日はいつ・どのように指定される?
労働審判手続きは、一方当事者から申立てがされることによって開始されます。
そのため、労働審判を申し立てたい人が、裁判所に対し、労働審判の申立書を提出する必要があります。
裁判所は、労働審判の申立書が提出されると、原則40日以内に第1回目の期日を指定し、両当事者を呼び出すことになります。
第1回目期日で行われることとは?
第1回期日では、両当事者の主張を整理して、争点を明らかにします。
その後、労働審判委員会が、それぞれが出した証拠を調べることになります。
もし、第1回目の期日で労働者側や会社側が譲歩する姿勢を見せるなどして、話がまとまりそうな場合は、調停によってトラブルの解決が図られます。
第1回目期日に向けてどのような方針・戦略を立てるべきか?
前述のとおり、労働審判では第1回目の期日はとても重要なものとなります。
第1回期日では、話し合いがまとまることもあるため、期日に臨むにあたっては、会社としての主張や解決策、方針をしっかり立てておく必要があります。
和解の可能性がある場合
労働者の主張に対して、会社側が譲歩できる範囲を検討しておくことが必要です。
たとえば、労働者が不当解雇であるとして、解雇が無効であることを主張していた場合に、労働者が本当は職場に復帰することではなく、金銭での解決を望んでいると考えられる場合には、その金額によっては和解の可能性もあり得ると思われます。
そのため、このような場合には、会社は金銭を支払うことが可能なのか、支払えるとしてどの程度までなら支払えるのかといったことを検討する必要があります。
労働者側と徹底的に争う場合
会社側が労働者側と徹底的に争う場合には、異議申し立てをして、訴訟に移行することを考えなければなりません。
もっとも、その場合であっても、何の準備もせずに第1回期日を迎えると、裁判官や労働審判員に会社側の主張がうまく伝わらない可能性があり、会社側に不利な心証を形成される可能性があります。
そのため、労働者と徹底的に争う場合であっても、労働者の主張に対してどのように反論するかを決めて臨む必要があります。
会社側が主張すべき反論とは?
労働審判で争点となっている労働問題によって、会社側が主張すべき反論は変わります。
たとえば、不当解雇が争点となっている場合には、会社側は、解雇に合理的な理由があり、かつ相当性があることを反論として主張することが考えられます。
それぞれの争点にあわせて、会社側に有利な反論を主張することが重要です。
出頭する関係者の人選も重要となる
労働審判では、当事者や出頭した関係者(証人等)からの事情聴取がされますが、この事情聴取で聞き取った事実関係等は、裁判官や労働審判員が心証形成に大きな影響を与えます。
そのため、労働審判を有利に進めるためには、事実関係をよく知っており、会社側に有利な証言をしてくれる関係者に参加してもらうことが重要です。
また、裁判官や労働審判員は、事情聴取のときの態度等も心証を形成するにあたって見ていますので、労働審判の場に参加すると不用意な発言をする可能性がある関係者を出席させることには一定のリスクがあります。
第1回目期日までの準備期間は非常に短い!
前述のとおり、第1回目の期日は、労働審判を申し立ててから40日以内に指定されますが、労働審判を申し立てられた会社は申立書が会社に届くことで労働審判が申し立てられたことを初めて知ります。
それから、第1回目の期日までの間に、主張、反論、解決策を固めておくだけでなく、会社側の主張を裏付ける証拠等の準備もしなければなりません。そのため、準備期間はとても短いことに注意が必要です。
提出期限までに答弁書を作成する
期日が決まると、裁判所から会社へ申立書等が郵送され、第1回期日の1週間前までに答弁書を提出するように期限が設定されます。
答弁書の提出期限をすぎてから提出したり、内容として不十分な答弁書を提出すると、裁判官や労働審判員が答弁書の内容を十分に検討する時間がとれなかったり、会社側の言い分がうまく伝わらない可能性があり、結果的に会社側が不利な立場となる可能性もあるため、提出期限を守ることが重要です。
主張を裏付ける証拠を集めておく
会社側は、当該労働審判で争点となっている労働問題に応じて有利な反論を主張するとともに、その主張を裏付ける証拠を収集し、提出する必要があります。
主張のみですと、労働者側から「そんな事実はない」等と事実関係を否定された場合に、裁判所は真偽が不明となり、会社側の主張が認められない可能性があります。
そのため、会社側は、上記のような場合に備えて、労働者とのやりとりをメモしておく等、記録として残るような運用をしておくことをおすすめいたします。
労働審判の準備期間は短いです。なるべく早い段階で弁護士にご相談下さい。
労働審判手続きは原則3回以内に終了しなければならないとされており、迅速な対応が求められます。
また、争点となっている労働問題によって、会社側に有利な主張は変わることに加え、答弁書の内容によっては、会社側に不利な心証を形成される可能性もあります。
労働審判を申し立てられ、お困りの方は、弁護士にご相談ください。
-
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)