監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
目次
自賠責基準とは
自賠責基準とは、自動車の運行によって他人を死傷させた場合の人身事故による損害について支払われる保険(自賠責保険)の、支払い基準をいいます。
自賠責保険は、保険金等を迅速かつ公平に支払うため、法令に基づいて統一的な基準で支払われるもので、いわば最低限の救済を図るための基準です。
そのため、いわゆる、保険会社基準、裁判基準(弁護士基準)と比較して、原則として一番支払われる金額が低くなります。
ただし、自賠責基準は、被害者の過失が7割未満の場合は過失の有無にかかわらず慰謝料が減額されないため、過失割合によっては、慰謝料の金額は自賠責基準の方が高くなる可能性もあります。
自賠責基準の入通院慰謝料は120万円までしか支払われない
自賠責保険からの給付額は加害者一人あたり給付の上限が120万円と決められています。そして、この120万円の範囲内で入通院慰謝料を賄われることになります。
治療費や交通費を含む額であることに注意が必要
自賠責保険からの給付は、交通事故によって生じた損害に対して支払われるも保険です。そして、交通事故によって生じる損害は、慰謝料だけでなく治療費や交通費などもその対象となります。
したがって、治療費、交通費、慰謝料等を含めて給付の上限が120万円であるため、治療費が多額になったため、慰謝料が低額になってしまう可能性があることに注意が必要です。
120万円を超えたら任意保険に請求を行う
治療費、交通費、慰謝料等の合計が120万円を超えてしまった場合、自賠責保険からの給付では賠償はカバーしきれません。
そのため、120万円の枠を超えてしまった場合は、加害者が加入する任意保険会社に請求することになります。
加害者が任意保険に入っていない場合
加害者が任意保険に加入していない場合でも加害者本人は被害者が被った損害を賠償する義務を負っています。
そのため、この場合は、原則に立ち返り、加害者本人に賠償請求をすることになります。
ただし、加害者の資力や賠償の意思がない場合は賠償をさせることが困難になってしまいます。
入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料については実際に通院した日数×4300円(令和2年4月1日前の事故は1日につき4200円)の2倍、または、総通院日数×4300円のいずれか少ない金額が原則として計算されます。
7日加算とは
慰謝料を計算するうえで、対象となる日数については原則として最終通院日になります。
ただし、この例外として、最終日については、診断書の転帰が治癒ではなく、中止や治癒見込みなどとされている場合は、最終日に7日を加算される取扱いがあります。
自賠責基準の後遺障害慰謝料
後遺障害等級慰謝料は、後遺障害が残存したことに対する慰謝料です。
後遺障害慰謝料についても、後遺障害の内容と認定された等級によって支払額が決まっています。
具体的には、①介護を要する後遺障害の場合は下記の表の別表第1に従い、②①以外の後遺障害の場合には別表第2に記載の各等級に従って慰謝料が支払われることになります。
後遺障害等級 | 自賠責基準での後遺障害慰謝料 | |
別表第1 | 1級 | 1650万円 |
2級 | 1203万円 | |
別表第2 | 1級 | 1150万円 |
2級 | 998万円 | |
3級 | 861万円 | |
4級 | 737万円 | |
5級 | 618万円 | |
6級 | 512万円 | |
7級 | 419万円 | |
8級 | 331万円 | |
9級 | 249万円 | |
10級 | 190万円 | |
11級 | 136万円 | |
12級 | 94万円 | |
13級 | 57万円 | |
14級 | 32万円 |
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
自賠責基準の死亡慰謝料
死亡慰謝料は、被害者が交通事故により死亡という苦痛が生じたことに対する慰謝料です。被害者自身は、亡くなっているためその相続人が請求することになります。
また、近親者固有の慰謝料とは、原則として被害者が死亡した場合に、一定の近親者(遺族)に認められている慰謝料を言います。
本人の慰謝料
死亡した被害者本人に対して支払われる慰謝料は400万円と定められています。この金額は年齢職業関係なく一律に支払われます。
遺族の慰謝料
遺族の慰謝料については、その請求が出来るのは被害者の父母(養父母を含みます。)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含みます。)に限られます。
また、請求できる金額は下記の表のとおり、請求する人数によって金額がかわります。
請求権者 | 近親者固有の死亡慰謝料 |
1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 |
3人以上 | 750万円 |
被扶養者がいる場合 | 上記+200万円 |
自賠責基準と過失割合
被害者に重大な過失があった場合には、自賠責基準によって算出された金額から一定の割合減額がされてしまいます。
ただし、傷害の損害額が20万円未満の場合は減額されず、減額の結果20万円以下になる場合は20万円となります。具体的な過失割合と減額の割合は以下のとおりとなります。
自身の過失割合 | 傷害 | 後遺傷害・死亡 |
7割未満 | 過失相殺なし | 過失相殺なし |
7割~8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割~9割未満 | 2割減額 | 3割減額 |
9割~10割未満 | 2割減額 | 5割減額 |
自賠責基準の慰謝料が提示されていないか不安になったらご相談下さい
交通事故は、被害者に落ち度が全くなくとも、加害者の過失により発生することも多く、被害が多いとまではいえなくとも、落ち度がない被害者にとっては十分な賠償が得られなければ納得ができないという気持ちが大きい事件であるといえます。
このような特質を有するにもかかわらず、交通事故は大量に発生するという事案の性質上、事案の解決の方法が類型化され、画一的に処理される傾向が強い事件です。精神的苦痛という金銭評価の難しいものを、金銭で評価せざるを得ない以上、類型化して画一的に処理せざるを得ないのはやむを得ないところでもあります。
しかしながら、同種の案件であっても、全く同じ案件は存在せず、個々の依頼者の方ごとの思いも全く違います。
そのような、中で、自賠責基準による慰謝料であった場合、不十分な賠償しかなりかねません。最終的な賠償案が自賠責基準か否かについてご不安なかたは、弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)