労務

近時の法改正制度解説 障害者雇用促法

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 障害者雇用

障害者雇用促進法は、障害者の職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もって障害者の職業の安定を図ることを目的とした法律です。
平成30年には、国・地方公共団体による障害者雇用水増し問題が発覚し、これに伴う法改正も行われました。
以下では、障害者雇用促進法について、近時の法改正を解説いたします。

近時の障害者雇用促進法の改正について

令和元年の法改正は、障害者雇用水増し問題への対応が契機となっていますが、その他の改正は、障害者の雇用促進へ向けた法改正が進められてきています。

障害者雇用促進法改正の歴史 

1960年に制定された「身体障害者雇用促進法」が、法改正を経て、現在の障害者雇用促進法となっています。
障害者が職業生活において自立することを促進するという法の目的に対応して、より障害者雇用が促進される方向での改正が行われてきています。
当初は、身体障害者のみが対象でしたが、その対象範囲は拡大され、知的障害者や精神障害者も対象となっています。また、法定雇用率も段階的に引き上げされ、令和3年4月時点においては、民間企業では2.3%とされています。
今後も、さらなる障害者雇用の促進に向けた法改正が行われていくことは間違いありません。

平成20年の改正内容とポイント

平成20年には、①中小企業における障害者雇用の促進、②短時間労働に対応した雇用率制度の見直し、③企業グループ算定特例の創設等の改正が行われました。

①中小企業における障害者雇用の促進
障害者雇用納付金制度(雇用障害者数が法定雇用率に満たない事業主から、納付金を徴収し、法定雇用率を超えて障害者を雇用する事業主に対し、障害者雇用調整金や助成金を支給する制度)に関し、以下の改正が行われました。
障害者雇用納付金の徴収対象事業主は、平成20年改正前まで、常用雇用労働者を301人以上雇用する事業主のみが対象となっていましたが、障害者常用雇用労働者が100人を超える企業まで拡大されました。

⓶短時間労働者に対応した雇用率制度の見直し
平成20年改正前までは、障害者雇用率制度(障害者について、常用労働者の数に対する割合(障害者雇用率)お設定し、事業主等に障害者雇用率達成義務を課すことにより、障害者雇用の促進を図る制度)における実雇用率や法定障害者数の算定の基礎は、原則として、30時間以上の労働者を対象としていました。
しかし、障害者によっては、長時間労働が難しい場合や、短時間労働から段階的に一般雇用に就労していくというニーズかあったことから、障害者雇用率制度における実雇用障害者数や実雇用率の算定の際に、週所定労働時間20時間以上30時間未満の身体障害者または知的障害者をカウントすることとしました。

③企業グループ算定特例の創設
平成20年改正により、一定の要件を満たす企業グループとして厚生労働大臣の認定を受けた者は、グループ全体で実雇用率を算定できるようになりました。

平成25年の改正内容とポイント

平成25年改正では、①障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務に関する規定、②苦情処理・紛争解決の援助に関する規定、③法定雇用率の算定基礎の見直し等が行われました。

①障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務
平成25年改正により、事業主等に対し、障害者に対する差別禁止や合理的配慮の提供義務を定めるとともに、必要があると認めるときは、厚生労働大臣から事業主に対し、助言、指導又は、勧告が実施できることが定められました。

⓶苦情処理・紛争解決の援助
平成25年改正により、事業主は、障害者に対する差別や合理的配慮の提供にかかる事項について障害者である労働者から苦情の申し出をうけたときは、その自主的な解決を図るよう努める義務が定められました。また、当該事項に係る紛争は、都道府県労働局長が必要な助言、指導又は勧告をすることができるものとするとともに、改正法により創設した調停制度の対象としました。

③法定雇用率の算定基礎の見直し
平成25年改正により、法定雇用率の算定の対象に、新たに精神障害者を追加しました。

2020年4月1日施行「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」

令和元年改正により、①短時間労働の障害者雇用に対する特例給付金制度の新設、②障害者雇用優良中小事業主認定制度の設立、③障碍者雇用水増し問題に対する対策がなされました。

週20時間未満の短時間労働についても特例給付金を支給

令和元年の改正により、所定労働時間が週20時間未満の障害者を雇用する事業主に対する特例給付金が新設されました。

事業主に向けた特例給付金とは

令和元年改正により、短時間労働に対応した特例給付金の支給要件などは以下のとおりです。

支給要件・支給額

次のいずれの要件も満たす障害者を雇用する事業主に対し、特例給付金が支給されます。
①障害者手帳等を保持する障害者
②1年を超えて雇用される障害者
③週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者

支給額は、申請対象期間に雇用していた対象障害者の実人月数×単価(7000円または5000円)です。

特例給付金に人数の上限はあるのか?

特例給付金の算定において対象障害者には上限が設定されており、週所定労働時間20時間以上の障害者の人月数が上限となります。

中小企業を対象とした優良事業主の認定制度を創設

  

令和元年改正により、障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取り組みの実施状況などが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する制度が創設されました。

制度の対象となる中小企業とは?

常時雇用する労働者が300人以下の事業主が制度の対象となります。法人だけでなく個人事業主も対象です。

認定されることのメリット

  

優良事業主として認定されるメリットには、以下のものがあります。
①障害者雇用優良中小事業主(もにす認定事業主)となると、商品などに、「障害者雇用優良中小事業主認定マーク」を付することができます。
⓶認定事業主は、日本政策金融公庫の低利融資対象となります。
③認定事業主は、厚労省及び都道府県労働局・ハローワークの周知広報の対象となります。
④公共調達等における加点評価を受けられる場合があります。

優良な事業主であると認定されるためには

 

優良事業主として認定されるために必要な主な要件は以下のとおりです。
①障害者雇用への取り組み、取り組みの成果、それらの情報開示の3項目において、定められた基準をクリアすること
⓶雇用率制度の対象障害者を法定雇用障害者数以上雇用していること
③指定就労支援A型の利用者を除き、雇用率制度の対象障害者を1名以上雇用していること
などです。

「障害者雇用水増し問題」と再発防止策の強化

平成30年、国や地方公共団体で、障害者の雇用を実際よりも多く計上しており、法定雇用率が達成されていない状態が長年にわたり継続していたこと(いわゆる障害者雇用水増し問題)が判明しました。
上記の問題に対応するため、令和元年改正では、報告徴収の規定の新設、書類保存の義務化、対象障害者の確認方法の明確化及び適正実施勧告の規定の新設がされました。

障害者雇用促進法違反の罰則

事業主が、障害者雇用促進法により、定められている法定雇用障害者数を雇用していない場合であっても、これに対する罰則はありません。障害者雇用納付金制度の対象となっている事業主は、納付金を収める必要がありますが、これは罰則ではありません。
障害者雇用促進法に定められた報告義務などを怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には罰則が定められています。

障害者雇用に関して、不明点があれば弁護士にご相談下さい。

障害者雇用に関しては、障害者雇用促進法の定めを理解しておくことが必要です。ご不明点があれば、労働法務に詳しい弁護士にご相談ください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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