監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
遺言書を作成するにあたっては、よく、「遺言書を作成するのであれば、公正証書によるべきだ」と言われます。
もっとも、なぜ公正証書によるべきだと言われるのか、そのメリット・デメリットや、作成方法まではそれほど広く知られていないようです。
ここでは、公正証書遺言とは何か、メリット・デメリットに加え、作成の流れや注意点等を解説していきます。
目次
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証人の作成する公正証書によってする遺言のことです。
公正証書遺言をするためには、①証人二人以上の立会いがあること、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に読み聞かせする(口授)こと、③公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させること、④遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名押印すること、⑤公証人が、その証書が以上の適切な手続に従って作ったものである旨を付記して、これを署名押印することが必要となります。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言には、大きく分けて3つのメリットがあります。
以下では、公正証書遺言のメリットについて説明します。
紛失、偽造、変造のおそれがない
自筆証書遺言の場合には、作成後遺言者が思わぬところに保管し、保管場所を誰も知らなければ発見されないこともありますし、発見されても発見者が破棄したり、偽造、変造するおそれがないとはいえません。
しかし、公正証書遺言の場合には、遺言書の原本は公証役場で保存されますし、利害関係人であれば遺言の存在を調査することもできますので、遺言書の紛失、偽造、変造のおそれがありません。
遺言書開封時の検認手続きが不要
遺言書の検認とは、家庭裁判所が遺言の存在と内容を認定するための手続きのことで、一種の証拠保全手続きです。
検認手続きは、遺言の有効性を左右するものではなく、相続人に対し、遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、検認の日における遺言書の状態を明確にして、検認後の偽造や変造を防ぎ、遺言書の保存を確実にすることができ、自筆証書遺言の場合などは、この検認の手続きが必要となります。
もっとも、公正証書遺言は、前述のとおり、偽造や変造が行われる恐れがないため、この検認手続きは不要とされています。
自筆できない人でも作成できる
自筆証書遺言は、有効に成立するための要件の一つとして、本文を含めてすべて「遺言者本人の自筆であること」が絶対必要であるため、自筆できない場合には、作成することができません。
一方、公正証書遺言は、遺言者の口述を公証人が聞き取り、公証人が本文も含めて、すべてこれを筆記して書面にすることで有効に成立します。
そのため、公正証書遺言であれば、自筆できない人でも、作成することができます。
公正証書遺言のデメリット
作成に時間や費用がかかる
公正証書遺言にはメリットだけではありません。
公正証書遺言を作成する際には、通常、事前に公証人に遺言内容を伝えて案文を作成してもらっておき、作成当日にその内容を再度確認することになります。
そのため、公証人に案文を作成してもらう時間や、公証役場と日時調整をして公証役場に出向く必要があるなど、作成に時間がかかります。
また、公正証書遺言を作成する場合には、公証人に諸費用を支払う必要があります。
費用については、基本的な手数料は遺言の対象となる目的動産の価値により異なり、これに遺言書の枚数に応じた手数料加算などが行われて金額が決定されます。
2名以上の証人が必要となる
公正証書遺言を作成するためには、2人以上の証人の立会いが必要となるため、遺言者が証人となる2人を探さなければなりません(公証役場に証人を紹介してもらうことも可能ですが、その場合には、証人への報酬が必要です)。
証人となる人に特別な資格などは特に必要ありませんが、法律上、以下に該当する人は証人となることができないとされています。
-
①未成年者
未成年者は、まだ責任のある立場で証言する能力が不十分だからです。 -
②遺言者の推定相続人及び受遺者並びにこれらの方の配偶者及び直系尊属
