監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
相続では、亡くなった人の財産が承継の対象となりますが、この財産には、預貯金や動産・不動産といったプラスの財産だけでなく、マイナスの財産である負債も含まれます。そのため、亡くなった人が多額の借金をしている場合には、相続人は相続により財産的に損をする可能性があり、これを避けるために相続放棄を考える必要があります。以下では、相続放棄について解説していきます。
目次
- 1 相続放棄の期限はいつから3ヶ月?期間の数え方
- 2 理由があれば相続放棄の期限は延長可能、ただし必ず認められるわけではありません
- 3 相続放棄の期限を延長する方法
- 4 3ヶ月の期限を過ぎてしまったらどうなる?
- 5 相続放棄の期限に関するQ&A
- 5.1 相続放棄の期限内に手続き完了までいかないといけないのでしょうか?
- 5.2 相続後に借金が判明しました。まだ3ヶ月経っていないのですが、相続放棄可能ですか?
- 5.3 亡くなってから4か月後に借金の督促が来ました。借金を知らなかったのですが、相続放棄できないでしょうか?
- 5.4 先日相続人であることが判明したのですが、知った日の証明なんてどうしたらいいんでしょうか?相続放棄したいのですが、すでに半年経過しているんです…。
- 5.5 相続放棄の3ヶ月まで、残り10日ほどしかありません。消印が3ヶ月以内なら間に合うでしょうか?それともその日までに裁判所に到着していなければならないでしょうか。
- 5.6 相続放棄の期限は3ヶ月と聞きましたが、第2順位の人の期限は、第1順位の人が放棄後3ヶ月で合っていますか?
- 6 相続放棄の期限に関するお悩みは弁護士にご相談ください
相続放棄の期限はいつから3ヶ月?期間の数え方
相続放棄の期限は、「自己のために相続があったことを知った時から3箇月」です。この期限を熟慮期間といいます。そして、判例によれば、「自己のために相続があったことを知った時」とは、相続人が被相続人の死亡の事実を知り、かつ、そのために自己が相続人となったことを知った時とされています。したがって、この時点から3ヶ月ということになります。
期限が迫っているからと、焦って手続をすると後悔する場合も…
いったん相続を放棄すると、熟慮期間内であってもこれを撤回することができません。そのため、期限が迫っているからといって、焦って相続放棄の手続をすると、後で、プラスの財産の方がマイナスの財産よりも多いことが分かっても撤回できず、損をする可能性もあります。相続放棄の手続をする際には、事前に相続財産の状況を調査するなどして慎重に行ってください。
理由があれば相続放棄の期限は延長可能、ただし必ず認められるわけではありません
この熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても,なお,単純承認,限定承認又は相続放棄のいずれをするかを決定できない場合には,家庭裁判所は,申立てにより,この3か月の熟慮期間を伸長することができます。伸長することのできる期間は、1~3ヶ月程度になります。もっとも、このような申立てを行っても、必ずしも熟慮期間が伸長されるとは限らないため、注意が必要です。
相続放棄の期限を延長する方法
相続放棄の熟慮期間3か月は、家庭裁判所に対して申し立てることにより、延長してもらうことができる場合があります。この申立をすることができるのは、相続人をはじめとする利害関係人及び検察官です。申立の費用としては、相続人一人あたり800円の収入印紙及び連絡用の郵便切手が必要になります。必要な切手額は裁判所により異なりますが、400~500円くらいであるのが一般的です。また、申立ての手続きをするために必要な書類としては、①申立書、②被相続人の住民票除票または戸籍附票、③延長を求める相続人の戸籍謄本です。利害関係人からの申立ての場合には、利害関係があることを証明する資料も必要となります。なお、期限を延ばしたい相続人が複数いる場合は、個別に申請をする必要があります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
3ヶ月の期限を過ぎてしまったらどうなる?
