不要な土地は相続放棄できる?管理責任や固定資産税はどうなる?

相続問題

不要な土地は相続放棄できる?管理責任や固定資産税はどうなる?

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

相続財産の中に不動産が含まれていることはよくあります。不動産を相続することは、メリットだけではなく、固定資産税の支払義務や不動産の維持管理費用の負担などのデメリットを引き継がなければならないこともあります。そのため、不動産の相続はしたくないと考える人も多いかと思います。

本件の記事では、不動産を相続する場合に注意すべき点、その逆に、不動産の相続放棄をする際に注意すべき点を解説していきます。

土地や建物などの不動産は相続放棄できるのか?

相続放棄は、相続財産に関する一切の権利義務を放棄することです。そのため、不要な土地又は建物だけを選んで相続放棄することはできません。
したがって、土地や建物の相続放棄をしたい場合、預貯金や現金といった他の相続財産に関する権利も放棄することになります。

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相続放棄せずに土地を所有し続けるリスクとは?

法律上決められた期限内に相続放棄をしなかった場合、相続を承認したことになります。
以下の項目では、相続によって不動産を所有することで生じうるリスクについて解説します。

固定資産税を支払わなければならない

不動産の所有者は、毎年、固定資産税を支払わなければなりません。その税額は、国が評価した当該不動産の資産価値に応じて課されます。固定資産税は、その不動産を使用しているか否かに関わらず課される税金です。

そのため、相続で不動産を取得すると、相続した年の翌年以降は毎年、固定資産税を負担しなければなりません。その課税額によっては、大きな負担となることもあります。

空き家問題について

被相続人が生前居住していた建物が相続以降は、空き家となってしまうことがあります。相続によって建物の所有者となった場合、その建物の外壁が剥がれ落ちたりして第三者に損害を与えたときは、建物に実際に住んでいなかったとしても賠償責任を負います。

また、居住用の建物の管理が不十分な場合、住宅用地特例の対象から除外されることがあり、土地の固定資産税が増加することがあります。空き家を解体して更地にした場合にも同様です。

そのため、被相続人の生前の住居用建物を相続した場合、自らが居住しない場合であっても、その空き家を適切に管理しなければ、固定資産税の増加や損害賠償請求を受けるリスクが生じます。

共有名義にするとトラブルに発展することも

相続人が複数いる場合、不動産を共有することがありますが、トラブルが起きることがあります。
不動産を売却するといった所有権を処分する行為を行うためには、共有者全員の同意が必要となります。そのため、売却に反対する共有者が一人でもいると、当該不動産を売却することができなくなります。

自分の持分割合のみを売却することはできますが、不動産の一部の権利のみでは自由に使いにくいため、買い手が付きにくいです。
また、不動産を管理する人を誰にするか、経費負担をどのようにするかについて、共有者間で意見が割れて揉めることがあります。

そして、上記のような対立は、不動産を共有しているという状態が解消されない限り、ずっと続く可能性があります。

土地を相続放棄する際の注意点

相続放棄は、相続を開始されたことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に手続きをする必要があります。
相続放棄をする際の注意点について、以下の項目で解説していきます。

土地だけ相続放棄することはできない

先述したように、相続財産に関する一切の権利を放棄することになるため、土地や建物だけを選んで相続放棄することはできません。
安易に相続放棄をして損をすることがないように、事前に調査をして、相続財産全体を把握しておくべきです。

相続放棄しても土地の管理義務は残る

相続放棄をしたとしても、現に不動産の占有をしている場合には、新たに相続人となる者又は相続財産清算人に管理を引き継ぐまで、当該不動産の管理義務が生じます。
この管理義務は、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存する義務のことです。

土地の名義変更を行うと相続放棄できなくなる

土地の名義変更は、土地の現状を変更する行為であり、その土地の所有者でなければできない行為であるため、相続財産の処分行為に該当します。

相続財産の処分行為を行うことは、法律上、単純承認をしたものとみなされるため、相続放棄ができなくなってしまいます。
そのため、相続放棄をすることを考えている場合、相続財産の土地の名義変更を行ってはいけません。

