監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
自筆証書遺言とは
遺言とは、亡くなった方(遺言者)の意思を反映させるための仕組みです。遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。公正証書遺言及び秘密証書遺言は、公証人の関与(費用がかかります)を必要とするのに対し、自筆証書遺言は、遺言者のみで作成できます。そのため、自筆証書遺言には、いつでも簡便に、かつ費用をかけずに作成できるという利点があります。もっとも、法定の方式を満たしていない場合や、内容が法律上無効となる場合には、自筆証書遺言が無効となる可能性もあります。この記事では、自筆証書遺言について説明をします。
自筆証書遺言が有効になるための4つの条件
自筆証書遺言が有効になるためには、次の要件が必要です。まず、①遺言の内容となる前文、日付、氏名の全てを自署することです。遺言に添付する相続財産目録(相続財産の一覧を記載するものです)は、自署によらないことができるとされていますが、原則として、全てについて自署が必要になります。次に、②自筆証書遺言に押印をすることが必要です。これらの要件を満たしていない自筆証書遺言は、遺言として有効に成立しません。
パソコンで作成してもOKなもの
上記の通り、財産目録についてはパソコンで作成をすることが認められます。その他の部分については、自署によらなければならないため、タイプライターやワープロ等で作成した場合には、その遺言は有効には成立しません。また、遺言者が、遺言の前文、日付及び氏名につき、カーボン紙を用いて複写の方法で記載したという事案で、自署による遺言といえるか否かが争点となりました。判例は、カーボン紙を用いた場合でも、自署の方法によるとして、自署の要件を満たすと判断しました。
自筆証書遺言の書き方
まずは、遺言の内容を決めましょう。遺言で定めることができる事項は、法律で決まっています(祭祀主催者の指定、相続分の指定等です)。法律で決まっている事項以外は、遺言の中に書き込んだとしても法律上の遺言としての効力を有しないということになります。
まずは全財産の情報をまとめましょう
自筆証書遺言に相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、まず、全財産の情報をまとめる必要があります。不動産であれば、地番・地積等、預貯金債権であれば、金融機関名・口座番号等を記載した別紙を添付しするのが通常であるため、不動産登記や、預貯金通帳等を参照して記載をします。
上記の通り、財産目録についてはパソコンで作成をすることが認められます。財産目録をパソコンで作成する場合は、財産目録の偽造変造を防止するために、目録の各頁(自署によらない記載が両面にある場合はその両面に)署名・押印をする必要があります。
誰に何を渡すのか決めます
相続財産を誰にどのように渡すのかを決めます。例えば、自宅の土地建物を長男に、預貯金を長女に…といった形で個別に指定する場合もあれば、預貯金について、割合を決めて渡す場合もあります。また、遺言作成時に、全ての相続財産を把握することはできないため、遺言に記載のない相続財産についてどのように渡すのかも決めておく必要があります。
縦書き・横書きを選ぶ
自筆証書遺言について、縦書き・横書きのいずれにするかの決まりはありません。ご自身が書きやすい方で作成いただければ結構です。
代筆不可、すべて自筆しましょう
遺言に記載すべき内容がまとまれば、全て自筆しましょう(上記の通り、財産目録については例外)。もし、文字を書くことができない状態であれば、自筆証書遺言を作成することはできないため、その場合は、公正証書遺言を作成することが考えられます。公正証書遺言であれば、遺言者が遺言としたい内容を公証人に口頭で伝え、公証人がその内容を遺言書の形にしてくれます。もっとも、判断能力に問題があるなどの理由で自署ができないということであれば、遺言能力が欠けると判断される可能性があるため、仮に公正証書遺言を作成しても、無効となる可能性があります。
遺言書の用紙に決まりはある?
遺言書の用紙に特に決まりはありません。もっとも、遺言の効力が問題とされる場合に備えて、なるべく、きちんとした紙に書くことをお勧めします。市販されている遺言書のキットを使用するのも一つの方法です。
筆記具に決まりはある?
