会社という組織においては、従業員による不祥事が発生することを完全に防ぐことは難しいものといえます。
そこで、ここでは、従業員の不祥事が発生してしまった場合に、会社としてどのような対応をしていくべきなのかについてご説明いたします。
従業員の不祥事にはどのようなものがある?
従業員の不祥事については、様々なものがありますが、以下では、不祥事について、会社内での不祥事(対内的なもの)と、会社以外の第三者との関係での不祥事(対外的なもの)とに大きく分けて、それら具体例についていくつかご説明します。
会社内での不祥事の具体例
会社内での不祥事としては、会社の金銭等の使い込みや不正な経費請求等が挙げられます。
また、会社内での不祥事という意味では、従業員同士の喧嘩等のトラブル、さらにセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなども挙げることができますが、特にセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどの事例においては、被害者は会社ではなく、当該従業員ですので、その点では、対外的な不祥事であるともいえます。
そして、これらの不祥事の種類や内容によっては、対応を誤ると会社としての対外的な評価を大きく落としたり、民事的・刑事的責任を負うことも考えられます。
また、会社の金銭等の使い込みや経費の不正請求など、会社自身が被害者となる不祥事であったからといってきちんとした対応を怠ると、その後もそのような不祥事が横行することにつながるリスクもあります。
会社以外の第三者との関係での不祥事の具体例
対外的な不祥事については、例えば、従業員が取引先から依頼されていた業務を怠って取引先に損害を生じさせてしまったといったような、業務中の従業員の故意や過失で取引先に損害を与えてしまった場合、業務中に社用車で交通事故を起こした場合などのように、従業員が会社の業務中に(故意や)過失で第三者にけがをさせてしまった場合のように、従業員が業務を行っているときに生じるものが考えられます。
前者は、取引先に、後者は全くの第三者に損害を与えてしまっていますが、これらはいずれも会社の業務中に生じているものです。
しかし、このような会社の業務と関係しているものだけではなく、会社として対応が必要な不祥事には、これ以外にも、従業員の私生活のおける不祥事が含まれてくる場合があります。
これには例えば、従業員が、私生活上において、不同意わいせつや不同意性交などの性犯罪を犯した場合などが考えられます。
これらは、従業員の私生活上の犯罪ではありますが、会社として、そのような事態が発覚した以上、何らの対応もしないということは、会社にとってもリスクとなることが考えられます。
一方で、従業員の私生活上の不祥事についてすべて対応しなければならないのかというとそれも現実的ではなく、私生活上における非難されるべき行為が、直ちに全て不祥事としての対応が必要であるとは考え難いといえます。
ただし、広い意味での不祥事への対応は、時代と主に求められるものが変化していきますので、常に検討が必要です。
従業員の不祥事が発覚した場合の対応と流れ
先ほどもお話ししたように、対内的な不祥事であっても、対外的な不祥事であっても、きちんとした対応をしなければ会社としてリスクを負います。
そこで、以下では、不祥事が発覚した場合の対応についてご説明します。
①事実関係の調査
まず、最も重要なのが、事実関係を調査し、把握することです。
従業員の不祥事が生じた疑いがあっても、きちんとした事実関係の調査をしないままその後の対応をすれば、大きなリスクを負うこととなります。
このような調査の方法としては、関連する資料の精査や当事者・関係者からの聞き取り等の調査をすることが考えられますが、被害者とされる方やその他の関係者のプライバシー等に配慮するのはもちろんのこと、不祥事を起こしたとされる方へのプライバシー等への配慮も必要です。
さらに、不祥事を起こしたとされる方についても、きちんと本人の言い分を確認することが重要です。
もっとも、特に不祥事を起こしたとされている方のプライバシー等にどのようにはどの程度配慮すればよいのか、事実関係の調査はどこまで尽くせばよいのかは非常に難しい問題でもありますので、専門家に相談することが考えられます。
また、事実調査においては、民法上の使用者責任など、会社自身も責任を負う可能性があるのかについても確認する必要があります。
②関係者への対応や情報開示
次に、不祥事について、関係者に対し、必要な対応や情報開示を行うことが考えられます。
例えば、当該不祥事によって、取引先との取引を本来の約束通りに実行することが難しくなる場合には、当該取引先に速やかに連絡を入れることが考えられます。また、その他にも、不祥事の影響が及ぶ関係者(取引先や債権者、株主など)に必要な情報の共有をする必要が生じる場面はいくつも考えられます。
情報開示の方法も個別の連絡だけでなく、必要に応じて会社としての公式の文書やホームページへの記載当による公表も考えられます、
しかし、関係者に与える影響の大きさや不祥事との関連性の強さを考慮するだけでなく、当事者や被害者の名誉やプライバシーへの配慮や、事実確認がどの程度済んでいるのかによっても、共有してよい情報と共有してはいけない情報とを適切に判断する必要があります。
この点も難しい問題となりえますので、専門家に相談することが考えられます。
③被害者への対応
当該不祥事について、被害者の方がいる場合には、被害者の方に対しては、特に適切な対応を求められます。
会社として直接の責任や使用者責任を負う場合はもちろん、会社として社会的責任を負うべき場面でも、被害者の方への必要な説明、謝罪、(賠償責任がある場合には)損害賠償等の必要な対応を行う必要が生じ得ます。
そのため、会社としても、被害者の方の情報や被害の内容・金額、被害者として会社に何を求めているのかなどを把握する必要があります。
このような場合には、将来的な示談交渉も含め、弁護士に依頼して慎重に進めていくことが考えられます。
④従業員に対する処分
不祥事を起こした従業員については、必要な調査や当該従業員の言い分もきちんと聞いた上で、当該従業員に落ち度が認められる場合には、必要な処分をする必要があります。
そのような処分について以下でご説明します。
懲戒処分
会社にいて、従業員を懲戒処分するにあたっては、必要な事実調査や当該従業員の言い分もきちんと確認するなど適正な手続きを経たした上で、就業規則上の懲戒事由に該当するかを確認して行う必要があります。
そのため、不祥事が生じてから、適正な手続きを行うだけでなく、不祥事が生じる前から適切な懲戒処分ができる就業規則となっているかどうかを確認しておき、そうでないのであれば、きちんと就業規則を整えておく必要があります。
損害賠償請求
従業員の不祥事によって、会社が損害を被った場合、会社は、当該従業員に対し、被った損害について損害賠償を請求することが考えられます。
ただし、事案にもよりますが、使用者と従業員という立場に鑑みて、裁判においては、損害賠償請求の一部ないし全部が認められない場合もあります。
また、損害賠償をすること自体やその金額について、会社と従業員との間で示談が成立し、合意が成立したとしても、原則として、給与から天引きすることはできません。
給与からの天引きには従業員の合意が必要ですが、形式的に合意を取ればよいというものではなく、自由意志に基づく合意であったといえる必要があるため、慎重な対応が必要です。
被害届の提出や刑事告訴
従業員の不祥事の内容によっては、被害者として被害届の提出や刑事告訴を行うことが考えられます。
被害届と刑事告訴(告訴状の提出)のいずれを行うべきかについては、不祥事の内容や、捜査を開始することに対する警察側の対応内容等にもよりますので、警察や弁護士等と相談することが考えられます。
被害届や刑事告訴をすることは、そのような不祥事を許さないという会社としての姿勢を示し、検察官の判断等にもよりますが、加害者に公正な処罰を下してもらうことが期待できます。
しかし、加害者との示談を検討している場合には、被害届や告訴状の提出の有無や時期は、示談交渉に大きく影響を与えることが考えられますので、提出の有無や時期についてはきちんとした検討が必要です。
⑤再発防止策の策定
不祥事が起きた場合、優先すべきは、当該不祥事そのものに対する対応ですが、同じくらい重要なのが、今後同じような不祥事が起きないようにする、あるいは起きにくくするための再発防止策を検討・実施することです。
不祥事の内容や規模等によっても行うべき再発防止策は変わってきますが、まずは、そのような不祥事が生じた原因、特に会社としての管理体制、企業風土、慣習など、組織的な原因がなかったかの見極めが重要となります。
このような発生の原因については、 不祥事の内容や規模によりますが、弁護士等による第三者委員会を設置して調査してもらい、再発防止策を提言してもらうことも考えられます。
不祥事が起きてしまった原因に応じて、組織の在り方や就業規則等を見直していくことが重要です。
従業員が不祥事で逮捕された場合の対応
従業員が逮捕された場合も、きちんとした事実確認を行い、逮捕等を理由とする懲戒処分が許されるのかは慎重に判断する必要があります。
また、当該従業員が身柄拘束されることに伴う、業務の調整等も必要となります。
もっとも、従業員が逮捕された場合、会社になかなか必要な情報が入ってこない状況のままとなり、事実確認について、難しい状況におかれ、懲戒処分の適否についても、非常に難しい判断を迫られる場合がありますので、弁護士等の専門家に相談することが考えられます。
従業員の不祥事に適切に対応するための措置
これまでお話ししてきたもの以外にも、従業員の不祥事に適切に対応するための措置としては、役員・従業員への講習・研修や、内部通報窓口、第三者による監査制度の設置などが考えられます。
従業員の不祥事に関する裁判例
次に従業員の不祥事に関する裁判例(最高裁判所第3小法廷昭和45年7月28日判決)をご紹介します。
事件の概要
この事件は、当時、会社として、企業運営上、地域住民の信頼を保持や、職場規律の確保、従業員の作業意欲の高揚の緊急性や必要性があるとして、会社において、従業員に対し、会社規則の厳守や信賞必罰を強調していた時期に、その会社の従業員が、会社の組織や業務とは関係なく、夜遅い時間に、理由もなく他人の居宅に侵入し、住居侵入罪で処罰されたことについて、その会社における「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」との賞罰規定に該当するとして、当該従業員を懲戒解雇したものです。
裁判では、この懲戒解雇が有効であるといえるかどうかが問題となりました。
裁判所の判断
裁判所は、上記従業員の行為が、私生活の範囲内で行なわれたものであること、受けた刑罰が罰金低額であったこと、職務上の地位が指導的なものでなかったことなどを考慮すれば、上記行為が、会社の体面を著しく汚したとまでは評価できないとして上記懲戒解雇を無効としました。
ポイント・解説
まず、私生活の範囲内の行為であっても、会社の名誉を著しく失わせるような行為(上記裁判例では「会社の体面を著しく汚」すような行為)は、懲戒解雇事由となりえます。
しかし、裁判所は、私生活上の行為について懲戒解雇事由として、上記のように定めていたとしても、その解釈や運用は制限的かつ厳格になされなければならないと考えているようです。
そのため、特に私生活上の行為を理由に懲戒解雇をしようとするときは、十分な検討と慎重な判断が必要となります。
従業員の不祥事への対応は弁護士法人ALGにご相談下さい
従業員の不祥事が生じた場合、その内容と規模にもよりますが、限られた時間の中で、様々な対応や判断を迫られます。
しかし、そのような対応や判断が間違っていた場合、会社にとっても思わぬリスクにつながる可能性があります。
従業員の不祥事が起きた場合だけでなく、これから起きる不祥事を防止していくといったことについても、ぜひ弁護士法人ALGにご相談下さい。
無断欠勤が続く従業員がいたとき、その理由は様々なものがありますが、中にはうつ病になって出勤できなくなってしまっているケースもあります。
このような場合に、安易に解雇に踏み切ったりすると、当該従業員から損害賠償請求を受けるリスクもあるため、会社として適切な対応を心掛ける必要があります。
今回は、欠勤が続く従業員がうつ病であると疑われる場合に、会社が対応すべきことについて解説していきます。
無断欠勤が続く従業員がうつ病だった場合にまずすべきこと
無断欠勤をしている社員にうつ病の疑いがある場合は、会社として以下のような対応を行うべきです。
医師や産業医の受診を促す
欠勤前後の様子や欠勤後の連絡状況から、無断欠勤の理由が、従業員のメンタル面の不調と考えられる場合、まずは精神科医の受診を促しましょう。
うつ病にり患している人の中には、自覚がないために病院にも行っていないこともありますので、病院に行っていないようであれば注意的に促すべきです。
また、うつ病にり患しているのか否か、休業の要否、その休業を要する期間にかかる医師の診断結果を確認することは、今後の対応検討にあたっても重要です。
そのため、従業員には必ず医師の診断書を提出するように伝えるべきです。
休職命令を出して療養に専念してもらう
従業員がうつ病にり患していることが判明したときは、休職制度などを利用させて療養に専念させる必要があります。
うつ病にり患している従業員に就労を強制すると、さらに症状が悪化してしまうことがあります。
