監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
養育費の取り決めについて、支払義務者から金額を下げてほしいと言われることがあります。言われた側としては、一度決めたにも関わらず、後から減額を要求されることに納得できないという気持ちになる方も多いかと思います。
この記事では、減額の請求をされたときにそれを拒否できるのか否か、またどのように対応をしていくべきであるかを解説していきます。
目次
養育費の減額請求は拒否できる?
離婚時に養育費に関する取り決めをし、公正証書などに残していたとしても、当事者や子どもの生活の変化が起きている場合には、それに合わせて養育費減額が認められてしまう可能性があります。
相手方から養育費を減額してほしいとの連絡があった場合、必ずしも承諾をする必要はないとはいえ、合意に達しない場合には養育費減額調停を申立されてしまうこともあります。そのため、減額を拒否したい場合こそ、相手方の言い分をよく聞いて、有効な反論を考えていく必要があります。
養育費の減額が認められる条件
家庭裁判所は、養育費について、その金額や方法を定めた後に事情の変更があったと認められる場合には、その内容を変更又は取り消すことができます(民法880条)。
家庭裁判所が養育費の減額を認めるケースには、①義務者が再婚をしたり、新たに子をもうけたりした場合、②義務者の年収が減少した場合、③元配偶者である権利者の年収が増加した場合、④権利者との間の子が養子縁組をした場合などがあります。
養育費の減額請求を拒否したい場合の対処法
養育費の減額について、交渉をもちかけられた場合には、まずは相手方と金額について話し合いをすることになります。
しかし、相手方が、いきなり養育費減額調停を裁判所に申し立てた場合には、交渉とはまた異なる調停への対応を考えていく必要があります。
連絡を無視せず話し合う
相手方からの養育費の減額を求めて、話し合いを要求してきた場合、まずは法的にその減額請求が妥当といえるか否かを検討し、減額されないための対応を考えていく必要があります。
このとき、相手方の減額請求が法的に妥当といえる理由のないものであった場合、相手方が裁判所への申立をしたとしても、相手方の請求が認められる可能性は低いので、最終的に話し合い自体を拒絶するという対応も一つの手段となり得ます。
しかし、相手方の減額請求が法的な根拠のあるものであった場合、話し合いを無視してしまうと、相手方が裁判所に養育費減額請求調停(審判)を申立てる可能性が高く、話し合いで進めた方が減額幅を抑えた金額で合意できる可能性があります。
そのため、相手方の減額請求に法的な根拠があるか否かを判断することが重要であり、相手方の事情をよく聞いておく必要があります。したがって、相手方からの連絡を完全に無視するのではなく、その主張している事情を聞きだしてから、その上で、完全に拒否をするか、一部には応じつつ減額幅を抑えていく方針で進めていくかを検討していくべきでしょう。
生活が苦しいことを証明する
権利者側についても、養育費を決めた当時よりも収入が下がってしまい、生活が苦しいという場合には、そのことを証明することで減額を回避できる可能性があります。
の証明方法としては、離婚当時に前提としていた年収と現在の年収が分かる資料を提示して、比較ができるようにするということが考えられます。
義務者が主張する事情変更が予期されていたものであって、それを考慮した上で現在の金額が定められていることを証明する。
養育費の減額が認められる事情の変更は、現在の金額を定めた時点では予期できず、金額を決める際に反映することができなかった事情である必要があります。
例えば、養育費を定める時点で再婚が決定していたなど、義務者に扶養家族が増えることも加味した上で金額を決めていた場合には、そのことを証明できれば減額を拒否できる可能性が高まります。
折り合いをつけ減額幅を減らすのも1つの手
相手方の主張する事情変更について法的な根拠があり、反論が難しい場合には、減額を完全に拒否するのではなく、その減額幅を抑えられるように交渉するというのも一つの手です。相手方も、生活が苦しい状況であるからこそ減額を求めているという場合も多く、調停で時間をかけるよりも、ある程度の減額ができるのであれば合意をしたいと考える人もいます。
そのため、早期解決のための譲歩として、一定の減額を受け入れることとして金額を提示していくことも方針の一つとして検討すべきでしょう。
養育費の減額拒否に関するQ&A
養育費の減額請求を拒否したら、勝手に減額されました。残りを回収できますか?
一度調停の場や公正証書で定めた養育費の金額を勝手に減額することはできず、あらためて協議をするか、審判で変更する必要があります。そのため、公正証書などで定めた場合には、勝手に減額をされたことで生じた未払分については、強制執行を申し立てることができます。
一方で、単に協議書を作っていただけであったり、口頭での合意のみであったりした場合には強制執行をすることはできません。その場合には、減額に一定程度応じる代わりに、今までの未払分だけはきちんと払ってもらうという交渉をすることが考えられます。
再婚を理由に養育費が減らされるのは納得できません。私はシングルで頑張っているのに…。減額拒否できますか?
相手方が再婚をしたことで、その扶養をすべき家族が増えたことは、法的には養育費の減額が認められる事情変更に当たる可能性があります。しかし、再婚相手にも収入がある場合などは、扶養しなければならない家族が増えたとは言えない場合もあり、減額を拒否できることもあります。
そのため、養育費減額調停においては、その再婚相手の収入資料を出すように求め、扶養家族には当たらないと反論をしていくことが考えられます。
また、一部の減額を受け入れる代わりに、その減額幅を抑える交渉をすることも方針の一つとして考えられます。
再婚の予定があるので養育費を減らしたいといわれましたが相手が本当にいるのか疑問です。拒否できますか?
再婚相手ができたとの主張について、その真実性を確かめる手段としては、相手方に証拠として現在の戸籍謄本を見せるように求めることが考えられます。それを拒否された場合には、事実か否かが確かめられない以上は応じることができないとして、減額を拒否するという対応も考えられるところです。
調停の場であれば、調停委員からも、相手方に対して、再婚したことが証明できる資料を出すように求めることが多く、資料を出してこないのであれば減額を拒否しやすくなります。
算定表通りの金額なのに、支払いが苦しいから養育費を減らしたいといわれました。拒否できますか?
離婚時に算定表を用いて金額を決めている場合、それは離婚当時の収入を前提として決めたものです。
そのため、相手が養育費支払いを苦しいと考えている理由が、離婚当時の収入よりも収入が下がっていることによるものであるならば、裁判所は養育費減額を認める可能性が高いです。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費の減額請求を拒否できるかは弁護士にご相談ください
相手方から育費の減額を請求されることは、心情的には受け入れがたいものであり、離婚した相手ともう一度話し合いをしなければならないという状況自体避けたいと考える人が多いかと思います。
しかしながら、相手方の養育費減額請求に法的な根拠がある場合には、話し合いを拒否すると、裁判所に申し立てをされ、相手の主張通りの減額が認められてしまう可能性があります。
相手方からの減額請求が法的に根拠のあるものか否か、反論しうるものであるか否かを判断するには、専門的な知識や経験が求められる場面です。そのため、もしも相手方から養育費の減額を求められた場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
また、弁護士に交渉や調停対応をご依頼いただくことで、離婚した相手と直接やり取りをする必要がなくなるため、精神的な負担も大きく減らすことができます。
養育費の減額を請求された場合に、その解決方法が分からないときには、まずは是非一度、弁護士法人ALG&Associatesにご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)