監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
相続放棄をすると、遺産を相続することが出来なくなりますが、遺産に家が含まれている場合、その家はどうしたらよいでしょうか。ここでは、遺産に家があるときに、相続放棄をした場合に着目して、ご説明をしようと思います。
目次
相続放棄をしたら家はどうなる?
次の順位の相続人が相続する
相続放棄をすると、相続人としての地位を失うこととなります。例えば、被相続人の相続人として、子が2人(A・Bとします。)だけだった場合を想定します。この場合において、一人(A)が相続放棄をし、もう一人(B)が相続をしたとすると、Bが、単独で家を取得することになります。
では、この場合において、2人とも相続放棄をした場合にはどうなるでしょうか。この場合には次の順位の相続人が相続することになります。子は第1順位になりますので、上記の例でいうと、第2順位の直系尊属(父母、祖父母)が家を相続することになります。直系尊属が先に亡くなっている場合や相続放棄をした場合には、第3順位の兄弟姉妹が家を相続することになります。
全員が相続放棄した場合・相続人がいない場合は国のものになる
上記のとおり、次の順位の相続人がいる場合には、相続放棄によって、次の順位の相続人が遺産を相続することになります。
では、第3順位の相続人まで、全員が相続放棄をした場合は、どうなるでしょうか。この場合、全ての相続人が相続放棄をしてしまっていますので、被相続人の遺産を引き継ぐ者がいません。このようなときは、相続財産清算人の選任を求めることが出来ますので、最終的には、相続財産清算人によって、遺産を国庫に帰属させることになります。
空き家になる場合、相続財産清算人の選任が必要
多くの場合、被相続人が亡くなったことで、住んでいた家は空き家になるでしょう。空き家を放置すると、朽ちて倒壊する可能性があるなど、いくつかの問題を生じさせます。相続放棄をすると、家の解体も出来なくなりますので、この問題に対処することが出来ません。
そこで、空き家がある場合には、相続財産清算人の選任申立てをしておいた方がいいでしょう。予納金の問題があるものの、相続財産清算人がいれば、必要に応じて、家の売却や解体などの対応をしてくれるためです。空き家がある場合には、相続財産清算人の活用を考えた方が良いでしょう。
相続放棄をしても家に住みたい場合の対処法
被相続人にマイナスの遺産が多々あるため、相続放棄をしたいものの、被相続人の家には住みたいという場合もあるでしょう。相続放棄をすると、家も含めて相続できなくなりますので、原則として、被相続人の家には住めません。
もっとも、以下のような方法が取れれば、家に住むことが出来る可能性があります。
相続放棄後に相続財産清算人から買い戻す
相続財産清算人は、基本的に、遺産を換価して国庫に帰属させることが必要となります。相続放棄をすると、遺産を相続することは出来ませんので、相続という方法で遺産(家)を取得するということは出来ませんが、遺産を買い取ることは可能です。
そこで、家に住みたいという場合には、相続財産清算人と話をして、相当額で家を購入することで、家を取得できる可能性があります。
限定承認する
限定承認というのは、プラスの遺産の範囲でマイナスの遺産を負担するという相続の方法です。例えば、プラスの財産が1000万円、マイナスの遺産が1500万円の場合、相続人が限定承認をすると、1000万円の範囲でマイナスの遺産を弁済すればよく、残リの500万円(=1500万円(マイナスの遺産)-1000万円(プラスの遺産))を返済する必要がなくなります。
遺産が現金・預貯金だけであればいいですが、不動産が含まれている場合、マイナスの遺産の返済に充てるために、不動産等を現金化する必要があります。この場合は、原則として競売を行うこととされていますが、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い弁済をすることで、その家を取得する事が出来ます。
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空き家を相続放棄すべき理由
遺産を相続すると、被相続人の遺産を丸っと取得することになります(ただし、同順位の相続人が要る場合には、相続分に応じて取得します。)。もし遺産の中に空き家があった場合、相続をすると、その空き家を管理しなければなりません。