その結果、会社が適切な配慮を行わなかったものとして、安全配慮義務違反による責任を問われるおそれがあります。
また、従業員が休職を拒むような場合でも、療養を要する旨の診断書が出ている場合には、就業規則上の根拠があれば、休職命令を出して療養に入らせることも検討すべきです。
うつ病の従業員を休職させる場合の対応
欠勤している従業員がうつ病で、就労に耐えられない状況にあると判明したときは、会社として、当該従業員を休業させることを検討することになります。
休職を命じるには就業規則の規定が必要
就業規則や雇用契約書に休職制度が定められており、会社が従業員に休職を命じることが出来る旨の記載があれば、要件を充足する限り、従業員の同意がなくとも休職させることができます。
他方で、就業規則などに根拠がない場合は、一方的な命令によって休職させることはできません。
この場合は、問題の生じた従業員との間で話し合いを行い、休職の必要性に理解をしてもらって、その上で休職に入ることに同意を得てから行うことになります。
また、うつ病になった人の中には、自分の状況がきちんと理解できておらず、明らかに療養を要するような状況でも働き続けてしまう人がいます。
このような場合でも、会社としてきちんと療養をさせるといった対応をせず、本人の希望に任せて放置したりすると、病状が悪化したときに責任を問われることがあります。
そのため、休職制度は、きちんと整備しておくべきです。
休職制度について従業員に説明する
休職制度は、法律上の定めがあるものではなく、あくまで会社が任意に設定するものです。
そのため、多くの場合、会社によって制度内容が異なってきます。
この点、従業員が会社の定める休職制度についてよく知らないこともあり、よく分からない不安から休職を拒むことがあります。病気になってしまった従業員に、安心して療養に専念させるためにも、制度内容については、しっかりと説明するようにしましょう。
従業員の連絡先を確認しておく
休職に入ったあと、従業員と連絡が取れなくなるとその後の対応も困難となります。
特に療養に専念していると、会社からの連絡まで気が回らない人もいます。
これに備え、従業員本人の連絡先だけではなく、同居の家族や親族と言った緊急連絡先についても確認しておいた方が良いです。
休職中の給与・社会保険料などの取り扱い
休職期間中の給料については、会社が自由に設定できます。休職中は無給とすることも可能です。
もっとも、休職中は無給とした場合、従業員の生活が困難となり、療養に専念することに支障が出るおそれもあります。
このとき、傷病手当金の支給要件を満たす可能性がありますので、休職期間中の生活費に不安を感じている従業員に対しては会社から案内してあげた方が、スムーズに休職に入ってもらいやすいです。
一方で、従業員が休職に入ったとしても、社会保険料の納付は必要です。
休職期間が無給となっている場合など、控除できるだけの給料がない場合には、この社会保険料については、従業員に対して直接請求する必要があります。
そのため、休職制度には、この社会保険料の取り扱いも含めて定めておいた方がよいです。
もし、休職制度はあるものの社会保険料について定めがない場合は、制度の見直しを行っていただいたほうがいいでしょう。
うつ病の従業員が復職した場合の対応
うつ病の従業員が回復し、復職できる状態となっても、以下のような注意すべき点があります。
復職可否の判断基準について
復職は、休職事由となったうつ病が、勤務可能な程度にきちんと回復しているかどうかで判断をします。本人との面談時の受け答えや様子も重要な要素ではあります。
しかしそれだけで判断するのではなく、医師による復職可否にかかる診断書を取り付け、その内容を尊重して判断していくことになります。
もっとも、主治医は、従業員の意向に寄り添って診断をしていることもあるので、判断に偏りがないよう、指定医の診断を命じて、その診断内容も加味して判断を下す方がよいでしょう。
配置転換や就業時間短縮などの配慮
原則的には、休職前の職場への復帰が前提であり、問題なく就業できるのであれば元の職場に戻す必要があります。
しかし、元の職場での業務内容によっては、うつ病から復帰した直後の従業員には負担が大きすぎることもあります。そのような場合にまで元の職場に戻すことは、再発のおそれが高まってしまいます。
なお、医師による復職判断には、就労時間や就業内容など条件付きで認められることもあります。
この医師の指定する条件を満たして復職させるためには、休業前とは別業務につけなければならないこともあります。
上記のような場合、会社は、もとの職場だけではなく、就業時間の短縮や負担の少ない部署への異動も検討して、復職によるメンタル不調が生じないように配慮をする必要があります。
休職期間が満了しても復職が難しい場合はどうする?
復職できないことを理由に解雇できるのか?
ときには、従業員のうつ病が回復せず、休職事由が消滅しないときもあります。
就業規則に、休職期間の定めがあり、期間満了時に休職事由が解消されていない場合は退職又は解雇扱いとする旨の規定があれば、その規定に基づく対応を検討することになります。
しかし、この期間満了時に復職が可能であったか否かが問題となることがあります。
安易に復職不可として退職や解雇してしまうと、従業員から不当解雇として争われることがあるため、慎重な判断が必要です。
精神疾患による休職後の退職が無効とされた裁判例
事件の概要
精神疾患による休職後、休職期間満了により退職と扱われた事案で、復職可能であったか否かが争われた判例として、【大阪地裁平成20年1月25日判決】をご紹介します。
精神疾患を理由に病気休職に入った原告が、約1年後に復職の意思を示したものの、被告会社がこれを拒否し、休職開始から2年後に休職期間満了として退職としました。
この退職として扱ったことが理由のない就労拒絶であり違法であるとして、原告が、被告に対し、従業員としての地位確認、退職日以降の毎月の賃金と年2回の賞与の支払い、慰謝料等の支払いを求めた事案です。
裁判所の判断
本件事案は、従業員から復職可能なほどに回復しているとの診断書が提出されていたものの、被告からは、原告がそれ以前に独断で復職し、わずか4日で再び欠勤することになった前例があったため、会社側として復職可能との申告を信用できず、被告会社から医師との面談や原告本人との面談を申し入れても拒否されたために復職可否を判断できなかったという反論がされていました。
これに対し、裁判所は、2名の医師が、医学的理由とともに通常の労務に服することに支障がないと示した診断書を作成しており、復職可能との判断は、原告独断のものではないと認定しています。
その上で、調停中であったために医師や原告本人との面談が難しい状況であったならば、被告の嘱託医による診断を求める等の手段を講じることも可能であったとし、そのような交渉をすることなく被告会社が原告の復職を認めないとして退職扱いとしたことは、就業規則の適用を誤ったものとして無効であると判断しました。
ポイント・解説
復職の可否にかかる会社の判断において、会社には医師の診断を尊重することが求められています。
仮に、当該従業員に、復職してすぐに休業再開した事実があったとしても、復職を可能とする診断書が出ている以上は、会社の指定する医師の診察を求めるといった確認措置を取るべきであり、医学的にみて復職可能性がないと言えるかどうかをきちんと確認しないままに退職扱いとすることは無効と扱われる可能性が高いです。
つまり、従業員から復職の意思が示されたとき、会社として、復職の可能性に疑いをもった場合には、指定医の診察を受けさせたり、主治医に問い合わせしたりするなどして、医学的な見解を確認するように努めることが重要です。
従業員のメンタルヘルスケアのために企業ができること
上司や産業医に相談できる体制づくり
従業員のメンタル不調による欠勤は、うまく対処しなければ大きな問題となり得ます。
このとき、会社内に、従業員のメンタル不調のような異変を早い段階で察知できる仕組みを作っておくことも重要です。
メンタルヘルスに関する研修の実施
従業員の中には、メンタルヘルスに関する正しい知識を持っていないために、症状が悪化するまで自らのメンタル不調に自覚がないなど、発覚した頃には、事態が深刻となっていることもあります。
そのため、メンタルヘルスに関する研修を行い、従業員個人でメンタル不調を予防・回避するように促していくことも有効な対策になります。
例えば、全社員向けにメンタル不調時に見られる特徴や相談先を教える内容とし、管理職向けには部下のメンタル不調時の対応という内容とするなど、具体的場面を想定して研修内容を検討するとよいでしょう。
ストレスチェックの実施
労働安全衛生法の改正により、平成27年12月1日から、50人以上の事業場では、年に1回、従業員のストレスチェックが義務となっています。
これまで、50人未満の事業場は努力義務とされてきましたが、令和7年5月14日に公布された改正により、義務化されることとなりました。この義務は交付から3年以内に施行される予定です。
このストレスチェックでは、「仕事のストレスの要因」、「心身のストレス反応」、「周囲のサポート」の3領域を含むことが必要であり、検査の結果、一定の要件(高ストレスと判定とされた者など)に該当する従業員からの申し出があれば、会社は、医師による面接指導を実施することが義務となっています。
また、面接指導の結果に基づいて、医師の意見を聞いて、必要に応じ就業上の措置を取ることも必要です。
従業員がうつ病になった際の対応でお困りなら、人事労務に強い弁護士にご相談下さい。
無断欠勤をし始めた従業員がいたとき、この原因がメンタル不調にあると疑われる場合、直ちに解雇してしまうのは不当解雇と判断されるおそれがあります。
会社としては、休職の原因を確認するため、病院での診察などを促し、うつ病と判明した場合には休職制度の利用などを促して、まずは療養に専念させる必要があります。
休職期間が満了しても、復帰できるほどにうつ病が回復せず、今後も回復の見込みがないようであれば最終的に解雇を検討することます。
しかし、復職の可能性について、会社には可能な限りの配慮を行ってもなお、復職の見込みがないような場合でなければ不当な解雇と判断されることがあるため、やはり慎重な対応が求められます。
うつ病で欠勤したり、休職に入ったりした従業員がいる場合、その対応を間違えてしまうと、会社の安全配慮義務違反といった賠償義務に発展するおそれもあります。
このようなリスクを避けるためには、専門家のアドバイスやサポートを受けつつ、丁寧に対応していくことが望ましいです。
うつ病にり患した従業員の対応にお困りのことがありましたら、是非弁護士にご相談ください。
全員がハイパフォーマンスで仕事ができれば、それに越したことはありません。しかし、得手不得手やモチベーションの問題などで、どうしても十分なパフォーマンスを発揮できない社員もいるでしょう。それが許容できる範囲であれば問題ありませんが、会社が求める水準に大きく届かない場合もあるでしょう。
このページでは、会社が求める水準に大きく届かないローパフォーマー社員に関して、会社側の対応や注意点などについて、ご説明をいたします。
ローパフォーマー社員の特徴
仕事に主体性がない
どのような分野でもそうでしょうが、主体性がなければ能力を発揮することはできません。また、主体性がないと、受け身で、言われたことだけを最低限こなすという仕事の仕方になりますから、能力を上げていくこともできないでしょう。
さらに、受け身の仕事になりますので、上司が事細かく指示を出さないといけなくなります。主体性というのは、高いパフォーマンスを発揮するために必要な要素です。主体性の欠如は、ローパフォーマー社員の典型的な特徴の一つです。
同じミスを繰り返してしまう
人間ですので、ミスをすること自体は仕方がありません。しかし、不注意で起きるミスが繰り返し起きている場合には話が違います。何度も、注意や改善方法の提示を受けても、同じミスを繰り返している場合には、ローパフォーマー社員に当たるといえます。
同じミスを繰り返す理由は、さまざまでしょうが、改善するつもりがない、改善方法が分かっていないというものが考えられます。
勤務態度に問題がある
遅刻や無断欠勤を繰り返す場合や、勤務時間中に頻繁に離席して長時間戻ってこないという場合には、ローパフォーマー社員である場合が多いでしょう。
人によっては、短時間でも高い能力を発揮するかもしれませんが、多くの場合、遅刻や無断欠勤、勤務時間中の中抜けが多いと、労働時間が減りますので、必然的にパフォーマンスが落ちていきます。このような勤務態度不良もローパフォーマー社員の特徴です。
コミュニケーション能力が著しく低い
多くの仕事は、他者とのコミュニケーションを避けて通れません。
例えば、専門性が高く、一見して他者とのコミュニケーションが必要ないと思われるようなことであっても、顧客の要望を無視して進められる仕事といったものはほとんどないですから、コミュニケーション能力は必要不可欠なものです。
しかし、コミュニケーション能力が著しく低いと、他の社員と連携して仕事ができません。また、分からない業務があっても、他の社員に聞くことができませんので、業務が停滞しがちになります。他にも顧客の要望が汲み取れず、適切な対応が取れないことも考えられます。
この場合、適切に業務を進められませんので、コミュニケーション能力が著しく低い場合も、ローパフォーマー社員に当たります。
なぜローパフォーマー社員が生まれるのか?
