監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
夫や妻の不貞を知ったとき、怒りや悲しみから、慰謝料を請求したいと思う方は多くいらっしゃいます。また、ご自身の不貞が知られてしまい、高額な慰謝料を請求されてお悩みの方も少なくないでしょう。
いざ不貞慰謝料を請求したり、減額を主張したりする際は、相場などを確認して適切な手順を踏まないと、トラブルや不利な結果を招くリスクがあるため、注意が必要です。そこで、本記事では、不貞慰謝料の概要や請求の流れなどについて詳しく解説しますので、確認していきましょう。
不貞慰謝料とは
婚姻中に、配偶者以外の人と肉体関係を持つことを、「不貞」といいます。よって、ただ一緒に出かけたり、食事したりするだけでは、基本的に不貞にはなりません。
また、慰謝料とは、相手の行為によって受けた何らかの精神的苦痛に対して請求できるお金のことです。「不貞慰謝料」とは、婚姻中の相手の不貞行為によって受けた精神的苦痛に対して請求できる慰謝料ということになります。
不貞慰謝料と離婚慰謝料の違い
離婚する際の慰謝料には、「不貞慰謝料」と「離婚慰謝料」の2つがあります。
それぞれの違いは、「何によって精神的苦痛を受けたのか」です。不貞慰謝料は、相手の不貞行為によって受けた精神的苦痛の補償として、受け取ることができます。
対して、離婚慰謝料は、自身に落ち度はないうえに、望んでもいなかった離婚をする羽目になった精神的苦痛の補償として受け取るものです。とはいえ、一方の不貞行為がきっかけで離婚することになった場合、実務上、2つの慰謝料を分けて考えるのではなく、1つの慰謝料として計算・請求するケースがほとんどです。
不貞慰謝料の請求権には時効があるため、注意が必要です。具体的には、「相手の不貞行為があったこと、かつ不貞相手の人物(名前や住所など)を知った日より3年」または「相手の不貞行為があった日より20年」が経つと時効が成立し、原則、それ以降の請求は認められません。よって、相手が不貞行為をしてから20年以上経った後にその不貞行為が発覚しても、基本的には慰謝料の請求はできないということになります。
不貞行為に対する慰謝料の相場
「相手の不貞行為はあったが、離婚まではしなかった」という場合でも、精神的苦痛を受けたことに変わりはないため、不貞慰謝料を請求することができます。
ただし、離婚したかどうかで金額の相場は異なります。以下の表から、不貞慰謝料の相場は、離婚した場合の方が高いことがわかります。また、離婚しなかった場合は、別居の有無によって相場が異なります。
離婚の有無 | 慰謝料の相場 |
---|---|
離婚も別居もしなかった場合 | 50万~100万円 |
離婚しなかったけど別居した場合 | 100万~200万円 |
離婚した場合 | 200万~300万円 |
不貞慰謝料額の判断基準
不貞慰謝料の金額は、相場こそあるものの、明確な計算方法はありません。そのため、以下のようなさまざまな要素を考慮し、個別具体的に算出するのが一般的です。
- ・不貞行為が判明したときの夫婦関係が良好だったかどうか
- ・婚姻期間や、不貞行為をしていた期間の長さ
- ・夫婦間の子供の有無
- ・不貞行為が判明したときの、不貞相手からの謝罪の有無
- ・不貞行為が判明したときの、不貞相手に対する社会的影響の有無
- ・不貞行為の悪質性(不貞相手が、こちらが既婚者と知りながら、またこちらの家庭を壊そうとしていたかどうかなど)
不貞慰謝料を請求したい方
不貞慰謝料は誰に請求できる?
