労働審判

1 はじめに

労働事件を解決しようとした場合、我が国では訴訟、少額訴訟、行政による各種あっせん手続というものが用意されています。これに加えて、平成18年、労働事件についての紛争解決手続として、新たに労働審判が導入されました。

労働審判が導入された背景には、賃金不払いや解雇といった労働者個々人と企業との間の労働関係において生じる紛争が増加する一方で、労働関係事件については労働者の生活基盤に直接に影響を及ぼし、特に迅速な紛争解決が望まれ、訴訟手続に限らずに労働関係事件の適正・迅速な処理をする要請が大きかったという事情がありました。

ここでは、労働審判について記載していきます。

2 手続の概要

労働審判は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下、「個別労働関係民事紛争」といいます。)を対象にした紛争解決手続で、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的としています(労働審判法1条参照)。

労働審判では、労働審判官(裁判官)1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名で構成された労働審判委員会が事件を審理することになります(労働審判法7条)。

労働審判では、特別の事由がある場合を除き、労働審判手続の申立てがされた日から40日以内の日に労働審判手続の第1回の期日が指定されます(労働審判規則13条)。そして、労働審判では、原則として3回以内の期日で審理し、調停(話し合い)による解決が試みられます(労働審判法15条参照)。調停による解決ができない場合には、労働審判委員会が労働審判を行い、紛争の解決を図ります(労働審判法20条参照)。労働審判委員会が労働審判を行い、当事者から異議の申立てがなされなかった場合には、その労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有します(労働審判法21条参照)。他方で、当事者から異議の申立てがなされた場合には、その労働審判は効力を失い、当該労働審判手続の申立て時点で、地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(労働審判法22条参照)。

3 留意点

労働審判は、個別労働関係民事紛争について、原則として3回以内の期日で審理し、紛争に対する何らかの解決指針が示されます。この点について、3回以内の期日で審理されることからすれば、初回の期日までに主張・立証する準備が整わなかったものについては、次回以降の期日に主張・立証すれば問題ないと思われるかもしれません。しかし、このように時間に余裕があると考えて対応することは、裁判所における労働審判の運用を踏まえれば、非常にリスクが大きいものになります。言い換えると、労働審判においては、初回の期日(労働審判手続の申立てがされた日から40日以内)が勝負と言っても過言ではありません。これは、現在の労働審判の運用状況が関わっています。

労働審判では初回の期日に審尋(当事者から事情を聴く手続)が行われ、当事者の話を聴いた上で、同期日以降に調停による解決が試みられ、多くの事件が第2回期日までには調停が成立しています。すなわち、現在の労働審判の運用では、第1回の期日には、労働審判委員会が争点整理と必要な証拠調べを実施し、評議をして心証を固め、当事者に調停案を示して調停を試み、第2回・第3回の期日には調停案を提示して積極的に調停を試み、調停が成立しなければ、労働審判に至るという流れになっています。このような労働審判の運用からすれば、初回の期日には事件の内容に関する審理はほぼ終わっており、通常の民事訴訟のように次回期日があるとは思わないほうが良いでしょう。第2回期日以降になって、新たに主張・立証したとしても、労働審判委員会では既に心証形成がなされているのであり、固まってしまった心証を覆すことは困難となるでしょう。

この点、申立人のほうは、当然、入念な準備をした上で労働審判の申立てをしているはずですから、準備不足で主張・立証が漏れるということはないでしょう。他方で、会社側は、裁判所から通知が届いてから、労働審判を申立てられたことを知るわけですから、準備する時間が足りないことが容易に想像できます。しかし、労働審判では初回の期日に心証が形成されてしまうわけですから、泣き言ばかり言っていられません。初回の期日までに申立書に記載された事実の認否を明らかにし、必要かつ十分な主張・立証を尽くした答弁書を提出する必要があります。そのためには、会社側で、申立書に記載された事実及び証拠について精査しなければなりません。その上で、会社側の主張を法律文書にして、提出して良い証拠か否か検討しなければならないでしょう。また、初回期日には審尋があるため、当日いきなり審判官や審判員から質問されて、答えられないということがないように準備しておく必要もあります。

このように、労働審判では、準備するために与えられた時間が限られているにもかかわらず、初回期日までに準備しなければならないことが多くあります。時間がない状況で、これらの手間がかかる作業を行うことは、専門的な法律知識が要求されることも考えると、会社側にとって非常に大きな負担となるでしょう。そのため、労働審判手続の申立書が届いたら、すぐに法律の専門家である弁護士に相談したほうが良いでしょう。この点、当事務所は、労働審判の経験が豊富にありますので、是非ご相談ください。

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※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

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