仕事に対する成長意欲がない
自身の能力を上げることに興味がなく、受け身で、与えられた仕事をただこなすことだけを考えていると、経験年数に応じた能力が身に付いていきません。また、成長意欲がないと時代や状況の変化にもついていけないでしょう。
そうすると、企業が求める水準に届かなくなっていき、結果として、ローパフォーマー社員になってしまいます。そのため、仕事に対する成長意欲が乏しいことは、ローパフォーマー社員が生まれる原因となります。
知識やスキルが不足している
仕事を行うにあたって、必要な知識やスキルが足りないと、当然、企業が求めるパフォーマンスを発揮することはできません。
この場合でも、対応速度を上げたり、他の社員にやり方を聞くなどして対応ができれば問題ありませんが、汎用的なスキルであるコミュニケーション能力にも問題があると、業務知識や業務スキルを補うこともできません。こうなると、会社が求める水準に届かず、ローパフォーマー社員となってしまいます。
採用段階でミスマッチが生じている
社員の希望や特性・能力と実際の職務内容が合致しない場合には、社員のモチベーションの低下を招きます。また、社員の特性・能力と職務内容にずれが生じていますので、その社員が持つ力を発揮することもできません。このような場合には、ローパフォーマー社員になる可能性があります。
会社側の指導に問題がある
会社側の指導に問題がある場合もあります。例えば、同じミスを繰り返す社員に対して、「今後は気を付けるように」と注意をしても改善は見込めません。
このような注意では、何が問題であったか、今後、同様のミスをなくすためには何が必要なのかなどが分からないためです。
このような注意・指導では、実質的な注意・指導になっていません。その結果、同じミスを繰り返すローパフォーマー社員が生まれるという場合もあります。
ローパフォーマー社員を放置するリスク
組織としての生産性が低下する
当然ですが、社員のパフォーマンスが低いわけですから、組織としての生産性は下がります。それだけでなく、何らの対応もしないと、周囲の社員の中には、「なぜ自分は頑張っているのか」、「あれで許されるなら自分もそうしよう」と考え始める人もいるでしょう。
ローパフォーマー社員に対し何らの対応もしないと、結果として、周囲の社員のパフォーマンスまで低下させ、組織全体の生産性がますます低下する恐れもあります。
他の従業員の負担が増える
一人の社員の生産性が低ければ、その分、他の社員がフォローをする必要があります。得意不得意がある結果、持ちつ持たれつの関係になっているのであれば問題ないでしょうが、ローパフォーマー社員の場合、常に周囲の社員がフォローをし続けることになります。
これでは、周囲の社員は、不満を溜め続けることになります。結果として、フォローできる社員は会社から離れていき、ローパフォーマー社員のみが残るということにもなりかねません。
ローパフォーマー社員への対応を怠ると、優秀な社員から辞めていくという事態を招きかねないのです。
ローパフォーマー社員に対してまずやるべき対応
本人に問題点を伝える
ローパフォーマー社員の対応として、まず、何が問題なのかを本人に伝えることが考えられます。ローパフォーマー社員は、自身の問題点に気づいていない場合もあります。
また、問題点に気づいていた場合であったとしても、問題点の共通認識がなければ、その後の改善につなげることも困難です。そのため、本人に問題点を具体的に伝えることが必要です。
本人が達成すべき目標を設定する
モチベーションを高めるにあたって達成すべき目標を設定することは有用です。自分の行く先も分からないのにパフォーマンスを上げろ、モチベーションを上げろと言われても困るだけでしょう。
優秀な社員であれば自身で目標を設定しているかもしれません。しかし、ローパフォーマー社員の場合、目標自体がない、または、会社の方向性と異なる目標を設定している場合が多いと思われます。そのため、本人の希望も尊重しながら、会社が求める方向性に即した目標を設定するのが良いでしょう。
評価・報酬制度を見直す
評価・報酬制度を見直すということも重要です。自身の行為がどのように評価されているのか、そのフィードバックがないと頑張る方向性を間違えてしまうこともあります。そうでなくても、フィードバックがないと、何のために頑張っているのか分からなくなってしまいます。
また、評価という形でフィードバックのみがあっても、それが結果(報酬)に繋がらないとモチベーションが湧かなくなるでしょう。評価・報酬制度を見直し、適正なフィードバックと結果につなげるということも重要な対策です。
定期的な面談の機会を設ける
面談を通じて、本人の希望や思いを確認し、会社としての期待や現状の評価を伝えていくということも重要です。これも一つのフィードバックになりますので、本人のモチベーションの向上につながります。
また、定期的な面談によって、設定した目標の達成状況を確認し、どうすれば目標を達成できるかを一緒に考え、行動を促すということも可能となります。パフォーマンス向上のために、定期的な面談の機会を設けるという対応も取るべきでしょう。
ローパフォーマーの社員を解雇できるのか?
パフォーマンスが低いということで解雇は許されるでしょうか。結論としては、解雇は容易ではないということになります。
新卒入社なのか、中途採用なのかによって判断が変わるところもありますが、過去の裁判例に照らすと、長期雇用を前提として、職務経験や知識を積ませて教育していくという考えから、ローパフォーマンスでも、まずは、教育や指導による改善を行うべきと考えられています。
何度、教育や指導をしても、改善する見込みがなく、かつ、雇用関係を維持することが難しいとなれば解雇も考えられますが、その前提として、十分な教育や指導が必要になるということです。
ローパフォーマー社員を解雇する際の注意点
指導が十分されているか
上述のとおり、日本では、長期雇用を前提として、職務経験や知識を積ませて教育していくという考えが取られており、ローパフォーマー社員の解雇が認められるためには、教育や指導で改善する見込みがないことが必要です。そのため、まずは、適切な指導・教育を十分に行うことが重要です。
指導・教育に当たっては、なぜ問題となるのか、問題の原因は何かを伝えることや、その問題を解決するための具体的な解決案の提示が重要となります。抽象的に注意をするだけでは意味がありません。具体的な解決策までセットで伝えるようにしましょう。
指導をしても改善されなかった証拠が残っているか
いくら適切に教育や指導をしていたとしても、その証拠がないと、解雇の有効性を立証することができず、不当な解雇と認定されてしまう可能性があります。
また、解雇の点を措いたとしても、過去の教育・指導内容が分からなければ、適切な教育・指導を続けていくことはできないでしょう。
起きた問題や、それに対してどのような教育・指導をしたか、その教育・指導に対して、本人がどのように取り組んでいるのかといった点を記録し、証拠として残しておくことが重要です。
可能であれば配置転換を検討する
ローパフォーマンスの原因が社員の能力・特性と職務内容のミスマッチにある場合や人間関係の問題でパフォーマンスが発揮できない場合などでは、配置転換をして職務内容を変えるということも一つの方法です。解雇は最終手段ですので、解雇が認められるためには、先に手段を尽くしたかどうかも重要な事情となります。
そのため、会社として、その社員の特性に合わせて配置転換を行い、提供できる仕事がないかを模索するということが大切です。状況にもよりますが、配置転換によって、その社員の能力を活かせないかも考えるべきでしょう。
解雇の前に退職勧奨を行う
解雇の前に退職勧奨を行うということも考えられます。ミスマッチにより、ローパフォーマー社員となっている場合や、本人としても周囲に迷惑をかけていると認識しているなどの場合、退職勧奨に応じる可能性があります。
ただし、退職勧奨に対し、本人が拒否をした場合には、それ以上の退職勧奨を続けてはいけません。意に反する退職勧奨を続けた場合、それが違法行為となる可能性があるためです。
ローパフォーマー社員の中には、十分な業務を行うつもりがない一方で、そのまま会社に在籍することを希望する者もいます。応じない場合には、速やかに退職勧奨を止めてください。
ローパフォーマー社員の解雇に関する裁判例
事件の概要(東京地判平成12年7月28日(平成10年(ワ)第19747号))
この裁判例は、「労働能率が甚だしく低く、会社の事務能率上支障があると認められたとき」に該当するという理由で普通解雇された従業員(原告)が、その解雇が無効であるとして、会社(被告)に対し、従業員たる地位の確認と賃金の支払いを求めた事案です。
この裁判例では、解雇事由に該当するか、解雇事由に該当するとしても、不当な解雇(解雇権の濫用)になっていないかといった事項が争点となりました。
裁判所の判断
裁判所は、原告の欠勤状況や遅刻、無断離席、勤務状況、勤務態度を詳細に認定しました。
その上で、長期欠勤を含め傷病欠勤が非常に多かったこと(その総日数は解雇までの約5年5か月のうちの約2年4か月に及んでいました。)、原告が長期欠勤明けの出勤にも消極的な姿勢を示したこと、出勤しても遅刻・離席が多かったこと、出勤時の勤務実績も劣悪で、担当業務を指示どおりに遂行することができなかったこと、その結果、他の従業員が原告の代わりに業務をしたり、後始末をしたりしなければならず、被告の業務に支障を与えたことを理由として解雇事由に該当すると判断しました。
また、解雇の有効性については、上司らが指導を続けてきたが、原告の勤務実績、勤務態度が変わらなかったこと、原告には出勤して労務を提供する意欲が見られなかったことを示し、「被告が原告を解雇せざるを得ないと判断したことには客観的に合理的な理由がある」と認定し、有効な解雇と判断しました。
ポイント・解説
この裁判例では、上司は、欠勤後の就業再開に当たって、原告と面談をして、具体的な業務を指示していました。それだけでなく、上司は、原告に対し、「(1)勤務時間中は業務命令に従い、指示事項を確実に実行すること、(2)プライベートなことは職場に持ち込まないこと、(3)私語は慎むこと、(4)遅刻・早退は遅刻・早退簿に必ず記入すること、(5)離席に際しては了解を得ること」を指導していました。
これを見ると、上司は、単に、原告に注意を促したわけではなく、具体的に、何をしなければならないか、何をしてはいけないかを指導していたといえます。特に(1)、(4)、(5)の事項は、「出来た」、「出来ていない」が明確に分かりますので、指導に対する改善の有無・程度を容易に判断できる内容です。
このような指導を受けても原告の勤務実績、勤務態度が変わらなかったという点もあり、解雇が有効と判断されたと考えられます。この裁判例を見ても、ローパフォーマー社員の解雇に当たっては、先に、十分な指導と注意が必要といえるでしょう。
ローパフォーマーの対応でお困りなら弁護士法人ALGにご相談下さい。
このページでは、ローパフォーマー社員についての特徴や対応方法、解雇に当たっての注意点について説明をいたしました。
上記のとおり、日本では長期雇用を前提としており、ローパフォーマー社員というだけでは、なかなか解雇が認められません。必然的に、長期にわたる教育や指導が重要となり、継続的に、ローパフォーマー社員に対応することが求められます。