不貞慰謝料の請求先は、「配偶者のみ」「不貞相手のみ」「配偶者と不貞相手」の3つが考えられ、どれを選ぶかは請求者の自由です。ただし、「配偶者と不貞相手」に請求する場合、それぞれに全額を請求し、二重で受け取ることはできません。
不貞慰謝料を請求する前に確認すべきこと
不貞慰謝料を請求する前に、まずは、請求するための条件や請求内容が妥当かどうかを確認しておきましょう。不当な条件で、また相場よりも大幅に高額な慰謝料を請求すると、請求した側が不利になるおそれもあるため、注意が必要です。具体的に確認する点は、以下の項目が挙げられます。
- ・請求できる時効は成立していないか
- ・相手の不貞行為を裏付ける証拠が揃っているか
- ・請求する慰謝料金額は、相場と比べて適正か
- ・請求方法は適切か
証拠になるもの
不貞慰謝料を請求する場合、相手の不貞行為を客観的に証明する必要があります。また、適正な金額で受け取るには、不貞行為の期間や頻度、悪質性についても立証が必要です。そのため、あらかじめ、以下のような有力な証拠を集めることがポイントです。
【写真・動画】
写真や動画は、不貞行為の特に有力な証拠となります。例えば、性行為の場面や不貞相手と裸体でいる場面の写真や動画は、決定的な証拠です。また、ラブホテルに出入りしている写真や動画なども、有効な証拠のひとつです。
一方で、ビジネスホテルに別々に出入りする写真や動画の場合、それだけでは肉体関係があったと示す証拠としては弱いでしょう。そのため、例えば、ビジネスホテルで異性と同室に泊まったことを示す証拠なども追加で揃え、相手の不貞行為を主張する必要があります。
【メール・SNS】
肉体関係があったと容易に推測できる内容のメールやSNSのメッセージも、有力な証拠になります。例えば、2人でラブホテルに行ったことや、性行為の内容について書かれたものが有効です。また、複数回のやり取りを押さえておけば、不貞行為が繰り返し行われていた証拠にもなります。
【領収書】
領収書やクレジットカードの明細書なども、不貞行為の証拠になる可能性があります。例えば、ラブホテルの領収書や旅行先での2人分の領収書、異性用の高価な装飾品を購入したクレジットカードの明細書などが挙げられます。これらからは、配偶者以外の人と肉体関係があったことや親密な交際をしていることが推測できるため、有力な証拠となり得ます。
不貞慰謝料を請求する方法
不貞慰謝料を請求する際は、まず請求相手に「慰謝料を支払ってほしい」と伝えましょう。伝え方にルールはありません。
離婚協議中であれば、対面や電話で直接伝えても良いですし、メールや書面を送っても良いでしょう。話し合いで決まらなければ、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停では、不貞慰謝料を支払うかどうか・不貞慰謝料の金額などを、調停委員を挟んで協議します。調停でも夫婦間の折り合いがつかなければ、訴訟を起こし、裁判所に判断を仰ぐことになります。相手の不貞行為について十分な証拠があれば、裁判所から相手に対し、不貞慰謝料を支払う旨の判決を得ることが可能です。
内容証明郵便での請求について
配偶者と別居中などで直接会うのが難しい場合、電話・メール・内容証明郵便などで慰謝料を請求するのが一般的です。特に、内容証明郵便にはいくつかメリットがあるため、ご紹介します。まず、相手に手渡しで郵送されることから、相手に受領をさせ易いという点があります。さらに、内容証明郵便は、送った内容や日時が公的に記録されるため、慰謝料を請求した事実を証明することができ、後の請求手続で有利に働く場合があります。一方、内容証明郵便のデメリットとして、送る手間や費用がかかることや、強制力はないため相手に支払いの強制まではできないことなども覚えておきましょう。
内容証明郵便に記載する内容
内容証明郵便に記載するべき内容は、以下のとおりです。なお、内容証明郵便には文字数や行数に制限があるため、作成する前によく確認しておきましょう。
- ・不貞行為の事実(いつ・どこで・誰となど)
- ・上記の不貞行為が、不法行為にあたること
- ・慰謝料を請求すること
- ・慰謝料の請求金額、支払期日、支払方法、振込先など
- ・慰謝料が支払われなかった場合の対応(法的措置をとるなど)
離婚後でも慰謝料請求は可能?
離婚後でも、慰謝料を請求することは可能です。離婚後に慰謝料を請求するには、まずは相手の不貞行為の証拠を集めたうえで相手と話し合います。話し合いで決まらなければ調停を申し立て、調停でも合意ができなければ訴訟を起こすことになります。
ただし、離婚時に清算条項(離婚後はお互いにお金の請求をしないという取り決め)を設けるなど、慰謝料の請求権を放棄していた場合には、基本的には離婚後に慰謝料を請求することはできません。また、離婚後は相手が話し合いに応じにくくなる傾向があり、スムーズに支払ってもらえる可能性が低くなるため、注意が必要です。
相手が慰謝料を支払わないときの対処法
慰謝料の支払いを書面で約束しても、相手が支払ってくれないという事態も起こり得ます。その場合、強制執行を行うと良いでしょう。
慰謝料の取り決めが書かれた拘束力のある書面(強制執行認諾文言付き公正証書、離婚時の調停調書や判決書など)があれば、裁判を起こすことなく相手の財産を差し押さえ、未払いの慰謝料を回収することができます。なお、差し押さえる対象は、相手の給与や預貯金といった現金のほか、車、不動産なども含まれます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
