監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
- 解雇・退職
近年、解雇した従業員から解雇の有効性を争われて、激しい紛争になったということを、耳にすることが多くなってきました。不当解雇となると、復職までの間の給与を支払わなければならず、会社としては大変な事態です。ここでは、解雇に関して、ご説明いたします。
目次
「不当解雇」と「正当解雇」の違い
解雇に合理的理由があり、かつ、解雇することが社会通念上相当である場合には、正当解雇となります。一方で、これらの事情がない場合、つまり、解雇に合理的理由がない場合、不当解雇になります。
このように、解雇に合理的理由があり、かつ、解雇が社会通念上相当な場合には正当解雇、このような事情を欠く場合には不当解雇となります。
不当解雇と判断されるケースとは?
上記のとおり、解雇に合理的な理由がない場合、解雇が相当ではない場合には不当解雇となります。そのため、たとえば、単なる好き嫌いだけで解雇したような場合には、合理的な理由がない解雇と判断される可能性が高いでしょう。また、特定の従業員を狙い撃ちするために整理解雇(いわゆるリストラ)を装った場合や、従業員本人に反省の機会を与えないまま解雇した場合には、解雇の相当性を欠くと判断され、不当解雇と判断される可能性が高いです。
法律上で制限されている解雇にはどのようなものがあるか
法律上、解雇が制限されている場合があります。これには、以下のようなものがあります。
① 国籍、信条又は社会的身分を理由とした解雇
② 業務上の負傷又は疾病にかかる療養のための休業期間中の解雇
③ 性別、婚姻・妊娠・出産を理由とする解雇
④ 産前産後休業、育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限等の申出等を理由とする解雇
⑤ 労基署をはじめとする監督機関に対し労働基準法違反を申告したことを理由とする解雇
⑥ 組合員であることを理由とする解雇
⑦ 公益通報をしたことを理由とする解雇
代表的なものを挙げましたが、上記を理由として解雇することは許されません。仮に上記を理由として解雇した場合には、不当解雇に当たります。
どのような場合に正当な解雇と判断されるのか?
解雇の正当性を判断する基準とは?
上記のとおり、正当解雇として認められるためには、客観的に合理的な理由が認められ、かつ社会通念上相当と認められることが必要となります。
しかし、一口に解雇といっても様々な状況があるため、その状況に応じて、合理的理由があるか否か、相当か否かが判断されます。以下において、整理解雇(いわゆるリストラ)と懲戒解雇に関して、ご説明します。
整理解雇(リストラ)は正当な解雇となるか?
解雇理由の一つに整理解雇と呼ばれるものがあります。「リストラ」という方がイメージしやすいかもしれませんが、会社の業績が悪いため人員整理をしなければならない場合や経営上の判断として事業場を閉鎖する場合などに行われる解雇です。整理解雇が正当か否かは、次の要素を基に判断されています。
①人件費や仕事量などからその会社で人員を削減する必要があるか
②解雇のほかに手段がないか(例えば、人件費以外を削減する、他の部署への人事異動をするなど、対象者の解雇を回避するための手段がないか)
③解雇の対象者を選定が恣意的ではなく合理性のある選定となっているか
④解雇に際しての十分な説明をするなど適正な手続きを取ったか
上記の観点から解雇の合理性、相当性を判断し、合理的かつ相当であると判断された場合、正当解雇となります。
制裁としての懲戒解雇の場合は?
解雇と言われて最初にイメージするのは、懲戒解雇ではないでしょうか。この懲戒解雇というのは、単に解雇するというものではなく、制裁として解雇するというものです。
ところで、会社の制裁としては、譴責・訓告、減給、出勤停止などがありますが、懲戒解雇は労働者としての地位を失わせるため、最も強力な制裁です。そのため、懲戒解雇は、普通解雇や整理解雇よりも厳しく判断される傾向にあります。
懲戒解雇が有効となるためには、まず、就業規則に懲戒解雇についての定めが必要となります。つまり、懲戒解雇をするためには、あらかじめ何が懲戒解雇の対象になるのかを明示しておかなければなりません。
また、形式的には、懲戒解雇の対象となる行為があったとしても、軽微な行為に対して懲戒解雇をするのはやりすぎです。そのため、懲戒解雇の対象となる行為があったというだけでなく、その行為の重大性、本人の反省の有無・程度、過去の懲戒歴の有無・内容、本人の弁明内容、解雇以外の手段の有無などを踏まえて、懲戒解雇が合理的であり、かつ、社会通念上相当であるということが必要です。
なお、懲戒解雇した後に、別の事情が分かったとしても、その事情を考慮して、懲戒解雇の合理性、相当性を判断することはできません。あくまでも懲戒解雇時点で示した事情を基にして、懲戒解雇の合理性、相当性が判断されます。
上記のとおり、懲戒解雇事由の定め、懲戒解雇事由に当たる事情があり、かつ懲戒解雇に合理性・相当性がある場合に、懲戒解雇が正当として許されます。
会社が不当解雇を行うとどうなるのか?