しかし、現在行っている教育や指導が適切か、どのような記録をつけるべきかなどを判断することは容易ではないと思います。
ローパフォーマー社員の対応にお困りのことがありましたら、ぜひご相談ください。
社員の問題行動は、他の従業員の職場環境を悪化させ、モチベーションの低下や退職を誘発する可能性がある等会社の経営に深刻な影響を与える可能性があります。
社員の問題行動の内容によっては、会社が放置しておくと、会社に対して法的責任を問われることもありますので、会社が放っておいてよいことはありません。
本記事では、社員の問題行動の典型や、それに対して会社がどのように対応するべきなのか、説明します。
問題社員(モンスター社員)とは?6つの特徴
「問題社員」又は「モンスター社員」は、法律用語ではなく、明確な定義はありません。ただ、文字通り、“会社にとって何らかの問題のある社員”といった認識はある人が多いのではないでしょうか。
明確な定義がない以上、一概に「このような行動をとる社員」=「問題社員」ということはできません。そこで、この項目では、どのような行為をしている社員が一般的に「問題社員」とされるかご説明します。
業務命令に従わない
まず一つ目は、会社の業務命令に従わない従業員です。
就業規則等には、社員は、会社の業務命令に従わなければならない旨を規定されていることが一般的です。
それにもかかわらず、会社又は上司の正当な業務命令に対して従わずない社員は、企業秩序を乱し、他の社員に対しても業務命令に従わなくてもよいと誤認させる可能性があります。
会社が組織として運営していくためには、業務命令違反には厳正に対処することが必要となります。
ハラスメントを行う
二つ目は、他の従業員に対するハラスメントを行う従業員です。
ハラスメントと言っても、セクハラ、パワハラ、マタハラと多岐にわたりますが、いずれも他の社員に対する攻撃であり、被害者となる従業員の心身を害するだけではなく、社内の雰囲気も悪くなるような行為です。
ハラスメント行為は、社会問題ともなっており、ハラスメント対策は、法律により会社に義務化され、厚生労働省も会社にハラスメント対策を呼び掛けています。
社員からハラスメント被害の訴えがあったにもかかわらず、何も対応しない場合には、被害に遭った社員から損害賠償請求をされる可能性があるため、注意が必要となります。
仕事を怠ける
三つ目は、仕事を怠ける社員です。
怠け方は、様々ですが、無断欠勤・遅刻・早退、長時間の離席、勤務中の私的な用事を行うなどが考えられます。
このような社員は、他の勤勉な社員の不満を募らせることになり、職場の雰囲気が悪くなるため対応が必要となります。
素行・私生活に問題がある
四つ目は、素行・私生活に問題がある社員です。
会社の外、勤務時間外の行動であったとしても、会社に害が及ぶ可能性があります。
SNSの個人アカウントで会社の誹謗中傷をする・会社の機密情報を流すといった行為、飲酒運転・痴漢・盗撮などをはじめとする犯罪行為は、会社の評判を貶め、取引先からの信頼の低下をもたらし、会社運営に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、このようは社員に対しても適切な対応が必要となります。
協調性がない
五つ目は、協調性のない社員です。
業務時間後の飲み会に参加しない程度であれば、そこまで問題になるわけではありません。
しかし、会社内での業務は、他の社員と業務を分担して進めていくことが多いため、報告・連絡・相談ができず、他の社員との連携が取れない社員は、会社の業務の停滞を招き、重大なミスの原因となり、結果として会社の損害につながる可能性があります。
そのため、このような社員に対しては、早期に対応をすることが必要になります。
能力不足
六つ目は、能力不足な社員です。
入社したばかりの社員が、仕事をすることができないことはやむを得ません。
しかし、入社後どれだけ指導を受けても業務内容を覚えられず、技術を習得することができず、成果を出せない社員に対しては「能力不足」として対応する必要があります。
問題社員を放置しておくことのリスク
上記のとおり、問題社員の行為は、企業秩序の乱れ、他の社員のモチベーションの低下、不満の蓄積、会社の業務停滞、会社の評価の低下、取引先からの信頼の低下等会社の経営に深刻な時代を招く恐れがあります。
ハラスメントの被害申告に対する対応の如何によれば、社員から損害賠償請求をされる可能性すらあります。
問題社員への適切な対応方法
問題社員に対しては、上記のとおり会社の経営に悪影響を及ぼす可能性があるため、何らかの対応をする必要があります。
しかし、対応を誤ると、問題が解決するどころか、かえって問題行動が悪化する可能性があります。
①まずは業務指導を行う
問題行動をしているとしても、指導をすれば、改善をする社員もいます。
そのため、まずは、問題行動に対して、当該社員に対して問題行動を指摘して、具体的にどのように改善するべきか指導をすることで、当該社員に対して自らの行動に問題があること、改善の必要があることの自覚を促します。
なお、その後の会社の対応の正当性を主張するためにも、いつ、どのような指導をしたのか、その指導により、当該社員の問題行動が改善されたのか否かを、証拠として記録を残しておくことが必要です。
②問題行動に対して注意処分する
上記のとおり、指導をしたとしても社員の問題行動の改善が見られない場合、注意処分をすることが考えらえます。
注意処分は、口頭注意だけではなく、文書で注意・警告をし、始末書や反省文などの提出を求めることがあります。文書での注意は、後述の懲戒処分の正当性を証明するための証拠となるため、写しなどを保管しおくことが必要となります。
③程度によっては懲戒処分を行う
会社から、指導をしても、注意処分をしても改善が見られない場合、懲戒処分を検討することになります。懲戒処分の内容は、会社に就業規則に定められている者によりますが、一般的には、戒告、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。
懲戒処分の程度は、問題行動の内容によりますが、懲戒処分をする場合には、当該社員に対して弁明の機会を与え、公平な手続きを経る必要があります。
問題社員を辞めさせることはできるのか?
問題行動をする社員に対して、指導、注意処分、懲戒処分をしても、当該社員に反省や改善が見られない場合には、会社としてもそれ以上、問題行動をする社員を雇用し続けることができないと判断することはやむを得ないといえます。
では、会社が問題行動をする社員との雇用関係を解消するためには、どのようにしたらよいのか、以下ご説明させていただきます。
まずは自主退職を促す「退職勧奨」を行う
会社として、問題行動をする社員を雇用し続けることが難しいと判断した場合に、いきなり「解雇」をするのではなく、「退職勧奨」をすることが考えられます。
「退職勧奨」とは、会社が社員に対して退職することを促すことです。
この退職勧奨はあくまで退職を促すものにすぎず、強制であってはなりません。
社員の自由意志による退職が必要となります。
この退職勧奨時の会社側の態度が威圧的であったりすれば、違法な退職勧奨とされて、事後的に当該社員の退職が無効と判断される可能性があります。
そのため、退職勧奨をする際には、録音・録画などで記録をして、事後的に会社の退職勧奨が強制していないこと、社員が自分の自由な意思で退職を決定したことを証明できるようにしておく等慎重に行うことが必要です。
退職勧奨に応じないときは「解雇」を検討する
会社が退職勧奨をしたとしても、問題行動をする社員が断固として自主的に退職することを拒否した場合には、いよいよ会社は「解雇」することを検討せざるを得ません。
しかし、解雇をするには、客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが必要とされます(労働契約法16条)。
また、解雇の事由については、就業規則に定めている必要があり、また、解雇するには、就業規則に定めた手続(特に懲戒解雇の場合には、当該社員に弁明の機会を与えること)を経なければなりません。
また、解雇は、社員にとっては、日々の生活費にかかわる問題になるため、社員が解雇の有効性を争う可能性も高くなります。
そのため、訴訟により争われたとしても、解雇が有効であることを主張立証することができるように、社員の問題行動をしていたこと、会社が問題行動に対して適切に指導・注意をしたこと、それでもなお当該社員の問題行動が改善しなかったこと等を証明することができる証拠を十分用意した上で、慎重に対応するべきです。
不当解雇と判断された場合の会社側のリスク
社員が解雇の有効性を争った結果、解雇が無効であると判断された場合、当該社員が復職することになる上、解雇をした後、支払っていなかった給与相当額を支払う義務が生じてしまいます。
また、当該社員の請求によっては精神損害に基づく慰謝料請求も認められる可能性もあります。
明らかに不当な解雇を繰り返す会社は、社員からの信頼も失う可能性もあり、このような実態が社外にも広がれば社員採用において、応募者が来ない等の人材確保に支障がでる可能性もあります。
そのため、こうしたリスクを避けるためには、専門家に相談しつつ事前に入念な準備をして、正当な手続きを踏むことが重要となります。
問題社員の解雇の有効性に関する裁判例
問題社員が解雇された場合、当該社員が解雇は無効であるとして裁判をしてくることがあります。
そのような裁判で、裁判所が解雇の有効性を判断するにあたっては、問題行動の内容・程度、会社が問題行動を改善するためにどのような行為をしたのか、解雇を回避するための努力はしていたのか等総合的に考慮して判断されます。
そのため、会社としては、問題社員が争ってきた場合に備えて、どのような指導・注意処分をしたのか、解雇より軽い懲戒処分をどのような経緯でどの程度しているのか等の証拠を備えておくことが肝要となります。
事件の概要
例えば、東京高裁平成28年11月24日判決(平成28年(ネ)第2098号、平成28年(ネ)第3139号)は、社員が他の社員に対して、怒鳴ったり、きつい言葉遣いや態度をとったり、叱責する等していたことに対して、そのような態度をとられた社員が強い不満やストレスを感じて退職したり精神的に追い詰められたりする等していたため、再三にわたり、言葉遣いや態度を改めるように注意したことを有効と判断した事案です。
裁判所の判断
訴えられた会社は、従業員が30名に満たない小規模な会社であり、当該社員の言葉遣いや態度等等により他の社員らとの軋轢が悪化し、他の社員が正常に勤務を継続することができなかったり退職したりする事態となり、会社の業務に重大な打撃を与えることになると判断したのもやむを得ず、また、小規模な会社においては、当該社員を他部門に配置換えをすることは事実上困難であるから、配置転換により職場環境の改善を図ることもできないため、解雇に代わる有効な手段はなく、また、会社から当該社員への再三の・注意にもかかわらず、当該社員は言葉遣いや態度の改善を改めなかったことから、解雇について客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当として解雇が有効でと判断しました。
ポイント・解説
本件で、①会社が再三にわたって当該社員に態度の改善を求めましたが、②当該社員が態度を改めることはなく、③当該社員の行動により正常に業務ができなくなったり、退職をする社員が出てきており、④会社の規模から配置転換等による解雇回避も難しいことから、解雇が有効と判断されたと考えられます。
