監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
交通事故による怪我の治療によって完治する場合もあれば、残念ながら症状が残ってしまう場合もあります。特に、ケガをした部位が事故前と比べてうまく動かなくなってしまうような可動域に制限が生じるケースの場合には、その後元に戻る可能性は低いです。そのため、ケガをした部位につき可動域制限がある場合については、後遺障害に該当する可能性について検討をする必要があります。
目次
可動域制限とは
個人差はあれども、各関節については動かせる範囲一定程度決まっています。この、関節を動かすことのできる範囲を「可動域」といいます。そして、事故など何らかの原因によって関節のもともと動かせる範囲(可動域)が狭くなる、すなわち、動かせる関節の範囲が狭くなる状態が「可動域に制限がかかっている」=「可動域制限」ということになります。
可動域制限の後遺障害認定に必要な要件
可動域制限を理由とする後遺障害は複数想定されていますが、後遺障害が認定されるためには、可動域に制限が生じている各関節につき、その程度によって予定されている後遺障害の等級も異なります。その中でも認定される後遺障害の多いものは各関節につき「用を廃したもの」、「著しい機能障害」又は「機能障害」であると評価されるものとなります。そこで、以下、ここでご紹介をした後遺障害について説明いたします。
関節の「用を廃したもの」
関節の「用を廃したもの」が認められるためには、次のいずれかに当てはまることを要します。
①関節が、強直している(関節内筋組織の壊死や骨の癒着が生じたりなどして、関節が全く動かなくなる状態)。
②関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態。
③人口関節・人口骨頭を挿入・置換されている関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている。
なお、可動域を測定する際に、医師等の他人からの外力によって測定された(これを「他動」といいます。)数値である必要があります。また、どの運動に対する可動域なのかについて、主要運動と参考運動によって判断されます(具体的な主要運動と参考運動は、受傷部位によって変わります。)。
関節の「著しい機能障害」
関節の「著しい機能障害」が認められるためには、①受傷している関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている状態、または、②人口関節・人口骨頭を挿入・置換されている関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1までに制限されている状態のいずれかを要します。
なお、可動域を測定する際には、他動による測定値であることは他の上記と同様です。また、どの運動に対する可動域なのかについて、主要運動と参考運動によって判断されることも上記と同様です(具体的な主要運動と参考運動は、受傷部位によって変わります。)。
関節の「機能障害」
間接の「機能障害」が認められるためには、受傷している関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以上3分の4以下に制限されている状態を要します。
なお、可動域を測定する際には、他動による測定値であることは他の上記と同様です。また、どの運動に対する可動域なのかについて、主要運動と参考運動によって判断されることも上記と同様です(具体的な主要運動と参考運動は、受傷部位によって変わります。)。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
可動域制限の後遺障害等級と慰謝料
これまでにご説明のとおり、関節の部位や制限される可動域の程度によって認定される後遺障害評価が変わり、その結果として後遺障害の等級が変わります。具体的な受傷部位及び後遺障害の程度並びに後遺障害等級及び慰謝料は以下のとおりです。
上肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級4号 | 両上肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級6号 | 1上肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
下肢
等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|
1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの | 2800万円 |
5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの | 1400万円 |
6級7号 | 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの | 1180万円 |
8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの | 830万円 |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの | 550万円 |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの | 290万円 |
可動域制限が認められた裁判例
左鎖骨遠位端骨折され、治療後も中々可動域が元通りになりませんでした。そこで、弁護士にて医師に対して、後遺障害診断書を作成してもらう際に具体的な症状を告げたうえで必要な測定や記載すべき内容について注意を図ってもらいました。その作成された後遺障害診断書に基づき、機能障害について「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として後遺障害等級12級6号が認定されました。
後遺障害等級の結果を踏まえて相手方との賠償額の交渉に臨んだところ、依頼者の過失による減額という不利な点がありながらも、約1100万円の賠償金を支払ってもらう内容の示談が成立しました。
可動域制限の後遺障害が残ってしまったらご相談ください
可動域制限は自覚症状と言うよりも一定程度客観的な診断結果(数値)によって判断される傾向にあります。もっとも、その客観的な診断結果は医師の測定によるところですが、被害者自身が思っているように測定されるとは限りません。そのため、医師による測定や実際に診断内容についても後遺障害が員呈されやすいように誘導する必要がございます。
ALGでは多種多様な交通事故の案件を経験しており、医学的見地に精通している弁護士も多数在籍しているため、可動域制限の事案では適切な賠償を実現が期待できます。そのため、可動域制限に陥ってしまった場合には、まずはALGにご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)