監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
もらい事故とは事故の被害者側に全く過失がない事故のことをいいます。この場合、被害者側の慰謝料等について、過失割合に応じて減額されることはありません。もっとも、もらい事故であるからといって、必ずしも多額の慰謝料を得られるとは限りません。減額前の損害が相手方保険会社によって低く評価されてしまうことがあるためです。以下では、適正な賠償額を得るために知っておくべき事項について説明します。
目次
もらい事故と通常の事故の違い
過失とは、一定の事実を認識することができるはずなのに、不注意で認識しないことをいいます。通常の事故では、当事者双方にいくらかの過失が認められます。一方、もらい事故とは、上記のとおり、被害者側に全く過失のない場合をいいます。では、具体的にどのような場合が、このもらい事故にあたるのでしょうか。
もらい事故になりやすい例
もらい事故になりやすい例としては、①信号待ちで停車していたら後方から追突された、②法定の速度を守って走行していたら後方から追突された、③対向車がセンターラインを越えてきて正面衝突した、④交差点を青信号で進んでいたら、赤信号を無視して進入してきた車に衝突された、といった場合があります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
もらい事故の慰謝料相場はいくら?
もらい事故の場合、被害者側に過失が全くないため、慰謝料等につき、過失割合に応じた減額はなく、満額もらえることになります。とはいえ、一概にもらい事故と言っても、その態様や被害の程度は様々であるため、慰謝料等につき特有の相場といったものはありません。以下のリンクでは、依頼済みの事案につき賠償額を掲載していますが、もらい事故のケースでは、過失割合に応じた減額がないため、記載の額を受け取ることができます。
交通事故の慰謝料相場についてもらい事故ならではの注意点
もらい事故では、過失がないため、過失の有無や賠償額でもめることはなく、示談交渉において問題はないと考えている方も多いかもしれません。しかし、必ずしもそうとは言い切れません。もらい事故には以下のような注意点があります。
もらい事故は保険会社が示談交渉を行えない
通常の事故では、被害者側にも一定の過失が認められますので、保険会社を含む被害者側は、相手方に対して損害賠償義務を負います。この場合、保険会社が、相手方と、損害賠償に関して示談交渉を行うことは、保険会社にとって、自己の法律事務を行うこととなります。したがって、この示談交渉は、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で他人の法律事務を代行することを禁止する弁護士法に違反しません。これに対し、もらい事故では、被害者側に過失がなく、保険会社を含む被害者側には、相手方への賠償責任はないことになります。この場合、保険会社が被害者自身の相手方に対する損害賠償請求について示談交渉することはできないことになります。自己ではなく他人の法律事務を代行することにあたり、上記弁護士法の規定に違反するためです。
「もらい事故で過失ゼロだから慰謝料額に心配はない」というのは間違い
交通事故による慰謝料額の算定基準としては、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準、という3つの基準があります。このうち、慰謝料額が最も高額に算定されるのが③の弁護士基準です。もっとも、相手方保険会社が示談交渉において、最初から弁護士基準を用いて交渉をしてくることはまずなく、慰謝料がより低額に算定される基準を用いて交渉をしてきます。そのため、もらい事故で過失割合がゼロであるからといって、必ずしも高額な慰謝料を得られるとは限りません。例えば、入院期間1か月、通院期間3か月(実通院日数40日)の事故の場合、入通院慰謝料は、自賠責基準では51万6000円であるのに対し、弁護士基準では、115万円となり、倍以上の差が生じます。また、仮に1級の後遺障害等級が認められた場合、後遺症による慰謝料の額は、自賠責基準では1150万円であるのに対し、弁護士基準では2800万円となり、額にして1500万円以上の差が出ることとなります。
もらい事故に見えても過失割合で揉めることがある
また、もらい事故に見えても、過失割合でもめることもあります。これには、保険会社側の事情が関係してくることもあります。すなわち、もらい事故では、被害者側に過失がないため、その過失割合に応じた賠償額の減額をすることができません。そのため、ケースによっては、相手方保険会社の支払うべき賠償額が大きくなってしまうことから、相手方保険会社としては、支払額を何とか減らすために、被害者側の過失を主張してくることが考えられるのです。