しかし、例えば、遠方に空き家がある場合において、その空き家を管理することは困難でしょう。近くにある場合でも、管理の手間は小さいものではなく、また、いずれは空き家を解体しなければなりません。
被相続人のプラスの遺産が、マイナスの遺産を上回っている場合には、空き家も含めて相続し、その空き家を売却したり、解体したりする方がよいと思われますが、プラスの遺産が少ない場合には、空き家の管理責任を負うだけになりかねませんので、相続放棄を検討すべきでしょう。
相続放棄する場合の注意点
家の片づけや遺品整理はNG
被相続人の遺産を処分してしまうと相続放棄をすることが出来なくなります。放置していると腐ってしまう食料品など、明らかな無価値物を処分することは問題ありませんが、財産的価値があるものを、売ったり、捨てたり、自分のものにしたりすると、相続放棄をすることが出来なくなります。
家の片付けや遺品整理をする場合には、十分に注意をする必要があります。
他の相続人に相続放棄することを連絡する
法律上の義務というわけではありませんが、相続放棄をしたか否かは、他の相続人に大きな影響を及ぼします。他の相続人は、血縁者と考えられますが、親族関係を考えても、相続放棄をする場合には、他の相続人に連絡をしておいた方が良いでしょう。
家の相続放棄に関するQ&A
家だけ相続放棄できますか?
相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったものとみなされます。そのため、相続放棄をすると、被相続人の遺産全てを相続することが出来なくなります。
特定の遺産だけを相続放棄するということは出来ませんので、ご質問の家だけを相続放棄をするということは不可能です。
亡くなった父は賃貸に住んでいました。家の鍵を返すよう言われているのですが、返しても大丈夫でしょうか。それとも次順位の父の兄弟に渡すべきでしょうか。
次順位のお父様の兄弟に鍵を渡すべきでしょう。同順位の相続人がいない場合、相続放棄をすると相続権は、次順位の相続人に移転します。賃貸物件の賃借権も、被相続人の遺産の一つですので、相続放棄をした者が勝手に賃貸人に鍵を返すことは出来ません。そのため、相続放棄をした場合には、賃貸物件の賃借権を相続するであろうお父様の兄弟に鍵を引き渡すべきでしょう。
相続放棄した家が倒壊したら誰の責任になりますか?
現行法上、相続放棄をした時点において、占有していた財産に関しては、相続人又は相続財産清算人に対して財産を引き渡すまでの間、自己の財産に対する注意義務と同一の注意義務を負うとされています。
そのため、仮に、相続放棄をしていたとしても、その時点で、家を管理していた場合には、家の倒壊に対して責任追及をされる可能性があります。
したがって、ご質問に関して、相続財産清算人、相続放棄をしていない相続人、相続放棄をしたが家の管理をしている者が責任を負うことになると考えられます。
相続放棄した家の解体費用は誰が払うべきですか?
相続人の全員が相続放棄をした場合、最終的に相続財産清算人が必要な対応を取ることになりますが、例えば、家が朽廃している場合には、家の解体が行われることもあります。相続財産清算人は、遺産を基にして経費を支払いますが、相続人の全員が相続放棄をしている状況ですから、経費の支払いが見込めない場合も多々あります。そのため、相続財産清算人の選任を申し立てる際には、予納金が必要となることが多々あります。
解体費用は、予納金から支払われることになると考えられますので、相続財産清算人の選任を申し立てた者の負担になるといえます。
家の相続放棄についてお困りなら、弁護士へご相談ください
ここでは、遺産に家が含まれる場合の相続放棄についてご説明をいたしました。例えば、両親と同居していて、その両親が亡くなった場合には、相続放棄をしたとしても、放棄時に、家に住んで管理をしていた以上、管理責任が残ることとなります。
このような場合に、相続放棄をすべきか、相続放棄をした後にどうすべきか判断に迷うこともあるでしょう。相続放棄に関して、お困りのことがありましたら、ぜひ弁護士法人ALG&Associatesにご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)