離婚時の財産分与と年金分割について

離婚問題

離婚時の財産分与と年金分割について

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

「離婚したいけど、老後の生活に不安がある」「夫の厚生年金に頼るしかない」と考え、離婚に踏み切れない方は多いのではないでしょうか。そのようなお悩みは、「年金分割」という制度によって軽減できる可能性があります。年金分割は将来の年金を補う制度であり、主婦やパートタイマーの方も請求できますので、積極的に利用すると良いでしょう。
ただし、年金分割の流れは複雑なため、事前にしっかり整理しておくことが重要です。そこで、本記事では年金分割の概要や流れを詳しく解説していきます。離婚を検討されている方は、ぜひ参考になさってください。

離婚時の財産分与と年金分割制度について

年金分割とは、夫婦が婚姻中の「厚生年金保険料納付記録」を分割し、将来受け取る年金額を公平にするための制度です。平成19年の年金改正法施行によって導入されました。

かつて、離婚時の年金分割は財産分与の一環とされていましたが、法改正によって制度として確立し、財産分与とは別の問題として扱われるようになりました。

年金分割の按分割合の決まり

年金分割は、将来夫婦が受け取る年金額を公平にするための制度です。よって、収入が多い側の標準報酬額(厚生年金保険料納付記録)をもう一方に分け与えるというのが基本的な考え方です。
このとき、分割を受ける側の持分を「按分割合」といいます。
按分割合は必ずしも2分の1にする必要はありませんが、以下のような制限が定められています。

  • 標準報酬額の少ない側が、当初の持分を下回らないようにすること
  • 標準報酬額の多い側が、もう一方の持分を下回らないようにすること

年金分割のできる年金、できない年金

年金分割の対象となるのは、年金制度の2階部分である「厚生年金」と「旧共済年金」のみです。よって、夫婦が自営業や非正規雇用であり、どちらも「国民年金」にしか加入していない場合、年金分割制度は利用できません。
また、年金制度の3階部分である「確定給付企業年金」、「確定拠出年金」、「退職等年金給付」などは厚生年金に上乗せして支給されますが、年金分割では対象外となるため注意しましょう。

なお、年金分割の手続きには期限があり、「離婚をした翌日から2年以内」と決められています。それを過ぎると年金分割の請求ができなくなるため、早めに動くことが重要です。

年金分割の種類

年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。それぞれ概要が異なりますので、下表で整理しましょう。

合意分割 3号分割
離婚日 平成19年4月1日以降 平成20年5月1日以降
夫婦間の合意 必要(夫婦が合意できない場合、裁判所が按分割合を決定します) 不要
分割対象期間 婚姻期間全体(平成19年4月より前の期間も含みます) 婚姻期間のうち、平成20年4月1日以降の「第3号被保険者期間」
分割割合 夫婦の合意による(または裁判所が決定した按分割合) 2分の1
請求期限 離婚日の翌日から2年以内 離婚日の翌日から2年以内
条件 夫婦の一方(または両方)が「第2号被保険者」であること 夫婦の一方(または両方)が「第2号被保険者」であり、一方に「第3号被保険者期間」があること

年金分割の方法

では、年金分割の方法を具体的にみていきましょう。「合意分割」と「3号分割」に分け、それぞれご説明します。

合意分割の場合

合意分割とは、夫婦の合意や裁判所の決定によって分割割合を決める方法です。
離婚の話し合いと同様に、まずは夫婦で話し合い、合意できなければ裁判所を挟んで決めていくことになります。一連の流れについて、以下で具体的に説明していきます。

夫婦間の合意による場合

まずは夫婦で分割割合について話し合い、合意を目指します。この場合、制限以内であれば夫婦が自由に割合を決定することができます。
分割割合の合意ができたら、合意内容を記載した協議書を作成します。その後夫婦揃って年金事務所に行き、協議書や必要書類を提出することで手続きが進められます。
なお、協議書を「公正証書」にしておくと、どちらか一方が年金事務所に行くだけで手続きが可能です。

一方、夫婦が合意できない場合、裁判所の手続きを利用することになります。

調停による場合

夫婦の話し合いでは解決しない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では、調停委員が夫婦を仲介しながら話し合いを進め、合意を図っていきます。また、調停委員は双方の意見を踏まえて解決策を提案してくれることもあるため、スムーズに解決できる可能性が高くなるでしょう。
調停で夫婦が合意すると、「調停調書」という書面が作成されます。夫婦が揃って(または夫婦の一方が)年金事務所に行き、調停調書と必要書類を提出すれば年金分割の手続きができます。

ただし、調停は話し合いの場にすぎないため、夫婦が合意しなければ成立しません。数回の期日を行っても合意が得られない場合、自動的に「審判」に移行します。

審判による場合

調停が不成立となった場合、自動的に審判に移行します。審判では、調停で話し合った内容や夫婦の事情を考慮して、裁判所が分割割合の判断を下すことになります。「最初から裁判所に決めてほしい」と思われるかもしれませんが、年金分割は「調停前置主義」となるため、必ず調停を踏んでから審判を行う必要があります。
なお、審判に不服がある場合、審判の決定から2週間以内であれば「即時抗告」をすることができます。即時抗告は不服申立てのための手続きで、高等裁判所に対して再度審理を求めることができます。
ただし、審判や裁判では、特段の事情がない限り分割割合は「2分の1」となるのが一般的です。