これまで見てきたように、解雇に客観的に合理的な理由がない、解雇が社会通念上相当でない場合には、不当解雇となります。このような場合、どうなってしまうのでしょうか。
不当解雇となる場合、解雇は無効と判断されます。この場合、会社と従業員との間の雇用契約が継続していると判断されますが、雇用契約が継続しているにも関わらず、会社の責任で従業員が働けなかったことになりますので、従業員が働けなかった期間に対応する賃金(いわゆる「バックペイ」と言われるものです。)の支払いをしなければなりません。また、解雇が無効と判断された後も、復職を認めない場合には、復職させなかった間の賃金も支払わなければなりません。
会社に対する罰則はあるか?
不当解雇と判断されてしまった場合、会社に対して罰則はあるのでしょうか。
後述のとおり、解雇に当たっては解雇予告・解雇予告手当の支払いが必要となりますが、これらの対応をしなかった場合や、解雇禁止期間中の解雇、労基署に対する労基法違反を申告したことを理由とした解雇の場合は、会社には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
このように、一定の場合には、罰則も規定されていますので、十分注意が必要です。
損害賠償を請求される可能性について
不当解雇を理由にバックペイ以外の損害賠償を請求される可能性はあるのでしょうか。
会社が不当解雇を行った場合、バックペイなどの支払いはもちろんですが、それを超えて精神的に苦痛や悲しみなど精神的損害を与えたとして、慰謝料の支払いが命じられる可能性があります。
バックペイのほかに賠償義務も生じる可能性があるので、不当解雇にならないように、十分な注意が必要です。
解雇が正当であると認められるためには
解雇が正当であると認められるために、会社側ではどのような対策をすべきでしょうか。
まず、解雇事由を就業規則に定めておき、従業員にこのような場合には解雇されるという事由を明確にしておく必要があります。
また、上記事由に該当する理由のもと、適正な手続きを経て解雇する必要があります。
解雇事由を就業規則に定める必要性
労働基準法上、就業規則に解雇事由を記載することが義務付けられています。そのため、就業規則には明確に解雇事由を定めておきましょう。
普通解雇の場合、就業規則に定めがない理由でも解雇できますが、労働契約上、当然の義務違反以外の理由では解雇ができなくなります。また、就業規則に定めがないと、従業員への説明も難しくなるでしょうから、この意味でも就業規則に明確に解雇事由を定めておくべきです。
解雇予告・解雇予告手当などの適正な手続きを行う
解雇に当たっては、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。具体的には、解雇する場合、対象者に対して30日前までに解雇予告をするか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う必要があります。これらを行わずに解雇した場合、直ちに解雇が無効になるというわけではありませんが、上記のとおり、解雇予告・解雇予告手当の不払いに対しては、刑事罰の可能性もありますので、いずれかの対応を必ず行いましょう。
そのほかの適正手続きとしては、従業員側に対して改善の機会を与えたり、弁明の機会を付与することが重要です。
解雇の正当性について争われた裁判例
事件の概要
業務過誤、事務遅滞を長年継続して引き起こしてきた職員に対し、必要な指導を再三に渡り行ったにも関わらず改善されなかったとして、対象者の能力不足を理由に解雇した事例です。
裁判所の判断(東京高等裁判所平成27年4月16日判決 平成26年(ネ)2976号)
長年にわたり、会社として必要な指導や配置転換、部署異動、業務内容の変更を行い、対象者の雇用継続のための努力を続けていたこと、対象者の従業員としての資質・能力を欠く状況について、改善の見込みが極めて低いこと、対象者のサポートのために上司や同僚が対応にあたることとなり、会社の業務に相当の支障をきたしていたことを理由に、対象者の能力不足を理由とする解雇を認めました。
ポイントと解説
この事例は、長期にわたって指導、指導が実らなければ部署移動、それでもだめなら業務内容の変更と、事業所として出来得る限りの努力をし、それでも改善が見込めなかったという、会社側の相当程度の努力が認められたものと考えられます。
また、会社の業務への影響も大きいものだったため、客観的に見ても引き続き対象者を雇用することは困難な状況も考慮されたものと考えられます。
このように、能力不足による解雇の場合には、改善の見込みがあるか否かが重要な要素となり、継続的な指導が欠かせません。その上で、本件においては、解雇を回避するために、手段を尽くしたということも加味されて解雇が有効と判断されました
解雇の正当性で判断に迷ったら、企業法務の専門家である弁護士に相談してみましょう。
現在、従業員側の権利を守ろうという意識は高まってきています。このような中で、社長とそりが合わない、会社と方針が合わないなどという理由での一方的な解雇は、従業員側から訴えられ、金銭的にも時間的にも大きな損失が出るという事態になりかねません。
会社として、解雇に踏み切らなければならない状況もあるでしょう。解雇についてお困りのことがあったときや、将来起こるかもしれない紛争に備えておきたい場合は、まずは弁護士にご相談ください。就業規則の定め方から実際の解雇手続きに至るまで、あらゆる面でお手伝いができると思います。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
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