これらの方はいずれも、遺言について利害関係があるため、公正な立場で遺言について証言することは困難であると考えられているためです。 -
③公証人の配偶者、四親等以内の親族、書記及び使用人
いずれも公正証書遺言作成の主体である公証人の関係者であるため、公正な立場で証言できないと見られるからです。
公正証書遺言を作成する流れ
以下では、公正証書遺言を作成する流れを説明していきます。
また、併せて、その際に必要となる書類についてもご案内します。
遺言書に書きたい内容のメモを作成する
遺言は、遺言者の意思を反映させ、相続人等に意思を伝えるものであるため、遺言者が何を伝えたいかが一番重要です。
そのため、あらかじめ、遺言書に書きたい内容をメモにまとめることが必要となります。
公証人は、そのメモに基づいて遺言書を作成しますので、遺言書に書きたい内容は忘れないようにメモに残しましょう。
●●の財産は、××さんに渡す、などの内容の記載が代表的なものといえます。
必要書類を集める
公正証書遺言を作成するためには、いくつか必要な書類がありますが、その代表的なものを以下の表にまとめました。
もっとも、公証役場によって必要書類は異なるため、公正証書遺言を作成する際には、別途、作成予定の公証役場にご確認ください。
| 内容 | 必要書類 |
|---|---|
| 遺言者本人を証明するもの |
➀3ヶ月以内に発行された遺言者本人の印鑑登録証明書と実印 ➁運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等、本人と顔写真付きの公の官署が発行した証明書と認印 のいずれか |
| 相続人との続柄が分かるもの |
➀遺言者が身内の方に相続あるいは遺贈する場合 →遺言者の夫婦、親子関係がすべて記載されている戸籍謄本 ➁相続権のない第三者に遺贈する場合 →当該第三者の住民票 |
| 不動産がある場合 | 土地・建物の登記簿謄本、固定資産評価証明書(または最新の納税通知書)を各1通 |
| 預貯金がある場合 | 預金先、金額などのメモ等 |
2人以上の証人を探す
前述のとおり、公正証書遺言の作成のためには2人以上の証人の立会いが必要ですので、遺言者において、証人を探す必要があります。
証人と一緒に公証役場に行き、遺言書を作成する
通常は、遺言者と証人2名が都合の良い日時を決めて公証役場に行き、遺言者、証人2名がそろっているところで、公証人が原本と正本、謄本を読み合わせ、遺言者の意思を確認します。
間違いがなければ、原本に遺言者と証人2名に署名してもらい、遺言者は実印を、証人2名は認印を捺印することで、公正証書遺言が成立します。
その後、原本は公証役場で保管し、正本、謄本は、公証人が署名しこれに職印を押して割り印した上で、遺言者に渡します。
遺言書を作成する公証役場はどこ?
どこの公証役場の公証人に作成してもらっても差支えありません。
もっとも、後述のとおり、公証人に遺言者の所在地に出張してもらって作成する場合には、出張してもらう場所を管轄する法務局の管轄区域内の公証役場に所属する公証人に作成してもらう必要があります。
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公正証書遺言の作成が困難なケースと対処法
言語機能や聴覚に障害がある場合
公正証書遺言を作成するためには、「遺言者が遺言の趣旨を公証人に読み聞かせする(口授)こと」が必要ですが、口授する代わりに公証人と証人の面前で、通訳人の通訳によって遺言の趣旨を申述するか、遺言者が遺言内容を自書(筆談)することで、遺言内容を公証人に伝えて、これを公証人らが録取することによって、公正証書遺言を作成することもできます。
署名できない場合
前述のとおり、公正証書遺言は、本文も含め、公証人が遺言者の遺言の趣旨を聞き取って、それを筆記して内容を書面にします。
しかし、公証人が遺言書を作成後、遺言者及び証人は、筆記した内容が正確なことを承認した後、各自署名押印をする必要がありますので、遺言者が署名できない場合は、有効な遺言書が作成できないのではないかと思われるかもしれません。
しかし、もし、遺言者が健康上や身体上の理由で署名できないときは、公証人がそのことを付記することで有効に成立させることができます。
公証役場に行けない場合
公証人は、原則として自己の役場で執務しなければなりませんが、公証証書遺言は公証人が遺言者の所在地に出張して作成することもできます。
そのため、公正証書遺言を作成したいが、病院に入院していて外出できなかったり、自宅で生活しているものの高齢のため外出が不安で、公証役場まで出かけるのが難しいといった事情がある方でも、公証人が出張して、遺言書を作成することが可能です。