このように問題社員であったとしても、解雇をするためには、解雇を回避するための努力として、当該社員の態度を改善させるための努力や、他の社員との軋轢を回避するための配置転換等を行っていることが必要と考えられます。
問題社員(モンスター社員)への対応で注意すべき点
問題社員は、注意をして改善をしなければ、解雇を検討するほかありません。
そして、上記のとおり、裁判で解雇が有効であると判断されるためには、証拠が必要となります。
そのため、社員の問題行動については、どのような問題行動をしているのか詳細に記録し、問題行動に対してどのような指導・注意処分を何回程度行ったのかといった記録を残し、その上で、就業規則に基づく処分をしていくことが必要となります。
これらの手続は、就業規則に則って適切に行われていることが必要となりますので、専門家と相談しながら慎重に進めていくことをお勧めします。
問題社員の対応でお悩みの際は弁護士法人ALGにご相談下さい。
上記のとおり問題社員への対応には、就業規則の整備を前提として、就業規則に則って、後の裁判による紛争にも備えつつ対応していくことが必要となります。
問題を解決するためのリスクを排除するためには、できる限り早期に弁護士に相談しておくことが有効と言えます。
弁護士法人ALGには、労働法に精通し、企業側の対応について適切なアドバイスを提供できる弁護士が揃っています。問題社員の対応にお困りの際には、ぜひご相談ください。
通勤手当は、不正受給の発生しやすい手当であると考えられます。
そのため、実は従業員が通勤手当を不正受給していたという事態に直面することも少なくないものといえます。
今回は、そのような通勤手当の不正受給が明らかになった場合に、会社としてどんな対応が必要となってくるのか、また、そもそもそのような不正受給を防ぐためにはどうすればよいのかについてお話します。
通勤手当の不正受給でよくある3つのパターン
まずは、よく起こりがちな不正受給の3つのパターンについてご説明します。
①会社に申請した経路よりも安い経路で通勤している
まずは、従業員が、実際には会社に申請している経路では通勤しておらず、それよりも安い経路で通勤しているというケースです。
つまり、虚偽の通勤経路の申告がなされているケースです。
②途中から通勤経路が変わっているにもかかわらず、変更の申請をしていない。
当初は、真実に即した通勤経路を申告して、通勤手当を受け取っていたが、その後、引っ越しや交通手段の変更等によって、通勤経路が変更され、必要な通勤費が減額しているにもかかわらず、変更の申請をせず、従前の通勤手当をもらい続けているという場合です。
③申請した住所地と異なる場所から通勤している
これは、そもそも、通勤手当の申請をするにあたって申請した住所が、真実とは異なっており、実際には申請している住所とは別のところから通勤しているため、本来必要な通勤費よりも高額の通勤手当を受け取っているというケースです。
通勤手当の不正受給が発覚した場合の会社側の対応
次に通勤手当の不正受給が発覚した場合に取るべき会社の対応についてご説明します。
不正受給の証拠を集める
まず、不正受給の事実を確認するためにも不正受給の証拠となるべきものを集めましょう。
具体的には、不正受給したと思われる従業員が通勤手当の申請をするにあたり提出した申請書類等 やこれに添付されていた交通費に関する領収書、会社が通勤手当を支払ったことやその金額がわかる書類(給与明細等)、当該従業員が会社に申請している住所のわかる書類(公的書類(免許証等)やその写しの提出がなされている場合はその書類も)を集めて確認することが考えられます。
場合によっては、当該従業員の同僚や上司等からの聞き取りをすることも考えられます。
本人に確認する
次に、きちんと証拠が集まり、不正受給の事実が確認できた場合や、疑いが強まった場合は、本人に確認することとなります。
この場合において、特に懲戒処分を検討している場合には、必ず本人に弁明の機会を与えるようにする必要があります。
一方的に責め立てたりするのではなく、冷静に事実を確認するようにしてください。
不正受給額の返還を求める
本人の弁明も確認したうえで、不正受給の事実が認定できた場合には、不正受給金額の返還を求めていくこととなります。
この際、証拠となる資料等から、返還を求めるべき不正受給の金額を算定し、不正受給した従業員と間でも、返還すべき金額の認識を共通にしておく必要があります。
このような金額についての認識が共通となったら、きちんと返還に関する合意書を当該従業員と締結するようにしましょう。
懲戒処分を検討する
不正受給の事実が明らかとなった場合、不正受給金額の返還だけではなく、懲戒処分を検討することが考えられます。
どのような懲戒処分を下すべきかは、会社の就業規則や不正受給した金額の大きさ、不正の悪質性の高さなどにもよります。
なお、懲戒処分を検討せずに、漫然と事態を放置してしまうことは、同一の従業員が同じことを繰り返したときに重い懲戒処分をすることの妨げとなったり、会社の規律を守るうえでの問題が生じることも考えられますので、この点はきちんと検討する必要があります。
再発防止策を策定する
最後に、今後、そのような不正受給が発生しないように、再発防止策を講じることが考えられます。
もしも、これまで会社が、通勤手当の支払いに当たり、従業員から提出された申請書類等をきちんと確認せずに漫然と支払っていたということであれば、申請書類や添付された領収書等の資料の確認を徹底する必要があります。
そもそも適正な申請であるのかについて確認できる資料が不足していたというのであれば、今後は不足していた資料(例としては交通費の領収書や通勤定期券のコピー等)を提出させることも考えられます。
その他にも懲戒処分の規定等も含めた就業規則の見直しや申請内容の確認等を容易にし、不正の有無を確認しやすくする等の意味で、必要な経費の精算等のためのシステムを導入するといったことも考えられます。
また、不正受給がどのようなもので、これが懲戒の対象や刑事罰の対象ともなりえることについて、社内回覧や研修その他の方法によって、従業員への教育や周知徹底を行うことによって、従業員の意識を高め、不正受給はしてはならないという意識を高めることも再発防止につながります。
通勤手当の不正受給を理由に懲戒解雇できるか?
通勤手当の不正受給のみで懲戒解雇することは基本的には難しいものといえます。
もっとも、不正受給した金額やこれまで不正受給を繰り返していたかどうか、行為の悪質性、返還の意志の有無などといった事情の総合的な考慮により、懲戒解雇が認められる可能性もあります。
裁判例から見る不正受給と懲戒解雇
先ほども述べたように、通勤手当の不正受給のみで懲戒解雇をすることは一般的に難しいものといえます。
しかし、東京地方裁判所令和5年3月28日判決は、従業員が、住所の届出義務に違反して正確な住所を会社に届け出ないまま、虚偽の通勤経路が記載された通勤手当支給申請を繰り返し、21年間にもわたって170万円を超えるもの不正受給をしたケースにおいて懲戒解雇は、客観的に合理的で、社会通念上相当であるから有効であるとしています。
このように、金額も多額で不正受給が長期間にわたって繰り返されていたような悪質なケースでは、不正受給による懲戒解雇等も十分に認められるものといえます。
また、不正受給以外にも懲戒事由となるべき非違行為等がある場合には、これらと合わせて解雇の有効性が認められたケースもあります。
通勤手当の不正受給で詐欺罪は成立する?
通勤手当の不正受給について詐欺罪が成立するケースも考えられます。
特に明確に故意をもって虚偽の申請をし、これによって会社が騙されたために本来払うべき通勤手当よりも高額の通勤手当の支払いを受けたケースでは十分に詐欺罪が成立することが考えられます。
不正受給が故意に基づく悪質なケースでは、被害届の提出や刑事告訴も行うことも考えられますので、一度弁護士にご相談ください。
通勤手当の不正受給への対応や予防策でお困りの際は弁護士にご相談下さい。
最初にもお話した通り、通勤手当の不正受給は、類型的にも発生しやすい不正であるといえます。
個別に生じた不正受給に関する対応方法はもちろん、今後そのようなことが起きないためにどのようにすればよいのかといったことについても、十分な経験や法的知識のある弁護士に相談することが有効であるといえます。
不正受給に関する問題でお悩みの場合には、一度、弁護士にご相談ください。
労働審判とあっせんの違いについて触れた後、あっせんの特徴、あっせんに対する企業側の対応について解説していきます。
「労働審判」と「あっせん」の違いとは?
労働審判とあっせんには、以下のように違いがあります。
労働審判の特徴
労働審判の場合は、裁判所で3回ほど期日が開かれます。
その期日において、労使双方の合意が得られない場合には、裁判所より審判がなされます。
あっせんの特徴
あっせんの場合は、労使双方の合意がなければ成立しません。
労使双方が合意に至らない場合、労働審判のように審判がなされることはなく、不成立で終了となります。
あっせんで取り扱われる労働問題
労使間のあらゆる労働問題があっせんの対象となります。
具体的には、以下のような紛争があります。
- 解雇、退職勧奨、雇止めなどの労働関係の終了に関する紛争
- 未払残業代に関する紛争
- 職場内のハラスメントに関する紛争
あっせんを実施する機関
あっせんを実施する機関は、以下の2つです。
- 都道府県労働委員会で行われるあっせん
- 労働局の紛争調整委員会で行われるあっせん
あっせんで労働問題を解決する流れ
まず、労働者があっせんを申請します。その後、あっせん実施機関から、あっせんの開始通知が送られ、あっせんに参加するかどうかの意思確認がなされます。
あっせんに参加する旨の回答をした場合には、あっせんが実施され、労使双方からの事情聴取や話し合いの促進、あっせん案の提示等がされます。
労使双方の合意が成立すればあっせんは成立となり、合意に至らなければあっせんは不成立となります。
あっせんによる解決を目指すメリット・デメリット
あっせんによる解決を目指すことには、以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
あっせんは通常、1回の期日しか開かれません。
労使双方に争いが少ないような事案において、短期間で解決が図れる可能性があります。
デメリット
あっせんは、労使双方の合意が成立しない場合、不成立で終了となります。
そのため、紛争の解決という点では、労働審判や訴訟に劣ります。
あっせんを申し立てられたときの企業側の対応
あっせんを申し立てられたときには、以下のような事情を考慮して、参加するかを考える必要があります。
あっせんへの参加は強制か?
あっせんに参加するかは自由です。裁判の場合と異なり、欠席したとしても、それにより労働者側の請求が認められるといったことはありません。
裁判の場合には、擬制自白(民事訴訟法159条1項)という制度があり、期日に欠席すると、相手方の請求が認められることになります。
あっせんへ参加すべきかどうかの判断基準
労使間トラブルにつき、会社の対応に違法性があり、労働者側の主張が正当な場合には、あっせんに参加すべきといえます。
あっせん案の受諾は拒否できるのか?
