監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
夫婦の話し合いで離婚が決まらなかった場合、離婚調停を行うのが一般的です。離婚調停は調停委員を挟んで話し合う裁判所の手続きですので、当事者だけで進めるよりもスムーズに解決すると思われます。
しかし、離婚調停も最終的には当事者の合意が必要ですので、納得できない部分があれば不成立に終わってしまいます。手間や時間をかけたのに調停が上手くいかず、離婚の成立が遅れれば、精神的にも大きな負担となるでしょう。
そこで本記事では、離婚調停を無事に成立させるためのポイントを解説していきます。不成立になりやすいケースや、万が一不成立になった際の対応などもご紹介しますので、離婚調停を検討中の方はぜひご覧ください。
目次
離婚調停が不成立になる時とは?
離婚調停が不成立となるのは、当事者が離婚の合意に至らなかった場合 です。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
調停委員によって不成立と判断される
調停委員は、当事者による合意が見込まれない場合、不成立を選択し、調停終了の判断をすることができます。
よって、当事者の主張が激しく対立しており、調停委員が「これ以上話し合いを続けるべきではない」と判断した場合、調停不成立となり終了します。
とはいえ、1回目の期日で不成立になることはあまりありません。
基本的には、1回目の期日では事実確認や双方の主張の聞き取り程度で終了し、2回目以降の期日でお互いの妥協点を探っていくなどの調整を図っていきます。その後、数回の期日を経ても当事者が一向に合意できない場合、不成立と判断されるのが通常です。
離婚調停を途中で取り下げる
申立人は、裁判所に申し立てることで、いつでも離婚調停を取りやめることができます。また、取り下げるのに相手の同意も必要ありません。例えば、離婚の意思がなくなった場合や、調停を続ける意味がないと思われた場合に取り下げられるケースが多いです。
ただし、取り下げの場合、その後に裁判を起こせない場合があることに注意です。
離婚は、調停前置主義がとられており、裁判をする前にまずは調停で話し合わなければならないこととなっています。調停前置主義は、実質的に調停による話し合いを経ているか否かを問題とします。そのため、調停の申立てをした後、第1回期日前に取下げがされたのであれば、調停を経たことにはなりませんが、調停期日においてきちんと話し合いがされた後に取下げがされたのであれば、調停を経たことになります。
当然終了
調停を続ける必要性がなくなった場合、調停は自動的に終了します。代表的なのは、当事者の一方が死亡するなどして、婚姻関係が解消された場合です。
このような事情が発生した場合、速やかに裁判所に報告しましょう。
離婚調停が不成立と判断されるケース
離婚調停が不成立となるのは、基本的に当事者に合意する見込みがない場合です。この場合、話し合いを続けても無意味だと判断され、調停は打ち切られることになります。
では、具体的にどのような時に不成立となるのか、以下でみていきましょう。
離婚調停を相手が欠席
そもそも相手が離婚調停に応じない場合、話し合うことすらできません。そのため、裁判所に「調停の継続は困難」と判断され、早々に不成立となることがあります。
もっとも、1度欠席したからといって直ちに不成立になるケースは少ないです。まずは裁判所から相手に連絡をしたり、再度呼出状を送ったりして、出席を求めることになるでしょう。
2回以上無断欠席した場合、話し合う意思がないと判断され、調停不成立になる可能性が高くなります。
なお、相手が欠席した場合、裁判所は相手の言い分を一切聞くことができません。そのため、こちらの主張が優遇され、有利な結果となる可能性もあります。
相手が離婚を拒否
相手が頑なに離婚を拒否している場合、調停を続ける意味がないとして不成立になることがあります。
というのも、離婚調停は「調停委員を挟んだ話し合いの場」にすぎないため、両者が合意しない限りは成立せず、調停委員も進行することが難しくなってしまいます。
この場合、調停委員に相手が離婚を拒否する理由を聞いてもらい、それに応じた策を講じるのが良いでしょう。例えば、相手が「やり直したい」と考えている場合、離婚の意思が固いことを強く主張します。一方、「離婚条件に納得がいかない」と考えている場合、どこまで譲歩するか伝えてみるのも良いでしょう。
親権で争っている
未成年の子供がいる場合、離婚後にどちらが親権を持つか必ず決める必要があります。他の離婚条件とは異なり、親権が決まっていない状況で離婚を成立させることはできません。
