交通事故の過失割合で揉める原因と対処法

交通事故

交通事故の過失割合で揉める原因と対処法

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

交通事故に関して、事故状況によっては被害者にも一定の過失が認められることがありますが、被害者と加害者の過失の割合を、過失割合といいます。
後述のとおり、過失割合がつくと、被害者は、自己の過失分の損害を自身で補填しなければなりませんので、交通事故における過失割合というのは非常に重要な要素です。

ここでは、過失割合に関して揉める理由や揉めた場合の対処法などに関して記載していきます。

交通事故の過失割合で揉める理由とは?

過失割合は、損害賠償額に影響を与えますので、交通事故において重要な要素になります。
また、事故状況の確定が困難な場合もありますので、過失割合を決めることは容易ではありません。
ここでは、過失割合で揉める理由について、3つの観点から記載しようと思います。

損害賠償の金額に影響するため

過失割合がつく場合には、その割合に応じて、加害者に請求できる損害賠償額が下がることになります。
例えば、損害賠償額の全体を100万円として、過失割合がない場合と、過失割合がつく場合(20(被害者)対80(加害者)とします。)とを比較してみます。
過失割合がない場合には、被害者は、加害者に100万円全額を請求することができますが、過失割合がつく場合には、被害者は、加害者に対して80万円しか請求できません(裏を返すと、被害者は、20万円の損害について、自身で負担しなければなりません。)。

このように過失割合は、損害賠償額に大きな影響を及ぼすことから、被害者は自身の過失を小さくしたいと考え、加害者は被害者の過失を大きくしたいと考えます。
そのため、過失割合で揉めることがあります。

警察は過失割合に関与しないため

交通事故が起きたときは、警察に届け出ることが必要となります。
そして、当事者は、警察に事情を説明し、警察は必要に応じてその事故の処理を行うことになります。しかし、警察は、事故の具体的な過失割合を決めることはありません。

裁判を除くと、過失割合は当事者間の協議により定めるほかありません。
このように、基本的に、当事者間の協議で過失割合を決めるほかなく、公的機関において過失割合が定められないということも過失割合で揉める理由の一つといえます。

事故状況の食い違いがあるため

本来、同じ事故に遭っているのですから、当事者双方が認識する事故状況は同じであるはずです。
しかし、実際には、事故に関する当事者双方の認識が大きく異なっているということも珍しくありません。
極端な話、お互いが、相手が信号無視をした結果、事故が起きたと認識している場合さえあります。

このような場合、当然ながら、お互い考える過失割合は大きく異なりますので、過失割合に関して、揉めることになります。

過失割合について揉めやすい4つのパターン

①交通事故に関する証拠が不足している

過失割合を決めるためには、前提となる事故状況を確定する必要があります。
しかし、上述したとおり、当事者それぞれが認識する事故状況が大きく異なることもありますので、事故に関する証拠が不足していると、前提となる事故状況を確定することが困難です。
そのため、事故に関する証拠が不足している場合には、過失割合に関して争いが生じやすくなります。

証拠が無い場合の対処法

普段からドライブレコーダーを設置して、そのデータが保存されるように整えておくことが一番ですが、ドライブレコーダーを設置していない(または、ドライブレコーダーのデータが保存できていない)状況で、事故が起きることもあり得ます。
この場合には、まずは目撃者がいないかを確認しましょう。
その方が協力をしてくれるのであれば、目撃者の証言が一つの証拠になります。

また、事故が起きた後に、速やかに警察を呼んだ上で、具体的な事故状況を説明するということが重要といえます。
警察は、聞き取った事情を基に、実況見分調書や物件事故報告書を作成しますが、これが一つの証拠になるためです。

②損害賠償額が大きい

上述したとおり、過失割合は、加害者に請求できる損害賠償額に大きな影響を与えます。
そして、損害賠償額が大きいほど、過失割合が与える影響力が大きくなります。
例えば、損害賠償額が100万円の場合と500万円の場合で比較してみます。
同じ10(被害者)対90(加害者)という過失割合であったとしても、前者における被害者の自己負担額が10万円であるのに対し、後者における被害者の自己負担額は50万円となります。

このように損害賠償額が大きいほど、過失割合が及ぼす影響は大きくなりますので、損害賠償額が大きいほど、過失割合に関して揉めやすくなります。

損害賠償額が大きい場合の対処法

損害賠償額が大きくなりそうな場合には、健康保険等を使用して通院するのが良いでしょう。
健康保険を使用すると、治療費を抑えられ、全体の損害賠償額を低くできる可能性があるためです。

また、自身で加入する人身傷害保険を使用して通院するという方法も考えられます。
これは、人身傷害保険からの支払いに関し、自己の過失分から補填するという考えが取られているためです。
そこで、損害賠償額が大きくなりそうな場合には、人身傷害保険への加入の有無を確認し、加入しているのであれば、人身傷害保険の使用を考えるのが良いでしょう。

③どちらが悪いか判断がしにくい

過失割合を決めるためには、まず、前提となる事実関係(事故状況)を確定する必要がありますが、事故状況が確定したからといって、直ぐに過失割合が決まるわけではありません。
過失割合を決めるためには、その事故状況に関する評価が必要となるためです。

