監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
- 組合
会社は、労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、誠実に対応する義務を負っています。そのため、基本的には、団体交渉に応じる義務があります。一方、労働組合からの要求全てに応じなくてはならないかというと、そうではありません。労働組合からの要求の中には、およそ根拠のない不当なものもあるのが実情です。
ここでは、会社が労働組合から不当な要求をされたケースにおいて、とるべき対応について解説していきます。
目次
- 1 労働組合から不当な要求をされてしまったら
- 2 団体交渉の要求に応じるべきか否かの判断
- 3 団体交渉において不当な要求をされた場合の対応例
- 4 団体交渉の不当要求に関する判例
- 5 不当要求から会社を守るためには
- 6 よくある質問
- 6.1 労働組合からの全ての要求に対し、団体交渉に応じなければならないのでしょうか?
- 6.2 労働組合からタイムカードの提出を求められたのですが、拒否することは可能ですか?
- 6.3 未払賃金において法外な額を請求されました。これは不当な要求にあたりますか?
- 6.4 労働組合による暴言や暴力行為があった場合、団体交渉を打ち切りにすることは可能ですか?
- 6.5 一方的に日時を指定された団体交渉についても応じる必要はありますか?
- 6.6 すでに解雇した社員に対する解雇撤回の団体交渉に応じる義務はありますか?
- 6.7 労働組合による長時間にわたる団体交渉の強要は、不当な要求に該当しますか?
- 6.8 労働組合が会社に突然押し掛けてきた場合、団体交渉は拒否できますか?
- 6.9 会社の業績が良くないのに賞与の増額を要求されています。団体交渉に応じる必要はありますか?
- 6.10 労働組合から就業時間中に団体交渉を開催するよう要求されました。これは不当な要求に該当しますか?
- 7 会社に対して不当な要求がなされたら、団体交渉問題に強い弁護士にご相談ください。
労働組合から不当な要求をされてしまったら
まず、労働組合からの団体交渉申し入れには、原則として応じなければなりません。しかし、中には、不当な団体交渉の申し入れも存在します。このような場合には、会社としては拒否することも必要になってきます。
会社には不当要求に応じる義務がない
会社は、団体交渉の申し入れがあったのに対し正当な理由なく拒否すると、不当労働行為となってしまいます。そのため、基本的には、拒否できないと考えられます。もっとも、例外的に、労働組合からの要求が不当なものである場合には、会社は団体交渉を拒否できると考えられます。
団体交渉の要求に応じるべきか否かの判断
では、どんな要求であれば会社は拒否できるのでしょうか。
労働者からの団体交渉の要求に応じる義務があるか否かは、その内容が義務的団交事項にあたるか否かによります。以下では、義務的団交事項について、解説していきます。
義務的団交事項とは
義務的団交事項とは、労働者から団体交渉の申し入れがあった場合に、会社が断ることができない事項をいいます。そして、労働者の労働条件や待遇、労使関係に関連する事項の中で使用者が決定・変更可能な事項がこれにあたると考えられています。
団体交渉において不当な要求をされた場合の対応例
団体交渉における不当な要求については様々ありますが、以下のケースを見ていきましょう。
団体交渉義務の範囲外の要求があった場合
団体交渉に応じる義務がある事項、つまり、上記の義務的団交事項にあたらない団体交渉については、会社はこれに応じる義務はありません。もちろん、会社の判断により応じることも可能ですが、応じないからといって、不当労働行為にあたるわけではありません。
社長の出席を強要させられた場合
団体交渉の場に社長を出席させるように要求されることがあります。しかし、団体交渉の場に社長が出席する義務はありません。社長は、会社の中でいわば最終決定権者といえるので、団体交渉の場に出席すると、本来は持ち帰って慎重に検討すべき事項についても、その場で判断するよう求められることも考えられるため、会社としては避けるべきと言えます。
暴言・暴力・脅迫行為等があった場合
過去に、団体交渉の場において労働者から暴言・暴力・脅迫行為等があった場合で、今後も同じように暴言等がありそうな場合、会社は、団体交渉を拒否できると考えられます。もっとも、労働者から謝罪や今後は暴言等を控える旨の表明があった場合は、以降は応じる義務が出てくると考えられます。
要求額が法的根拠を欠く過大なものである場合
労働者から金銭の支払いを要求されている場合において、その要求金額が法的根拠を欠く過大なものであるケースがあります。この場合でも、会社には誠実交渉義務があるため、必要な資料等で説明する義務はあると考えられます。
もっとも、会社が資料等を示して説明したにもかかわらず、労働者が根拠ある反論等をすることなく団体交渉を要求する場合は、団体交渉を拒否することが許されると考えられます。
事前に知らされていない質問があった場合
団体交渉においては、労働組合から事前に協議事項・質問事項が示されることが多いです。しかし、事前に知らされていない質問がされることも、ないわけではありません。その場合、内容が義務的団交事項にあたるのであれば、回答拒否という対応はできません。
ただ、その場で回答ができないこともありますので、会社としては、その場で結論を出すのではなく、持ち帰って検討のうえ回答することをお勧めします。
団体交渉の不当要求に関する判例
労働組合が会社に対し団体交渉を申し入れ、会社と労働組合で、団体交渉の回数を重ねていても話し合いが平行線となったことから、会社が労働組合からの要求を拒否し交渉を打ち切った事案について、以下紹介します。
事件の概要
労働組合が会社に対し、団体交渉を申し入れました。この団体交渉の内容は、会社の再建と解雇の撤回についてでした。会社としては、交渉には誠実に対応し、約2か月の間で5回の団体交渉が行われました。しかし、会社としては、労働組合からの要求にはいずれも応じられないと考えており、労働組合との交渉は進まず、平行線状態となりました。