もらい事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット
このように、もらい事故であるからといって、示談交渉において問題がないとはいえません。このような問題に対応するために、示談交渉を弁護士に依頼することが考えられますが、そのメリットとしてどのようなものがあるのでしょうか。
弁護士に依頼すれば高額の慰謝料を受け取れる可能性がある
弁護士に依頼すれば、弁護士は、賠償額がより高額となるよう弁護士基準に基づいて慰謝料等を計算して交渉することができます。また、豊富な知識や経験に基づき、認められる金額ができる限り大きくなるように、相手方保険会社と交渉することができます。なお、弁護士が交渉を行うと、相手方保険会社において、裁判となった場合の労力を考慮して、交渉段階である程度譲歩してくることも多くなります。
相談のタイミングが早いほどメリットが大きい
入通院慰謝料の額は、入通院期間に応じて高額となります。また、事故による症状を改善させるために、十分な期間の治療を受けることが重要です。保険会社の負担により通院期間を長く見てもらうためには、適切な頻度で通院するといった対応が必要となります。このような対応のためには、知識を有する弁護士のアドバイスが重要となります。このようなアドバイスは、できる限り事故後の早い段階でご相談いただくほどメリットが大きくなります。
後遺障害等級認定の申請についてサポートを受けられる
治療を継続しても、症状が残ってしまい、これ以上治療を継続しても、改善が見込めなくなる状態となることがあります。これを症状固定といい、医師により診断されます。この症状固定を告げられた場合、残った症状(後遺症)について、後遺障害認定申請するかどうかを判断すべきことになります。後遺障害認定を受けることができれば、その等級に応じた賠償金を得ることができます。この申請を行うには、医師の診断書など様々な書類を集める必要があります。また、認定申請が認められず、この結果に不服がある場合には、異議申立ての手続をとる必要があります。弁護士に依頼すれば、このような手続きについてサポートを受けることができますし、このような面倒な手続きについて、全て任せることも可能です。
弁護士費用特約があれば弁護士費用を自己負担なしで依頼できる
もらい事故の示談交渉について、弁護士に依頼することには上記のようなメリットがありますが、弁護士に依頼するには費用がかかります。もっとも、自動車保険には弁護士費用特約というものがあります。この特約を契約締結の際につけておけば、もらい事故に遭った場合に、これを使うことにより、最大で300万円まで弁護士費用を保険会社に負担してもらえます。一般的に、弁護士費用が300万円を超えることはほとんどないため、自己負担なしに弁護士に依頼することができます。
弁護士費用特約についてもらい事故の慰謝料に関するQ&A
もらい事故に遭いました。怪我なしで物損のみですが慰謝料は請求できますか?
交通事故による慰謝料は、入通院及び後遺障害という人身傷害に関して支払われるものです。そのため、もらい事故に遭ったものの、怪我はなく、被害が物損のみの場合には、慰謝料を請求することはできません。交通事故で車に載せていた思い入れのある品物が壊されてしまった場合や、かわいがっていたペットが死亡してしまった場合であっても、慰謝料を請求することはできないことになります。
物損事故とはもらい事故の慰謝料と休業損害は別々に請求できますか?
慰謝料と休業損害は、いずれも交通事故による損害項目の一部です。しかし、慰謝料は、交通事故により精神的な苦痛を受けたことに対する損害賠償金、休業損害は、交通事故による怪我により仕事を休んだために得られなかった収入のことをいいます。これらは、性質が異なるものであることから、それぞれ別々に請求することができます。
交通事故の休業損害とはまずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
もらい事故に遭ったら弁護士にご相談ください
以上のように、もらい事故であっても、必要な期間治療を受け、症状が残ってしまった場合には、その程度に応じた後遺障害の認定を受けた上で、相手方保険会社と適切に交渉し、十分な額の賠償を受けることは容易ではありません。早期に弁護士にご依頼いただければ、専門的な法的知識と交渉の経験に基づき、治療に必要な十分な期間治療を受けるためのアドバイスを行い、十分な額の賠償金を獲得するためのサポートを行うことができます。もらい事故に遭ったが、どのように治療を受けて相手方と交渉すればよいかわからないという方は、ぜひ弁護士への依頼をご検討ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)