労務

近時の法改正制度解説 労働者派遣法

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 労働者派遣法
  • 法改正

安倍内閣が進めた働き方改革における「同一労働同一賃金」とは、同一企業・団体における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
上記の非正規雇用労働者には、有期労働者やパートタイム労働者だけでなく、派遣労働者も含まれます。そのため、「同一労働同一賃金」を達成するために、2018年に労働者派遣法の改正も行われました(2020年施行)。以下で、その内容を解説していきます。

労働者派遣法の近時の改正内容とは?

労働者派遣法は、近年、派遣労働者保護の観点から、規制強化の方向で、派遣期間が原則3年間と制限されたりするなどの改正が行われてきましたが、直近の最も重要な改正は、「同一労働同一賃金」を目的とする2018年改正(2020年4月施行)です。

「同一労働同一賃金」の推進を目的とした2018年の法改正(2020年4月施行)

2020年4月から施行された改正労働者派遣法は、派遣先の正規雇用労働者と派遣労働者の不合理な待遇差を解消することを目的に改正が行われました。以下でその内容を説明します。

2018年の改正内容と3つのポイント

派遣労働者の同一労働同一賃金を達成するために、2018年改正においては、① 待遇を決定する際の規定の整備、②派遣労働者に対する説明義務の強化、③裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備が行われました。以下で、そのポイントを説明します。

①待遇を決定する際の規定の整備

正規雇用労働者と派遣労働者の不合理な待遇差を解消するため、「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」のいずれかの方式により、派遣労働者の待遇を確保することが義務化されました。

派遣先から派遣元への情報提供義務について

待遇決定方式が、「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」のいずれの場合も、派遣先は、労働者派遣契約を締結するにあたり、あらかじめ、派遣元事業主に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金等の待遇に関する情報を提供しなければなりません。ただし、労使協定方式の場合には、比較対象労働者の選定は不要です。

派遣先が提供する「待遇に関する情報」とは?

派遣先が、派遣元に提供する必要がある「待遇に関する情報」とは以下のとおりです。
「派遣先均等・均衡方式」の場合は、以下の①から⑤を提供します。
①比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲並びに雇用形態
⓶比較対象労働者を選定した理由
③比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場合には、その旨も含む。)
④比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的
⑤比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項
「労使協定方式」の場合には、以下の①・②の情報を提供します。
①派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練(労働者派遣法第40条第2項の教育訓練)
⓶給食施設、休憩室、更衣室(労働者派遣法第40条第3項の福利厚生施設)

②派遣元から派遣労働者に対する説明義務の強化

派遣労働者が、不合理な待遇差を感じることの内容、雇入れ時、派遣時、派遣労働者から求めがあった場合の派遣労働者への待遇に関する説明義務が強化されました。

雇い入れや派遣する際の説明

雇入れ時
派遣元事業主は、派遣労働者の雇入れ時、あらかじめ、労働条件に関する次の事項を明示する必要があります。あわせて労働基準法第15条に基づく労働条件の明示も必要です。
①昇給の有無
⓶退職手当の有無
③賞与の有無
④労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
⑤派遣労働者から申し出を受けた苦情の処理に関する事項

また、雇入れ時に、あらかじめ、以下の不合理な待遇差を解消するための講ずる措置の説明をしなければなりません。
①派遣先均等・均衡方式によりどのような措置を講ずるか。
②労使協定方式によりどのような措置を講ずるか。
③職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金を決定するか。

派遣時
派遣元事業主は、派遣労働者の派遣時、あらかじめ、労働条件に関する次の事項を明示しなければなりません。あわせて、労働者派遣法第34条第1項に基づく就業条件の明示も必要です。
①賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く。)の決定等に関する事項
②休暇に関する事項
③昇給の有無
④退職手当の有無
⑤賞与の有無
⑥労使協定の対象となる派遣労働者であるか否か(対象である場合には、労使協定の有効期間の終期)
労使協定方式の場合は、上記の⑥のみを明示することが必要となります。

また、派遣時に、あらかじめ、不合理な待遇を解消するために講ずる措置に関し、以下の事項を説明しなければなりません。
①派遣先均等・均衡方式によりどのような措置を講ずるか。
②労使協定方式によりどのような措置を講ずるか(業務の遂行に必要な能力を付与するために実施する教育訓練(労働者派遣法第40条第2項の教育訓練)と休職施設、休憩室及び更衣室(労働者派遣法第40条第3項の福利厚生施設)に係る者に限る)
③職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案してどのように賃金を決定するか(協定対象派遣労働者は除く)

派遣社員から求められた際の説明

派遣元事業主は、労働者派遣法第26条第7項及び第10項並びに第40条第5項の規定により提供を受けた比較対象労働者の待遇等に関する情報に基づき、派遣労働者と比較対象労働者との間の待遇の相違の内容及び理由等について説明をしなければなりません。