相続放棄には3ヶ月の期限がある

相続放棄ができる期間は、相続開始を知ったときから3か月以内です。この期間内に相続放棄をしなかった場合は、相続を承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなります。

基本的には、この3か月以内に相続財産を調査する必要がありますが、調査対象が多い場合などは間に合わないときがあります。そのようなときは、家庭裁判所に申し立てを行うことで、この期間を延長することができることもあります。
そのため、単純承認、限定承認又は相続放棄のいずれをするかについては、慎重に検討すべきでしょう。

相続放棄した土地はどうなるのか?

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったものとみなされます。そして、同順位の相続人がいる場合は、他の相続人の相続分が増えます。同順位の相続人がいない場合は、次順位の者に相続人としての権利が生じます。

相続放棄をした結果、相続人が誰もいなくなった場合、利害関係人等からの申立てがあれば、家庭裁判所は、相続財産清算人を選任します。

相続財産清算人は、相続財産を管理するために選任された人のことです。相続財産清算人が選任され、特別縁故者(被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者)もいない場合、最終的に相続財産は国庫に帰属します。(令和5年3月31日までは、「相続財産管理人」という名称でしたが、同年4月1日の民法改正で、「相続財産清算人」に改称されました。)

土地を相続放棄する手続きの流れ

相続放棄は、相続の開始を知ってから3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、書類を提出することで行うことができます。

申述に必要な書類は、相続放棄の申述書、被相続人と相続放棄をする人の戸籍謄本及び手数料分の収入印紙が必要となることが多いです。被相続人との関係性によって、必要な書類は変わりうるため、事前に裁判所に問い合わせをしておきましょう。

申述書の提出後、しばらくすると裁判所から照会書が届きます。この照会は、相続人となったことをいつ知ったのか、相続放棄の申述が真意に基づくものであるかというような内容に対し回答を求めるものです。回答書を提出したのちに、特に問題が無ければ相続放棄申述受理通知書が発行されます。

相続放棄以外で土地を手放す方法はある?

相続放棄をせずに、不要な不動産を手放す方法としては、以下の方法が考えられます。

① 売却する
② 寄付を行う(贈与する)
③ 相続土地国庫帰属法により、相続した土地を国庫に帰属させることの承認を求める

また、不動産によっては、資産価値が高く、運用することで利益を得ることができる場合もあります。そのため、不動産を手放すのではなく、積極的に活用することも検討すべきです。

売却する

不動産を手放す最も確実な方法は、第三者に売却することです。しかし、不動産の立地が悪く利便性が極めて低いような場合は、当該不動産を買いたいと思う人も少ないでしょう。

また、不動産の売買をしたのち登記をするためには、登録免許税という費用がかかります。この登記手続きを司法書士などに依頼した場合は、その費用も掛かります。

費用をかけてまで購入したいと考える人がいなければ、不動産の買い手がつきません。そのため、売買にかかる費用も考慮して、売値を大きく下げて売ることも検討する必要があります。

寄付する(贈与する)

買い手がつかない場合、誰かに贈与することが考えられます。しかし、不動産は所有しているだけで費用がかかるため、贈与を受けたいと考える人は少ないかもしれません。

一方で、不動産の隣地の所有者は、土地をまとめて一つにするなど土地活用の幅が広く有効活用しやすいため、他の人より贈与を受けてもらえる可能性が高いと思われます。

なお、贈与を受ける人には、不動産の価値に応じた贈与税がかかるため、注意が必要です。
また、自治体などが不動産の寄付を受け付けてくれる場合があります。

しかし、自治体などは、取得の必要性がない場合には寄付を受け付けてくれないため、自分で活用方法が見いだせない土地の寄付を受け付けてくれる可能性は低いです。まずは、市町村の窓口に相談してみましょう。