あっせん委員からあっせん案が提示されることもありますが、企業はこれを拒否することもできます。
あっせん案の法的効力
あっせん案に法的効力はなく、拒否したとしても、これにより企業に不利益になることはありません。
企業があっせんに応じないとどのようなリスクがある?
もっとも、企業があっせんに応じない場合、以下のようなリスクがあります。
労働審判や訴訟に発展する
企業があっせんに応じない場合、労働者は、労働審判や訴訟を起こす選択を行うことになります。
労働審判や訴訟に至った際には、あっせんによる場合と比較して、解決まで長期間要することになります。
不誠実な交渉態度と評価される
労働者側が正当な要求をしており、企業がこれに応じない場合、不誠実な交渉態度を評価されることがあり、その後、労働審判や訴訟となった際の、裁判官の心証が悪くなることがあります。
あっせんへの対応を弁護士に依頼するメリット
あっせんに参加したとしても、合意に至らないケースは多く存在します。
その場合には、労働者の申立てにより、労働審判や訴訟に移行することになります。
あっせんの時点で弁護士に依頼すれば、その後の労働審判や訴訟に至った際に、引き続き担当することができ、一貫した対応を取ることができます。
あっせんが不成立となった後にとるべき対応
あっせんが不成立となった際には、企業としては、労働者側から労働審判や訴訟が起こされるのを待つことになります。
結果的に労働審判や訴訟が起こされない可能性もありますが、労働者側に弁護士が付いている場合には、起こされる可能性が高いと言えます。
時効中断の効果について
労働局の紛争調整委員会で行われるあっせんの場合は、あっせんが打ち切られた場合、その旨の通知を受けた日から30日以内に訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、あっせんの申請の時に、訴えの提起があったものとみなされます(個別労働関係紛争解決促進法16条)。
そのため、あっせんの申請には、時効の中断の効果があることになります。
あっせんや労働審判を申し立てられたら、労働問題に精通した弁護士にご相談下さい。
あっせんを申し立てられた際、準備期間があまりなく、どのように対応すべきか困ることがあると思います。そのような際には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
法的トラブルの原因を特定し、都度適切なアドバイスをいたします。
この記事では「チェック・オフ」についてその内容、導入・廃止時の注意点について、裁判例の紹介も含めて説明します。
チェック・オフとは?
「チェック・オフ」とは、会社が従業員(組合員)の給与から組合費を天引きして労働組合に代わりに支払う仕組みです。この記事では、導入や廃止時の注意点について説明します。
使用者が労働組合に与える「便宜供与」とは?
「便宜供与」とは、使用者が労働組合に対して便宜を図る行為を指し、「チェック・オフ」は、この「便宜供与」の一種です。
「チェック・オフ」とは、会社が従業員(組合員)の給与から組合費を天引きし、労働組合に代わりに払う仕組みです。組合員にとっては支払いの手間が省け、組合にとっても集金が楽になるため、広く利用されています。
チェック・オフの申し入れに会社は応じる義務があるか?
まず、前提として、会社は労働組合から「チェック・オフ」の申し入れをされた場合、法的に応じる義務はありません。
しかし、過去に組合と会社の間で協定を結んでいたり、特に書面がなくとも長年にわたって慣行として「チェック・オフ」を行っていたりする場合に使用者側の意向により一方的に「チェック・オフ」を廃止することは、不当労働行為として違法となります。
チェック・オフを導入する際の注意点
チェック・オフは、労働基準法で規定されている「賃金全額払の原則」に反します。そのため、適法に行うためには、労使協定が必要です。
①チェック・オフ協定(労使協定)が必要
会社は従業員に対して、原則として、給与を全額支払う義務を負います(賃金全額払の原則)(労働基準法第24条第1項本文)。
そのため、会社が個々の従業員の給与から組合費を天引きする(控除する)「チェック・オフ」を導入するためには、労働基準法第24条第1項ただし書により、「業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」が必要とされます。
少数労働組合の場合はどうなる?
労働組合の構成者が少数にとどまる場合、労働者の過半数で組織する労働組合にあたらず、また、その労働組合の構成員の代表者が労働者の過半数を代表する者にあたらない場合があります。
このような場合には、会社と少数労働組合が賃金控除の協定をおこなっても労働基準法第24条第1項ただし書の適用はないため、本文に規定された、賃金全額払の原則により、「チェック・オフ」を導入することができません。
②組合員の個別同意(委任)も必要
使用者が適法に「チェック・オフ」を行うためには、書面による労使協定が存在するのみでは不十分であり、組合員の個別同意(委任)も必要とされます。
会社側から一方的にチェック・オフを廃止できるか?
既に「チェック・オフ」が導入されている場合に、会社が一方的に「チェック・オフ」を廃止したり拒否したりすると、不当労働行為と見なされる可能性があります。
不当労働行為とは、会社が労働組合の活動を妨害したり、組合に不利な扱いをすることです。
不当労働行為(支配介入)に該当した場合のリスク
「チェック・オフ」の廃止又は拒否が不当労働行為にあたるとみなされた場合、労働委員会から会社に対し、救済命令が発せられる可能性があります。
チェック・オフの廃止が不当労働行為にあたるとみなされた判例
以下では、「チェック・オフ」の廃止が不当労働行為にあたると判断された裁判例を紹介します。
事件の概要
バス会社が組合員に対する組合費の天引き(「チェック・オフ」)を一方的に廃止したことの違法性が問われた事案です。
会社は労務事務の簡素化を理由に「チェック・オフ」を廃止しましたが、労働組合はこれを組合活動への妨害(不当労働行為)だと主張しました。
裁判所の判断
事件番号: 平成4年(行ウ)第2号
裁判年月日: 平成6年10月12日
裁判所: 岡山地方裁判所
裁判種類: 判決(不当労働行為救済命令取消請求事件)
ポイント・解説
裁判所は、会社がチェック・オフを一方的に廃止した行為について、不当労働行為にあたると判断しました。その根拠として、30年以上にわたって「チェック・オフ」が実施されてきた労使慣行が存在していたこと、そして廃止の理由が不合理であることを挙げました。
この行為が不当労働行為に当たる理由は、会社が労働組合の弱体化を目的として、労使慣行を一方的に破棄したと見なされたためです。
労働組合法第7条第3号の「支配介入」、すなわち「労働組合の運営に経理上の援助を与えること」が禁止される一方で、正当な理由なくチェック・オフを廃止することは、労働組合の運営を妨害する行為として違法と評価されました。
(なお、判決の基準時の時点において、会社はすでに「チェック・オフ」を再開しており、労働組合の要求が実現しているため、裁判で命令の取り消しを求める「法律上の利益」を欠くとして、この部分の訴えを却下しました。)
チェック・オフの導入や廃止でお困りなら、労働組合対応を得意とする弁護士にご相談下さい。
「チェック・オフ」については、労働基準法や労使協定についての理解が必要となります。また、労働組合への対応にも慎重さが求められる場合があります。
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労働者と会社との間にトラブルが起きた場合の解決制度として、訴訟以外に労働審判というものがあります。
労働審判は、訴訟よりも時間や費用の負担が少なく、かつ実効的にトラブルを解決できる制度として創設されました。
特に時間面では、原則として3回以内の期日で審理されるため、迅速な解決が実現できる一方で、労働審判では第1回目の期日で裁判所の心証が決まるため、第1回目の期日でどれくらいの主張、立証ができたかが結論を分ける可能性があります。
以下では、労働審判の第1回目の期日の重要性を述べた上で、第1回目の期日に向けて、会社側がどのような方針、戦略をとることが考えられるかを検討します。
労働審判の第1回目期日の重要性
労働審判は後述のとおり、原則として3回以内の期日で審理されるため、労働に関する当事者間のトラブルを迅速、かつ効果的に解決できるものです。
もっとも、第1回目の期日では、争点について主に労働審判官から当事者双方に対して事情聴取がなされますが、多くの場合は第1回目で事情聴取を終えて、第2回目は補充的な事情聴取がされるにとどまります。
また、双方の態度によっては、第1回目の期日で話し合いがまとまることもあり得るため、労働審判では第1回目の期日がとても重要になります。
労働審判は原則として3回以内の期日で審理される
労働審判制度は、訴訟よりも少ない負担で、かつ実効的にトラブルを解決できる制度として創設されました。
労働審判は、話し合いがまとまらない場合に、裁判官である労働裁判官と労働問題に精通している労働審判員が協議して審判という一定の判断を下すもので、当事者間のトラブルを、裁判所を通して解決するという点では、通常の裁判と共通しています。
もっとも、労働審判と通常の裁判とでは、回数制限の有無が異なります。具体的には、通常の裁判であれば、特に回数の制限はなく、原告と被告が互いに主張や立証をし尽くすまで審理が継続されます。
しかし、労働審判は、法律で、期日を開くのは原則として3回までと決められています。
労働審判委員会の心証形成は第1回目期日でほぼ決まる
第1回目の期日では、争点について、主に労働審判官から当事者双方に対して事情聴取がなされます。
労働審判においては、主張・立証は、やむを得ない事由がある場合を除き、第2回が終了するときまでに行うとされていますが、多くの場合は、第1回目の期日で事情聴取が終わり、第2回目以降の期日は、調停がメインで行われます。
そのため、ほとんどの場合、労働審判委員会の心証は第1回目の期日で形成されることから、第1回目の期日で全ての主張・立証を尽くすつもりで準備することが必要です。
労働審判の流れ
労働審判は、訴訟よりも迅速にトラブルを解決できることが大きなメリットです。
具体的には、第1回期日の指定→第1回期日後、数週間から1ヶ月程度後に第2回期日→第2回期日後、数週間から1ヶ月程度後に第3回期日→審判という流れで進みます。
そのため、労働審判であれば、ほとんどの場合、3ヶ月~4ヶ月程度で結論が出ます。
第1回目期日はいつ・どのように指定される?
労働審判手続きは、一方当事者から申立てがされることによって開始されます。
そのため、労働審判を申し立てたい人が、裁判所に対し、労働審判の申立書を提出する必要があります。
裁判所は、労働審判の申立書が提出されると、原則40日以内に第1回目の期日を指定し、両当事者を呼び出すことになります。
第1回目期日で行われることとは?
第1回期日では、両当事者の主張を整理して、争点を明らかにします。
その後、労働審判委員会が、それぞれが出した証拠を調べることになります。
もし、第1回目の期日で労働者側や会社側が譲歩する姿勢を見せるなどして、話がまとまりそうな場合は、調停によってトラブルの解決が図られます。
第1回目期日に向けてどのような方針・戦略を立てるべきか?
前述のとおり、労働審判では第1回目の期日はとても重要なものとなります。
第1回期日では、話し合いがまとまることもあるため、期日に臨むにあたっては、会社としての主張や解決策、方針をしっかり立てておく必要があります。
和解の可能性がある場合
労働者の主張に対して、会社側が譲歩できる範囲を検討しておくことが必要です。
たとえば、労働者が不当解雇であるとして、解雇が無効であることを主張していた場合に、労働者が本当は職場に復帰することではなく、金銭での解決を望んでいると考えられる場合には、その金額によっては和解の可能性もあり得ると思われます。
そのため、このような場合には、会社は金銭を支払うことが可能なのか、支払えるとしてどの程度までなら支払えるのかといったことを検討する必要があります。
労働者側と徹底的に争う場合
会社側が労働者側と徹底的に争う場合には、異議申し立てをして、訴訟に移行することを考えなければなりません。
もっとも、その場合であっても、何の準備もせずに第1回期日を迎えると、裁判官や労働審判員に会社側の主張がうまく伝わらない可能性があり、会社側に不利な心証を形成される可能性があります。
そのため、労働者と徹底的に争う場合であっても、労働者の主張に対してどのように反論するかを決めて臨む必要があります。
会社側が主張すべき反論とは?