離婚訴訟における附帯処分の手続き

附帯処分とは、離婚訴訟(離婚するかどうかを決める裁判)を行う際、離婚に付随するさまざまな問題も一緒に決定してもらえる手続きです。年金分割も附帯処分のひとつであり、裁判所に申立書などを提出することで利用できます。
附帯処分の手続きをとることで、離婚訴訟の終了後に改めて年金分割の申立てを行う必要がなくなり、手間や時間を削減できるというメリットがあります。

3号分割の場合

「第3号被保険者」にあたる方が、年金事務所に申請することで手続きできます。
なお、3号分割の分割割合は「夫婦で2分の1ずつ」と決まっているため、請求者は相手の同意を得ることなく、単独で手続きをすることが可能です。
そのため、合意分割よりも早期に解決できる可能性が高いでしょう。

年金分割の手続きの流れ

年金分割の手続きは、以下の流れで行います。

【年金分割のための情報通知書を取得する】
まず、年金事務所から「年金分割のための情報通知書」を取り寄せます。この書面には、年金加入期間や分割対象期間、年金分割の下限など、分割割合を決めるのに必要な情報が記載されています。
申請する際は、以下の書類を年金事務所に提出します。

  • 年金分割のための情報提供請求書
  • 年金手帳など基礎年金番号がわかるもののコピー
  • 戸籍謄本
  • 第3号被保険者加入期間証明書(3号分割の場合のみ)

【年金分割改定の請求をする】
夫婦の話し合いや調停などで分割割合が決まったら、以下の書類を年金事務所に提出します。

  • 標準報酬改定請求書
  • 年金手帳
  • 離婚後の戸籍謄本各1通
  • 分割割合を証明する書類(公正証書、調停調書など)

【標準報酬改定通知書を受領する】
手続きが完了すると、日本年金機構から「標準報酬改定通知書」が送付されてきます。この通知書には年金分割後の按分割合が記載されていますので、しっかり目を通しましょう。

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離婚時の専業主婦の年金分割について

専業主婦の場合でも、年金分割の対象となる期間は、婚姻期間のみです。

そして、「婚姻期間中の厚生年金保険料納付記録」のみが分割の対象となります。よって、配偶者が自営業・非正規雇用などで厚生年金に加入していない場合、そもそも年金分割は利用できません。

さらに、年金分割を行っても、離婚後すぐにお金が手に入るとは限りません。分割した年金は年金受給開始年齢になってから支給されるため、その年齢に達していない場合、お金を得るまでに期間を要します。「離婚後の生活費を補うために年金分割をしたい」とお考えの方は、注意すべきでしょう。

熟年離婚した場合の年金分割

相場

婚姻期間が長い熟年離婚では、年金分割できる金額も比較的高くなります。
とはいえ、一般的に年金受給額の増額幅は“月数万円程度”となることが多いので、老後の生活を安定させるには不十分でしょう。
年金分割だけでなく、財産分与もしっかり行うことをおすすめします。

年金分割の成立後に配偶者が亡くなってしまった場合

年金分割後、夫婦のどちらかが先に亡くなってしまうケースもあります。この場合、年金受給額に影響はあるのでしょうか。
「年金分割をする側が夫」「年金分割を受ける側が妻」と仮定し、それぞれご説明します。

夫が亡くなってしまった場合

年金分割後に夫が亡くなっても、分割を受けた妻の年金受給額に影響はありません。つまり、離婚時に年金分割の手続きを行っておけば、妻は生涯年金受給権を有することになります。

一方、夫の再婚相手は注意すべき点があります。
夫が再婚後に死亡した場合、再婚相手には「遺族厚生年金」が支給されますが、遺族厚生年金は死亡した夫の厚生年金加入期間と標準報酬に基づいて算出されるものです。
夫が元妻に年金分割をしていた場合、標準報酬も減っているため、再婚相手が受け取れる遺族厚生年金も減額することになります。

妻が亡くなってしまった場合

年金分割後に妻が亡くなっても、一度分割した保険料納付記録が夫に戻るわけではありません。つまり、夫に支給される年金は、年金分割後の金額のままということになります。
夫としては、「亡くなった妻に年金分割する必要はない」と思われるかもしれませんが、取り決めた離婚条件は変わりませんのでご注意ください。

一方、妻が再婚後に死亡した場合、再婚相手には「遺族厚生年金」が支給されます。これは、遺族厚生年金の支給要件である「厚生年金の受給権者が死亡した場合」に該当するためです。

離婚時の財産分与と年金についてQ&A

財産分与のときに夫婦共働きの場合、年金分割はどうなりますか?

