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離婚問題

養育費の強制執行

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

離婚の際に養育費を取り決めても、後に支払われなくなってしまうということがあります。養育費の支払いがなされなくなってしまったとき、その養育費の支払いを強制的に実現させる手続きとして、「強制執行」というものがあります。強制執行とは、相手の財産を差し押さえるなどして、強制的に支払いを確保する手続きをいいます。以下では、養育費の強制執行について、解説していきたいと思います。

養育費の強制執行で差し押さえることができるもの

養育費の強制執行で差し押さえられるものは、「債権」、「不動産」、「動産」の3種類です。それぞれの例を挙げると、債権は給与、不動産は土地や建物、動産は家具や宝石類などです。ただし、「動産」については、66万円までの現金や生活に欠くことができないものなどは差押えが禁止されています(民事執行法131条)。

差し押さえることができる金額

基本的には、取り決めた養育費の金額全額について差押えをすることができます(裁判の手続きなどによる「債務名義」が必要です。)。ただし、「給料」や、生計を維持するために継続的に支給されるものについては、差し押さえられる金額に制限があります。この制限については、原則は手取り金額の4分の1までとなります。しかし、養育費の場合は、2分の1まで差押えが可能です。

将来の養育費も自動で天引きできる

給料などに対しては、現段階の未払の金額分のみならず、将来支払われる分の養育費も差し押さえることが可能です。これにより、毎月強制執行手続きをしなくても、相手が会社を辞めたりしない限り、自動的に養育費の支払いを受けることができます。

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強制執行の手続きをするには相手の勤務先や住所などの情報が必要

強制執行手続きをするためには、相手について一定の情報が必要です。まずは、相手の現在の住所を明らかにする必要があります。強制執行手続きでは、裁判所から相手に対し、差押えの通知を送りますが、そもそも住所が不明だとそれができないためです。そして、差し押さえたい相手の財産を明らかにする必要があります。給料の場合は、勤務先の名称や所在地、預貯金の場合は、金融機関名と支店名を特定しなければなりません。

会社に拒否されてしまったら、どうすればいい?

相手が親族経営の会社に勤務していたような場合、裁判所が相手の給料の差押えを認めていても、会社から差押えを拒否されるケースが想定されます。このように会社に差押えを拒否されてしまったら、会社に対して「取立訴訟」を提起することになります。

相手の住所がわからない場合

相手の住所が分からない場合、一般的な調査方法としては、戸籍の附票から住民票を経由して調べる方法です。しかし、住民票等に記載されている住所が実際の住所と異なっていることがあります。そのため、住民票等を取得しても実際の相手の住所が判明しない場合もありますので注意が必要です。

養育費を強制執行する方法

強制執行に必要な情報が揃ったら、実際に手続きを進めていくことになります。以下では、強制執行の手続きにかかる費用や必要な書類などについて解説していきます。

養育費の強制執行にかかる費用

裁判所に強制執行の申立をする際、まず申立手数料がかかります。債権者1名、債務者1名、債務名義1通の場合には、申立手数料として収入印紙4000円分が必要です。あとは、裁判所により異なりますが、郵便切手代がかかります。

必要な書類

必要な書類は、次のとおりです。

①申立書
表紙、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録をまとめて綴じて1つの申立書とします。

②送達証明書
債務名義(確定判決など)の正本が、相手に送付されたことを証明するものです。

③住民票、戸籍謄本、戸籍の附票など
債権者または債務者(相手)の現在の住所・氏名と、債務名義記載の住所・氏名が異なっている場合に必要になります。

強制執行の手続きの流れ

強制執行は、管轄の地方裁判所の執行部に申立書と添付書類を提出して申し立てて行います。
そして、申立てが受理され、裁判所が差し押さえ命令を発令します。その後、その命令が第三債務者に到達すれば、支払を受けられます。養育費の強制執行として給与差押えをする場合には、勤務先が第三債務者ということになります。

養育費の強制執行でお金がとれなかった場合

養育費の強制執行を試みても、相手に財産がなくお金が取れなかった場合は、そこから養育費の支払いを受けることはできません。もっとも、その後一定の期間が経過して、相手の財産が増える可能性はあります。そこで、そのような場合には、再度強制執行を申し立てることが考えられます。

相手が退職・転職した場合、強制執行の効果はどうなるのか

養育費の強制執行を申し立てて、養育費を回収していたとしても、相手が退職・転職してしまった場合は、強制執行の効果はなくなってしまいます。そのため、再度相手の勤務先を調査して、強制執行を申し立てる必要があります。なお、法改正により、相手の転職先を調査することが可能になったため、従来と比べて、強制執行逃れはしにくくなっているといえるでしょう。

給与を差し押さえていたけれど退職した場合

給与を差し押さえていたところ相手が退職してしまった場合、差押えの効力は失われてしまうため、改めて転職先の給与について強制執行の申し立てをする必要があります。

一方で、一度給与差押えをされた相手としては、「会社に知られたくない。」、「また会社に知られるくらいなら任意に支払おう。」と考えることも多いです。そのため、任意に支払ってもらうよう交渉することも考えられます。

転職した場合は再度強制執行手続きが必要になるのか

これまで述べたとおり、相手が転職した場合は、転職先の給与に対して再度強制執行の申立てをする必要があります。そして、前記のように、相手としては同じ目に遭いたくないと考えていることも多いので、任意の交渉により支払ってもらうことも考えられます。

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養育費の強制執行に関するQ&A

相手が自営業だと養育費の強制執行ができないというのは本当ですか?

相手が自営業者でも、養育費の強制執行は可能です。会社員と異なるため、給与の差押えはできませんが、相手が役員として役員報酬を受け取っている場合には、その役員報酬を差し押さえることはできます。また、預貯金やその他の財産も差押えの対象となりますので、それらを差し押さえることは可能です。

養育費を差し押さえられたら生活できないと言われてしまいました。強制執行できないのでしょうか?

「差押えをされたら生活できない。」と言われたとしても、差押えの要件を満たしていれば、相手の財産に対して差押えをすることは可能です。養育費の支払い義務者が生活できるか否かは、強制執行の可否には関係ないためです。

強制執行のデメリットはありますか?

強制執行それ自体のデメリットは特にありませんが、財産調査に手間と時間がかかるものではあります。また、手間と時間をかけてやっと強制執行ができても、未払額全額が必ず回収できるわけではないこともデメリットとして挙げられます。

養育費の強制執行から逃げられてしまう可能性はありますか?

相手が勤務先を変えたり、給与口座を変更したりして、強制執行から逃れられてしまう可能性はあります。この場合には、再度相手の勤務先や給与口座を調査して、強制執行の申立てを行う必要があります。
しかし、法改正によって、「財産開示手続」で相手が財産について虚偽の報告をした場合などの罰則が整備されたため、以前よりも財産調査はしやすくなったといえます。

養育費の強制執行についてお困りのことがあったら弁護士にご相談ください

強制執行手続きは、なかなか馴染みがなく、イメージしづらいものです。また、細かな知識も必要となるため、一般の方が手続きを進めるのはなかなか容易ではありません。特に、養育費は、子どものための重要なお金であり、場合によっては20年近くに渡り受け取り続けるものになります。一方で、一度養育費を支払う合意をしたとしても、相手の気が変わって、支払がストップしてしまうこともあります。

このように、養育費の強制執行を検討する必要が生じた場合、弁護士に相談することをお勧めいたします。専門的知識や経験を有した弁護士であれば、養育費の支払いの確保のためにお力添えできるかと思います。是非一度ご相談ください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。