労働審判で争点となっている労働問題によって、会社側が主張すべき反論は変わります。
たとえば、不当解雇が争点となっている場合には、会社側は、解雇に合理的な理由があり、かつ相当性があることを反論として主張することが考えられます。
それぞれの争点にあわせて、会社側に有利な反論を主張することが重要です。
出頭する関係者の人選も重要となる
労働審判では、当事者や出頭した関係者(証人等)からの事情聴取がされますが、この事情聴取で聞き取った事実関係等は、裁判官や労働審判員が心証形成に大きな影響を与えます。
そのため、労働審判を有利に進めるためには、事実関係をよく知っており、会社側に有利な証言をしてくれる関係者に参加してもらうことが重要です。
また、裁判官や労働審判員は、事情聴取のときの態度等も心証を形成するにあたって見ていますので、労働審判の場に参加すると不用意な発言をする可能性がある関係者を出席させることには一定のリスクがあります。
第1回目期日までの準備期間は非常に短い!
前述のとおり、第1回目の期日は、労働審判を申し立ててから40日以内に指定されますが、労働審判を申し立てられた会社は申立書が会社に届くことで労働審判が申し立てられたことを初めて知ります。
それから、第1回目の期日までの間に、主張、反論、解決策を固めておくだけでなく、会社側の主張を裏付ける証拠等の準備もしなければなりません。そのため、準備期間はとても短いことに注意が必要です。
提出期限までに答弁書を作成する
期日が決まると、裁判所から会社へ申立書等が郵送され、第1回期日の1週間前までに答弁書を提出するように期限が設定されます。
答弁書の提出期限をすぎてから提出したり、内容として不十分な答弁書を提出すると、裁判官や労働審判員が答弁書の内容を十分に検討する時間がとれなかったり、会社側の言い分がうまく伝わらない可能性があり、結果的に会社側が不利な立場となる可能性もあるため、提出期限を守ることが重要です。
主張を裏付ける証拠を集めておく
会社側は、当該労働審判で争点となっている労働問題に応じて有利な反論を主張するとともに、その主張を裏付ける証拠を収集し、提出する必要があります。
主張のみですと、労働者側から「そんな事実はない」等と事実関係を否定された場合に、裁判所は真偽が不明となり、会社側の主張が認められない可能性があります。
そのため、会社側は、上記のような場合に備えて、労働者とのやりとりをメモしておく等、記録として残るような運用をしておくことをおすすめいたします。
労働審判の準備期間は短いです。なるべく早い段階で弁護士にご相談下さい。
労働審判手続きは原則3回以内に終了しなければならないとされており、迅速な対応が求められます。
また、争点となっている労働問題によって、会社側に有利な主張は変わることに加え、答弁書の内容によっては、会社側に不利な心証を形成される可能性もあります。
労働審判を申し立てられ、お困りの方は、弁護士にご相談ください。
昨今、労働者の権利意識の高まりにより、雇止めをしたことで、労働者から雇止めの無効を主張され、裁判所に労働審判の申立てがされることがあります。
労働者から雇止めの無効を主張されて、労働審判が申立てられた場合、会社としては、どのような対応をするべきなのでしょうか。以下では、雇止めの無効が主張された場合に、どのような主張・準備をしていくべきか、解説していきます。
雇止めとは?労働契約法上のルール
そもそも、「雇止め」とは、有期労働契約(期間の定めのある労働契約)が更新されずに、期間満了で終了することをいいます。期間満了による労働契約を終了させるとしても、労働者の保護のため、労働契約法により雇止め法理というルールが定められています。
雇止め法理(労働契約法19条)
労働契約法19条は、有期労働契約が、実質無期タイプ(同条1号)、または、期待保護タイプ(同条2号)のいずれかに該当する場合に、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない雇止めを無効とする「雇止め法理」を定めています。
雇止めが無効とされた場合、労働者は、雇止め前と同じ条件で働くことができます。
実質無期タイプは、有期労働契約が反復して更新され、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められる場合(1号)、期待保護タイプは、労働者が契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することに合理的な理由があると認められる場合(2号)と定められています。
無期転換ルール(労働契約法18条)
労働契約法18条は、「無期転換ルール」を定めています。
これは、有期労働契約が更新され、通算契約期間が5年を超えた労働者から申込みがあった場合、会社はその労働者との労働契約を期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換しなければならないというルールです。
この申込みがあった時点で無期労働契約に転換するため、会社側がこれを拒否することはできないことに注意が必要です。
雇止めで労働審判を起こされたら?会社側が主張すべき反論
労働者から労働審判の申立てをされて雇止めの有効性を争われた場合、会社側としては、労働契約法19条の要件を満たさないことを示す事実関係や法的主張を行っていき、反論を準備していくことが必要です。
雇止め法理の要件毎にどのような主張をしていくか、説明していきます。
①無期雇用(正社員)と同視できない
労働契約法19条1号が適用されるのは、有期契約労働者が、契約更新が反復継続して行われ、無期雇用の労働者(正社員)と変わらない状態で働いており、雇止めが解雇と同視できるような場合です。
会社側は、当該労働者が、正社員とは明確に異なっていたことを主張します。
業務内容が異なる場合
労働者が正社員と明確に異なるとの主張をするために、業務内容の範囲が異なることを主張していくことが必要です。
このためには、正社員と比べて当該有期契約労働者の業務内容が限定的であること、一時的な業務に従事していたことなど、労働者と正社員のそれぞれの具体的な業務内容を示しながら、業務内容が異なることを示していきます。
業務内容が限定的であることに伴って責任の範囲も限定されていること、業務内容の違いに関わって、正社員と異なって配置転換や昇進が無いこと、就業規則や給与規定の適用が正社員と区別されること、正社員と異なって賞与や退職金の規定、福利厚生が異なることを主張することも有用です。
②契約更新の期待を持たせる事情はなかった
労働契約法19条2号が適用されるのは、労働者が契約更新を期待することに合理的な理由がある場合です。会社側は、更新の期待を持たせるような事情がなかったことを具体的に反論します。
「契約更新の期待を持たせる事情」とは?
「契約更新の期待を持たせる事情」は、雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動などの事情を考慮して判断されます。
会社としては、例えば、更新の有無が毎回厳格に審査されていたこと、自動更新の合意や慣行がなかったこと、更新のたびに契約書を締結し、雇用期間の満了が意識されていたこと、会社側が更新を確約するような発言をしていないこと、更新しない可能性について事前に説明していたこと、明確に更新しない理由を伝えていたこと、雇用契約書に「更新はしない」または「更新する場合がある」など、更新の可能性が限定的である旨が明記されていたこと、契約書の更新条項に、更新の条件が明確に記載されていたこと、更新回数が少ないこと、更新を前提としない一時的な業務であることを主張して、契約更新の期待を持たせる事情が無いことを主張していきます。
③雇止めに関して合理的な理由がある
上記の他にも、雇止めの有効性を主張するために、雇止めに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる事情が必要です。
このため、会社側は、雇止めの合理的な理由を具体的に主張することが必要です。
【ケース別】雇止めが認められる合理的な理由とは?
雇止めの合理的な理由は、代表的なケースとしては、会社側の事情としては会社の経営の悪化があること、労働者側の事情としては、業務命令に反していること、能力が不足していること、健康上の不安があることなど理由などが挙げられます。
経営の悪化によって雇止めをする場合には、人員削減をすべき程度の会社の状況か、当該労働者を選定する合理的な理由があるか、配置転換などによって雇止め以外の手段をとることができないか、具体的に主張していくことが必要となります。
業務命令違反や能力不足によって雇止めをする場合には、指導をしているか、どのような指導をしているか、他の業務を行わせることができないか、などを具体的に主張していくことが必要です。
健康上の不安がある場合には、休職を経て復職をさせることが難しい状況なのか、などを具体的に主張していくことが必要です。
バックペイや慰謝料を請求された場合に主張すべき反論
労働審判では、雇止めの無効と同時に、雇止め期間中の賃金(バックペイ)や慰謝料が請求されることがあります。
バックペイの請求に対する反論
バックペイとは、雇止めが無効とされた場合に、労働者が働けなかった期間の賃金として会社が支払うべき金額です。会社側は以下の点を主張し、バックペイの減額または不払いを主張します。
例えば、雇止めに労働者が素直に応じている、労働意欲が喪失している、他社での就労により収入を得ている、といった事情をもとに、バックペイの支払が必要ないこと、バックペイの減額をすべきとの反論をすることが考えられます。
正社員との待遇差による慰謝料請求への反論
有期契約労働者が、正社員との間に不合理な待遇差があるとして慰謝料を請求してくる場合があります。これに対して会社側は、労働契約法20条の「不合理な待遇差の禁止」に違反しないことを主張します。
このためには、当該有期契約労働者と正社員では、職務内容、業務を命じる範囲、責任の程度が異なり、その差が待遇差の合理的な根拠となっていること(職務内容、配置変更の有無、責任の程度の違い)、正社員は長期的な育成を前提とした人材活用が行われている一方、有期契約労働者は特定の業務や期間を限定した雇用であること(人材活用の仕組みの違い)、会社への貢献度、勤務成績、勤続年数など、待遇差に合理的な理由があることを具体的に説明していきましょう。
労働審判(雇止め)の答弁書を作成するうえでのポイント
答弁書は、会社側の主張を労働審判委員会に伝える最初の重要な書面です。
なぜ労働審判では答弁書が重要となるのか?