【派遣先均等・均衡方式】
(待遇の相違の内容について)
①派遣労働者及び比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項の相違の有無
⓶「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容」又は「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の実施基準」

(待遇の相違の理由について)
派遣労働者及び比較対象労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものをに基づき、待遇の相違を説明しなければなりません。

【労使協定方式】
協定対象労働者の賃金が、次の内容に基づき決定されていることについて、説明しなければなりません。
①派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの
②労使協定に定めた公正な評価

協定対象派遣労働者の待遇(賃金、労働者派遣法第40条第2項の教育訓練及び同条第3項の福利厚生施設を除く)が派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がなく決定されていること等について、派遣先均等・均等方式の場合の説明の内容に準じて説明しなければなりません。

③裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

労働者派遣法の改正により、派遣労働者が救済を受けやすくするため、都道府県労働局長による紛争解決援助や調停といった裁判外紛争解決手続(行政ADR)が整備されました。
労働者派遣法により、派遣元事業主及び派遣先事業主は、派遣労働者から苦情の申し出を受けたとき等は、苦情の自主的解決を図るように努めなければならないとされています。
しかし、苦情の自主的解決を図っても解決が困難な場合があります。このような場合に、当事者から解決について援助を求められた場合には、都道府県労働局長が、当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができることとなりました。また、当事者が調停の申請をした場合には、都道府県労働局長が紛争の解決に必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に規定する紛争調整委員会において調停が行われることになります。

改正で追加された派遣先企業の義務項目とは?

派遣先企業は、すでに述べた①派遣元への比較対象労働者の待遇等に関する情報を提供すること以外にも、②派遣元の求めに応じて、派遣労働者に対しても、業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施する義務、③派遣先の福利厚生施設の利用機会の付与する義務、④派遣先の労働者に関する情報や派遣労働者の業務遂行情報等の情報を派遣元に提供をすることが義務とされました。

労働者派遣法改正の歴史

労働者派遣法は、法律が制定された1986年から2004年までは、規制緩和の方向で法改正が行われてきましたが、2008年のリーマン・ショックの影響で発生した「派遣切り」や「雇止め」が社会問題となり、2012年改正以降は、規制を強化する方向で法改正が行われるようになりました。今後の労働者派遣に関する法規制の方向性をイメージするためにも、法改正の内容を簡単に説明します。

2012年施行の改正内容

労働者派遣法は、1986年に施行され、当初は、派遣の対象は、13業務のみが対象業務として定められていました。規制緩和の流れを受け、1996年改正は、派遣の対象業務は、26業務まで拡大されました。1999年改正では、禁止された業務を明記する方式(ネガティブリスト方式)に変わり、禁止された業務を除いて原則として派遣を行うことが可能となりました。また、2004年改正においては、当初、派遣対象の業務であった26業務については、派遣期間が無制限となる改正も行われました。
ところ、2008年のリーマン・ショック後の「派遣切り」などが社会問題となり、派遣労働者の保護の必要性から規制を強化する改正が、2012年改正から行われるようになりました。
2012年改正の内容は、日雇い派遣の原則禁止、グループ内派遣規制、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止等でした。

2015年施行の改正内容

2015年の労働者派遣法の改正においては、派遣労働は臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方に基づき、正社員が行う業務を派遣社員が行うことを防止するとともに(常用代替の防止)、派遣労働者の雇用の安定とキャリアアップを図ることを目的とした改正が行われました。
その内容は、違法な派遣労働があった場合に、派遣先企業が派遣労働者に対して直接雇用の申し込みをしたとみなす制度(労働契約の申込みみなし制度)の導入、すべての労働者派遣事業を許可制としたこと、派遣期間を原則3年としたこと、派遣労働者の雇用安定措置(派遣終了後の派遣元による派遣先への直接雇用の依頼等)、派遣労働者のキャリア形成支援の義務化などです。

労働者派遣法の改正で求められる企業の対応

直近の労働者派遣法改正でいえば、2020年4月から施行された同一労働同一賃金に伴う改正に対応していくことが重要です。
派遣先事業主としては、改正法が要求する派遣元への情報提供を行うこと、派遣労働者への教育訓練、福利厚生施設の利用機会の付与を行う必要があることを注意すべきでしょう。
派遣元事業主に関しては、待遇決定方式について、約9割の事業主が労使協定方式を採用したという厚労省の調査結果が出ています。労使協定方式を採用するには、当然有効な労使協定の締結が必要となりますので、まずは、労使協定の締結手続きに瑕疵がないか十分注意を払うべきでしょう。

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労働者派遣法に限らず、労働関連法規は頻繁に改正が行われる方分野の一つです。法改正の対応でお悩みの場合には、労働法務に精通した弁護士にご相談ください。

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監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
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