監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
労働者が、仕事中や通勤途中に交通事故に遭ってしまった場合、労災保険に対して保険金を請求できるときがあります。
この労災から受けられる保険金の中には、交通事故によるケガで休業を余儀なくされたために受け取れなかった収入に対する補償があり、これは休業補償と呼ばれています。
この記事では、休業補償の制度・特徴や活用方法について説明していきます。
目次
交通事故の休業補償とは
会社に雇用され、労災保険に加入している労働者が労災にあった場合、労災保険に対して保険金を請求出来ることがあり、業務中や通勤中の交通事故も労災に該当することがあります。
このとき、業務中に生じた交通事故は業務災害、通勤中の場合は通勤災害と呼ばれて区別されています。
休業に対する補償に関して、この分類に応じて、業務災害のときが「休業補償給付」、通勤災害のときが「休業給付」と名称の違いはありますが、支給要件は同じです。
その支給要件とは、①業務上の事由または通勤による負傷や疾病のため、②労働することができないため、③賃金を受けていない、という3要件とされています。
休業補償はいつもらえる?
休業補償には待機期間が存在し、事故の初日から3日目までは支給がされません。
業務中・通勤中の交通事故によるケガで仕事を休んでから、4日目以降の休業について支給対象となってきます。
この初日から3日目の休業については、業務災害であれば事業主に対して休業補償を請求できます。
他方で、通勤災害の場合は、事業主の補償責任を定めた法令上の規定はないため、加害者側に休業損害として請求することを検討することになります。
休業補償はいつまでもらえる?
休業補償は、上記の3要件を満たす期間の間はずっともらい続けることができます。
そのため、ケガが完治したり、症状固定(適切な治療を受け、これ以上は改善を見込むことができない状態)に至って治療が終了したりしたときには、①の要件を満たさなくなるため、終了となるでしょう。
ただし、療養開始後1年6ヶ月が経過しても、その負傷又は疾病が治っておらず、労基署が定める傷病等級表に該当する程度の障害がある場合は、休業補償ではなく、傷病(補償)等年金に切り替わることがあります。
交通事故の休業補償と休業損害の違い
これまで解説してきたとおり、休業補償とは、労災保険の制度の一つです。
そのため、交通事故の加害者側に対して請求できる休業損害とは、休業によって得られなかった収入を補填するものである点が共通しますが、請求先や対象となる事故が異なります。
下記の表では、両者の違いについてまとめています。
| 休業補償 | 休業損害 | |
|---|---|---|
| 請求先 | 労災保険 | 加害者本人、加害者加入の自賠責保険又は任意保険 |
| 対象となる事故 | 業務中又は通勤中に生じた交通事故 | 人身事故全般 (自身が100%の過失を負う自己を除く) |
| 貰える金額 | 平均賃金に相当する額の60%を給付基礎日額と定めています。 この給付基礎日額×休業日数(但し、初日から3日目までを除く)で計算。 |
自賠責保険では、原則として6100円×休業日数で計算。 弁護士を介した交渉では、休業損害証明書より日額を算定し、その額×休業日数で請求を行うこともあります。 |
| 過失割合の影響 | なし | あり |
| 有給休暇の取り扱い | 休業保障の対象外となる | 損害として請求できる |
| 待機期間 | 初日から3日目までの3日間 | なし |
| いつ貰えるか | 請求してから審査の終了後 その後は、1か月ごとに支給 |
原則、示談成立後 |
| 貰える期間 | ①業務上の事由または通勤による負傷や疾病のため、②労働することができないため、③賃金を受けていない、の3要件を満たしている期間。 | 休業の必要性・相当性が認められる期間 |
休業補償と休業損害はどちらを請求する?
休業補償と休業損害は、請求先などの違いはあれども、休業によって得られなかった収入を補填するものである点は共通しています。
どちらを先に請求するかは、被害者の意思に委ねられています。
このとき、過失割合が低ければ休業損害の方が高い計算結果となりやすい反面、休業補償には比較的早めに受け取れるメリットがあります。
そのため、休業補償を先に受け取っておき、治療終了後に加害者側へ差額分を請求するといったように、両方への請求を使い分けることが可能です。
ただし、重複して支払いを受けることはできないため、両方を満額受け取ることは不可能です。また、両方に請求を行うメリットはもう一つあります。
労災保険には、休業補償のほかに、「休業特別支給金」という制度が設けられており、休業補償と合わせて平均給与の20%を追加で受け取ることが可能です。
この休業特別支給金は、損害の補填ではなく、労働者の福祉のために支給される労災独自の制度であるため、休業損害の請求額にも影響しません。
そのため、休業損害を満額受け取っている場合でも、休業特別支給金を申請することで、おおよお120%の額の金額を受け取ることができるため、両方に申請を行った方がよいでしょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の休業補償の特徴
以下の項目では、休業補償の制度の特徴について、詳細にまとめています。
待機期間がある
休業補償には、待機期間が設けられており、初日から3日目までは、労災保険からの保険金給付がなされません。
加害者の加入する自賠責保険や任意保険には待機期間がないため、1日目の分から請求をしていくことができます。
このとき、業務災害の場合は、あくまで労災保険から支給がないだけであるため、この3日間については、自賠責等への請求のほか、勤務先の事業主へ直接休業補償を行うように求めることもできます。
他方で、通勤災害の場合には、事業主が保障をすべきとの法令上の定めはないため、この3日分は、加害者側に対する請求で対応することになります。
支払いに過失割合の影響・上限はない
休業補償では、過失割合に応じた減額をしないため、常に満額を受け取ることができます。