答弁書は、第1回期日前に、会社側の主張や立場を労働審判委員会(裁判官1名、労働審判員2名)に伝える最初の機会です。その後の審理の方向性を左右する重要な資料となります。
労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終結させる短期集中型の手続きです。このため、最初の答弁書で会社側の主張を漏れなく、かつ簡潔に分かりやすく提示することが不可欠です。
また、答弁書に記載された内容は、その後の裁判官による事実認定の基礎となります。不明確な点があると、不利な事実認定をされる可能性があります。
このため、主張すべき事実関係を明確に主張していくためにも、答弁書の記載が重要です。
労働者が請求している内容を把握する
答弁書は、労働審判の申立書に記載された内容を争うことを明確に示すための書面です。
このため、答弁書を作成する前に、労働者側から提出された申立書を詳細に読み込み、申立書のどの部分にどのような反論をするのか考えていくためにも、申立書の内容を正確にとらえることが必要です。
申立書には、大きく、①請求の趣旨、②請求の原因が記載され、③希望する解決方法の記載がされることがあります。
①請求の趣旨は、労働者が何を求めているのか、端的に記載されます。
雇止めの無効を求めるのか、雇止めの無効を求める以外にも、賃金の支払や慰謝料を求めるのか、などが記載されます。
②請求の原因には、雇止めの無効を主張する理由として、更新の期待を抱く事情などが記載されます。
また、賃金を求める場合には、雇用契約の内容、慰謝料を求める場合には慰謝料が発生すべき事情が記載されます。
③希望する解決方法としては、復職や金銭解決としてどの程度の金銭を求めるのか、記載されることがあります。
このような内容を正確に把握したうえで、会社の立場として、どの点を争っていく必要があるのか、対応関係が分かるように、答弁書の作成をしていくことが必要です。
会社側の反論を裏付ける証拠を提出する
答弁書には、会社側の反論を裏付ける客観的な証拠を必ず添付します。
例えば、以下のような証拠が挙げられます。
- 労働契約書・雇用契約書(期間の定めが明記されているもの)
- 更新時の面談記録や議事録
- 就業規則、賃金規程、賞与規程、退職金規程など
- 人事評価シート、業務日報、指導記録など(勤務状況・能力不足を主張する場合)
- 経営状況を示す資料(経営上の理由を主張する場合)
- 雇用契約締結時の募集要項や求人票
- 電子メールやチャットの履歴
証拠は、番号を付けて特定し、答弁書の中でどの証拠の何ページが、どの主張を裏付けているのかを明確に記載することで、労働審判委員会の理解を助けます。
雇止めについて争われた裁判例
ここでは、雇止めの有効性が争われた裁判例を一つご紹介します。
事件の概要
私立大学に非常勤講師として雇われていた労働者に対して、雇止めをしたところ、雇止めの無効を主張されて、訴訟提起された事案です。
裁判所の判断(東京地判令和6年1月30日(令和3年(ワ)第25476号))
裁判所は、以下のように、判断して、雇止めを有効と判断しました。
「被告は、ある程度の期間で授業科目や人材が入れ替わることにより、教育内容及び教育方法に対する学生や社会のニーズを柔軟に反映することができるとの考え方に基づいて、非常勤講師との間で有期労働契約を締結してきたものということができる。」「そして、…被告は、平成28年4月1日以降に新たに非常勤講師との間で締結する有期労働契約について、更新の上限を設けることとし、本件契約書に他学部及び被告が設置する他の学校での有期労働契約(他の教職員資格を含む。)を通じて通算で5年に達するときは更新しない旨の本件更新上限条項を明記したほか、これと同趣旨の定めを設けた本件非常勤講師規程を制定しており、本件非常勤講師規程においては、非常勤講師は、「学部等において授業時間割又は年間授業計画等によって授業科目及び関連業務を行うため、期間を定めて任用される者」と定義され、更新について、学部等の次年度授業の開講状況等を考慮して決することとされるなど、授業時間割等の変更や人材の入れ替わりが念頭に置かれている。」
「また、…本件大学の非常勤講師は、授業の実施以外に研究活動や校務運営活動に係る業務等の一般的に中長期的に継続する性質を有する業務を行う専任教員とは異なり、その職務が授業及び授業実施に関わる業務に限定されている。そして、…、被告は、大学設置基準10条1項に沿って、専任教員に原則として1週間に5講義(10時間)の授業を担当することを求めるなど、授業科目をなるべく専任教員に担当させることとしており、専任教員が本件大学において担当するコマ数は、非常勤講師の担当するコマ数を1人当たりの平均値において大きく上回っている。」
「以上のような本件大学における非常勤講師の人事制度上の位置付け及びその運用に照らすと、被告と非常勤講師との間で平成28年4月1日以降に締結された有期労働契約による雇用が、本件更新上限を超えて、長期間にわたって継続することが想定されていたとはいい難い。」
と述べて、雇止めが有効であったと判断しました。
ポイント・解説
裁判所は、会社として、短期間での労働者の入れ替わりを想定し、更新上限を定めていたこと、正社員(上記事例の場合だと専任教員)との差異を認定して、雇止めの有効性を判断しています。
会社としては、更新上限を定めておくことも有用ですが、更新上限期間を超えない労働契約の実態となるように運用することにも注意が必要です。
雇止めで労働審判を訴えられたら、労働問題に詳しい弁護士にご相談下さい。
雇止めに関する労働審判は、労働契約法19条の解釈適用、事実関係の立証、適切な反論の組み立てなど、専門的な知識と経験が求められる複雑な手続きです。
特に、労働者側の主張を争う場合には、会社側の主張を裏付ける客観的な証拠をどれだけ収集・提示できるかが鍵となります。
労働審判は、迅速な解決を目指す手続きであるため、初動が非常に重要です。労働審判を申し立てられた場合は、速やかに労働問題に詳しい弁護士にご相談いただくことを強くお勧めします。
弁護士は、法的な観点から状況を分析し、最適な反論戦略を構築し、答弁書の作成や審判期日での対応をサポートすることで、会社様の利益を最大限に守ります。
不当解雇、つまり、解雇の有効性が争われる労働審判において、会社側が何を主張するべきか、また、労働者側の主張に対し、答弁書で反論をすることになりますが、答弁書では何に気を付ける必要があるかを把握しておくべきです。以下では、会社側が主張すべき点、答弁書のポイントについて、解説をしていきます。
不当解雇の労働審判で会社側が主張すべき反論とは?
労働審判は、訴訟とは異なり、審理期間が短いため、反論のポイントはできるだけ絞る必要があります。以下、会社側が主張すべき反論について、詳しく解説していきます。
①「労働者」に該当しない
まず、労働審判では、「労働者」に該当することが前提となっています。そのため、労働審判を申し立てた者が「労働者」に該当しない場合は、会社側がそれを主張すべきです。
労働者に該当するか否かについては、明確な基準があるわけではありませんが、以下のように判断をします。
労働者性の判断基準
「労働者」に該当するか否かは、形式的な面ではなく、その実態によって判断されます。具体的には、契約内容に関わらず、会社の指揮命令に基づいて業務を行っていたのであれば、労働者と判断されるでしょう。会社としては、反論をする前提として、まずはその実態を把握しておくことが必要です。そして、後から証拠として提出できるよう、資料等を作成して保管することが有用です。
②自主退職・合意退職である
申立人が、解雇と主張しても、それが自主退職・合意退職であれば、解雇には当たりませんので、その旨の主張をすべきです。もっとも、主張のみではなく、その証明をする必要がありますので、会社を辞めたことについて、従業員の同意があったことが分かる資料を提出できると良いです。
③普通解雇である
解雇であっても、普通解雇として合理的な理由があるのであれば、それを主張しましょう。普通解雇については、就業規則上の根拠があり、それに該当するとしても、それが客観的に見て合理的な理由があり、社会通念上相当な処分であると認められる場合でないと、無効となります。
④整理解雇である
整理解雇の場合、普通解雇と異なり、経営上のやむを得ない理由がある場合には、有効となります。では、どのような場合に、経営上のやむを得ない理由があるとされるのか、具体的には、4要件と呼ばれる以下の要件がありますので、会社としては、それに該当することを主張することになります。
整理解雇の4要件
整理解雇の4要件とは、
- 人員整理の必要があること
- 解雇を回避するための努力をしたこと
- 解雇対象者の選定につき合理性があること
- 解雇手続きが妥当性を欠かないこと
です。
⑤懲戒解雇である
懲戒解雇の場合は、有効性が認められる前提として、就業規則上の根拠があり、その懲戒事由に該当することが必要です。また、就業規則に規定する懲戒事由に該当したとしても、懲戒解雇という選択肢を取らざるを得ないような事情があることを主張、立証することが必要です。
基本的には、注意ないし指導から始まり、処分の段階を踏んでも、従業員の問題行動が改善しなかった場合に、懲戒解雇が有効に認められ得ると考えられるので、段階を踏んで処分を行ったことを記録として残しておくようにしましょう。
不当解雇の労働審判における答弁書の重要性
労働審判においては、まず、申立書が提出され、そこには、労働者側の主張が記載されています。そして、その労働者側の主張に対する反論を記載する書面が、答弁書です。つまり、労働審判において、最初に出す会社側の主張を記載するものです。
上記でご説明した通り、労働審判は、短い期間で審理を行います。そのため、答弁書に会社側の反論をしっかり記載しないと、本来であれば主張すべき会社側の反論がしきれないまま、審理が終了してしまう可能性があります。
以上のように、労働審判における答弁書は、非常に重要なものですので、入念に準備をすることが必要です。
労働審判(不当解雇)の答弁書を作成する際のポイント
上記の通り、労働審判における答弁書は、非常に重要ですが、具体的には、以下の点に留意して作成するようにしましょう。
まず、反論を組み立てる前提として、申立書に記載された主張を正確に理解して把握することが重要です。申立書において、不当解雇との主張がなされている場合は、反論として解雇の正当性を主張することになりますが、その際は、解雇までの経緯をしっかり整理して主張し、証拠も出来るだけ提出しましょう。
金銭解決が可能であることを記載する
労働者側が、不当解雇を主張している場合であっても、会社から一定の解決金の支払をすれば、退職に応じることも可能と考えているケースはあります。そのようなケースで、金銭解決に向けた話をするために、会社側としても金銭解決が可能なのであれば、その旨は記載すると良いでしょう。
解決金や損害賠償が減額されるケースとは
労働者側及び会社側が、金銭解決が可能と考えていたとしても、その金額で折り合わないことはあります。その場合に、どの程度が落としどころになるかは、労働者側の主張がどこまで法的に筋が建っているか、つまり、仮に審判となった場合に解雇無効となる可能性がどの程度あるかによって変わってくるでしょう。
例えば、不当解雇との判断になるようなケースにおいて、それでも労働者に退職をしてもらうためには、一定程度高額の解決金ないし損害賠償金を支払うことが求められるでしょう。他方、およそ不当解雇とまでは言えないであろうケースでは、相場から減額された金額で解決が可能になることがあるでしょう。
会社側の反論を裏付ける証拠を提出する
上記の通り、会社側としては、しっかりと事実関係を主張する必要がありますが、その主張を裏付ける証拠をどこまで提出できるかも重要です。会社側の主張に対し、労働者側が、その様な事実はないとの反論をした場合、裁判所は、真偽が不明となり、会社側の主張が認められないこともあります。
そのため、その様な場合に備え、会社としては、労働者とのやり取り等について、記録に残すような運用をしていくべきです。
不当解雇について争われた裁判例
不当解雇について争われた裁判例はいくつもありますが、今回は、能力不足を理由に普通解雇したのに対し、従業員が、解雇が不当であると争った事案を紹介します。
事件の概要
会社は、従業員Aについて、仕事の能力が不足しているとして、「労働能力が劣り、向上の見込みがない」との会社の就業規則の定めに該当することを理由に、従業員Aを普通解雇しました。
それに対し、従業員Aは、解雇が無効であると主張し、従業員としての地位の保全、賃金の仮払い等を求めました。
裁判所の判断
裁判所は、従業員Aの労働能力について、平均的な水準には達していないことを認定しました。一方で、それだけでは、就業規則の規定に該当するとはいえず、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないとしました。
そして、従業員Aについては、上記に該当するとまでは言えないとし、結論的には、本件解雇は、解雇権の濫用であったとして、無効と判断しました。
ポイント・解説
会社は、従業員Aの能力不足を主張しましたが、その主張は、積極性がない、協調性がないなど、抽象的なものであり、かつ、その裏付けがないとされました。
また、会社としては、従業員Aの能力不足を改善するために、他に取り得る手段があったはずとも判断されています。
上記から分かるように、やはり、解雇は簡単には認められません。また、会社としては、解雇以外に取りうる手段があるのであれば、それを尽くさなければならないともいえます。
労働者から不当解雇を訴えられたら、お早めに弁護士までご相談下さい。
会社にとっては、従業員を解雇する場合、従業員から解雇の無効を主張される可能性は常にあります。そのような場合に備え、会社の運用を確立しておく必要があります。また、いざ従業員から、不当解雇の主張をされた場合は、早急に対応をする必要があります。
従業員から不当解雇を主張された場合は、お早めに弁護士に相談をすることをお勧めします。
