監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
協議離婚とは、夫婦間の話し合いで合意し、離婚届を提出して受理されることによって成立する離婚をいいます。話し合いで合意できない場合や、そもそも話し合い自体出来ない場合には、裁判所を通じて調停や裁判による離婚を目指すこととなります。日本では離婚全体の約90%が協議離婚ですので、最も一般的な方法といえます。以下では、この協議離婚について、その進め方や流れについて解説していきます。
目次
協議離婚の進め方や流れ
①離婚およびその条件について話し合う
②離婚及びその条件について互いに合意する
③合意した内容について文書を作成する
④離婚届を作成して役所に提出する
相手に離婚を切り出す
協議離婚のためには離婚やその条件について夫婦の話し合いによる合意が必要です。そのために、離婚を切り出す際は、感情的にならず、冷静に話すよう努めましょう。相手方を説得するための離婚理由を伝えてください。事前に財産分与の話し合いに備えて、結婚後に築いた財産がどれくらいあるかを把握したり、(主に金銭面で)離婚後の生活の見通しを立ててその準備をしたりしておくことも重要です。
離婚に合意したら協議離婚で話し合うべきこと
慰謝料:
慰謝料は、相手から暴力を受けたり不貞行為をされたりした場合に請求することができます。この慰謝料については、放棄の意思を示していなければ、離婚成立後でも請求できます。離婚を急ぐあまり、慰謝料は請求しないなどという合意をすることは避けましょう。これにより、慰謝料請求権を放棄することになってしまうためです。
財産分与:
財産分与とは、結婚後に夫婦が取得した財産をそれぞれに分け合うことをいいます。結婚後、夫婦の協力により築いた財産の全てが財産分与の対象となりますので、マイナスのものも含めて、これらをすべてリストアップしてください。分与の割合は、話し合いにより自由に決定できますが、原則として二分の一ずつとするのが基準です。
年金分割:
厚生年金については、国民年金と異なり、年金分割制度の対象となります。年金分割制度においては、最大二分の一までの範囲内で夫婦の合意により分割の割合を決めることができます。年金分割は離婚後でも請求できますが、その期限は離婚成立時から2年となっていますので、注意が必要です。
養育費:
養育費は、未成年の子の衣食住・教育・医療等に必要な費用です。このような養育費の重要性から、養育費については、金額だけでなく、支払期間や支払方法を具体的に決めておくようにしましょう。また、支払いを確保するために、強制執行認諾文言付公正証書にしておくことも有効です。
親権:
親権とは、子の監護・教育を行ったり、子の財産を管理したりする権限をいいます。未成年の子がいる夫婦が離婚する場合、離婚前に子の親権者を決めなければならず、協議離婚の場合も、親権者を記載しないと、離婚届は受理されません。親権者の決定の話し合いにおいては、子の利益を最優先に考えるようにしましょう。
面会交流:
離婚の際には、面会交流について取り決める必要があります。子に対する虐待があるなど、子にとってマイナスとなる場合を除いて、原則として面会交流を拒むことはできません。離婚前の協議においては、できるだけ交流の頻度や時間、方法等について具体的に取り決めておきましょう。この場合も、子の利益を最優先に考えるようにしてください。
離婚協議書の作成と公正証書の作成
離婚協議書は、離婚やその条件について夫婦で合意した場合に、その内容を記載した書面です。離婚協議書に決められた書式はありませんが、合意の証拠とするために、作成の日付と夫婦双方の署名捺印のあるものを2通作成し、それぞれが保管しておきましょう。離婚協議書は、決められた書式もないため、当事者間で作成することができ、作成自体に費用はかかりません。もっとも、離婚協議書は仮に取決めが守られなかった場合に、直ちに強制執行することができません。一方、公証役場において公証人に一定額の手数料を支払って公正証書を作成してもらい、その中に強制執行認諾文言を付け加えた場合、これにより、約束違反があった場合に、裁判を経ずに強制執行をすることが可能となります。
離婚届けを役所に提出する