しかし、親権獲得は争いになりやすく、離婚自体は合意しているのに親権が決まらないということも少なくありません。
この場合、離婚だけは調停で成立させ、親権のみ審判に移行して裁判所に判断を委ねるという方法もありますが、極めて稀です。なぜなら、審判は不服申立てが認められており、効力が乏しいためです。
そのため、実務上は調停不成立となり、裁判で争っていくのが通例です。
財産分与の対象や額に納得できない
離婚自体は合意できても、財産分与で折り合いがつかないと調停不成立となります。その場合、新たに審判や裁判で争うことになり、離婚の成立がどんどん遅くなってしまうでしょう。
ただし、財産分与は親権と異なり、離婚時に必ず取り決めなければならない事項ではありません。よって、離婚については調停で成立させ、離婚後に財産分与を決めることも可能です。
この場合、離婚後に当事者で話し合うか、離婚から2年以内に裁判所へ財産分与請求調停を申し立てる必要があります。
離婚調停が不成立と判断された場合のその後
では、離婚調停が不成立となった場合、どのような対応をすべきでしょうか。できるだけ早く離婚を成立させるためにも、適切な流れをしっかり把握しておくことが重要です。以下で確認しましょう。
当事者間で再び協議する
裁判所の手続きは利用せず、再び夫婦で協議することも可能です。調停不成立となっても、当事者の合意があればいつでも離婚することができます。
しかし、調停委員を挟んでも解決しなかったのに、夫婦だけで合意を目指すのは難しいことも多いです。その場合、以下のような対応を検討しましょう。
再調停はできるのか
調停不成立後、再び離婚調停を申し立てることも可能です。離婚調停に期間や回数の制限はなく、いつでも何度でも行うことができるためです。
ただし、状況や相手の考えが変わらないと同じ結果となると思われます。その期間はケースバイケースですが、半年~1年ほど 空けるのが一 般的でしょう。
審判離婚
離婚調停は不成立でも、裁判所が「離婚は相当である」と判断した場合、裁判所の職権で離婚を認めることがあります。これを「審判離婚」といいます。
例えば、双方に離婚の意思はあるものの、細かい条件だけ揉めている場合、子供のために親権の決定を急ぐ場合などで行われることがあります。
ただし、審判は異議申立て(即時抗告)が認められており、効力が乏しいことから、実務上は離婚裁判で争うことになるのが通例です。
離婚裁判
離婚調停が不成立の場合、離婚裁判を申し立てることができます。離婚裁判では、夫婦の様々な事情を考慮し、裁判所が離婚の成否や離婚条件について判断を下します。 ただし、自身が離婚原因(浮気やDV)を作った有責配偶者である場合、例外的な場合を除き、離婚の請求は棄却されてしまうのが通常です。 また、離婚裁判の途中に和解を促され、判決ではなく和解で終了するケースもあります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚調停不成立にならないためにできることとは?
離婚調停が不成立になると、その後の対応にも余計な手間や時間がかかります。離婚の成立がどんどん遅くなり、精神的にも大きな負担となるでしょう。
そこで、離婚調停を無事に成立させるためのポイントをご紹介します。
希望の条件に優先順位をつけておく
離婚調停をスムーズに進めるには、離婚条件である程度譲歩することも必要です。
「これだけは譲れない」「ここまでなら金額を下げても良い」などと希望を明確にし、離婚条件の優先順位をつけておきましょう。
ただし、安易に譲歩するのも望ましくありません。調停委員に「説得すれば譲歩する人だ」と思われ、他の条件でも譲歩を促されるおそれがあるためです。そこで、離婚条件の相場を事前に把握し、譲歩すべきかどうかすぐに判断できるようにしておくことをおすすめします。
感情的にならない
離婚調停では、感情的にならず事実を冷静に伝えることが重要です。
離婚の可否は離婚原因の内容や程度によって決まるものであり、相手の愚痴や悪口を言っても無意味だからです。また、相手を一方的に責める発言は調停委員に悪い印象を与え、こちらに不利な影響をもたらす可能性もあります。
相手がどんな悪いことをしたのか、その行為はどれほど続いているのかなど具体的な事実を交え、説得力のある説明を心掛けましょう。
弁護士に頼る
弁護士は、調停委員を味方につけるコツや離婚条件の相場に詳しい「調停のプロ」といえます。そのため、弁護士に相談することで、離婚調停をスムーズに進めたり、こちらに有利な内容で解決したりできる可能性が高くなります。
また、早めに弁護士に依頼すれば、調停の申立て手続きや資料の収集方法についてもサポートを受けられるため、安心です。
よくある質問
離婚調停不成立後、別居する際に気を付けることはありますか?