筆記具に決まりはありません。もっとも、遺言の効力が問題とされる場合に備えて、鉛筆や消せるボールペンは避けていただき、書き始めから書き終わりまで同じペンを使用することをお勧めします。
誰にどの財産を渡すのか書く
「3.2」で決めた通り、誰にどの財産を渡すのかを書きましょう。例えば、「遺言者は、その有する別紙財産目録記載の土地・建物を、遺言者の長男●●(生年月日)に相続させる。」等の方法で記載をします。
日付を忘れずに書く
日付も忘れずに書いてください。「●年●月●日」のようなハンコではなく、自署しなければなりません。厳密に「●日」と書いていなくても構いませんが、どの日か特定できるように書かなければなりません。例えば、「令和4年9月末日」ならば特定できるので大丈夫ですが、「令和4年9月吉日」は特定できないので日付を書いたことにはなりません。
署名・捺印をする
遺言書の最後に、忘れずに、署名・捺印をしましょう。実印が望ましいですが、認印でも構いません。実印は、遺言者本人が厳重に管理するのが通常であるという経験則が働くため、遺言者以外の第三者によって偽造されたとの主張がなされた場合に、「実印が押されている」ことから「遺言者本人が作成した」と認定されやすくなります。
遺言書と書かれた封筒に入れて封をする
遺言書が完成したら、遺言書を封筒に入れて「封印」をします。「封印」は、法律上の要件ではないため、これがなくても遺言は無効にはなりません。しかしながら、「封印」をすることで、遺言者以外の者により改ざんされたり、紛失したりするリスクを下げることができます。封筒の裏側の綴じ代に押印をすることで「封印」をします。押印に用いる印章は、遺言書の最後に使用した印章と同一のものを用います。
自宅、もしくは法務局で保管する
完成した遺言書は、自宅、もしくは法務局で保管します。法務局に保管する場合は、手数料がかかりますが、遺言者以外の第三者により改ざんされたり、紛失したりするリスクを下げることができます。詳しくは、法務省の「自筆証書遺言書保管制度」について、手続等をご確認下さい。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
自筆証書遺言の注意点
遺言によっても遺言者の意思は100%尊重されるわけではなく、遺言者の意思と相続人の利益との調整を図るために遺留分制度が存在します。また、遺言を訂正する場合には決められた方法で訂正しなければなりません。
遺留分に注意・誰がどれくらい相続できるのかを知っておきましょう
遺言により、遺言者の意思が尊重されるとは言っても、遺言者の意思が100%尊重されるわけではありません。遺言者の意思と、相続人の利益との調整を図るための制度が遺留分制度です。仮に、遺言者が、遺産の全てを特定の者に渡すとの遺言を作成したとしても、遺留分権利者は、当該特定の者に対し、遺留分侵害額請求権を行使し、一定の金額を請求することができます。
訂正する場合は決められた方法で行うこと
遺言を訂正するためには、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を記載して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に押印をしなければその効力が生じないとされています。これは、法律で定められた訂正の方法です。これまでに解説をした通り、遺言は、方式が厳格に定められているところ、訂正についても、定められた方式によらないければなりません。なお、定められた方式によって訂正をしなかった場合であっても、遺言全体が無効となるわけではなく、訂正部分のみが無効となります(訂正前の文言を判読することができれば、その訂正前の文言を含めて遺言全体が有効となります)。
自筆証書遺言の疑問点は弁護士にお任せください
自筆証書遺言については、このように様々な決まりがあります。また、遺言を作成した場合でも、遺留分権者が遺留分侵害額請求を行うなど、遺言者が亡くなった後に紛争が生じる可能性があります。「遺言書を作成したけれどこの遺言書で本当に有効なのか」「遺言書を作りたいけれどどうやって作ればよいか分からない」「公正証書遺言にした方がよいのではないか」等、自筆証書遺言について疑問が生じた場合は、弁護士にご相談下さい。
-
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)