監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭われた場合の慰謝料額は、どの程度になるのでしょうか。以下では、慰謝料の算定方法について説明した上で、事故による負傷の治療のために6か月通院した場合を例にとり、算定方法や通院頻度により慰謝料額がどの程度になるかを説明していきます。
また、保険会社から一括対応打ち切りの打診があった場合の対応など、しっかり治療を行い、十分な額の賠償を受けられるようにするための参考となる情報をお伝えします。
目次
6ヶ月の通院期間ではどれくらいの慰謝料がもらえるの?
交通事故に遭われた際の慰謝料は、通院期間(または実通院日数)が長ければ長いほど高額になります。その算定方法(算定基準)大きく分けて自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3種類があります。
自賠責基準は、強制加入とされている自賠責保険において、被害が最低限の補償を受けられるように設定された基準です。通常、上記3つの基準の中で最も額が低く算定されます。任意保険基準は、保険会社が独自に設定している基準であり、公表されていません。
自賠責基準よりも多少上乗せされた金額が算定されることが多くなっています。弁護士基準は、裁判例を基に、同程度の事故で裁判となった場合に認定されると見込まれる額に近い額が算定される基準です。
3つの基準のうち、最も慰謝料が高額に算定される基準です。通院期間が6か月の場合に自賠責基準及び弁護士基準により算定される慰謝料の額は以下のとおりです。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
むちうちで他覚所見がない場合や軽傷の場合 | 77万4000円 (ただし、治療費等を含めて120万円が上限) |
89万円 |
それ以外の怪我(骨折等の重傷) | 77万4000円(同上) | 116万円 |
通院期間とは
通院期間とは、一般的には通院を開始した日から(症状が完治又はこれ以上治療を続けても症状がよくならない状態になって)通院を終了した日までをいいますが、交通事故の傷害による慰謝料を算定する際の基礎となる通院期間は、事故日から通院を終了した日までとすることが多くなっています。
実通院日数とは
実通院日数とは、上記の通院期間中に、事故により負った怪我の治療のために実際に病院で受診した日数をいいます。
通院が少ないと慰謝料が減る
傷害による慰謝料は上記のとおり、通院期間を基礎として算定されるのが通常ですが、これには例外があります。すなわち、通院期間に比べて実通院日数が少ない場合、実通院日数を基礎として慰謝料が算定されることがあります。
具体的には、自賠責基準では、実通院日数の2倍が通院期間よりも少ない場合は、通院期間ではなく、実通院日数の2倍を基礎として慰謝料額が算定されます。
また、弁護士基準でも、実通院日数の3.5倍よりも通院期間の方が少ない場合は、通院期間ではなく、実通院日数を基礎として慰謝料が算定されます。その結果、通院期間と比べて通院日数が少ない場合、慰謝料額が減ることがあります。
実通院日数が少ない場合の慰謝料はいくら?
では、実通院日数が少ないと、傷害による慰謝料額がどの程度変わってくるでしょうか。仮に、通院期間が6か月であるとして、①月1回の通院(実通院日数6日)であった場合、②週1回の通院(実通院日数26日)であった場合、③週3回の通院(実通院日数78日)であった場合に、弁護士基準に基づいて傷害慰謝料を算定した場合の具体的な額は以下の表のとおりです。
弁護士基準の慰謝料(入院無し、通院期間6ヶ月)
月1通院 | 週1通院 | 週3通院 | |
---|---|---|---|
むちうちで他覚所見がない場合や軽傷の場合 | 13万3000円 | 53万4667円 | 89万円 |
それ以外の怪我(骨折等の重傷) | 19万6000円 | 73万5667円 | 116万円 |
相手方から治療費打ち切りの話が出た場合の対応
加害者(相手方)が任意保険に加入している場合、当該保険会社において、被害者の治療費を直接病院等に支払い、被害者は病院等の窓口で治療費を支払う必要がなくなるようにする対応がとられることが通常です。これを一括対応といいます。
一括対応は法律で保険会社の義務とされているものではなく、いわば保険会社のサービスとして実施されているものであるため、加害者の保険会社は、事故の規模や症状、治療の状況を考慮して、独自にその必要性を判断し、必要性がなくなったと判断したタイミングで打切りを打診してきます。このような打診があった場合、どのように対応すべきでしょうか。
まだ通院が必要な場合
上記のとおり、保険会社は、独自の判断で一括対応打切りの打診をしてくるため、被害者が治療中であり、まだ通院して治療を継続する必要があると考えている場合であっても、一括対応打ち切りの話が出ることがあります。
この場合、一括対応終了を前提として、いったん治療費を自己負担(健康保険等を利用する場合は治療費の一部を自己負担)して、治療を継続するか、保険会社と一括対応延長の交渉を行うことも考えられます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
6ヶ月の通院後、「症状固定」と診断されたら
症状固定とは
症状固定とは、症状が残っているものの、これ以上治療を続けても、症状が改善しない状態をいいます。当該判断はまずは医師が行いますが、症状固定日以降は、治療費、通院のための交通費及び傷害慰謝料等は支払われなくなり、残った症状に関する賠償は、後遺障害による逸失利益及び慰謝料として支払われることになります。
後遺症が残ったら
症状固定日以降も症状が残った場合、当該症状について治療を受けるために病院で受診しても、そのための治療費、通院交通費は支払われず、当該受診の日は通院期間や実通院日数には含まれませんので、傷害慰謝料の支払い対象ともなりません。
このような症状固定日以降に残った症状(後遺症)に関する賠償は、後遺症害による逸失利益及び慰謝料の賠償の問題となります。当該賠償を受けるためには、後遺障害認定のための手続を行い、後遺障害認定を受ける必要があります。後遺障害認定を受けた場合は、認定を受けた等級に従った賠償を受けることができます。
なお、通院期間が6か月に満たない場合は後遺障害認定のための手続を行っても、認定されないことに注意が必要です。
主婦が6ヶ月通院した場合の慰謝料
主婦が6か月通院した場合の慰謝料はどれくらいになるでしょうか。上記で説明してきたとおり、慰謝料には傷害慰謝料と後遺障害慰謝料があり、これらの慰謝料は、給与等の所得の有無にかかわらず支払われます。
そのため、主婦に対しても、傷害慰謝料は、(基本的に通院期間を基に算定され、)上記の表のとおりに支払われます。後遺障害慰謝料についても、後遺障害の等級に従った賠償額が支払われます。
家事ができなくなって家政婦に来てもらった場合は?
主婦が交通事故による負傷のために家事ができなくなってしまい、家政婦に家事代行を依頼して費用を負担した場合、当該家事代行の費用は賠償されるのでしょうか。この点について、主婦による家事労働も経済的な価値を有するといえること、事故による負傷がなければ、家政婦に家事代行を依頼する必要もなかったことから、相当な額については賠償の対象となると考えられます。
6ヶ月通院した場合の慰謝料請求は弁護士にお任せください
以上では、慰謝料を中心に、十分な額の賠償を受けるための情報をお伝えしましたが、実際には、そのために適切に治療を受けたり、保険会社の担当者を相手として適切に交渉をしたり、後遺障害認定のための手続を適切に行うことは容易ではありません。
弁護士にご依頼いただくことで、十分な期間の治療を受けられるための適切な助言を受け、保険会社との交渉や後遺障害認定のための手続を任せることにより、治療に専念することができます。事故に遭われてどうすればよいか迷われている方は、まずは弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)