離婚前の別居は、お互いの心境を整理するためにも良い方法です。一定期間空けてから再び話し合うことで、お互いが冷静になりスムーズに解決できる場合もあります。もしくは、ある程度別居期間を設けて再び離婚調停を行えば、調停委員に「夫婦関係は破綻している」と判断され、離婚が認められやすくなる可能性もあります。
ただし、別居する際は、できるだけ相手の同意を得るようにしましょう。無断で一方的に家を出ると、意図的に夫婦関係を壊した有責配偶者とみなされ、再調停や裁判で不利になる可能性があります。
また、親権で争っている場合、子供を連れて別居するのがポイントです。なぜなら、親権の判断においては、「離婚後も子供の生活環境をできるだけ維持すべき」という考えが優先されるためです。
つまり、親権を獲得したいのであれば、別居中も子供と暮らして監護実績を積む必要があるということです。
離婚調停が不成立で終わった場合でも養育費や婚姻費用は受け取ることはできますか?
相手よりも収入が少ない場合、養育費や婚姻費用を請求することができます。婚姻関係がある以上、たとえ別居中でも、夫婦はお互いの生活費を分担する義務があるためです。ただし、離婚前の養育費は婚姻費用に含まれるため、2つを別々に請求することはできません。
婚姻費用を請求するメリットは、生活費を確保しつつ別居できることです。一定期間別居を続けることで、再調停や裁判を行うときに離婚が認められやすくなります。
また、相手が離婚に応じやすくなるというメリットもあります。婚姻費用を長く支払うことは、相手にとって経済的負担が大きいため、再調停や裁判を起こさずとも離婚に応じる可能性があります。
調停不成立から裁判を起こすまでに決められた期間はありますか?
裁判を起こす期限に法的な決まりはなく、各裁判所の判断に委ねられています。一般的には、調停不成立から1年以内であれば問題なく受理されるケースが多いです。1年半を超えると判断にバラつきが出始め、2年を超えると再び調停をするよう求められるケースが多くなります(この場合、裁判を申し立てても、裁判所の職権で調停に付されることがあります)。
一定期間が経過すると、夫婦の状況や心情が変化している可能性もあります。その間に別居が解消されていたり、離婚の意思が弱まったりしていることもあるでしょう。
そこで裁判所は、夫婦の現在の事情をもとに、話し合いでの解決を目指すべく、再び調停をすべきだと考える傾向にあります。
離婚調停が不成立になった場合、別の裁判所で再度離婚調停や離婚裁判などを行うことはできますか?
可能です。離婚調停の申立て先は、相手の住所地を管轄する家庭裁判所または夫婦の合意で決めた家庭裁判所となります。そのため、調停不成立後に別居のため相手が引っ越したなどの事情がある場合には、当初と管轄が異なる裁判所に申し立てる必要があります。
また、離婚裁判は、夫妻どちらかの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。そのため、相手に居住地を知られても良い場合、ご自身に近い裁判所へ申し立てることが可能です(ただし、離婚調停を行った裁判所と異なる場合、調停と同じ裁判所での取扱いとなる可能性があります)。
なお、離婚裁判を申し立てる場合、事前に調停を行った証拠として「不成立証明書」の提出を求められることがあります。
また、“離婚調停不成立となってから2週間以内”という期限付きにはなりますが、この間に裁判を起こした場合、調停申立てにかかった手数料を裁判申立ての手数料に流用することができます。調停とは別の裁判所に裁判を申し立て、手数料を流用する場合、「不成立証明書」の提出が必要になります。
離婚調停の不成立を回避したい場合、経験豊富な弁護士への依頼がおすすめです
離婚調停を無事に成立させるには、事前準備をしっかり行い、説得力のある主張を揃える必要があります。また、当日は冷静に対応し、調停委員を味方につけられるかがカギとなります。
しかし、調停という慣れない場に緊張し、思うように意見を伝えられないこともあります。また、怒りや相手への不満が先走り、つい感情的になってしまうこともあるでしょう。さらに、相手の責任を客観的に裏付ける証拠を揃えるのは難しく、おひとりで進めるには限界があります。
そこで、離婚調停を検討されている方は早めに弁護士にご相談ください。弁護士は離婚問題のプロですので、離婚調停をスムーズにかつ有利に進めるノウハウや、有効な資料の集め方などを熟知しています。また、実際の調停に同席し、主張のサポートをすることも可能です。
弁護士法人ALGは、これまで数多くの離婚問題を扱ってきた弁護士が多数在籍しています。離婚調停でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)