財産分与で退職金を請求するために知っておくべきこと

離婚問題

財産分与で退職金を請求するために知っておくべきこと

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

退職金は高額になりやすいため、「離婚時にしっかり財産分与したい」と思われる方も多いです。
特に、離婚後の生活に不安がある方や、仕事が見つかっていない方は、できるだけ多くのお金を確保したいと思うことでしょう。
しかし、退職金を財産分与するにはいくつか条件があり、必ず認められるものではありません。また、退職金全額を分け合えるわけではないので、請求時は注意が必要です。
本記事では、退職金を財産分与する際の流れやポイントを解説していきます。離婚を検討中の方は、ぜひご覧ください。

退職金は財産分与の対象になる?

退職金は給与の後払いと考えられるため、毎月の給与や貯金と同じように財産分与することができます
すでに退職金が支払われていれば問題ないですが、将来支払われる“予定”の場合は注意が必要です。
というのも、退職金はその後の勤続年数によって変わるため、確実にいくら支払われるか分かりません。また、会社の状況や退職理由によっては一切支給されない可能性もあります。

そのため、未払いの退職金は、確実に支給が見込まれる場合しか財産分与できないのが基本です。
また、受け取れる金額についても、退職金全体のうち婚姻期間に相当する部分のみが対象となります。

自己都合かどうかによる影響はあるか

自己都合退職による影響の有無は、退職金の支払い状況によって異なります。

●まだ退職金が支払われていない場合
財産分与の対象となるのは、「離婚時に自己都合退職した」と仮定して算出した金額になります。
通常、退職が自己都合による場合、定年退職よりも退職金額が低くなるため、財産分与できる部分も小さくなるのが一般的です。
もっとも、定年が近い場合、「定年退職時の金額」が対象になることもあります。

●すでに退職金が支払われている場合
自己都合退職と定年退職では金額が異なるため、当然分割できる金額も変わってきます。
定年まで働いたうえで(または定年間際で)離婚する“熟年離婚”のような場合、財産分与できる金額も大きくなるでしょう。

退職金を財産分与するときの計算方法

では、退職金を財産分与する際の計算方法を具体的にみていきます。なお、計算方法は裁判例によって異なることもありますが、最も一般的なものをご紹介します
「実際いくらもらえるの?」というのが一番気になるところだと思いますので、ぜひご自身のケースにあてはめてみてください。

すでに支払われている退職金について

すでに支払われた退職金のうち、婚姻期間に相当する部分が財産分与の対象となります。具体的には、以下のように算出するのが一般的です。

【財産分与の対象=退職金×婚姻期間÷勤続年数】

例えば、夫の退職金が2000万円、勤続年数が40年、そのうち結婚していた期間が30年だった場合、以下の金額となります。

【2000万円×30年÷40年=1500万円

また、最終的に夫婦で半分ずつ分けるのが基本なので、妻が受け取れるのは750万円となります。

ただし、他の預貯金と同じ口座に入れており、退職金がいくら残っているのか特定できない場合、預貯金全体で財産分与することになります。
また、すでに退職金を使い切っている場合、基本的に財産分与の対象外となります。

まだ支払われていない将来の退職金について

退職金がまた支払われていなくても、基本的な考え方は〈前項〉と同じです。
ただ、未払いの場合、「離婚時に自己都合退職した」と仮定して計算することになります。具体的には、以下の計算式で求めます。

【財産分与の対象=離婚時に自己都合退職した場合の退職金×婚姻期間÷勤続年数】

通常、定年退職の方が退職金は多くなるので、自己都合退職だと財産分与できる部分も少なくなるのが一般的です。

なお、定年が近い場合は、上記の式に定年退職時の退職金をあてはめることもあります。
この場合、本来定年退職時にもらうはずだったお金を前倒しで受け取ったとみなすので、その分の利息を控除しなければなりません。この点、ライプニッツ係数(中間利息の控除率)をかけることで簡単に計算できます。