協議離婚の場合、離婚届の提出の際に運転免許証当の本人確認書類以外に離婚協議書を提出する必要はありません。そのため、離婚の成立時期を急ぐ場合などには、先に離婚届を提出してその後速やかに離婚協議書を作成することもあります。(もっとも、現実には、離婚協議書作成後に離婚届を提出するのが一般的です。)一方、子どもの親権者については、離婚届に記入がない場合、離婚届は受理されないため、提出に先立って決定してください。
離婚届を提出するタイミングに注意
上記のように、大まかな離婚条件を決めて先に離婚の届出をして離婚を成立させた後に、速やかに離婚協議書を作成することがあります。離婚に伴う子どもの転校などの事情から、離婚の条件に大きな争いがなく、離婚の成立時期を急ぐ場合などです。しかし、双方の住居が遠く離れることにより話し合いが遅れて合意までに時間を要したり、離婚後に話し合いがつかなくなったりするリスクもあります。
離婚に応じてくれない場合や協議が決裂した場合の進め方
協議離婚は夫婦間の話し合いによる合意を前提とするため、相手が離婚に応じない場合や、協議が決裂した場合には成立しません。この場合、別居や調停離婚を視野に入れることも有効です。
別居を考える
離婚協議成立前に別居することは、冷静に話し合うための手段として有効です、離婚後の生活についてイメージできるため、離婚が正しいか判断する機会も得られます。また、短期間の別居は夫婦関係の修復に役立つ場合もあります。相手方によるDVやモラハラを受けている場合には、これらから逃れるために、すぐにでも別居すべきでしょう。
調停離婚を視野に入れる
夫婦間の協議で合意に至らなかった場合や、そもそも協議できない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では第三者である調停委員を間に立て、互いの言い分を調整しながら合意を目指します。合意が成立すれば、協議離婚が成立します。相手に調停離婚を検討していることを伝えることにより、真剣に離婚を考えているということを相手に伝えることができますので、話し合いに応じる可能性が高まることも考えられます。
別居中やDV・モラハラがある場合の協議離婚の進め方
別居中や配偶者からDV・モラハラを受けている場合については、夫婦間において直接話し合うことが困難又は不可能です。このような場合の協議離婚の進め方については、以下のような注意点がありますので、個別に解説します。
別居している場合
別居中で直接相手と話し合う機会がない場合、電話やメールなどにより話し合いを求めます。相手がこれに応じない場合は、離婚調停を申し立てましょう。また、相手が生活費を支払わない場合、自らの収入次第では死活問題となります。相手の収入次第では支払いを請求できる場合がありますので、婚姻費用分担請求調停を申し立てるとよいでしょう。
DVやモラハラを受けている場合の協議離婚の進め方
配偶者からDVやモラハラを受けている場合には、離婚の話合いを求めても、身体的・精神的・経済的な暴力や嫌がらせを受けるなどして、まともに応じてもらえない可能性が高いでしょう。このような暴力や嫌がらせを受けた場合には、被害から逃れるために、すぐにでも別居すべきです。別居先を自力で確保することが困難な場合には、各都道府に設置されている配偶者暴力相談支援センターなどに相談すれば、支援を受けることができます。
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協議離婚を進める際の注意点
協議内容を録音しておく
協議内容を録音しておけば、相手の発言を確認して適切に反論でき、また、協議中に行われた暴力やモラハラについて証拠として記録しておくことができます。録音について、相手に伝えて同意を得れば、何ら問題はありません。もっとも、この場合、相手が警戒して本当のことを話さなくなる可能性もあります。
離婚届不受理申出を提出しておく
離婚のための協議をしている間に、相手により勝手に離婚届を提出された場合であっても、離婚届に形式的に不備がない場合、受理されて離婚が成立してしまいます。このような事態の発生を防止するために、離婚届不受理申出の制度があります。この申出は、離婚届不受理申出書を市区町村の役場に提出することにより行います。