また、支払い額に上限がないため、要件を満たす限りは、保険金の受け取りをすることができます。
一方で、加害者本人や任意保険への請求では、被害者に過失がつく事故に場合、その被害者の過失分だけ賠償額を減額するという過失相殺を行うことがほとんどです。
また、自賠責保険では、被害者側の過失による調整は、重過失(7割以上の過失の場合)のみに限定されていますが、ケガに関する賠償は120万円が上限となっています。
そのため、休業損害だけではなく、治療費や入通院慰謝料等の損害総額として120万円を超える分は、自賠責では対応できません。
そのため、過失割合が多いときにも活用しやすいのが、労災保険のメリットと言えるでしょう。
自営業者や専業主婦(夫)は対象とならない
休業補償は、労災保険の制度であるため、労働者ではない個人事業主(特別加入制度によって任意加入している人を除く)や専業主婦(主夫)といった加入者ではない者は、申請ができません。
有給休暇を取得した日は対象外
休業補償の要件の一つとして「③賃金を受けていない」を満たす必要があります。
このとき、ケガで休業を要するときに、有給休暇で対応した場合、その日は労働をしていなくても、会社から賃金が払われます。すると、上記要件を満たさないこととなり、休業補償の対象日から外れます。
一方で、休業損害の考え方では、有給休暇が取得できるという権利を、交通事故のケガのために消費させられたことを損害として考え、加害者側に請求することが認められています。
所定休日は要件を満たせば対象となる
休業補償は、上記の3要件を満たしている限り、会社の所定休日分も含めて休業日数として計算されます。
また、事故直前の勤務日数に関わらず、交通事故のケガなどで労働できない日であれば、待機期間の3日を除いた全日数で計算をします。
休業損害は、あくまで交通事故のせいで会社を休んだ日のみが対象となりうるので、もともと会社が休みの日は、含めません。
交通事故における休業補償の計算方法
交通事故における休業補償は、休業1日につき、給付基礎日額の80%(休業(補償)等給付の60%+休業特別支給金の20%をどちらも請求する場合)で計算されています。
この給付基礎日額は、事故が発生した日の直前3か月間に、その労働者に対して支払われた賃金総額を、その期間の歴日数で割った、一日当たりの賃金額を指します。
但し、この算定基礎となる「賃金」には、臨時的支払われるものや、賞与などは含まれません。また、休業日数は、上述のとおり、初日から3日目までを除いた、4日目以降から起算します。
休業補償の請求方法
休業補償の申請書類は、勤務先を管轄する労働基準監督署(労基署)に提出します。
法律上は労働者個人が申請者であり、勤務先には申請の協力義務が定められています。
しかし、多くの会社では、労災保険の申請を代わりにやってくれることも多いので、一度ご相談してみることをお勧めします。
申請書には、会社の証明欄のほか、通院先の担当医の証明欄もあるため、病院にも協力を依頼する必要があります。
会社が非協力的な場合は、自らが請求する必要があります。
申請書は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。
請求の時効に注意
休業補償には、時効があります。休業補償の場合、賃金を受けない日ごとに請求権が発生していますので、その翌日から2年間が経過すると申請ができなくなります。
早く受け取りたい場合は受任者払い制度を利用する
休業補償を申請すると、労基署での審査が行われ、支給の決定が出てから支払いがなされます。
この申請から支給までは、1か月程度かかりますが、事案によってはより長期間を要します。しかし、毎月の給与から生活費を工面している方がほとんどであると思いますので、この支払いまでの期間が長引くと、生活に大きな支障が出ます。
このような場合、会社に、休業補償に相当する金額を立て替えて支払ってもらい、労災保険から支給される休業補償については会社に直接払ってもらうという受任者払い制度というものがあります。
この受任者払い制度は、会社に強制できないため、あくまで会社の協力が得られる場合に限られるものの、早めに受け取ることができる場合があるので、利用したい場合は、一度会社にご相談してみることをお勧めします。
休業補償の請求が認められなかった場合の対処法
休業補償の申請をしても、労基署での審査により、要件を満たしていないなどの理由で、保険金の不支給決定が出ることがあります。
この決定に対して不服がある場合には、都道府県労働局に置かれている労働者災害補償保険審査官に不服申立てをすることができます。これを「審査請求」と呼びます。
この審査請求は、監督署長の決定の通知を受けた日の翌日から3か月以内に行う必要があります。
勤務中・通勤中の交通事故の休業補償・休業損害請求は弁護士にご相談ください
休業補償は、労災の制度の一つであり、加害者側への休業損害にかかる賠償請求とは、様々な点で相違点があります。
労災保険の休業補償には、特別支給金を併せて申請することで100%以上の額を受け取れる可能性があるほか、加害者への請求が認められる範囲よりも休業期間が長めに認められやすい点や比較的早めに受け取ることが出来るという点でメリットがあります。
また、過失割合に応じた減額がなされないので、こちらにも過失が大きく認められる事故の場合には、特に労災を活用することのメリットが大きいと言えます。
要件を満たす場合は、休業補償も休業損害の両方を支給していくべきですが、重複した受け取りができないため、過失割合などが絡んでくると、最終的にいくらを受け取りできるのかの予想がつかないケースも多いところです。
交通事故の休業補償について、自分の事故が対象となるのか、加害者からの賠償金よりも先に請求した方がよいのかといった点でお困りの方は、弁護士法人ALGにご相談ください。

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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