もっとも、出張できる土地の範囲は、その公証人が所属する法務局の管轄区域内とされているため、たとえば、東京法務局に所属する東京都内の役場の公証人が、千葉市内の病院や自宅まで出張して作成することはできません。
また、費用も、公証役場で作成する場合よりやや割高になります。
公正証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット
遺言内容の相談ができる
公正証書遺言をご自身で作成される場合には、ご自身で内容を考え、組み立てなければなりません。その場合、遺留分侵害額請求権を考慮する必要があるなど、留意すべき点がいくつかあります。
この点、弁護士であれば、このような法的な問題やリスクについてもご説明し、これを考慮した内容の公正証書遺言の作成ができます。
書類準備などの手間が省ける
公正証書遺言の作成を弁護士にご依頼されれば、前述の必要書類の準備もすべて弁護士が行います(ただし、印鑑登録証明書はご自身でご準備いただく必要があります)。
登記事項証明書などの準備は手間や時間がかかるため、ご自身で取得する手間がないというのは大きなメリットの一つです。
遺言執行者として選任できる
ご依頼された弁護士を遺言執行者として指定することができます。
遺言執行者は、相続財産を管理し、遺言の執行を行う者ですが、弁護士は、法律の専門家であり、相続問題にも精通していますので、弁護士を指定することで、遺言の執行をスムーズに行うことができます。
公正証書遺言に関するQ&A
公正証書遺言にすれば確実に効力がありますか?
公正証書遺言は、公証人が作成するものであるため、要件を満たさないまま遺言書が作成されることはあまり考えられません。
また、遺言者の遺言能力についても、遺言者が遺言の趣旨を説明する際の態度等から、遺言能力の有無を公証人が確認するので、公証人によって遺言者の遺言能力が担保されており、この点もあまり問題にはなりにくいといえます。
なお、前述の、本来「証人となることができない人」が証人となった公正証書遺言は無効となります。
一度作成した公正証書遺言の内容を変更することはできますか?
民法では、遺言者はいつでも遺言の方式に従って、遺言の全部又は一部を撤回することができると規定しています。
そのため、公正証書遺言の内容を後から変更したいと思った場合は、改めて遺言書を作成することで内容を変更することができます。
このとき、また公正証書遺言を作成しなければ内容の変更ができないというわけではなく、自筆証書遺言等、別の方式の遺言でも内容の変更が可能です。
公正証書遺言があることは死亡後通知されますか?
公正証書遺言があることが遺言者の死亡後に通知されることはありません。
そのため、公正証書遺言の存在を信頼できる第三者に伝えておくことをおすすめいたします。
なお、遺言者の死亡後、法定相続人、受遺者、遺言執行者などの利害関係人であれば、公証役場に対し、公正証書遺言が存在するかの照会を請求することができます。
遺言書を見せてもらえません。公証役場で開示請求はできますか?
公正証書遺言の内容を見せてもらえない場合は、公証役場に開示請求をすることで、内容を確認することができます。どの開示請求は、全国どこの公証役場でもできますし、料金も無料で利用できます。
開示請求の際には、
➀遺言者の死亡の記載がある除籍謄本
➁紹介者が遺言者の利害関係人であることを証明する資料(相続人の場合は、紹介者が相続人であることがわかる戸籍謄本)
③本人確認書類(運転免許証・印鑑証明書・旅券等)
を提示する必要があります。
公正証書遺言に関する不安、不明点は弁護士にご相談ください
公正証書遺言の作成の流れや注意点などについて説明いたしましたが、公正証書遺言の作成の際には、気をつけるべき点や、法的なリスク等も多いことがお分かりいただけたと思います。
遺言は、自身が亡くなった後に、自身の財産についてどうしてほしいかという、ご自身の意思を伝え、実現させる大事なものですので、公正証書遺言を作成する場合にも、問題のないものを作成されたいと思います。
相続には専門的な部分も多く、遺言の作成にあたっては、注意すべき点もケースによって異なるため、公正証書遺言に関してご不安がある方や、ご不明な点がある方は、一度弁護士にご相談ください。

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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
