監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
自分にとって著しく不利な内容や、不自然な遺言書が残されていた場合、その効力を否定したいと考えるのは自然なことです。
しかし、一度作成された遺言書を無効にするには、法的に適切な手続きを経なければなりません。
本記事では、遺言の無効を主張するための不服申し立ての手順や費用、時効、判例などをわかりやすく整理して解説します。
遺言書を無効にしたい!どうすれば無効にできる?
遺言書を無効にするには、まず相続人全員で話し合い、全員が無効に合意できれば、そのまま遺産分割協議へ進むことが可能です。
しかし合意できない場合は、法的手続きをとる必要があります。
家事事件では「調停前置主義」(訴訟を行う前に、まず調停を申し立て、家事調停手続を経なければならないとする原則)が採用されているため、原則としていきなり裁判はできず、まずは遺言無効確認調停で裁判所を交えて話し合います(もっとも、実務上は調停に付するのが相当でないとして遺言無効確認請求訴訟の提起が認められる場合が大多数といえます。)
それでも解決しない場合、遺言無効確認請求訴訟を起こし、客観的証拠をもとに当該遺言の無効を主張していく流れとなります。
形式の不備など、明らかに無効な場合でも申し立ては必要?
遺言書には署名・押印や特定の年月日の記載が必要といった法的要件が定められており、これらの記載がない場合や、「〇月吉日」のような日付が特定できない記載がされている場合等は形式的不備があることになります。
このように一目で不備があると分かる場合でも、相続人全員が「無効」と合意できれば法的手続きは不要です。
しかし、一部の相続人が有効性を主張するなど意見が対立している場合は、裁判所に調停や訴訟を提起して確定させる必要があります。
遺言書の無効の申し立て方法
相続等の家事事件では、裁判を起こす前に裁判所で話し合う「調停前置主義」というルールが採用されています。
そのため遺言の無効を求めたい時は、原則としてまず家庭裁判所へ「遺言無効確認調停」を申し立てる必要があります。
調停を通じて当事者間での合意を目指しますが、意見が折り合わず調停が不成立に終わった場合には、次の段階として地方裁判所へ「遺言無効確認請求訴訟」を提起することになります。
遺言無効確認調停
遺言無効確認調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。
調停手続きは調停委員らを交えた当事者同士の話し合いであるため、全員の合意が得られなければ成立しません。
もし当事者全員が合意して調停が成立した場合は「調停調書」が作成され、裁判の確定判決と同じ法的効力を持ちます。
一方で、意見が折り合わなかった場合は、調停不成立となって同手続きは終了します。
遺言無効確認訴訟
相手方が遺言の無効を認めない場合、遺言無効確認訴訟を提起します。
裁判所の判決によって遺言が無効と確定した後は、遺言が存在しなかったものとして、改めて遺産分割調停などを申し立てて解決を図ります。
遺言無効確認訴訟について遺言書の無効を申し立てる場合の費用
申し立てに必要な実費は、調停と訴訟で異なります。
調停の場合は収入印紙代(遺言書1通につき1,200円)と連絡用の切手代がかかります。
一方、訴訟の場合は切手代に加え、当該遺言が無効になることで原告が得られる利益(金額)に応じた収入印紙代が必要となり、その金額によって、数千円から数十万円と変動します。
なお、これらは裁判所に納める費用であり、弁護士へ手続きを依頼する場合は別途弁護士費用(着手金や成功報酬など)が発生します。
遺言書の無効申し立てに時効はある?
遺言無効確認の訴え自体に法律上の時効はありません。しかし、時間が経過することによって、当該遺言の有効性に関する証拠が失われるリスクがあります。
また、当該遺言が有効だった場合の保険として行う、遺留分侵害額請求の時効が1年間であることから、早く訴訟提起することが望ましいです。
なお、遺言無効確認請求訴訟を提起するだけでは遺留分侵害額請求の時効は中断しません。
遺言無効確認請求訴訟の結果が出るまでには時間がかかるため、これを待っていては、遺留分侵害額請求権が行使できなくなる可能性があります。
そのため、万が一に備えて、同請求訴訟提起と同時に、予備的に遺留分侵害額請求の意思表示をしておくことが重要です。
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遺言書が無効と認められた事例・判例
被相続人Aの公正証書遺言に対し、遺言能力の欠如を理由に無効が主張された事例で、裁判所は、Aが当時アルツハイマー型認知症により短期記憶障害や徘徊等の症状があり、症状が初期〜中期程度に進行していて遺言内容を理解・記憶できる状態になく、さらに遺言内容自体も複雑で実現が容易でない点を指摘し、Aには遺言能力が欠けていたとして、本件遺言を無効とする判決を言い渡した裁判例があります。
遺言書の無効が認められた後にすること
法定相続人全員で遺産分割協議を行う
裁判等で遺言書の無効が確定した場合、その遺言は当初から効力を有していなかったものとして扱われます。そのため、遺言に沿って進められるはずだった財産の配分はすべて白紙に戻り、ゼロからのスタートとなります。
その後は、法定相続人全員で「遺産分割協議」を開き、誰が・どの遺産を・どのような割合で承継するのかを改めて協議し、相続人全員の合意のもとで決定していくことになります。
遺産分割協議について遺産分割協議がまとまらなければ別途調停や審判で解決する
法定相続人全員での話合い(遺産分割協議)では意見がまとまらなかった場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて解決を目指します。
調停でも当事者間での合意に至らなかった場合(調停不成立)には、裁判所の判断に委ねる「審判」手続きへと自動的に移行し、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、分割方法等を決定する「審判」を出すことになります。
遺言が無効にならなかった場合の対応策
もし遺言の内容によって自身の遺留分(法律上、最低限保障された取り分)が侵害されているのであれば、受遺者や受贈者に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求める「遺留分侵害額請求」をすることができます。
また、当該遺言書では、被相続人の全財産ではなく一部の財産の処分しか記載されていない場合は、当該遺言書に記載のない残りの相続財産について、別途相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。
遺留分侵害額請求について遺言書の無効申し立ては弁護士にご相談ください
遺言の無効を主張するには、当時の医療データや生活状況の分析など、高度な専門知識と綿密な証拠収集が欠かせません。
個人だけで裁判所に認められるレベルの主張を組み上げるのは非常に困難です。
相続トラブルに精通した弁護士に相談することで、無効にできる見込みの有無を的確に見極め、複雑な裁判手続きやその後の遺産分割交渉までスムーズに進めることができます。
不安を感じたらまずは専門家に相談してみましょう。

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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