事故状況によっては、回避困難と思われる場合であっても、被害者に過失が認められることがあります。
また、どちらの方が悪いのか直ぐには判断できないような事故も起こり得ます。
このよう場合、お互いの価値観(双方の過失の割合)が一致しませんので、過失割合に関する争いが生じやすくなります。

判断がしにくい場合の対処法

実務上、過失割合は、事故の類型から基本的な過失割合が定められています。
これによりベースを決めることができますので、まずは、どの類型に当てはまる事故なのかを考えるのがよいでしょう。

その上で、その事故特有の事情があるのかを考えて、基本となる過失割合を修正する要素があるか否か、要素があるとして、どの程度変動させるべきかを考えて行くことになります。
お互いの価値観が合わない場合には、基本となる過失割合を定め、その上で修正要素を考えて行くほかありません。
まずは、どの類型の事故なのかを見ていくのが良いでしょう。

④駐車場内での事故

駐車場内では、駐車区画に出入りするために自動車が複雑な動きをしているほか、人が歩いている可能性も十分にあるなど、通常の道路とは異なる注意が求められます。
そのため、駐車場内の事故と言っても様々な状況がある上、通常の道路と異なる考えをしなければならない場合もあります。

しかし、駐車場内での事故に関しては、十分に事例が集まっていないため、具体的な過失割合を決めることが容易ではないという状況があります。
そのため、駐車場内での事故に関しては争いになりやすい傾向にあります。

駐車場内の事故の対処法

事例が十分ではないとしても、駐車場内での事故に関しても、一定の類型があり、それぞれに基本となる過失が定められています。
ベースとなるものがなければ、過失割合に関して決めていくことは難しいでしょうから、駐車場内での事故に関しても、まずは、どの類型に当てはまるのかを考えるのが良いでしょう。

その上で、具体的な自動車の動き、周囲の状況等を踏まえて、過失割合に関する主張を行うのがよいと考えられます。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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交通事故の過失割合で揉めた場合はどうする?

保険会社へ苦情を申し入れる

過失割合は、原則として、双方の協議によって定めることになります。
加害者が保険に加入をしている場合には、その保険会社が窓口になりますが、過失割合に関して揉めた場合には、その窓口になっている担当者に、自身が考える過失割合とその理由を伝えていくということが考えられます。
また、保険会社側の主張が不合理であると考えられる場合には、その理由等を伝えていくべきでしょう。

場合によっては、保険会社が、その主張を踏まえて、過失割合を変動させることがありますので、保険会社に必要な主張をしていくことが一つの方法といえます。

ADRを利用する

当事者間の話し合いによって解決ができない場合には、第三者を介して話し合いをするということが考えられます。
その方法の一つとして、ADRというものがあります。

ADRというのは、裁判外での紛争解決方法ですが、交通事故の場合、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センター、そんぽADRセンターといったものがありますので、これらを活用して過失割合に関して協議を行うということが考えられます。

調停や裁判で解決する

過失割合に関して、解決ができない場合には、裁判所を活用するということも考えられます。
裁判所を活用する方法としては、裁判と調停という手段が考えられます。
まず、裁判は、双方の主張と証拠に基づく判決によって解決する手段です。
裁判の場合、裁判官が過失割合を決めてくれますので、過失割合に関する争いが激しい場合には、裁判を選択するのが良いでしょう。

また、裁判を避けたいという場合には、調停という方法もあります。
調停は、裁判所における話し合いによる解決手段ですので、裁判と比較すると解決手段としては弱いものにはなります。
もっとも、裁判所が仲介をしてくれますので、それによって過失割合を決められる可能性があります。

妥協案として片側賠償を提案する

過失割合を決める究極的目的は、賠償賠償額を決めることにあります。
極論、過失割合の合意ができなくても、双方が支払う金額を決めることができれば、それで交通事故を解決することができますので、妥協案を提示して解決するという方法も考えられます。

妥協案の一つとして考えられるのは片側賠償というものです。
これは、被害者にも一定の過失割合を付けるものの、被害者が加害者に支払う金額を0円にするというものです。

例えば、過失割合に関して被害者が10対90と主張し、加害者が20対80と主張しているとします。
この場合に、加害者が被害者に80%を賠償するものの、被害者の加害者への支払いを0円にするというのが片側賠償です。
これによって、双方が譲歩している形になりますので、過失割合に関して、合意ができない場合には、片側賠償を提案するというのも一つの方法です。

弁護士に相談・依頼する

過失割合に関して解決できない場合には、弁護士に相談・依頼するという方法も考えられます。
弁護士は、事故状況を確定するための一定の資料を取得することが出来ます。

また、過去の裁判例等の調査も行いますので、お聞きした情報を基にして適切な主張を展開することができます。
このように弁護士は、具体的な根拠や理由を適示しつつ、過失割合の交渉を行いますので、ご本人で交渉するよりも解決できる可能性が高まるといえるでしょう。

交通事故の過失割合について揉めた場合は、お早めに弁護士にご相談ください

ここでは、過失割合に関してご説明をいたしました。
過失割合は、まず前提となる事故状況を確定し、その事故状況に関する評価を行うというプロセスを経ることになります。
弁護士であれば、事故状況を確定するための一定の資料を取得したり、事故状況の評価にかかる資料(裁判例等)の調査をすることができます。
そのため、弁護士は、説得力のある適切な主張を行うことができると考えられます。

過失割合に関して、お困りのことがあれば、ぜひ弁護士にご相談ください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。