不貞やDV等の証拠を出すタイミング
不貞やDV等の証拠については、これを見せられた相手方は、その後さらなる証拠を取られないように警戒することが考えられます。また、全部の証拠を見せられた場合、相手方は、これに対応すべく、虚偽も含めた主張をしてくる可能性があります。これらの点を考慮して、不貞やDV等の証拠については、十分に収集した後に、必要なものを相手方に示すのがよいでしょう。
協議離婚の子供への影響
子が離婚の意味を理解できる年齢である場合、子の前で離婚の協議を行うと、子に精神的な悪影響を及ぼすことが考えられます。協議は子のいない場所で行うようにしてください。その他、離婚後に旧姓に代わることなどによる子への影響などについても配慮が必要です。
男性でも有利に協議離婚の進められるのか
現時点においては、男性が主に働いて家計を支え、女性が主に家事・育児を分担するという家庭が多いのが実情です。このような事情から、育児をしている女性が親権者となることがほとんどで、収入の多い男性が養育費や婚姻費用を支払うことがほとんどです。その意味で、協議離婚においては、親権やお金の面で男性に不利であることが多いといえます。ただ、不利である場合にこそ、話し合いをして不利な点を減らすことが重要です。
よくある質問
協議離婚ではなくいきなり離婚調停をすることはできますか?
夫婦間の話し合いを経ることなく、離婚の調停を申し立てることも可能です。配偶者からDVやモラハラを受けている場合には、離婚の話合いを求めても、身体的・精神的・経済的な暴力や嫌がらせを受けるなどして、まともに応じてもらえない可能性が高いです。そのため、夫婦間の話し合いを経ることなく、離婚調停の申立てを行い、裁判所の関与のもと、第三者を間に立てて冷静に話し合いを行うことが必要かつ有効といえます。
離婚届を提出した後に行う手続きは、どのようなものがありますか?
離婚により姓と住所が変わった場合、離婚前の氏名と住所を登録しているものについては変更の手続きが必要です。免許証やパスポートなどは、身分証明書として使えますので、優先的に変更してください。配偶者の扶養から外れた場合、健康保険や年金について手続きをし直す必要があります。財産分与により財産を得たり失ったりした場合、不動産、自動車等について名義を変更する必要もあります。扶養していなかった子の親権者となった場合、自己の扶養家族とする手続をします。子の戸籍を移動する場合は、氏の変更手続が必要です。
協議離婚の証人には誰がなれるのでしょうか?
協議離婚の場合、離婚届に夫婦の署名捺印の他に、成人2名の証人の署名捺印が必要となります。証人は成人であれば誰でもよく、友人や職場の上司もなることができます。周囲に証人になってくれる人がいない場合、離婚届の証人となるサービスを行う業者もあります。
協議離婚を進める際、第三者の立ち合いは必要ですか?
協議離婚を進めるに際して、第三者の立会いは必要ではありません。ただ、夫婦だけでは感情的になってしまい冷静に話し合いができないということも考えられます。このような場合には、第三者に立ち会ってもらうことも有効であると考えられます。もっとも、自分の親や義両親などが立ち会った場合、自分の子の味方をするおそれがあり、かえって協議を困難なものとしてしまう可能性があります。そのため、立ち会ってもらう第三者には、利害関係がなく、中立の立場で夫婦相互の意見を公平に聞くことのできる者を選ぶことが重要です。
協議離婚を適切に進められるかご不安な場合は弁護士へご相談ください
以上、協議離婚の進め方について解説してきました。ただ、協議離婚を考えていらっしゃる方であっても、これまで離婚のための協議をしたことはないという方がほとんどであると思います。上記のような知識を得ただけで、全ての不安が解消されて、これから自信をもって離婚協議を進めていけるということにはならないのではないでしょうか。弁護士にご依頼いただければ、豊富な知識と経験に基づいて、的確にサポートすることができます。協議離婚についてわからないこと、ご不安なことがありましたら、何でもお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)