不貞慰謝料を請求されている方
慰謝料を請求されたらまず確認すること
相手から慰謝料を請求された場合、急いで支払わなければいけないと焦ってしまうこともあるでしょう。しかし、まずは冷静に以下の点を確認し、相手からの請求が適切なものかどうか確認しましょう。
- ・誰から請求されているのか(相手方個人からか、相手が依頼した弁護士からかなど)
- ・相手が主張する内容は事実か
- ・慰謝料の金額は妥当か
- ・時効が成立していないか
- ・不貞行為が発覚したとき、夫婦関係はすでに破綻していなかったか
内容証明郵便で請求された場合の対処法
内容証明郵便によって慰謝料を請求される場合、封筒に「内容証明郵便」と赤いハンコが押されて届くため、普通郵便よりも重要な連絡だとすぐに察することができるでしょう。
内容証明郵便を受け取ると、急いで慰謝料を支払わなければと焦ってしまうでしょうが、まずは冷静に適切な対応を取ることが重要です。そこで以下では、内容証明郵便で慰謝料を請求された場合の対処法をご説明します。
回答書を送付する
内容証明郵便で慰謝料を請求されたら、まずは内容や相手の請求が妥当かどうかを確認したうえで、合意・反論・減額の希望など、請求に対する返答を記載した書面(回答書)を相手に送ります。
このとき、必ずしも内容証明郵便で送る必要はありません。しかし、どんな形であれ回答した内容は交渉の流れにおける証拠になるため、安易に回答書を送るのは危険です。そのため、内容証明郵便で慰謝料を請求された場合には、ご自身だけで進めるのではなく、対応について弁護士に相談されることをおすすめします。
内容証明を無視することは避けるべき
内容証明郵便は、その記載内容が法的に正しいと証明するものではなく、実際には手紙のひとつにすぎません。そのため、記載された支払期日や回答期日に従わなかったからといって、すぐに差し押さえや罰則を受けることはありませんが、無視すると交渉に応じる気がないと判断されて裁判を起こされるおそれがあるため、きちんと返答しましょう。
代理人を通して請求されたら
弁護士が相手の代理人となっている場合、いきなり高額な慰謝料を請求してくることが想定されます。これに1人で太刀打ちするのは難しいため、こちらも弁護士を代理人に立てて対等に交渉すると良いでしょう。
一方、相手が行政書士に依頼して内容証明郵便を送ってきた場合、交渉相手は、行政書士ではなく相手方本人になります。基本的に、行政書士は書面作成の専門家であり、弁護士のように法的な交渉をする権利はないからです。弁護士ではなく行政書士に依頼した相手は、裁判などをせずに、当事者間で解決したいと考える傾向があります。そのため、こちらが現実的な金額の慰謝料を支払うと伝えれば、穏便に収束できる可能性があります。
請求された慰謝料を減額するには
慰謝料を減額する方法
請求された慰謝料金額を減額するには、まずは相手と話し合って減額の交渉をします。この際、減額を主張する根拠をしっかりと伝えることが重要です。
例えば、慰謝料の請求金額が相場よりも高いことや、裁判となっても相場を大幅に越えた慰謝料は認められにくいこと、また相手が主張する不貞行為の事実に誤解があれば修正することなどが挙げられます。交渉によっても相手が慰謝料の減額に応じない場合、調停を申し立て、調停委員会を挟んで協議します。なお、調停でも合意ができなければ、訴訟を起こして裁判所に判断を仰ぐことになります。
慰謝料が減額されやすいケース
慰謝料を減額するには、いくつかのポイントを押さえて主張することが有効です。具体的には、以下のような場合に慰謝料の減額が認められやすくなっています。
- ・請求する側にも過失があった
- ・相場以上の慰謝料を請求された
- ・支払う側の財産や収入が少ない
- ・不貞行為に対して消極的であった(相手がしつこく誘ってきた場合、上司に不貞行為を強要された場合など)
- ・不貞行為の期間や回数が少ない
合意後、慰謝料を支払わないとどうなる?
合意した金額の慰謝料を支払わずにいると、さまざまな問題が起こり得ます。まず、合意内容の書面を「強制執行認諾文言付き公正証書」にしていた場合、強制執行により財産(給与、預貯金、車、家など)を差し押さえられるおそれがあります。強制執行認諾文言付き公正証書には強い拘束力があり、相手はすぐに強制執行ができるため、注意が必要です。
また、合意内容を公正証書にしていない場合でも、相手が、慰謝料請求訴訟・強制執行の許可を得るための訴訟を起こす可能性があります。もし、ご自身の収入などから慰謝料を支払うのが難しいようであれば、確実に支払える金額まで減額してもらったり、分割払いで支払う旨をあらかじめ取り決めておいたりすることが重要です。なお、分割払いで支払うと決める際には、支払う期間、一度の支払金額、支払方法などまで具体的に決めておくと、後のトラブルを防げるでしょう。
不貞慰謝料について悩んだら弁護士に相談してみましょう
不貞慰謝料は、お互いが感情的になり、話し合いや調停でなかなか決まらないことも多いです。相手に不貞行為をされた方は、「十分な慰謝料を支払ってほしい」「減額に応じたくない」と思われることでしょう。
納得のいく慰謝料を獲得するためにも、まずは弁護士へご相談することをご検討ください。また、慰謝料を請求されている方も、きちんと根拠を固めたうえで反論・主張をすれば、支払う慰謝料を減額できる可能性もあります。相手とスムーズに交渉し、穏便に解決するためにも、不貞慰謝料でお悩みの方は、弁護士に相談されることをおすすめします。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)