夫婦共働きでどちらも収入を得ている場合、「合意分割」を行います。夫婦の話し合いや調停により、分割割合を決めていきましょう。
なお、年金分割は夫婦の収入格差を減らすための制度ですので、必ずしも夫から妻に分割されるとは限りません。妻の方が高収入の場合、妻から夫に分割する必要があります。
また、夫が自営業であり、妻がパートタイマーで厚生年金に加入している場合も、基本的に妻が夫に年金分割をすることになります。

一方、専業主婦(夫)だった期間がある場合、その期間については「3号分割」を申請し、確実に2分の1の分割を受けることが可能です。

離婚時の年金分割を拒否することは可能ですか?

年金分割は、基本的に拒否することができません。年金分割の請求を無視し続けると、相手からいきなり調停を申し立てられるおそれがあるため注意が必要です。

一方、以下のケースでは、年金分割に応じる必要はありません。

  • 請求期限を過ぎている(原則、離婚日の翌日から2年)
  • 婚姻期間前についても分割を求められている

また、婚姻中から長期間別居していた場合や、夫婦関係がすでに破綻していた場合、制度の趣旨に反するとして年金分割を拒否できる可能性があります。ただし、この場合は夫婦関係の破綻を証明する客観的証拠を揃えることが必要です。
また、合意分割であれば、自身に有利な結果に導くことも可能です。相手に事情を丁寧に説明し、分割割合を増やすのが得策でしょう。

障害年金を受給していた場合、離婚後に年金分割の対象になりますか?

まず、「障害基礎年金」は年金分割されず、受給額も変わりません。
一方、「障害厚生年金」は年金分割の対象となりますが、分割方法に一定の制限が設けられています。具体的には、以下の状況にある場合、「3号分割」を行うことはできません。

分割する側が障害厚生年金の受給権者であり、3号分割の対象期間の全部または一部が、障害厚生年金額の算定の基礎となっている場合

この特例は、障害厚生年金の受給権者を保護するための優遇措置です。病気や怪我に対する障害厚生年金が、年金分割により強制的に減らされるのは妥当ではないため、3号分割を認めないとされています。

なお、障害認定日が平成20年3月31日以前であれば、3号分割が可能です。この場合、3号分割をしても年金額が減らず、上記趣旨を害さないからです。

離婚後に夫婦のどちらかが再婚した場合、年金分割に影響はありますか?

夫婦のどちらかが再婚しても、それぞれが受け取る年金額に影響はありません。よって、離婚時の年金分割に基づいた年金が支給されることになります。ただし、再婚により氏名変更・住所変更などがある場合、年金受給者として年金事務所への届出が必要です。

一方、年金分割を受けた側が再婚した場合(事実婚を含む)、「遺族厚生年金」は受給できなくなります。そのため、再婚時は「遺族厚生年金の失権手続き」を行うことが義務付けられており、手続きを怠ると不正受給にあたるため注意が必要です。
なお、分割を受けた側が再婚したあとは、夫婦の子供に遺族厚生年金が支給されることになります。

離婚時に年金分割をしなかった場合はどうなりますか?

年金分割すべきかどうかは、夫婦の事情によって異なります。
年金分割は夫婦の収入格差を埋めるための制度ですので、収入に差がある「専業主婦」の方は請求すべきといえます。ただし、年金受給開始年齢に達するまでは受給できませんし、受給額が想定より低いこともあるため、年金分割だけをあてにするのはリスクが大きいでしょう。
一方、共働きで収入に差がない場合や、婚姻期間が短い場合、年金分割による利益はあまり期待できません。「どれほど年金額が増えるのか」といった点をきちんと計算し、年金分割を行うか夫婦でよく検討するのが良いでしょう。

あらかじめ離婚後の年金分割の見込み額を知ることはできますか?

「50歳以上の方」または「障害年金の受給権者の方」であれば、見込み額を知ることが可能です。見込み額を知りたい場合、「年金分割のための情報提供請求書」にその旨を記載し、年金事務所に提出します。
この手続きにより、以下の3パターンにおける年金見込み額を開示してもらえます。

  • 按分割合の上限(2分の1)
  • 按分割合の下限(分割を行わない場合)
  • 自身の希望による按分割合

なお、見込み額の開示は、夫婦のどちらか一方からでも請求できます。ただし、請求時は戸籍謄本や年金手帳のコピーなども必要となるため、早めに準備することをおすすめします。

離婚したいとお考えで、年金分割や財産分与について詳しく知りたい方は、弁護士に聞いてみましょう

年金分割の計算は非常に複雑であり、夫婦できちんと算定するのは難しいといえます。また、離婚時は年金分割だけでなく、財産分与や親権など決めるべきことが山積みです。すべてを夫婦だけで対応するのは手間も時間もかかり、離婚の成立がどんどん遅れてしまうでしょう。
弁護士に依頼すれば、「年金分割をすべきかどうか」「どれほど年金額が増えるのか」といった点をスムーズに把握できます。また、相手との交渉やその他離婚条件の取り決めなど、離婚の一連の手続きをすべて任せることができるのも大きなメリットです。
弁護士法人ALG名古屋法律事務所には、離婚問題に精通した弁護士が多数在籍しています。ご依頼者様の状況に合わせ、より有利な結果となるよう尽力いたします。離婚についてお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。