労務

新型コロナウイルスに感染やその疑い、または濃厚接触者がでたことを社内へ公表する際の留意点

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 新型コロナ

社内で、新型コロナウイルスに感染した方が出た場合や濃厚接触者が出た場合には、会社は、様々な対応をする必要が生じます。社内において、感染者や濃厚接触者を公表することに何らかの問題は生ずるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染者や濃厚接触者がでたことを社内公表することに問題はないか?

社内で、新型コロナウイルス感染者や濃厚接触者が出た場合、他の社員への感染を防止するために社内において対応を取る必要があります。そのために、社内で感染者等が出たという情報を社内公表する必要性が生じます。
一方で、感染者や濃厚接触者にとっては、感染者であることや濃厚接触者であることは、他人に公表されたくない事実であるとも考えられます。

従業員の感染について社内で情報共有する目的

従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、社内において、濃厚接触者が存在する可能性が高く、濃厚接触者を特定して、PCR検査を受けてもらうことや、自宅待機を命じて、更なる感染を防ぐなどの対策を取る必要があります。
このような対策をとるにあたり、濃厚接触者を特定するには、社内において、感染者の情報を共有せざるを得ません。もっとも、情報共有の必要があれば、直ちに社内全体に公表してよいとはならないので、以下で、社内公表における問題点を検討します。

新型コロナウイルス感染に関する情報は個人情報にあたるのか?

新型コロナウイルス感染に関する情報を社内で公表するにあたっては、その情報が個人情報にあたるかを検討する必要があります。個人情報の取得や利用については、法律上の規制が存在するためです。
個人情報故語法では、「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより、特定の個人を識別できるものと個人識別符号が含まれるもの(個人情報保護法2条参照)されています。
「従業員Aが新型コロナウイルスに感染した」という情報は、Aを特定できる情報ですので個人情報にあたります。一方「社内で新型コロナウイルスの感染者が発生した」という情報は、その情報のみでは、特定の個人を識別することはできません。ただし、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものも、「個人情報」にあたるため、極小規模の会社などでは、「社内で新型コロナウイルスの感染者が発生した」という情報だけで、個人が識別できる場合もあるので注意が必要です。例えば、数名の会社で、社員が「Bさんのみが欠勤している」という情報を知っている状態であれば、「社内で新型コロナウイルスの感染者が発生した」という情報と照合すると、「Bさんが新型コロナウイルスの感染した」という個人識別可能な情報となり、「個人情報」に該当します。
そして、新型コロナウイルスに感染したという情報は、個人情報のうちでも取り扱いに配慮が必要とされる、「要配慮個人情報」(法第2条3項)に該当します。

社内公表をする際、従業員本人の同意を得る必要はあるか?

個人情報保護法では、原則として、「個人情報」に該当する場合には、本人の同意を得ずに利用目的の範囲を超えて、個人情報を取り扱うことはできません。しかし、例外として「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」または、「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当する場合には、本人の同意なく目的外利用をすることが認められています。
社内において、感染者や濃厚接触者が出たことについて社内公表することにつき、2次感染防止や事業活動継続のために必要がある場合には、上記の例外の事由に該当すると考えられますので、本人の同意なく、社内公表することが認められると考えられます。

公表する情報の範囲はどの程度まで認められるのか?

もっとも、2次感染防止や事業活動継続のために必要がある場合に、社内公表が認められるとしても、新型コロナウイルスに感染したという情報が、要配慮個人情報であることに鑑みれば、氏名に関しては、社内全体に対して、公表すべきではないでしょう。
社内全体に対して、公表するのは、氏名以外の情報にとどめ、氏名を開示するのは、濃厚接触者に該当しうる者や、感染防止のために社内対応を行う担当者などに限定すべきでしょう。

新型コロナ感染が疑われる段階で公表することは問題ないか?

疑いといった段階において、社内全体に情報を公開することは、本人の同意がなければ差し控えるべきでしょう。もっとも、当該人物と濃厚接触した可能性がある者に対しては、本人の同意がなくとも、2次感染防止等の必要性から、感染疑いがある者の情報を開示することも許されると考えます。

新型コロナウイルス感染やその疑い、または濃厚接触者がでたことを社内へ公表する際の留意点

まず、不必要に氏名を開示しないようにすべきです。社内全体に対しては、公表を行うにしても、氏名以外の情報にとどめるべきであると考えます。
そして、2次感染を防止する観点から、濃厚接触者に該当しうる者に限定して、感染者等の氏名を開示する場合においても、氏名の開示を受けた者から、感染者等の情報が漏れないように厳重な情報管理を行う必要があります。

個人情報の取扱いやプライバシーに十分配慮する

新型コロナウイルスに感染したという情報は、個人情報の中でも、特に取り扱いに配慮が必要な「要配慮個人情報」であり、その情報が公になった場合には、本人のプライバシーが大きく侵害されることになります。
そのため、2次感染防止などの必要性から、本人の同意なく情報を利用できる場合であっても、氏名の開示が必要かどうか、氏名の開示をする対象者はいずれの者が適切かといった点を判断するにあたり、プライバシーの保護について、十分配慮することが必要です。

公表に関して就業規則に定めておく

新型コロナウイルスに関する情報の社内公表に関して、就業規則に定めを置いておくことも有用であると考えます。どのような情報を、どのような範囲の者に開示するかといった点について、事前に検討して就業規則に明記することで、いざというときに、対応方法に悩まずに公表などを行いうると考えられるからです。

不当な差別・コロナハラスメントを防止するための対策を講じる

社内で新型コロナウイルス感染者が発生した場合、当該労働者に対する不当な差別やコロナハラスメントが生じないように対策を講じることも必要です。
例えば、感染者に対し、感染予防対策が不十分であることを問題視して、不当な発言を行うなどの行為が生ずることが考えられます。そのため、感染者の感染状況に関する情報などは、特に厳重に管理すべきであると考えます。

取引先などの社外へ公表する際に気を付けるべきこととは?

取引先などの社外であっても、2次感染防止や事業活動の継続のため、また、公衆衛生の向上のために必要がある場合には、本人の同意なく、情報を利用することができます。
もっとも、社内公表時と同様に、プライバシー保護の観点から、氏名の開示は、その必要があるかについて十分に検討したうえで開示を行うべきでしょう。

個人情報保護法違反やプライバシー権を侵害した場合の罰則

個人情報保護法には、個人情報保護委員会の命令に違反した場合(法83条)、個人情報データベース等を不正な利益を図る目的で提供した場合(法84条)等には罰則の定めがありますが、個人情報保護法違反のみで、直ちに罰則の対象となるわけではありません。したがって、仮に、新型コロナウイルスに関する社内公表が、個人情報保護法違反となった場合であっても、これにより罰則を科せられることはありません。
また、プライバシー権の侵害は、名誉棄損罪に該当する可能性もありますが、新型コロナウイルスに関する情報の公開については、公共の利害に関する事実であり、公開に関し、公益を図る目的も認められると考えられますので、確実な資料や根拠に照らして、情報を公開した場合には、名誉棄損罪に問われる可能性はないでしょう。

社内公表等に関しても、弁護士が法的な観点からアドバイスいたします

新型コロナウイルスに関して、企業は様々な対応が必要となっています。感染者等に関する社内公表といった対応についても、個人情報保護法等を踏まえた対応方針の検討が必要です。このような対応に関しても、弁護士が、法的な観点からアドバイスをさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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