また、婚姻期間中に別居していた場合、別居期間は婚姻期間から除く必要があります。
つまり、計算式の婚姻期間は、【結婚していた期間-別居期間】となります。

退職金の請求方法

話し合い

まずは相手と話し合い、同意を目指します。ここで同意できればすぐに離婚も可能ですし、何より穏便に解決することができます。

同居している場合、「退職金も財産分与してほしい」と相手に直接伝えるのが一般的です。
また、具体的な金額が分かるよう、退職金の算定方法を聞き出すことも重要です。会社の就業規則や人事部に確認してもらうと良いでしょう。

一方、別居中であれば、メールやLINE、電話などで請求します。これらは請求した履歴が残りますので、脅すような文面・口調は避けましょう。

相手と合意できたら、後のトラブルを防ぐため、合意内容を公正証書に残すことをおすすめします。
相手が頑なに応じなかったり、話し合いを拒否したりした場合、弁護士に相談することも有効です

離婚調停での話し合い

相手と合意できない場合、裁判所に調停を申し立てます。調停では、裁判所の調停委員という中立な第三者を挟んで相手と話し合うため、よりスムーズに解決できる可能性が高いです。

離婚前であれば、夫婦関係調整調停(離婚調停)を申し立て、ほかの離婚条件とあわせて話し合います。例えば、財産分与のほか、慰謝料や親権、養育費、年金分割などについて取り決めます。

一方、離婚後に財産分与だけ請求する場合、離婚後2年以内財産分与請求調停を申し立てることになります。

なお、調停の申立てには、以下書類の提出が必要です。

  • 申立書
  • 夫婦の戸籍謄本(財産分与請求調停の場合、離婚により夫婦の一方が除籍されたもの)
  • 夫婦の財産に関する資料

調停のあとは離婚裁判

調停の成立には当事者の合意が必要なので、両者がまったく譲らなければ“調停不成立”となります
この場合、離婚裁判を申し立て、裁判所に判断を委ねるのが最終手段です。裁判では、お互いの主張や夫婦の事情をすべて考慮したうえで判断が下されるため、終局的な解決ができます。

ただし、裁判で勝つには「いかに有力な証拠を提示できるか」がカギとなります。相手の預金通帳の写し給与明細の写し財産目録などを十分揃えて臨むことが重要です。
また、退職金がまだ支払われていない場合、将来支給されるのが明らかであることも証明しなければなりません。
これらの立証は難しいことも多いため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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財産分与でもらえる退職金の割合

財産分与の割合は、すべて2分の1が基本です。つまり、退職金でも預貯金でも、結婚後に築いた“共有財産”はすべて夫婦で半分ずつ分け合うことになります。

また、専業主婦でも、共有財産はきっちり半分受け取ることができます。専業主婦には仕事による収入自体はないものの、夫が長く働けるのは妻のサポートがあってこそだと考えられるからです。

ただし、例外的に2分の1とならないケースもあります。
例えば、どちらかが退職金を浪費してしまった場合、他の財産でもう一方の取り分を増やすなどの対応がとられることがあります。
逆に、一方が特殊なスキルを活かして退職金を得た場合、本人の取り分が多くなる傾向にあります。例えば、医者や弁護士、スポーツ選手、会社の経営者などが代表的です。
ただし、財産分与の割合を2分の1から変更するというのは非常に例外的な取り扱いであることに注意が必要です。

退職金の仮差押

仮差押とは、判決が出る前に相手の財産を差し押さえる制度です。
調停や裁判が長引くと、その間に退職金が支払われ、相手が浪費したり隠したりしてしまうリスクがあります。
そこで、調停や裁判の前(または手続き中)に財産を“仮に”差し押さえ、財産を保全することを目的としています。

退職金の場合、仮差押によって会社からの支給がストップするため、使い込まれる心配がありません。また、すでに退職金が支払われている場合も、財産分与の対象については仮差押が可能です。