国に対し、相続した土地を国庫に帰属させることの承認を求める

令和5年4月27日から、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下、「相続土地国庫帰属法」といいます。)が施行されました。
相続又は遺贈で取得した土地のうち、以下のいずれにも該当しない土地であれば申請をすることができます。これらの項目に該当する土地については、承認申請が却下されてしまいます。

① 建物が存する土地
② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③ 通路その他の他人による使用が予定されている土地
④ 特定有害物質により汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

また、申請ができる土地であっても、以下の項目に該当する場合には承認を受けることができません。

① 崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
② 地上に、土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木などがある土地
③ 地下に、除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物がある土地
④ 隣地の所有者などとの争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地
⑤ その他、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地

承認を受けるためには、上記の条件を満たしている必要があります。さらに承認を受けた場合には負担金を納付する必要があるため、この制度が活用できる場面は限られます。しかし、一定の負担金を支払うことで不動産を手放すことができるため、要件を充足する場合には、承認申請を検討する価値はあると思われます。

土地活用を行う

不動産を手放すことができない場合、当該不動産を活用することで固定資産税を賄うことができる可能性があります。

例えば、土地に家屋が建っている場合は、賃貸物件として賃料収入を得ることを検討すべきです。貸し出すことで、家屋や土地を放置した場合にかかりうる維持費の負担が減ることもあります。

立地条件によっては、駐車場として貸し出す、トランクルームとして経営する、太陽光発電のパネルを設置する土地をして貸し出すといった活用も可能かもしれません。

土地の相続放棄に関するQ&A

被相続人から生前贈与された土地を相続放棄できますか?

生前贈与は、生前の被相続人から財産を譲り受けることですので、相続とは別のものです。そのため、既に生前贈与を受けているのであれば、相続が発生したからといって放棄することはできません。
贈与契約は、財産を無償で与える意思表示に対して、相手方が受諾することによって成立します。そのため、生前の被相続人から、価値の低い不動産を贈与する旨を伝えられたとしても、贈与を受けることを拒否することで、不要な不動産を取得せずに済みます。
なお、生前贈与を受けていたとしても、贈与された不動産の権利を失うことなく、相続放棄をすることが可能です。

土地の共有持分のみを相続放棄することは可能ですか?

相続放棄は、相続財産に関する自らの権利をすべて放棄することです。そのため、相続財産のうち、土地の共有持分のみを相続放棄し、それ以外の財産を相続することは不可能です。
相続で不動産の共有持分を取得すると、他の共有者とのトラブルに巻き込まれると言った不利益を追うこともあります。したがって、共有持分を取得するかどうかは、慎重に検討しましょう。

農地を相続放棄した場合、管理義務はどうなりますか?

相続放棄をしたとしても、現に占有している相続財産がある場合には、次の相続人又は相続財産清算人に管理を引き継ぐまで、その相続財産を管理する義務を負います。これは、相続財産が農地であっても同様です。そのため、相続財産である農地を現に占有しているのであれば、自己の財産と同様の注意をもって当該農地を管理する必要があります。

土地を相続放棄するかどうかで迷ったら、一度弁護士にご相談ください。

土地を相続放棄しようとする場合にも、管理義務の問題が生じることがあります。そのため、相続財産の内容によっては、安易に相続放棄をするよりも、不動産の活用を考えた方がデメリットを抑えることに繋がる場合もあります。

限られた期限内に、相続財産の調査を行い、その結果を踏まえて相続放棄をすることのメリットやデメリットをしっかりと把握して判断をすることは、専門的な知識がないと難しいです。そのため、相続放棄をすべきか悩んだ時には、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士に依頼すれば、相続財産の調査を任せることができ、法律の専門家としての視点に基づくアドバイスを受けることができます。その後の相続放棄の手続等も一貫してお任せしていただけますので、まずは一度、弁護士にご相談ください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
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