監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
相続が発生した場合に、相続財産に「農地」が含まれていることが分かり、活用や処分に困るということがあります。
「農地」とは、「耕作の目的に供される土地」(農地法第2条第1項)と定義されます。
農地法の適用を考える際には、この定義が重要となりますが、この記事では、農地法の適用関係だけではなく、広く、「農地」と相続放棄についての法的問題について、説明します。
目次
不要な農地だけを相続放棄することはできない
不要な「農地」が相続財産に含まれるからといって、「農地」だけを相続放棄することはできません。
相続放棄は、相続財産全てを対象として行うものであり、相続放棄をするのであれば、「農地」を含む、一切の相続財産について、相続放棄を行うこととなります。
相続財産に、価値のある資産が含まれている場合でも、うっかり相続放棄をしてしまうと、「農地」だけでなく、価値のある資産までまとめて失うことになる可能性もあるので相続放棄においては慎重な判断が求められます。
相続放棄をしても農地の管理義務は残る
相続放棄をしても直ちに「農地」の管理義務を免れるわけではありません。
民法第940条第1項によれば、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」とされ、相続放棄をした場合でも、相続財産に属する「農地」を占有している場合、その管理義務を負うこととなります。
相続土地国庫帰属制度を利用できれば国に引き取ってもらえる
相続放棄をせずに相続して「農地」を取得した場合には、相続土地国庫帰属制度を利用して国に引き取ってもらうことが可能です。
これは、相続土地国庫帰属制度という制度を利用する方法であり、要件を満たす場合に、適正な申請手続をすれば、国が、相続により取得した「農地」を引き取るという仕組みです。
申請にあたっては、法務局に相談をすると手続がスムーズに進みますので、対象となる「農地」の存在する地域の法務局に問い合わせを行うのがよいでしょう。
なお、同制度の利用には負担金の納付なども必要となりますのでご注意ください。
放置すると「耕作放棄地」となり、処分が難しくなる
「農地」を長期間放置すると、いわゆる「耕作放棄地」とみなされる可能性があります。
「耕作放棄地」とは、法令上の用語ではないですが、過去1年間作物が栽培されず、今後も栽培される見込みのない土地をいいます。
このような土地は、管理が行き届いていないため、廃棄物が不法投棄されるなどのリスクがあり、結果的に、買主がいないなどの理由で処分が困難となることがあります。
借り手のいる農地を相続放棄したらどうなる?
被相続人が、「農地」を第三者に賃貸した状態で相続が発生した場合、賃貸借契約は当然には終了せず、相続人と賃借人との間で継続することとなります。
相続放棄をした場合、次順位の相続人がいる場合には、その方が、賃貸人として、賃貸借関係が継続します。
農地を相続放棄する手続きの流れ
相続放棄を行うためには、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」(民法第915条第1項)、被相続人の最後の住所地が所在する家庭裁判所に相続放棄の申述を行うことが必要です。
相続放棄の申述をするためには、戸籍関係の書類等、必要な添付書類があり、これらの書類をそろえるために一定の時間を要する場合もあるため、「三箇月」という期間は決して長くはありません。
相続放棄を検討する場合には、速やかに、専門家に相談し、余裕をもって準備をすることをお勧めします。
「三箇月」の期間を経過してしまうと、原則として、相続放棄は認められませんので、注意してください。
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相続した農地の使い道
農家に売却する
相続した「農地」を相続人が自身で活用することができないのであれば、農家に売却をするという方法があります。
もっとも、一般の土地と異なり、「農地」を第三者に譲渡するためには、農地法第3条第1項に基づき、農業委員会の許可を受けなければなりません。
この許可を得ずになされた「農地」の譲渡は、単に手続的な瑕疵があるというにとどまらず、私法上も無効とされます。
農地から宅地に転用する
相続した「農地」を宅地など農地以外の土地に転用し、活用するという方法もあります。
しかし、相続した「農地」を農地以外の土地に転用する場合には、農地法第4条第1項に基づき、都道府県知事等の許可を受けなければなりません。
農地を転用できない場合もある
「農地」の転用は常に認められるわけではありません。
転用の許可は、一般に、立地基準(農地の優良性と周辺の土地状況等による基準)と、一般基準(転用を許可できない事情の有無等による基準)という2つの基準を満たした場合になされます。
このうち、立地基準において、農地の区分によっては原則として転用が不許可とされることも少なくなく、農地の転用が許可されない場合もあります。
農地の相続放棄についてお悩みの方はご相談ください
「農地」は、一般の土地と異なり、譲渡や転用が法律により制限され、無断譲渡、無断転用がなされた場合には、罰則が科されることもあります(農地法第64条第1号)。
したがって、自身の判断で、「農地」の譲渡や転用を検討することは極めて危険です。
また、相続放棄を検討する場合に、そもそも、「三箇月」の期間制限を超えており相続放棄をすること自体が困難であったり、「農地」以外に価値のある資産が相続財産に含まれているため相続放棄以外の方法により、「農地」の処分を検討すべきであったり、相続放棄をすることで、別の親族が新たに相続人となることを失念していたり、相続放棄をしても直ちに「農地」の管理義務を免れるわけではなかったりといった落とし穴もあります。
そのため、 「農地」の相続放棄についてお悩みの方は、「農地」の管理や処分と、相続問題の双方に精通した専門家にご相談いただくことをお勧めします。

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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
