監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
モラハラを理由に離婚を突き付けられた場合、どう対応してよいか分からず、戸惑うと思います。
本記事では、モラハラを理由とする離婚請求に対してどう対応すべきか、離婚は回避できるのかといったことについて解説していきます。
目次
モラハラを理由に離婚請求されたらどうしたらいい?
モラハラを理由に離婚を請求されることはよくあります。
特に現代は、些細なことでもモラハラと言われかねない時代となっており、モラハラを理由に離婚を希望する人は以前より多くなっているように思います。
相手にモラハラと言われた場合には、どのような行動(発言)を不快に感じたのか聞き取りましょう。
そして、思い当たるところがあれば誠心誠意謝り、今後繰り返さないようにする、思い当たるところがないのであればそれを説明するなどの対応が考えられます。
そもそもモラハラとはどのような行為?
モラハラとは、ことばや態度で繰り返し相手を攻撃し、人格の尊厳を傷つける精神的暴力とされています(香山リカ『知らずに他人を傷つける人たち』21頁(KKベストセラーズ、2014年))。
具体的には、以下のような行為が目安となります。
- 何時間もしつこく説教する
- 土下座を強要して謝らせる
- 「頭が悪い」「役立たず」「何をやらせてもできない」などと言って侮辱する
そのため、相手がモラハラと言っていても、実際にはモラハラにあたるような行為はしていないということはあります。
モラハラを理由に離婚できる?離婚する際に知っておくべきこと離婚を拒否することは可能だけど、裁判になると…
離婚には主に、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚の3種類があります。
まず、当事者間で話し合いが行われることが一般的です(①協議離婚)。
協議離婚は、両当事者の合意がなければ成立しないため、離婚を拒否することで、離婚を成立させないことができます。
①協議離婚が成立しない場合、相手から調停を申し立てられることになります(②調停離婚)。
調停では調停委員が両当事者の間に入り、話し合いを進めます。
これも、最終的には両当事者の合意がなければ成立しないため、離婚を拒否し続けることで、離婚を成立させないことができます。
その場合、相手から離婚裁判を起こされることになります(③裁判離婚)。
裁判では、法定の離婚事由が認められると、離婚が成立してしまいます。
そのため、裁判となった際には、相手が主張する行為が法定の離婚事由に当たらないことを主張する必要があります。
モラハラで離婚が認められるケースとは
裁判になった際に、離婚が認められるためには、相手が主張する行為が、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項4号)にあたることが必要となります。
離婚を望んでいる相手が証拠によってこれを証明する必要があります。
想定される証拠としては、長時間相手を説教している録音や、相手の日記、第三者の証言などが考えられます。
これらの証拠によって、婚姻関係をこれ以上継続させるのは妥当ではないと裁判官が判断すれば、離婚が認められることになります。
離婚が認められないケース
反対に、相手が証拠を有していない場合や、証拠を有していても、夫婦げんかのようなレベルでモラハラとは言いがたいような場合には、離婚は認められないことになります。
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身に覚えのないモラハラ・冤罪をかけられたときの対処法
相手が言うモラハラに全く身に覚えがないときは、まずは相手に事実確認を行いましょう。
いつ、どこで、どのような発言等があったのかを聞き取ります。
それでも全く思い出せない、心当たりがないといった場合には、その旨相手に伝えます。
モラハラの事実が認められた場合、慰謝料は発生するのか?
慰謝料は、精神的苦痛を受けた場合に、それを賠償するためのお金です。
モラハラの場合も、慰謝料が認められることがあります。
また、受けた精神的苦痛の程度によって、認められる慰謝料の額は異なります。
モラハラ行為が悪質であったり、行為に及んだ期間が長かったりすれば、支払う慰謝料はより高額になります。
モラハラの場合、慰謝料額は数十万円〜100万円程度となることが多いです。
モラハラで離婚したら親権はどちらがとる?