3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄や承認をしなかった場合、それ以降、相続放棄はできず、単純承認をしたことになります。すなわち、被相続人の財産や負債を全て相続することになるのが原則です。もっとも、熟慮期間経過後は、一律に相続放棄を認めないこととすると、相続人にとって酷な結果となる場合があります。そこで、判例では、例外的に熟慮期間経過後も相続放棄が認められる場合があります。
3ヶ月が過ぎても相続放棄が認められるケース
判例は、被相続人に相続財産が全くないと信じ、かつ、そのように信じたことについて相当な理由がある場合には、相続財産は相続財産の全部又は一部の存在を認識した時から3ヶ月以内に申述すれば、相続放棄できる旨判断しています。
上記判例を踏まえて、相続財産がないと信じた場合だけでなく、債務の存在を知らなかった場合で、知らなかったことについて相当な理由があり、知ってから3ヶ月以内に相続放棄の申述をした場合などのように、やむを得ず熟慮期間内に相続放棄をできなかったといえるような場合には、実務上、熟慮期間経過後の相続放棄が認められやすくなっています。
相続放棄が認められないケース
上記のように、熟慮期間である3ヶ月経過後も相続放棄が認められる場合がある一方で、認められない場合もあります。例えば、相続放棄という制度があること自体を知らなかった場合や、相続放棄という制度自体は知っていたものの、相続放棄の手続に3ヶ月という期限が存在することを知らなかった場合がこれにあたります。これらは、相続人が法律の定める相続放棄や熟慮期間について知らなかった場合ということができます。法律の世界においては、人は法律を知っていることが前提とされるため、相続人が相続放棄や熟慮期間といった法律の規定を知らなかったという事情をもって、やむを得ず熟慮期間内に相続放棄をすることができなかったとはいえないと判断されるのです。
3ヶ月経過していたら弁護士にご相談ください
上記のように、熟慮期間の3ヶ月が経過した後であっても、相続放棄が認められる場合がありますので、相続放棄をしない間に熟慮期間が経過してしまったとしても、直ちに相続放棄をあきらめる必要はありません。もっとも、熟慮期間経過後の相続放棄が認められる場合にあたるかの判断に迷うこともあるかと思われます。そのような場合には、あきらめずに、専門家である弁護士に相談してみるとよいでしょう。
相続放棄の期限に関するQ&A
相続放棄の期限内に手続き完了までいかないといけないのでしょうか?
相続放棄の期限である3ヶ月(熟慮期間)内に手続きを完了する必要はありません。熟慮期間は相続人において、相続をするかしないかを決定をするための期間として、3ヶ月と短く設定されています。このこととの関係で、熟慮期間内に相続放棄の手続(家庭裁判所に対する相続放棄の申述)を開始していれば足り、手続を完了している必要まではありません。
相続後に借金が判明しました。まだ3ヶ月経っていないのですが、相続放棄可能ですか?
被相続人が亡くなって相続が開始し、単純承認をした場合、その後は熟慮期間内であっても、相続人は、単に気が変わったという理由で、この単純承認を撤回することはできません。もっとも、単純承認時には判明していなかった被相続人の借金が判明した場合には、動機の錯誤を理由として、単純承認の取消しが認められる可能性があります。
亡くなってから4か月後に借金の督促が来ました。借金を知らなかったのですが、相続放棄できないでしょうか?
本件では、相続開始後、相続の承認も放棄もせずに熟慮期間である3か月が経過したものと考えられます。この場合、相続の単純承認をしたものとみなされます。これを法定単純承認といいます。法定単純承認も、単純承認とみなされますので、それ以降は、これを撤回することはできません。もっとも、上記4のように、相続の放棄ができる場合があります。
先日相続人であることが判明したのですが、知った日の証明なんてどうしたらいいんでしょうか?相続放棄したいのですが、すでに半年経過しているんです…。
相続放棄の熟慮期間は、相続人が被相続人の死亡の事実を知り、かつ、自己が相続人となったことを知った時から3か月です。そのため、この期間内であれば、相続開始から半年経過していても、相続を放棄することは可能です。例えば、孤独死のようなケースでは、警察から死体発見の連絡を受けた日時を証明することにより、死亡の事実を知った時を証明するといった方法が考えられます。
相続放棄の3ヶ月まで、残り10日ほどしかありません。消印が3ヶ月以内なら間に合うでしょうか?それともその日までに裁判所に到着していなければならないでしょうか。
上記のとおり、熟慮期間内に相続放棄の手続(家庭裁判所に対する相続放棄の申述)を開始していれば相続放棄をすることができます。申述書については、裁判所に持参することも郵送することも可能ですが、郵送する場合、裁判所に到着した時が受付日となります。本件では、10日後に裁判所に申述書等の書類が到着している必要がありますので、郵送が間に合わない場合は、裁判所に持参することもご検討ください。
相続放棄の期限は3ヶ月と聞きましたが、第2順位の人の期限は、第1順位の人が放棄後3ヶ月で合っていますか?
相続放棄の熟慮期間は、相続人が被相続人の死亡の事実を知り、かつ、自己が相続人となったことを知った時から3か月です。第2順位の相続人は、第2順位の相続人全員が相続放棄をしない限り、相続人とはならないため、第1順位の相続人全員が相続を放棄し、その事実を知った時に初めて自己が相続人となったことを知ることになります。したがって、熟慮期間は、第順位の相続人が相続を放棄した時点からではなく、放棄の事実を知った時の時点から3か月となります。
相続放棄の期限に関するお悩みは弁護士にご相談ください
以上、相続放棄について、熟慮期間との関係を中心として解説してきました。相続の承認、放棄は、相続人への経済的な影響が大きく、相続人にとって重要な選択となることが多いと考えられます。一方で、承認するか放棄するかを選択するための熟慮期間は3か月と短く設定されています。そのため、この期間中に承認するか放棄するかで迷ったり、期間経過後に自己の選択を後悔したりされていることも多いのではないかと思います。このような場合は、弁護士に相談することをぜひご検討ください。専門的な見地から、利益を確保するための最善の手段ついて助言を受けることができます。
-
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)