なお、似た制度に「差押え」もありますが、仮差押とは別物です。
差押えとは、調停や裁判で支払いが命じられているにもかかわらず、相手が支払いに応じないときに、相手の財産を差し押さえて“強制的に”お金を回収する方法です。主に強制執行手続きの中で行われます。

仮差押の方法

仮差押は、以下の流れで行います。

  • 仮差押の申立て
    離婚調停や離婚裁判を行う裁判所に申し立てます。このとき、申立書や申立て費用の提出が必要です。
  • 審尋
    裁判官との“面接”のことです。「なぜ仮差押が必要なのか」という保全の必要性と、「どんな権利を保全すべきなのか」という被保全権利を説明し、裁判官に納得してもらう必要があります。
    なお、退職金の場合、被保全権利は財産分与請求権となります。
  • 保全決定
    申立人が担保金を納めたあと、仮差押が実行されます(担保金は、最終的に返金されるケースが多いです)。

注意点として、仮差押の申立て前に、相手の財産を特定しなければなりません。未払い退職金の場合、相手の勤務先や退職金の見込み額などを明らかにする必要があるでしょう。
また、仮差押は相手の反感を買うこともあるため、申し立てるかは慎重に判断してください。

退職金についてのQ&A

夫が公務員の場合、退職が10年以上先でも財産分与してもらえますか?

公務員の場合、退職金の支給がほぼ確実なので、退職が10年以上先でも財産分与の対象となることが多いです。
というのも、公務員は途中で退職する可能性が低く、民間企業のように倒産のリスクもほぼありません。また、退職金規定が明確なので、金額も争いになりにくいといえます。
夫が公務員であれば、退職がかなり先でも財産分与を請求してみると良いでしょう

もっとも、退職が20年も30年も先だと、さすがに財産分与の対象外となる可能性が高いです。
また、財産分与が認められても、実際に支払われるのは退職時(退職金の支給時)となるケースもあります。

もらえる予定の退職金を財産分与で前払いしてもらうことは可能ですか?

退職金の支給がほぼ確実であれば、財産分与の確定時に、退職金の支払い時期に先立って自身の取り分をもらうことは可能であることがあります。

もっとも、相手の資力によっては前払いできないこともあります。その場合、実際に支払われるのは、「相手に退職金が支給されたとき」となることがあります。

別居中に相手に退職金が出ていることが分かりました。財産分与できますか?

別居中も婚姻関係は継続しているので、その間に支払われた退職金は財産分与の対象になります

ただし、分割できるのは、退職金全体のうち“婚姻期間”に相当する部分のみです。また、この“婚姻期間”には“別居期間”が含まれないことに注1意が必要です。
つまり、別居歴があると、その期間分財産分与できる部分も減ることになります。

また、別居中に退職金が支払われると、相手が使い切ったり隠したりするおそれがあるため、仮差押の申立ても検討すべきでしょう。

共働きの夫婦が離婚するときも退職金は財産分与の対象ですか?

共働きの夫婦でも、財産分与のルールは変わりません。よって、退職金が支給されるのが確実であれば、婚姻期間に相当する部分を折半するのが基本です。

また、両方の退職金が財産分与の対象になる場合、2人の退職金を合わせた分から婚姻期間に相当する部分を分け合うことになるでしょう。

退職金は財産分与の判断が難しいので弁護士に相談して確認してもらいましょう

退職金は必ず財産分与できるわけではないので、相手ともめることも少なくありません。話し合いで折り合いがつかず、調停・裁判に発展すれば、離婚の成立がどんどん遅くなってしまいます。
また、その間に相手が退職金を使い切ってしまうおそれもあるため、迅速な対応が求められるでしょう。
弁護士であれば、相手方との交渉煩雑な手続き裁判での主張などをすべて引き受けることができます。また、適切な金額を請求できるため、不利な条件のまま離婚してしまう心配もありません。
きちんと離婚を成立させるには、弁護士に相談・依頼するのがとにかく安心です。弁護士法人ALGには離婚問題に詳しい弁護士が揃っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
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