親権者については、両当事者の合意がなければ、裁判官が決定することになります。
親権者は、子の福祉の観点から、子を養育するのにふさわしい親が選ばれます。
モラハラ行為が相手(子にとっての親)にしか及んでおらず、子には及んでいないのであれば、それによって直ちに親権者となれないわけではありません。
もっとも、子はそのような行為を目撃している可能性が高いため、少なからず子にもダメージがあると考えられます。また、相手に対しそのような行為に及んでいたことで、相手と別居すれば今度は子に及びかねないと考えられ、親権者の判定において不利に働くことが考えられます。
2026年以降、共同親権が施行される見込みとなっています。
共同親権が施行されれば、①協議離婚及び②調停離婚の場合には、話し合いで双方又は一方を親権者と定めます。
③裁判離婚の場合には、裁判所が双方または一方を親権者と定めることになりますが、父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると裁判所が認めれば、父母の一方が親権者と定められることになります。
モラハラによる場合も、子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると裁判所が判断すれば、モラハラを行っていた親には親権が認められなくなります。
相手が別居することを選んだら
婚姻費用を請求される可能性がある
相手が家を出て行った場合、離婚が成立するまでの間、婚姻費用を支払う必要が生じ得ることになります。
婚姻費用は、婚姻期間中の生活費を分担する仕組みであり、両当事者の収入をもとに、支払う金額の相場が決まっています。
収入が多い方がモラハラを行い、別居に至った場合には、収入が多い方の当事者は、婚姻費用を支払う必要があります。
反対に、収入の少ない方がモラハラを行い、別居に至った場合には、収入の多い方の当事者は、婚姻費用の支払いを免れることができる可能性があります。
子供を連れて別居された場合
子供を連れて相手が出て行くこともあり得ます。
その場合、保育園で待ち伏せするなど、無理に子供を取り戻すと、親権者としてふさわしくないと裁判所に判断されるおそれがあります。
子供を取り戻したい場合には、①監護者指定、及び、②子の引き渡しを求める調停を申し立てるなど、裁判手続きを利用するようにしましょう。
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モラハラによる離婚請求に関するQ&A
私の親族のモラハラが原因で、妻から離婚請求されました。親族のモラハラは、離婚理由になるのでしょうか?
親族がモラハラを行っていたとしても、婚姻関係にある当事者がモラハラを行っていたわけではないため、当然には離婚理由にはなりません。
もっとも、親族によるモラハラ行為を知っていたにもかかわらず、それを止めなかった場合には、モラハラに同調あるいは助長しているとして、離婚理由になる可能性があります。
私からのモラハラを訴え別居した夫が不倫したようです。離婚が回避できないならせめて慰謝料をもらいたいのですが可能ですか?
夫が不倫したのであれば、不貞による慰謝料を請求できる可能性があります。
もっとも、婚姻関係が破綻した後に不倫に及んだ場合には、慰謝料請求は認められません。
別居に至ったとしても、直ちに婚姻関係が破綻したとなるわけではないので、基本的には慰謝料請求は可能ですが、別居から数年経った後の不倫であれば、すでに婚姻関係が破綻しているとして、慰謝料請求が認められない可能性があります。
モラハラを理由に離婚を請求されていますが、嫌なら都度言ってくれればいいのにいきなり離婚なんて納得いきません。離婚を拒否できませんか?
先に解説したように、裁判となるまでは、離婚を拒否することは可能です。
モラハラの事実について相手が有力な証拠を有している場合には、最終的には離婚が認められる可能性が高いと言えます。
そのような場合には、相手に対し誠心誠意謝罪し、今後繰り返さないことを誓った上で、離婚の意思が翻意されるよう努力するしかありません。
モラハラが原因で離婚請求をされたら、弁護士に相談することで解決に繋がる場合があります
相手にモラハラと言われていても、それが本当にモラハラにあたるのか、離婚が認められるほどの事実が存在するのか等については、ご本人ではなかなかわからないことが多いと思います。
弁護士であれば、日頃より似たような事件を多く扱っているため、その判断や、仮に離婚となった場合における今後の進め方等についてアドバイスすることが可能です。
相手からモラハラを理由に離婚を請求されたような場合には、是非一度ご相談いただければと思います。

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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
