監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
慰謝料の計算方法は算定基準により異なる
交通事故における慰謝料は精神的損害に対する賠償です。慰謝料の算定方法には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの基準があります。自賠責基準は、被害者が最低限受けられる補償です。任意保険基準とは、保険会社が独自に定めた基準であり、一般には公開されていません。弁護士基準は、訴訟において損害賠償額を算定する際の基準です。一般的に、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の順に慰謝料額は高額になります。
入通院慰謝料の計算方法
「入通院慰謝料」とは、入通院日数を基礎として算定される慰謝料です。算定基準により計算方法が異なるため注意が必要です。
自賠責保険基準の計算方法
自賠責保険基準では、入通院日数1日×4300円で慰謝料が算定されます。実治療日数の2倍と入通院期間のどちらか少ない方が入通院日数となります。入通院期間が長くても、実治療日数が少ない場合には、思っていたより慰謝料額が少ないという結果になることもあります。
入院10日間・通院期間6ヶ月(180日)のうち90日通院した場合の計算例
①実治療日数の2倍=(入院10日+通院90日)×2=200日
②入通院期間=190日
①と②のうち少ない方は②であるため、②を入通院日数として損害額を算定します。
したがって、損害額は、4300円×190日=81万7000円となります。
弁護士基準の計算方法
弁護士基準では、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)(公益財団法人日弁連交通事項相談センター東京支部)」(通称「赤い本」)における入通院慰謝料別表ⅠあるいはⅡを参照して、入通院期間を基礎として算定するのが原則です。
むちうち等の軽傷と、重傷の場合で参考にする表が異なる
「赤い本」によれば、むち打ち症で他覚所見がない場合等は入通院期間を基礎として別表Ⅰではなく別表Ⅱを用います。同じ入通院期間でも、別表Ⅰを用いる場合より慰謝料額は低額となります。
上記と同じく「入院10日間・通院期間6ヶ月(180日)のうち90日通院した場合」の計算例を考えます。別表Ⅰによれば、(35万円×10/30)+89万円=101万円(小数点以下四捨五入)となります。
表の期間以上の入院・通院があった場合
表の期間以上の入通院があった場合は、入通院期間1か月につき、それぞれ15月の基準額から14月の基準額を引いた金額を加算した金額を基準額とします(「赤い本」)。
入院のみ16か月行った場合、別表Ⅰによれば、340万円+(340万円-334万円)=346万円となります。通院のみ16か月行った場合、別表Ⅰによれば、164万円+(164万円-162万円)=166万円となります。
通院日数が少ない場合
入院期間に比して、通院日数が少ない場合は、症状や治療内容等を踏まえて、実通院日数の3.5倍程度を通院期間の目安とすることがあります。入院が長期にわたるものの通院日数が少ない場合には、入院期間を基礎として算定される慰謝料額よりも少ない額の慰謝料額が認定されることがあります。
リハビリの通院について
リハビリテーションも治療にあたりますが、入通院期間に算定されるのは原則として治療により症状が良くも悪くもならない状態になった時点(これを症状固定といいます)までです。症状固定後もリハビリテーションが必要になるとしてもその期間について傷害慰謝料が発生しないのが原則となります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害慰謝料の計算方法
症状固定後に事故と因果関係がある症状が残存する場合、後遺障害等級認定を受けることができれば、等級に応じた後遺障害慰謝料が算定されます。
自賠責基準の後遺障害慰謝料
認定された後遺障害等級に応じて後遺障害慰謝料の額が決まります。等級が上がるほど後遺障害慰謝料の金額は大きくなります。
後遺障害等級 | 自賠責基準 |
---|---|
1級(介護を要するもの) | 1650万円 |
2級(介護を要するもの) | 1203万円 |
1級 | 1150万円 |
2級 | 998万円 |
3級 | 861万円 |
4級 | 737万円 |
5級 | 618万円 |
6級 | 512万円 |
7級 | 419万円 |
8級 | 331万円 |
9級 | 249万円 |
10級 | 190万円 |
11級 | 136万円 |
12級 | 94万円 |
13級 | 57万円 |
14級 | 32万円 |
弁護士基準の後遺障害慰謝料
弁護士基準の後遺障害慰謝料も、自賠責基準と同様、等級が上がるほど、慰謝料額が大きくなります。弁護士基準による場合、自賠責基準より金額は大きくなります。
後遺障害等級 | 弁護士基準 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
死亡事故慰謝料の計算方法
死亡事故慰謝料は、死亡した被害者を相続した方が、加害者に対して請求することができます。弁護士基準による死亡慰謝料の額は、死亡した被害者の立場によって金額が決まっています。
自賠責保険基準の死亡慰謝料
自賠責基準の慰謝料は、死亡本人の慰謝料が400万円、遺族の慰謝料は請求権者1人の場合には550万円、2人の場合には650万円、3人以上の場合には750万円とされます(被害者に被扶養者がいる場合の遺族の慰謝料は200万円が加算されます)。
弁護士基準死亡慰謝料
弁護士基準の死亡慰謝料の額は、下記表のとおり被害者の立場により決まります。もっとも、下記表の金額は、一応の目安を示したものですので、具体的な事情により金額が異なります。
被害者 | 死亡慰謝料 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 |
その他(独身の男女、子供、幼児等) | 2000万~2500万円 |
交通事故の慰謝料計算は弁護士にお任せください
交通事故の被害者が慰謝料として十分な補償を受けるためには弁護士基準で算定することが大切です。弁護士が交通事故被害者の代理人となった場合、加害者側保険会社は弁護士基準により算定された損害賠償額を参照して交渉に応じる傾向があります。
また、慰謝料の算定額は一応の目安はあるものの個別具体的事情により定まるため、交通事故事件の経験が豊富な弁護士にご依頼いただき、正当な主張を行うことが重要です。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)