そして、会社は、もはやこれ以上交渉の余地はないと判断し、以降の労働組合からの団体交渉を拒否しました。これに対し、労働組合が、会社が団体交渉を拒否するのは不当労働行為にあたると主張しました。
裁判所の判断(事件番号 裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、以下のように判断しました。
裁判所は、本件における労働組合と会社との団体交渉の経過を検討し、救済命令が発令された時点においては、会社と労働組合の主張は対立しており、いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みはなく、団体交渉を継続する余地はなくなっていたというべきであるとして、会社が「団体交渉の継続を拒否していたことに正当な理由がないとすることはできない。」(事件番号:平成3年(行ツ)第160号事件裁判年月日:平成4年2月14日裁判所:最高裁第二小法廷)
と判断しました。
ポイントと解説
労働組合から義務的団交事項についての団体交渉申し入れがあった場合、会社は、誠実に対応する義務があります。しかし、団体交渉に対応する義務と、要求そのものを受け入れる義務は別問題です。
上記判例の内容からは、会社が誠実に対応をしたがこれ以上交渉が進む見込みがないような状況になった場合には、以降の交渉を拒否しても、不当労働行為にはあたらないケースもあるということが分かります。
不当要求から会社を守るためには
労働者からの不当要求から会社を守るためには、何が義務的団交事項であるのかを理解することが重要です。そして、労働者からの要求があった場合、会社として応じる義務がある内容なのか、拒否できる内容なのか適切に判断できるようにしましょう。
団体交渉問題について弁護士に依頼するメリット
団体交渉問題について弁護士に依頼すれば、労働者からの要求に関し会社が応じる必要があるのか否かについて、正確に判断することができます。また、弁護士が団体交渉の場に出席することも可能です。そのため、その場で不当な要求がされた場合にも、適切な対応をすることができます。
よくある質問
以下では、労働者からの要求に関し、よくある質問について回答していきます。
労働組合からの全ての要求に対し、団体交渉に応じなければならないのでしょうか?
全ての要求に応じなければならないわけではありません。義務的団交事項に該当しないものについては、応じる義務はありません。
労働組合からタイムカードの提出を求められたのですが、拒否することは可能ですか?
会社は、団体交渉において、誠実交渉義務を負っていると解されます。そのため、必要な資料を示すなどして、労働者と誠実に交渉をしなければなりません。もしタイムカードの提出を拒否するのであれば、その合理的理由を示すべきでしょう。
未払賃金において法外な額を請求されました。これは不当な要求にあたりますか?
未払賃金における法外な額の請求は、会社に支払い義務がない以上、不当な要求にあたると考えられます。もっとも、誠実交渉義務との関係で、会社は、必要な資料を提示するなどして、労働者に説明をする必要があります。
労働組合による暴言や暴力行為があった場合、団体交渉を打ち切りにすることは可能ですか?
上記のとおり、労働者による暴言や暴力行為があった場合にまで団体交渉に応じるべき義務があるわけではないので、打ち切りにしても不当労働行為にはあたらないと考えられます。
一方的に日時を指定された団体交渉についても応じる必要はありますか?
労働者から指定された日時に必ず応じなければならないわけではありません。もっとも、指定された日に実施しないともはや団体交渉の意味がなくなるような場合には、何らかの形で応じなければならないと考えられます。
すでに解雇した社員に対する解雇撤回の団体交渉に応じる義務はありますか?
社員の地位についての交渉ですので、原則は応じなければならないと考えられます。もっとも、解雇から長期間が経過しているような場合には、団体交渉の拒否は正当と認める裁判例もあります。
労働組合による長時間にわたる団体交渉の強要は、不当な要求に該当しますか?
あまりに長時間にわたる団体交渉の要求は、不当な要求にあたる可能性があります。もっとも、毎回2時間以内という制限を課した事例で、当該制限は合理性を有しないと判断したものもありますので、時間を理由に打ち切ることについては、慎重な判断が必要です。
労働組合が会社に突然押し掛けてきた場合、団体交渉は拒否できますか?
その場で応じなければ団体交渉自体意味がなくなるような特殊な場合でない限り、必ずしも応じなければならないわけではありません。もっとも、このような場合でも、日程調整を行うなどして、誠実に対応するべきであるとはいえます。
会社の業績が良くないのに賞与の増額を要求されています。団体交渉に応じる必要はありますか?
会社の業績が良くないのに賞与を増額させる義務はない以上、増額自体に応じる必要はありません。もっとも、誠実交渉義務との関係から、必要な資料を提示して説明するなどの内容はすべきと考えられます。
労働組合から就業時間中に団体交渉を開催するよう要求されました。これは不当な要求に該当しますか?
就業時間中は、職務専念義務を課している会社が多いため、そのような場合には、就業時間中の団体交渉開催要求は拒否できると考えられます。もっとも、従業時間外には応じる旨伝えるなど、適宜の対応はすべきところです。
会社に対して不当な要求がなされたら、団体交渉問題に強い弁護士にご相談ください。
労働者の要求の中で、何が不当要求に当たるのかの判断は容易ではありません。また、不当要求にあたるとしても、ただ拒否すれば良いのか、別途の対応をすべきなのかなどについては、悩ましい部分かと思います。労働者とのトラブルを防ぐためにも、早めに弁護士にご相談することをお勧めいたします。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
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